幼馴染の男の娘が久しぶりに再会したら、《聖女》になっていた件
ガルフ・ステインにはかつて、幼馴染がいた。同じ村で育ち、毎日のように一緒に遊ぶ仲であった。
最初に出会った頃、女の子のような風貌であった彼に恋心を抱き、そして男であると知って失恋したのは――黒歴史でありながらも懐かしい思い出だ。
ガルフが七歳になる頃、村にやってきた《冒険者》に才能を見出され、共に旅をすることになった。
それから十年……ガルフは見事に才能を開花させ、若いながらも冒険者として高い実力を得ていた。
そんな彼が故郷のある領地――《ベルマ領》へと戻ってきたのには理由がある。
十数年ぶりに、《聖女》としての能力を開花させた者がいる……ガルフには、その少女を護衛するという大役が与えられた。
他にも実力者のいる中で、何故ガルフが選ばれたのか分からない――だが、ガルフもせっかく選ばれたのであればと、その仕事を引き受けることにした。
そして、初めて聖女と顔合わせをする日のこと。
《教会》で一人待つ彼女の前に、ガルフは姿を現した。
曰く、聖女になったばかりで彼女は非常にナイーブになっていると言う……。だが、ガルフを指名したのは、何と聖女本人だというのだ。
「俺を指名してくれたらしいな。こういう場合、感謝した方がいいのか?」
軽口を叩くように、ガルフは言う。正直に言ってしまえば、接し方を考える方が面倒であった。
だから普段通りに話してみたのだが、返ってきたのはくすりと笑う少女の声。
ゆっくりと少女は振り返り、
「そういうところ、変わらないんだね。ガルフは」
ガルフと、視線を合わせた。
一瞬の静寂の後、ガルフは呟くように言う。
「――お前、アイか……?」
「あ、分かる? 十年ぶりなのにね」
十年ぶりと言うが、少年――アイの特徴は変わらなかった。
相変わらず女の子らしい風貌をしている……もう十年は経ったというのに。
ただ、気になることは、どうして彼がここにいるかということだ。
聖女というものだから、てっきりこの場には少女がいるものだと思っていた。
「まさか、男のお前が聖女なのか?」
「……そのことなんだけどね」
アイは何やらばつの悪そうな表情を浮かべる。視線を少し泳がせると、やがて決意したかのように息を吐いて、
「ボクが聖女なことには違いないよ。うん……それで、女の子になっちゃったんだよね」
「……は?」
宣言したアイの言葉に、すぐにはガルフの理解が追い付かなかった。
――聖女として覚醒したのは、今からほんの数か月前のことだと言う。
以前から体調の優れなかったというアイは、王都の病院で入院していたらしいのだが、やがて聖女としての証である《聖痕》が身体に現れたという。
そして、その日から身体に変化が生じた――それが、女体化という現象なのだ。
当然、女の子になってしまい戸惑ったこともあると言うが、アイはこの国にとって特別な存在となり、ある程度の願いは聞き入れてもらえるようになったのだ。
――だから、ガルフのことを護衛として選んだのだと言う。
「どうして俺を?」
「だって、さ……ボク、女の子になったわけだし。でも、他の人とかとどう接していいか分からなくて。その、初めて会う人には女の子みたいに扱われるし。でも、ボクの気持ちとしては男なわけだから――何て言えばいいのかな。とにかく、色々と考えたら君が一番信頼できる相手だって思ったんだ」
そう言って、アイがガルフの下へとやってくる。白くか細い手でガルフの手を握ると、
「君は、ボクの親友だから……君になら、男として見られても女として見られてもいいかなって」
「――」
上目遣いで、アイがそんなことを言う。
元々、少女らしい雰囲気があった彼――否、彼女は余計にそう感じさせる仕草を見せていた。
ガルフから見ても、アイは可愛らしい少女にしか見えない。
だが、今の言葉の中に、『親友』であるガルフを信じるという明確な意思が感じられた。――故に、ガルフの答えは決まっている。
「ああ、俺とお前は親友だ。男だろうが、女だろうが関係ないさ」
「ガルフ……ありがとう!」
そう言って、アイがガルフの身体に抱き着く。
以前とはまた違って、随分と女の子らしい柔からさがアイにはあった。
思わず緊張してしまうが、表には出さないようにガルフは装う。
――こうして、女の子のような親友は本当の女の子となってしまい、ガルフは彼女のことを護衛することになった。
親友であるガルフを信じるアイはどこまでも無防備に、彼のことを誘惑するようになってしまうとは、今は想像もしないことであった。
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