44話
鉄をも切り裂く、レックスの剛剣。掠ってしまっただけで、肉をえぐり取る斬撃。
本気を出したレックスの攻撃は、異次元だった。魔剣王と名乗っていた魔族を、何もさせずに完封する程度には。
─────だが。
「お前は期待を裏切らないな、親友」
「……流石はレックス。で、あの娘誰?」
そのレックスの初撃は、風薙ぎを名乗る剣士によって完璧に受け流されていた。
決して力を競い会わせること無く、舞踏でも踊るかの如くレックスの大剣を刃の背を滑らせて。
その動きは。俺が頭に描いたレックスの剣の受け筋と、何もかもが一緒だった。
最初の一撃を躱した後。
剣聖と風は静かに睨み有って動かなくなった。時折、風が静かに揺らめく程度だろうか。
お互いに一歩も踏み込まないまま、時間だけが過ぎていく。
「あれ、どうなってんの? なぁフラッチェ、今何が起こっとるん?」
「あー、多分踏み込めないんだよ、どっちも。魔剣王に剣を取りに行く隙を作らせないために、レックスは魔剣王を常に剣の間合いに入れとかないといけない。一方でオ……、師匠も隙を作ると魔剣王を斬り捨てられるから、迂闊に攻め込めない」
「そっか」
そうである。お互いに迂闊な事が出来ず、しかもお互いに敵の情報をよく知らない。
レックスからすれば、数年ぶりの再会なのだ。きっと、予想外の事をしてくると読み合っているのだろう。
やはりあの偽物の中身が気になるが……。俺の超高度な剣の技術をコピーする為に、俺から抜き取った記憶を植えつけられた魔族あたりと考えるのが一番矛盾がない。俺が必死こいて鍛え上げた技の全てを、ああいう風に利用されると腹が立つな。
「じゃあメイ、アンタの魔法で魔剣王? いう奴を攻撃出来へんか? あの魔族の将を殺せたらレックス楽になるやろ」
「……どうだろうな、今のあの二人は凄く繊細な睨み合いをしてるし。今は変な手出ししない方が良いと思う、レックスに任せておいた方が安全だ」
「レックス様ですもんね……、今は下手なことをせず任せましょうか。私の魔法でレックス様を巻き込んじゃったら目も当てられません」
そうなんだよなぁ。割って入れそうに無いんだな、あそこに。俺やメイが助けに入っても、むしろレックスにフォローされるだけになりそう。
悔しいけど、さっきの俺の偽者の一撃を見る限りアレは『筋力や体力を異常に引き上げられた俺』である。いわば完全な上位互換、非力な身体の俺に勝てる道理はない。
無力化されているあの魔族の将も、やはり俺より格上だ。剣術とか以前に、身体の作りの差で攻撃が通るか怪しい。
奴の巨体では、俺の剣の長さだと心臓に届くかどうか分からないのだ。と言うかそれ以前に、俺のか弱い筋力で刃を突き立てられるのか。
メイちゃんの魔法も、当てたところでどれくらいダメージになるだろう。……余計な手出しは、しない方がいい。
それに、
「ふっ」
豪腕一閃、レックスが突如その大剣を引き下ろす。その一撃は真っ直ぐに風を切り裂いて────ゆらりと陽炎のように、風はレックスに纏わりついた。
「あらよっとぉ!!」
「ちっ!!」
見事なカウンター。冷静にレックスの斬撃を避けた風薙ぎは、くるりと回転しながらレックスに向かい振りかぶる。
だが、そんな風を即座にレックスの回し蹴りが迎撃して。轟音を轟かせた旋風脚が、近付いてきた風を薙ぐ。
「……相変わらずの、馬鹿力め!」
剣聖の繰り出した蹴りは当たることはなかったけれど、その風圧だけで風薙ぎは吹き飛んでしまう。二人の間に距離が生まれ、レックスに魔族将を斬り殺す余裕が出来る。
「させるかよ!」
魔剣王に剣を向けて構えるレックス。煽がれて吹き飛んだ風は、再びレックスに纏わりつこうと突進して、
