私はクレア?
ボーッとしているとガチャと扉を開ける音がした。
視線を向けると入ってきたのはプラチナブロンドの髪をした見知らぬ男の人。驚いた様子で目を見開き、ボソボソと何かを言っている。
「クレアが起きてる…夢じゃないよな…」
何やら、私のせいで混乱させてしまっているみたい。
でも、このままでは埒が明かないし、思い切って声をかけてみようか。
「あの…」
話しかけた途端、彼はこちらに近づいてきた。
そして目の前でしゃがみこみ視線を合わせてくる。
その視線は優しく、何だか心に温かみを感じた。
そして私をそっと胸に抱き込んだ。
一連の流れに面食らったが、
「よかった…」
彼のその言葉は少しばかり涙声になっていて、そんな彼を突き飛ばすことなんて出来なかった。
ただただ温かい体温と心に包まれて静かに身を任せた。
彼の心が落ち着いたのか、そっと私を離して皆を呼んでくると言って部屋を去っていった。
彼の名前も何もかも分からないが私の中の何かが彼に心を許しているように感じる。
彼は誰?
しばらくすると、いくつかの足音がこちらに向かっていることが分かった。
予想通り、部屋にやってきて私の方へと駆け寄ってきた。先程の彼と物腰の柔らかそうなプラチナブロンドの髪をした女性と厳格そうなダンディーな黒髪の男性の三人と医師の方だろうか、白衣を着たおじいさん。
彼らは私の姿を見て、安堵の表情を見せた。
「あぁ、本当に良かった。クレアの目が覚めてくれて。万が一目が覚めなかったらと思うと夜も満足に眠れなかったよ」
そう言い私の頭を優しく撫でた黒髪の男性はどことなく先程の彼に何やら近いものを感じた。
ここにいる皆は心優しく、家族のように接してくれるが、クレアという名前に覚えはないし、私にとっては見知らぬ相手だ。
私がおかしいのかしら?
何が何だか分からなくなってきてしまった。
いや、でも事故までの記憶はしっかりとあるし、きっと誰かと勘違いされているのかもしれない。
ここはハッキリと述べた方がいいだろう。
「あの、貴女方はどちら様でしょうか?また、貴女方と私はどういった関係なのでしょうか?一度に色々な質問をし、貴女方を混乱させてしまって申し訳ないのですが、先程から私には全く貴女方との記憶と名前も心当たりのないものばかりです。」
緊張からか、出てくる言葉が止まらなかった。
この状況は彼らにとって思いがけないことだったのだろう。
全員の顔色がスッと青白く変わっていく。
「先生、これはどういう事なのでしょうか…」
震える声で尋ねる黒髪の男性。
先生は無言で私の方に近ずき、そっと手を前にかざしてきた。
「クレア様、失礼致します。」
するとスっと力が抜けた感覚がし、目の前には魔法陣が広がっていた。
光を放っている魔法陣は手のひらサイズで数字がその周りをグルグルと回っている。
そして、パッパッと二度、強く光ると魔法陣は消えた。
私は驚いて目を見開いてしまっていたのだが、皆は何も気にする様子はなく、緊張感が漂っていた。
「勝手ながらにスキャンをさせて頂きました。クレア様の脳に何らかのダメージが見られます。何者かによって記憶操作が行われ、記憶が一部抜けている可能性が高いと見られます。また、以前よりも大幅に魔力が増しているようでございます。」
「増す?、そんな事があるのか?クレアはもう十五を過ぎているというのに」
「婚約の儀式ももう近いというのにどうしたらいいのかしら…」
「お父様、お母様、混乱なさるのは分かりますがクレアに説明をすることが最優先です。」
優先してもらえるのはとても有難い。
話を聞いていても知らないことが多すぎて全く内容が頭に入ってこないのだから。
「クレア、よく聞いて」
彼から紡がれている話は真実なのか、理解の難しいものばかり。
でも、柔らかなトーンと優しい言葉の一つ一つが私の心を少しばかり和らげてくれたのであった。