01 ◇ジャンル変更◇
「ジャンル変更のお知らせ」
私はまだ3歳か4歳だったので、よく覚えていない。
けど、その音声メッセージが全人類の脳に直接再生されたのは、いまから十二年前のことだったという。
神様を名乗るその声は、こう説明した。
この世界が、神様の世界に存在する人気Webサイト「神様になろう」で連載中の「作られた世界」であること。
「第二次世界大戦編」が2クールに渡ってアニメ化されるなど、かつては超人気連載であったこと。
そして……最近、人気に陰りが出て来たので、ジャンルを変更すること。
「『現実世界』のジャンルから『ローファンタジー』にジャンル変更しようと思います」
などと神様はのたまった。
ちょっと待ってくれ、と人類は言った。なんで寄りによってローファンタジーなんだ、と。
「最近の流行だからです……本当はハイファンタジーがいいのですが、さすがにそれは無理があると思って」
いや、ここからローファンタジーに変更するのも、相当無理があると思うよ?
「そんなことはありません。現に『現実世界崩壊ローファンタジー移行もの』はしばしばランキング上位に食い込んでいます……まあ、本当はハイファンタジーがいいんですが」
……で、具体的にはどうなるの?
「世界各地に『門』を配置します。ポータルの向こうには異世界が広がっていて、そこにはモンスターがウヨウヨしていたり、お宝が一杯のダンジョンが点在しています。ポータルは人為的に増設することも可能です」
ふーん。こっちの世界の物は、異世界に持ち込めるの?
「基本的にはイエスです。ただし、火薬は異世界では禁止です。持ち込んでも発火しません。内燃機関なども同様です」
え? なんで?
「火薬兵器は流行ではないからです。銃が登場する人気作品もあるにはありますが、一部の読者しか読んでくれません」
……。
「その代わり、人類にはスキルが与えられます。全ての人は生まれつき一つのユニークスキルを持ち、それとは別に後天的に条件を満たすことで、コモンスキルを習得することが可能です」
スキルは現実世界でも使えるの?
「イエス」
……あのさあ。
「はい?」
さっきから話を聞いてると、人間が異世界に行くメリットって、無いように思うんだけど。
ポータルなんか通らずに、この世界で、今まで通りの暮らしを送ればいいんじゃない?
「ああ、言い忘れるところでしたね……ポータルが開くと同時に、この世界の鉱石、原油、レアメタルなどの鉱物資源は、全て異世界に転移させられ、地球上からは消滅します」
……は?
「あなたがたは現在の文明レベルを維持するために、異世界に進出して戦わざるを得ない……そういう仕掛けです」
ちょ、ちょっと待って!
「はい?」
そんなことされたら、大混乱になるよ!
「ローファンタジー移行直後の大混乱……それは、人気作の多くに共通する要素。つまり流行ですから」
お、おい!
「それでは、説明は以上です。
頑張ってください、私も頑張りますから。
一緒に力を合わせて、ランキング一位を奪還しましょう!」
ふざけんなよ、おい!
……おい!
おーい……。
それから、十二年が経った。