変わり始める
立ち止まるな・・この命尽きるまで。
「で、君は誰??」
その人はさっきまでの明るい声とは違う、少し低い声で問いかけた。その声を聞き始めて名前を云っていないことに気付いた。・・・やばいな。
「オレ、睦っていいます。今日人間界からここに来ました。よろしくお願いします」
なんか初めてちゃんと挨拶をしたと思う。でも顔は笑ってないかも・・・ここさっきの煙で臭い匂いがしてるから・・・。
「睦・・・か。変わった名前だな。ん〜俺は-博士-とでも呼んでくれ。名前は認めたやつにしか教えない主義だから」
はぁ。ここの住民はなんて云うか、名前を覚えようとしない人とか名前を教えてくれない人とか居るんだな。あぁこれを「十人十色」って云うのかな?
「ここに来たのは鬼衣瑠から聞いて、で。オレここの事もっと知りたいんです。教えてくれませんか?」
・・・博士?さんは頭を掻きながら「まじ?」って云いそうな顔でこちらをみていた。まじまじまぢですよ!「まじですよ」と云うとははっと笑って喋りだした。
「わかったよ!鬼衣瑠が云うんだからなぁ。で、なにが聞きたい?ちゃっちゃと答えるから」
おぉ!鬼衣瑠って結構顔広いんだな。うん・・・今度から使おう!
「えっと・・さっきの煙は何ですか?」
「・・・ソウルの研究のつもり」
何の?と聞いたがやっぱりシークレットだそうだ。
「早く聞いてくれる?本当にちゃっちゃと答えるから!!」
ニコッと笑い云ってくる博士。なんでも答えてくれそうな気がした。
「貴方は人間ですか?」
「いや、シャイング出身だよ」
「何でここの人は整った顔が多いんですか?」
「えっとね、俺達を生んだ生命樹は実はイケメン好きな女の子でね。イケメンを生むこともあるんだよ」
この答えにはびっくりしたが、それから何時間かオレと博士はここの謎を解明していった。博士は負けず嫌いなのかわからないことは調べてくれた。嬉しい限りです!!
〜次の日〜
「博士・・・今あるのは朝日なんでしょうか?それとも夕日なんでしょうか?」
時計は5時をさしていた。おいおい、いつの5時だよ。そのくらいオレたちは調べていたのだ。
「えっと、この眩しさは朝日だね・・・」
博士も眼をしょぼしょぼさせながら云った。ふっと窓をのぞくと眩しい朝日の下、本部の前に環が居るのに気がついた。
「博士、本当にありがとうございました。また来ます。名前教えてくださいね!」
博士に手を振られ、オレは研究室を後にした。環のことが少し気になった。昨日あったばかりだが、昨日とは違う顔をしていたのだ。
オレは本部の門を開けた。そのすぐそこに環がいた。やっぱり昨日とは違う。
「どうした環?何かあったのか?喧嘩か?それとも・・」
環はオレに飛びついていた。顔を見ると涙を流しているのに気付く。オレは出来るだけ優しく聞いた。
「どうした?話してみろ」
「・・・・私ね、生け贄になるんだって。9年前に封印された魔力がもうすぐ封印を解いて出てくるんだって。でもね、その魔力は何回も封印されていてもうソウルの力は効かないんだって。だけど、私のソウル-大地と草花-をもつ者が封印されている沼に飛び込めば終わるんだって。でもね、そのソウルを持っているのは私だけなの・・・・」
涙がオレの服に吸い込まれていく。生け贄なんて鬼衣瑠にも聞いたことがない。でも・・
「お前はやるって云ったのか?」
「云ったよ!私以外いないし、やらなかったらこの世界が終わっちゃう」
オレはもう環の顔を見るのが辛くなってきた。死ぬのが怖くても心が強い彼女はただ涙を流すしかないのだ。
「今までにそんなことはあったの?」
「ううん、今回が初めてだって」
ん?おれはおかしいと感じた。だって、これまでだって沢山魔物や魔力を封印してきたんだろ。ならそういう事が、多いに決まっているのに。
「鬼衣瑠や、まっしー、零さんには聞いてみたのか?」
「聞いてない。頼りになる人みんなどっか行ってて、居なくて。むっくんしか・・・」
ガチャという音を聞き振り向くと、博士がどこかに向かって行った。博士もどこかへ行くんだ。
何かがおかしい。皆一斉に居なくなることも、環が生け贄になることも、すべてが。
ここに来て2日目。あいつ等の計画は始まっていたんだ。




