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06 ◆元英雄のおっさん、中卒の面接をする◆

 本来なら門前払いするところだったのだが、タカアキが、


「会うだけ会ってみろ」

「実際に若い力を目にすれば、お前の気も変わるかもしれん」


 とうるさいので、追い返すことができなかった。


 だが、さすがのタカアキも、すぐに後悔したようだった。


「いまどき手書きの履歴書……」


「しかもコピー用紙に……」


 正直、ナメとんのかお前、ってレベルである。

 いや、むしろそれ以下だろう。


 おまけに、最終学歴には「中卒」と書いてある。

 っていうかまだ十五歳っておいおいおいおい。


「すいません……」


 と、応接セットの向かい側に腰掛けている少女、不知火シラヌイアカリは言う。


「コンビニで履歴書買って清書しようと思ったんですけど、売ってなくて……」


「そ、そっか~俺らの若い頃とは違うなー」


 とタカアキ。


「もうコンビニで履歴書って売ってないんだーじゃあ仕方ないよね~……でも、PCで履歴書作ろうとは思わなかったの?」


「え? 履歴書ってパソコンで作れるんですか? ごめんなさい、知りませんでした……」


「謝るところはそこじゃねーよ」

 と俺。

「帰れこのクソガキ」


「おいケンイチ!」


「タカアキ。いくらなんでもこいつはないだろ」


「た、確かに……だがまあ、お前にとっての、面接の練習台ぐらいには……」


「あの……どうして、私じゃダメなんですか?」


 無謀にも聞いてきたアカリに対して、俺は言ってやった。


「お前のためを思って、落としてやるっつってんだよ」


「私のため?」


「ああ。お前みたいなガキンチョ、冒険に出てもすぐに死んじまう」


「……私は死にませんよ」


「はあ? なんでそんなことが言える?」


 するとアカリは、目をパチクリさせて、さも当然のことのようにこう言い放った。


「だって私、天才ですから」


「「……」」


 俺はタカアキの首根っこを掴んで部屋の隅へと連行し、ヒソヒソ話を始めた。


「やべえよあの女。マジで頭イっちゃってるよ」


「あ、ああ……」


「どうすんだよお前。あいつを入れたのお前だろ。お前がなんとかしろよ」


「そう言われてもな……」


「あのー」


「なんだよ?」


 俺が振り返ると、アカリはソファから立ち上がっていた。


「これ、就職試験みたいなものですから、スキル使っても大丈夫ですよね?」


「う、うーん」


 するとタカアキは難しげにうなる。


「弁護士資格も持ってる俺から言わせてもらうと、ちょっとまずいかもしれないね。本来は事前に届出が必要だから」


「そうですか……じゃあ、どうすればスキルを見てもらえますか?」


「筋違いも良いところだ」


 俺はあえて悪い印象を与えるために、吐き捨てるようにそう言った。


「うちが募集してるのはただの荷物持ちなんだよ。スキルなんかどうだっていい。女で、しかも子供のお前なんか、話にならん」


「……」


「スキルを生かした仕事がしたいのか? なら他を当たれ」


「い、いえ……」


 ところが、アカリは両手をきつく握りしめながら、こう食い下がってきた。


「荷物持ちでも、構わないです……とにかく、実務経験を積まないと」


「……実務経験?」


「求人を見たら、実務経験が何年かあれば中卒でも可、っていうのがいくつかあったんです……


 きっと『ジャンル崩壊』直後の混乱期に、仕方なく中卒で冒険者に就職した人向けの求人だとは思うんですけど……それでも、中卒可には違いないんで」


「……」


 さっきと比べると、言うことがしっかりして態度も改まっていたので、俺はちょっとばかり虚を突かれたようになる。


 少なくとも、求人情報を一通り調べているあたり、子供が気まぐれで来たわけではないようだった。


(……ったく。しょうがねえな。面接の練習だと思って、付き合ってやるか)


 なんて、俺がちょっとだけ気を許した、次の瞬間。


 ガンガンガンガンガン、と、事務所のドアが乱暴に叩かれた(まったく、まともなノックができるやつはいないのだろうか?)。


「ちょっとお~ケンイチちゃーん!」


 あっ。やばい。このオバサンの声は……。


「いるのはわかってるのよお~! 出てきなさーい!」


「よしっ!」


 と、そこで俺は名案を思いついた。


「おい、クソガキ」


「クソガキじゃありません不知火シラヌイアカリです」


「わかったよアカリ」


「いきなり名前呼びですか?」


「うるさい!」


 背景ではいまもドアのガンガン音が続いている。俺はせき立てられるように早口で言った。


「実技試験だ。あのオバサンを上手くあしらって、追い払え。いいか、事務所に一歩でも入れさせたら、不採用だからな」


「……それ、どういう実技試験なんですか? 冒険者と関係あるんですか?」


「あのオバサンをモンスターだと思え! ……ある意味、本当にモンスターだからな」


「はあ?」


「ああもう、口答えなんかするな! やるのか、やらないのか!」


「……わかりました」


 そう言ってアカリがドアの方へと向かうと、タカアキが詰め寄ってきた。


「お、おいケンイチ? 何を考えている?」


「フッ……いくらあのオバサンでも、十五歳の女の子に手荒なマネはしないだろうという、俺の神算鬼謀だよ。大丈夫だ。採用なんかしねえ」


「いや、俺が言いたいのは、そんなことをして大人として恥ずかしくないのか、ってことなんだが……」


「……」

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