「にっしっしっし!」
待っていましたとばかり振り向いた楽しそうなレックスに、再び吹き飛ばされてしまう。
……あー。レックス、余裕あるなぁ。
互いに決定打は無さそうだけど、手助けは要らなさそうだ。だって、あの男はレックスなのだから。
「……くく」
「このっ! このっ!」
先程から幾度も打ち合いはしているが、お互いに一撃が入らない。二人は剣を重ね、汗を吹きながらも殆ど隙を作らない。
だけど、向かい合う二人の剣士の表情は────
懐かしむような、嬉しそうな笑みを浮かべるレックス。
必死の形相で、鬼気迫った声をあげる風薙ぎ。
打ち合いそのものは、互角。お互いがお互いの攻撃を完全にいなし続けている。
だが、精神的にどちらが優勢かは明らかだ。……そっか、そういや俺ってばいつもあんな風に余裕がなかったよな。
レックスのヤバさを知っているから。レックス相手に油断したら命に関わると理解していたから。
だから────
「ありがとな、親友。魔族に落ちて、心も蝕まれて、なお俺様の敵であってくれて」
そして、レックスは半歩前に出る。
「期待した通りだよ、その強さ」
レックスの剣が、数十センチほど風に肉薄する。
「まぁでも、……予想通りの強さでは、俺様には勝てないぜ」
────瞬間、レックスの巨体がブレた。
「予想通りに成長したお前に負けないよう、こちとら努力を重ねていたんだ」
レックスは片手だけ剣を手離し。まるで虫でも叩くかのように、風薙ぎの顔面を掴みとった。
「がっ!?」
「にっしっし、急な肉弾戦に弱いのも相変わらずだな親友。剣に意識を向けすぎだ」
風薙ぎは、俺の偽物は、レックスの突然の掴撃に反応出来なかった。それは恐らく、レックスが大きく一歩踏み込んだからだ。
「っ! レックス、魔族の将が逃げてるぞ!」
「良いよ、あの魔族より親友の方がよっぽど脅威だし」
魔剣王を無力化できる間合いを越えての、攻撃。それに不意を突かれたのだろう。
風薙ぎは呻きながらも、レックスから逃れようと自らを掴む腕を斬りつけようとして……
「一丁上がり!!」
そのまま、レックスに凄まじい速度で地面に叩き付けられた。
大地にクレーターが出来て、風薙ぎの頭蓋から血が噴き出す。そして、その剣士はピクリとも動かなくなってしまった。
「これで2408戦2335勝だ。また、俺様の勝ちだな親友!」
魔剣王が、慌てて剣を拾い上げ。風薙ぎの救援に向かおうとしたその時にはもう遅かった。
風薙ぎを名乗った魔族の男は、気を失って動かない。
「ミーノが、レックスが勝つ前提で作戦を立てる筈だよ」
そっか。俺が知らない、前回の隣国との戦争の時。ミーノは、レックスのこの姿を見たことがあったのだろう。
これは……負けることを想像する方が難しい。レックスは、まさに勝つために生まれたような存在だ。
「お、剣を拾われちまったか。まぁ良いや、だったら再戦といこうか魔剣王?」
レックスは、あの魔族の将程度なら何度でも勝てる。だから、風薙ぎを仕留めるための囮に使った。
いや、そもそも。ハンデもなく正面切って風薙ぎと一対一で戦ったとしても……レックスは勝つだろう。
当たり前だ。だってあの魔族の持っている記憶は、あくまで俺の記憶。俺程度じゃ、次元が違う化物「レックス」に勝てるはずがない。
いかに筋力が強くなろうと。いかに、剣の振りが早くなろうと。俺とレックスでは、明確に格の違いが存在するのだから。
「さて、次はもうちょっと頑張れよ?」
レックスが魔剣王と偽物を倒す際に、受けたダメージ。それは、体幹に小さなかすり傷が2つ付いただけ。
風薙は頭から血を吹き出し、ふらふらと魔剣王はヒビの入った剣を持ってその化物に相対する。ここからレックスが負けるビジョンが全く頭に浮かばない。
