表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/81

21 ◆元英雄のおっさん、なんかすごそうな女鍛冶師と出会う◆


 一通り買い物を終えたが、ここまで二つトラブルがあった。

 一つは、武器屋街の中で俺が「唯一まとも」と評価している刀剣屋が休みだったこと。

 もう一つは、魔力繊維を専門に扱ってる馴染みの防具屋に「すぐ戻ります」の看板がかかっていたことだ。


 少し悩んだが、俺はアカリに持たせるナイフを、市場に店を出している露天商で見繕うことにした。剣士だけあって、俺は刀剣にはうるさい。まともじゃないとわかりきっている店で買うよりは、露天商が掘り出し物を持っている可能性に賭けたい。それに、市場から戻ってくる頃には、防具屋の親父も店に戻っているだろう。


 というわけで、俺はアカリを連れて、人でごった返す市場に向かった。

 ツクヨミ市の市場の一部には、毎朝早い者勝ちで誰でも露店を出せるスペースがある。当然、そこは完全な無秩序状態。定められた通路以外には、ビッシリと猫の子一匹通る隙間もないほどに露店が立ち並び、店主たちは通路を行き交う買い物客との間で、売っただの買っただの、値切れだの値切らんだのと、盛んにやり取りをしている。


 早い者勝ちで誰でも露店を出せるなんて、そんな無秩序さは現世の日本ではあり得ない話だろうな、と俺は思う。ジャンル変更の直後、異世界は果てしない混乱の中で、少しずつ今の形になった。だから、これが自分たちのやり方なんだ、内地のお行儀の良いやり方なんか知るか、などと思う者も多い(「現世」とか「内地」というのは、異世界に移住した日本人が、日本の本国を指して言う言葉だ)。


 そんな異世界風の手荒い歓迎に、アカリはずいぶんと苦戦しているように見えた。先を行く俺が振り返ると、アカリは人の波をかき分けて前に進むのに四苦八苦している……まあ、半分以上は、俺が持たせた大荷物のせいなのだが……それでも、俺も持ってやろうか、などとは思わない。たぶんそれは、アカリのためにならない。


 さて。早い者勝ちで露店を出せるスペース、と言っても、扱う商品のジャンルが近い店は、自然と近くに固まるものだ。俺は、冒険者用の刀剣類が多い区画に足を向けた。

「うーむ……」

 だが、すぐに俺は難しげなうなり声を上げる羽目になってしまう。

 やはり露天商の扱う品は、一目見てわかるほど品質が悪い。安くてなんぼの粗悪品を、異世界中から集めてきたような光景だ。

 だいたい、陳列の仕方がなってない。たとえばそこの店なんか、地面に敷いた布の上で、抜き身のまま大量に置かれた剣の刃と刃がぶつかり合っている。こんな雑な扱いをしたら刃に傷がついて、刃こぼれの原因になりかねない。そんな店で何かを買うなんて論外だ。


 ……そんな店で「安いから」という理由で武器を買った新米冒険者が、毎年何人も死んでるんじゃないかと思うと、はらわたが煮えくりかえりそうになるが……やめよう。今日はあまり時間がない。


「ん……?」

 その時、俺は一軒の露天商の前で足を止めた。

 膝ぐらいの高さの長い台に、紺色の布が敷かれていて、その上に長剣が一振りと、他に六本のナイフが、一本ずつ適度な間隔を開けて丁寧に並べられている。ナイフはどれも向きがピッタリ揃っていて、混沌とした市場の中で、そこにだけ秩序が生まれているかのようだった。ただ、一本だけ無造作に置かれているまきだけが気になる。なんだこれは?


 しかし、何よりもその店で目を引くのは、置かれているナイフの品質だった……ほう、これはなかなか。

 機能性重視の俺の好みからすると、少々装飾に凝りすぎているようにも見えるが……品質は問題なさそうだった。いや、むしろかなり良いのでは、と思える。


 顔を上げると、陳列台の向こうには、二十代前半とおぼしき若い女が一人だけ。

 胸にさらしを巻いたラフな格好のその女は、低い椅子に座ったまま横を向いて、砥石でナイフを研いでいるようだった。


「お嬢ちゃん」

 俺はその女に声をかけた。

「店主はどこだ?」

 すると、意外な答えが返ってくる。

「私が店主だよ」

 クルリとこちらに向き直った女は、勝ち誇ったような笑みを浮かべてそう言った。

「あんたが……?」

 俺はつい驚いてしまうが、あまり礼儀を失して機嫌を悪くされては困ると、すぐに思い直す。

「そいつは失礼。で、あんたは鍛冶師か? ここにある商品は、全部あんたが打ったのか?」

「いや。私が打ったのは、この長剣と、そのナイフだけ」

 女はナイフのうちの一本を指差しながら言った。

「自分が打った物を売るだけじゃ、大きく稼げないからね。いまはこんな露店をやってるけど、早く店を持つのが夢なんだ」

「ほう……」

 長剣もそのナイフも、俺が特に出来が良いと思ったものだ。問題はない。


 俺は商談を続けることにした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
※この作品には時々、税金・法律などの話が出てきますが、実際の税務・法務等の参考には絶対にしないでください。作中の記述を参考にして損失をこうむった場合でも、作者は責任を取れません。税務・法務などの問題は、専門家に相談してください※
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