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恐怖

       「一人では何もできない僕だけど君を守りたいから」



 「で、ここどこだ!!」

思いつきで飛び出してきてしまった自分をつくづく馬鹿だと思う。なんで森に入ったんだっけ?オレの考えで沼なら森にあると思ったからだよ!でもなぁ、迷ったら元も子もない・・・はぁ。

「てか、早くしないと、絶対なんかの罠だって!でも、環を見つけたはいいが敵が居たらどうする?オレまだ水を放つ事くらいしか出来ないし、修行もしてないし・・・・」

頭をポリポリとかきながら歩いていると(睦クンは生け贄の準備が始まっている事を知りません・・)何やら話し声が聞こえてきた。身を潜めてその場にしゃがみ前を見ると、そこには環と図体の大きな男の姿があった。その先には岩で囲まれた巨大な沼があった。魔力が封印されているのはあそこだと確信した。

「ねぇ・・・本当に生け贄になればこの世界を救えるのよね」

「はい。貴女様の命と引き換えにこの世界は平和になります。これまでも、沢山の人たちが世界を救ってくれましたからね」

嘘だ。これは何かの罠だと気づいたのは最後の言葉だった。環も生け贄になるのは自分が初めてだと云っていた。のに、あの男は違う事を云っている。でもな、こんな時はもう少し話を聞い・・・・        

         ドサッ・・・・・

オレの眼の前が真っ暗になった。そして、手を突き顔を上げると環と大男が居た・・・?そう、オレは転んで自分から姿を現してしまったのだ。

「むっくん!どうして・・・・」

「え〜っと、いきなり出てきて悪いんですけど生け贄で魔力を封印ことができるなんて嘘ですよね?環をこの世から追い出したいだけでしょ・・・」

オレはこんなにも質問で怖い思いをしたことがないだろう。あぁ怖い怖い・・。そいつの眼は怒りの大きさを表すように大きくなっていく。

「何を云っているんですか?貴方は・・・。これは、本部長からの命令なんですよ。罠じゃあないですよ!さっ、環様、早くこの世を平和にしましょう」

待て!と叫んだときオレの右腕に激痛がはしった。あの男がやったのだろう。

「え?ちょっと、むっくん・・・・罠なの?」

男に手を引かれながら環は倒れているオレに眼を向けた。それはもう怖さに耐えられないくらい必死な眼をしていた。

「そうだよ!!罠なんだ、だから・・」

戻って来いなんて云えなかった。環は大男に背中を押され沼に落ちていったのだ。それはほんの一瞬で・・・それはあっけない「儀式」で・・・

「環ぃーーーーー・・・・」

激痛がはしる腕を伸ばしオレは叫んだ。それ以外叫ぶ言葉なんてないから。

「良かったですね。これでこの世界は平和に・・」

「何が良かっただ!誰に指図された!本部長なんて嘘だろ・・・」

息を切らし、涙を流しながら叫んでいると、ふと沼に方から視線を感じた。それは、沼から草を伝って上ってくる環の姿だった。

「な、なぜ!!」

「なぜじゃないわよ!私を騙して、罠なら死ぬ事ないじゃん。私はむっくんのこと信じてるしね!なにより私は大地の魂操者なんだから這い上がって来れるわよ」

いきなりの出来事でオレの頭はおかしくなっていた。だが、環は笑っていた。おいおい、オレの涙を返してくれ。その時、沼のほうから変な・・・寒気がするくらいのものが伝わってきた。

「や、やばいぞ。魔力が封印を解こうとしている!」

男は、這いずりながら逃げようとしたが、その先には人影があり男は止まったのだ。

「おうっ!!遅れたな!ちょっと手こずってな。よく生きてた環。安心したぜ!!」

眼の前には鬼衣瑠が居た。男の頭を踏みながら笑っていた。その笑顔も久々に見るような気がして、泣きそうになった。

「おい、零!こいつは俺がやるから、お前は魔力を封印してきてくれ」

え?零さんいるんだ。零さんは、指図するなと呟きオレたちの方に歩いてきて、オレに向かって少し微笑んだように見えた。嬉しかった。でも、零さんの過去を知ってしまったからか、オレはあまり眼を合わせられなかった。

「れーちゃん・・・」

環は勢いよく抱きついた。そして、環は笑っていた。零さんが優しく頭を撫でてやると、安心したように涙を流した。ん〜この光景・・兄妹みたいだな!

「おい!睦。零のソウルを見ていろ。ついでに封印の仕方も見とけ」

はいはいと零さんのソウルを見た瞬間、驚きを隠せなかった。

  それはオレの予想をはるかに超えたものだった。

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