────嗚呼。あんなのに、勝てる訳が有るか。
奥の手、というのは隠し持つものだ。
ミーノ将軍も、念には念を入れて『奥の手』を用意していた。クラリスが負けるとは思っていなかったミーノだが、「そう言った予想外の事態に対する手札」は当然用意している。
「……レックス君次第、ということですか」
「おう。あの超強い魔族にゃ、わしゃ勝てん。アイツらが死んだのを確認出来たら、出てやろう」
ミーノは、年老いた翁に話しかける。スケベそうな表情のその老人は、白い布で細く尖った剣を手入れしながらミーノに返答する。
「わざわざ引退した先代を引っ張り出したんじゃ、体には気を使ってもらうからのう」
「心得てますよ」
……胡散臭そうな口調の、痩せ細った老人。彼は、かつてこの国の大将軍として君臨していた老練の剣士である。
そして、
「ですが。きっちりボクの下着受け取ったんですから、しっかり働いてくださいね」
「にゅほほほほほ!!」
この老人こそ、ミーノに動かすことのできる切り札であり予備戦力だった。
若いおなごの下着を集めるのが趣味と言う変態ではあるが、残念なことに剣士としての腕は確かだ。引退した今でも、強さとしてはメロに次ぐレベルだろう。
何より、彼は今までの人生のほとんどを戦いに費やしてきた。その指揮経験の豊富さは、軍に並ぶものはない。ミーノが後任として軍師の任に着くまでは、国軍の作戦立案は彼を主導に行われてきた。
軍人貴族の家に生まれ幼少期より戦いのイロハを仕込まれ、青年期は先陣を切って軍を導き、壮年期は後輩の育成に努めた彼はまさに老いた英雄。ちょっと色事に嵌りすぎて下着泥棒などの性犯罪を犯し軍を解雇され、引退させられた後は城下町に逃げ込んで旅人にセクハラをかますのが生きがいとなっている少し残念な人物でもある。
国軍からすれば、品位を落としかねない旧時代の遺物。だが、そんなエロ親父であろうとミーノにとっては喉から手が出るほど欲しい戦力であった。
下着一枚で動いてくれる熟練の指揮官など滅多にいない。……ミーノは彼を軸に、北東砦奪還の為の編成を行っている最中だった。
「お、レックス君はしっかり勝ってくれましたね。これで文句ないでしょう、出陣していただきますよ」
そう言ってミーノの指さす方向を見れば、レックスは風薙ぎを地面に叩きつけて仕留めた直後だった。そして、間もなくレックスは魔剣王をも打倒してくれるだろう。
あとは、この年老いた大将軍に先行して貰って北東砦を落とすのみだ。クラリスの命を助けるためと言ったら、レックス達も協力してくれるだろう。
クラリスの首を飛ばされたのは計算外だったが、むしろ戦場で予想外の事態が起こらないほうがおかしいのだ。この老人の様に、予測外に対応するための第二の手、第三の手は用意してある。
ミーノは、未だに人族の勝利を疑ってはいなかった。この時点では。
「あーあ。あの馬鹿者……、忠告してやったのに」
ポツリ、と。老人は、哀しそうに愚痴を吐いた。
「どうかされましたか先代様」
「この戦、ワシらの負けじゃ。ミーノ、パンツは返すから撤退の準備をせい」
見れば、その老人は酷く落胆して。魔剣王を相手に意気揚々と斬りかかるレックスを、残念そうに見降ろしていた。
「……はい? 撤退ですか」
「そう。この戦、もーワシらの負け。いや……下手したら人類が終わるかもしれんな」
「え? ええっ!?」
ミーノは仰天し、老人へと詰め寄る。戦況は有利なはずだ、ここでレックスが二人を仕留めてくれさえすればほぼ勝ちは揺るがない。だというのに、何故この老人はそんな不吉なことを言うのか。
