第三節
あれから数時間がたった。もうすでに日が沈み、自分たちを優しい月明かりが照らしている。それなのに、マリーとサクラは未だに睨みあっている。このままでも埒が明かないと思い、フェングは二人に問いかける。
「ねぇ、マリー、サクラちゃん。どうしても、仲良くできない?」
「「やだ!」」
二人は即答する。それでも彼はその顔から微笑みを消さない。
しかし彼は少し焦っていた。彼がここに連れてきた理由の一つはマリーに友人を作ることだ。フェングは直接見ていたわけではないが、マリーのいた環境を噂で少なからず把握している。歳の近い友人ができれば少しは心がほぐれると思った。…そうフェングは思ったのだ。
だが現実はそう甘くない。サクラは目上の存在に気を使う性格のため、マリーの身分を伝えれば友人という関係を築くのはむずかしくなる。
しかし、それが裏目にでた。サクラがマリーに対してここまで強くあたるのは予想外らしく、フェングは天を仰ぎながらうなっている。
そこに都合よく、一人の男がやってきた。
「その優美な緑髪、フェングか?」
「プレイス、おかえり」
「おかえりなさい、曲兄」
プレイスと呼ばれた男は腕を広げ「お〜友よ!」と言いながらフェングたちに歩み寄る。
彼は長身で細身。少し長い黒髪で、整った顔立ちをしている。しかしその顔に浮かべる笑みは当時のマリーには少し不気味に感じられた。でも、マリーはサクラが笑顔なのを見て、少なくとも彼が悪いやつではないことはわかった。
「久しいな、フェング!帝国以来か?」
「うん、帝国以来だから二ヶ月ぶりだね」
マリーはまた話に置いてかれていることが気になったが、プレイスの雰囲気がどうも近寄りがたいため、話に割り込めず挙動不審になっている。それに気づいたプレイスがフェングにたずねる。
「ところでフェング。この小娘はなんだ」
「んな…!」
マリーがまた琴線に触れられた。しかしプレイスがあまりにも近寄りがたいため、彼女は反論できないでいた。
フェングはそれを無視してプレイスに説明をする。彼女が家出をしていること。彼女が世界を嫌いなこと。彼女に綺麗なものを見せるといったことなど包み隠さず話した。…マリーが貴族であること以外を。
「…なるほど。家出娘の面倒を見ているのか。それで友人を作ろうというのか。お人好しのお前らしいな、フェング」
フェングは「あはは」と軽く笑い話を流す。
マリーはフェングの後ろで不気味に微笑むプレイスを反論しないで睨みつけている。小さいという言葉に敏感に反応するマリーがなぜ反論しないのか、その理由をなんとなく理解したフェングは内心笑っている。
「しかし、サクラとは馬が合わなかったようだな」
「うん、それでちょうど困ってたんだよ。二人とも仲良くしてくれそうになくて」
「サクラはたまに頑固だからな」
するとプレイスは何かを疑問におもい、片眉を上げてフェングに質問をする。
「おいフェング、もしやあいつも尋ねるつもりか?」
「うん、まぁ…大丈夫でしょ」
フェングのその曖昧な回答はマリーの不安を煽った。そして彼女の身を案じたプレイスはフェングに忠告をする。
「二人きりにはするなよ?」
「うん、そこはわかってるよ。なにも知らない人にはトラウマになるからね」
「おい、ザイフェング。あいつって一体誰なんだ?」
「大丈夫、ただの少女愛好家だからぶっ!」
身の危険を感じたマリーは、フェングを思いっきり殴った。