『覚えておけよ剣聖レックス。まもなく貴様は一つ、大きな過ちを犯す。その過ちは、お前の大切なものを失いかねない過ちだ。決して自身の目的と本当に大切なモノを、とり違えることなかれ』
その老人は、確かに剣聖に忠告をしたつもりだった。自身の得意な「占」で出たその結果を、はっきりと伝えてやったつもりだった。
その忠告は、どうやら剣聖の頭からは抜け落ちていたようだけれど。
「阿呆が。……倒した相手の首を刎ねるのは、常識じゃろうが」
レックスは、強かった。
長年にわたり練り上げられた凄まじいその実力を、俺はこの日初めて垣間見た。
だからだろうか。俺が決してレックスに届かないと知って、油断したのだろうか。レックスに任せておけば万事うまく行くと、勘違いしていたのだろうか。
「─────」
目で追えていた筈なのに、俺の身体は動いてくれなかった。
魔剣王に向かい合って、剣を振りかぶるレックス。必死の叫び声をあげながら、レックスに肉薄する魔剣王。
そして、その背後に立つ。頭から血を噴きながらも、風の様に静かに駆け出した魔族の剣士を。
─────死んだふり。俺が、追いつめられた時によく使った手。
「レッ─────」
叫び声すら間に合わない。かつての俺の姿をしたその怪物は、魔剣王の剣を受けに行ったレックスの背後から斬りかかる。
2対1、それも奇襲。こんなの、いくらレックスだって捌ききれる筈がない。
「─────ックス!!」
そして。剣聖の利き腕が、剣を握りしめたままの右腕が、背後からの斬撃により両断される。
レックスの目が見開いて、レックスの大剣が力を失い弾き飛んでいく。
得物を失った、人族の剣士。その正面には、数倍の体積の巨体の魔族。その背後には、剣を携えたかつての俺。
─────死。
「あああああっ!!」
魔剣王の剣が振り下ろされ、レックスが両断される。ああ、まずい。それは心臓を軌道に捕らえた、必殺の剣筋だ。
死ぬ。俺のライバルが、親友が、目標が。魔王ですらないただの魔族の将に殺されてしまう。
「あああああああああっ!!」
間に合ったのは、奇跡か。
魔剣王の剣がレックスの肩にかかったその瞬間に、慌てて突っ込んだ俺の細い剣の背が刃の横腹を差す。
結果、僅かに軌道は逸れて。レックスは半身を抉られながらも、致命の一撃は貰わずに済んだ。
「ああ、レックスを殺すのは俺じゃないとな」
そして背後から、凄まじい悪寒を感じる。
風を纏った魔族が、冷徹な目で虚ろになっていくレックスの顔を見下している。
「死ねレックス」
速い。重い。かつての俺では有り得なかった、速度と重量感のある斬撃。まるで、レックスの一撃の様だ。
だが、殺させてやるわけにはいかない。俺は、レックスを守らねばならない。
他ならぬ自分の剣筋だ。例え、背後からだろうと─────
「……んなっ!?」
俺は、振り返りすらせず。背中に小剣を回し、右腕で倒れゆくレックスを抱きとめながら、左腕の剣で滑るように風薙ぎの一撃を受け流した。受け流されたのが予想外だったのか、偽物はグラリと体勢を崩し硬直する。
「は? これじゃ、まるで俺の剣─────」
「レックスぅぅぅぅぅ!!!!」
そして、倒れ行く意識のない親友を、俺は全力でカリン達に向かって蹴り飛ばした。
くそ、重たすぎる。だが、俺は両腕を使って敵の剣をいなしたのだ。脚を使ってレックスを安全地帯に避難させる以外の選択肢がなかった。
「なっ!?」
幸いにも、俺の非力な脚力でも突き飛ばすことくらいは出来たようだ。レックスは小さく宙を舞い、こちらに駆けてくるカリン達に向かって倒れ込んでいく。
あとは俺が後ろを守れば、レックスは安全─────
「ふん!!!」
風を切る音が、俺の傍らを通り抜ける。
豪速で放たれた、小ぶりな剣。それは、投擲用に打たれた剣なのだろうか。
「危ないっ!!」
投剣術。魔剣王のやつ、こんな隠し球を持っていやがった。
いつの間にやら投擲されたその剣は、凄まじい勢いでレックスに向かって突き進み、
「レックス様っ!!?」
俺の親友の、心臓を貫いて。刺さった勢いのまま、大地の彼方へとレックスを吹っ飛ばしたのだった。
ああ。あんな遠くに吹き飛ばされたら、回復術が間に合わない。レックスが即死していないことを祈るしかない。
「カリン!! メイ!!」
「分かっとる!」
回復術師に、レックスを追いかけてもらう。だが、レックスが吹き飛んだのはどれほどの距離だろうか。
あれ程の衝撃を心臓に受けて、そもそもレックスは生きているのだろうか。
いや。馬鹿を言うな、レックスがそう簡単に死ぬはずが─────
「追わせると思うか」
投擲を終えた魔剣王が、風薙ぎが。逃げるカリンに向かい、猛進する。
……それを止めるのは俺の役目だ。レックスが即死していない奇跡を信じて、その小さな勝ち筋の為に時間を稼ぐのは俺の仕事だ。
いや、死んでる訳がない。レックスだぞ、剣聖だぞ、史上最強の男だぞ。生きてて当然、カリンさえ間に合ってくれたらきっと、片腕だろうとすぐに戦線復帰するさ。
だから俺は剣を携え、魔剣王と風薙ぎの前に立ち塞がり。挑発するようにクイクイと指を曲げて、嫌みったらしい笑顔を浮かべて。
「お前らの相手はこの私だ」
二人の足止めを、買って出た。
「は、何だこのチビ女。どけよ、レックスを殺すのは俺なんだよ」
「あれ? 私と戦うのが怖いか? ふふ」
「何だとコラァ!! 俺がお前みたいなよくわからんチンチクリンにビビるはずねぇだろうが!! そもそも弟子って何だコラ!?」
「……はぁ。ま、どうせ死んでるだろうし……。コイツを殺してから追いかけても構わんか」
カリンやメイの逃げる方向に立ち塞がり、二人の魔族を睨み付ける。1歩として通さぬという、断固たる意思を魔族に示す。
「そんなに時間もかからんだろう。コイツの力量じゃ、数分持てば善戦だ」
「弟子って本当に何だコラァ!」
だけど。俺は心の奥底で、理解していた。
自信満々に剣を構えてはいるが。目の前に立つ自分より遥に重く、速く、鋭い敵を相手に勝機など存在しないことを。
「まぁ、レックス如きを相手に死んだふりまでして勝ちを拾った雑魚共が、この私に勝てるとは思えないがな! 実質お前らの負けだよ敗北者ァ!!」
「何だとてめぇ!! 取り消せよ今の言葉ぁ!!」
「……はぁ。この男は強いんだが、挑発に乗りやすいのが珠にキズだな」
……怖い。激怒した魔族が、鋼鉄のような巨体が、一捻りに俺の体躯を肉塊に変えられる暴力が、怖い。
何で今まで、俺はあんなに自信満々だったんだ? 何で、レックスやこいつらみたいな化け物に勝てると疑って信じなかったんだ?
いや馬鹿、びびるな。俺は最強の剣士を自称していただろう。あの時の自信を思い出せ。
戦う前から足をすくませてどうする。
「あまり時間をかけるなよ」
「上等だぁ!! 瞬殺してやるよ!!」
「やれるものならやってみろ!!」
─────いや、そうか。
俺は死んで元々だ。そうだ、とっくの昔に俺は無惨に殺されていて。
ここに立っているのは、単なる命の残滓に過ぎないんだ。
「……」
親友。
小さな頃からずっと一緒にいて。
何度も何度も挑んでは敗れ。
そんな俺の、目標であり憧れであり理想であったレックス。
お前に勝つことを諦めても、挑戦することをやめても。お前の親友であることだけは絶対にやめてやらん。
────ここで時間を稼げたら。まだお前の親友、名乗ってても良いよなレックス。




