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エピローグ

 それから一週間後。

 冬場にしては珍しく晴れていた午後の穏やかなひと時にも関わらず、中原は納得がいかないといった様子で郷土史研究会の部屋にズカズカと入ってきた。

「聞いてくださいよ、前崎さん!」

「……どうした藪から棒に」

 なぜ彼女が怒っているのか前崎には大方の検討はついていたが、無視をすれば更に機嫌を悪くしかねないと判断し、いつものごとく本に視線を落としたまま、話を促す。

「満を持して今回のサークル活動の結果を、報告会に出席して発表してきたんです。ところがですよ! イメージダウンになりかねないから、成果としては認められないって! せっかく事件を解決したっていうのにです!」

「妥当じゃないか?」

「どうしてですかあ!」

 耳元で響いた大きな声に、前崎は顔をしかめる。

「あのなぁ……開校して間もない大学が、そんなものを公に発表したところで、学校にとってプラスになるわけはないだろう? 向こうが求めてるのは、歴史的な発見やスポーツの実績だ。殺人事件じゃない」

「――で、でも、私たちは事件を解決したんですから、それは表彰されるべきことでしょう?」

「俺たちは刑事でもなんでもないだろう。冷静に考えると、一歩間違えば捜査妨害だしな……」

 因みに、前崎たちが救助された後、現地では、もう一つのニュースがあった。それは、壊れた橋の残骸を回収するために川底を確認していた作業員が、岩のくぼみの陰で、白骨化した死体の一部を発見したというものだった。

 警察の調べによると、この身元は、行方不明になっていた古民家のオーナーであることが分かったらしい。おそらく、認知症の影響で徘徊していた最中に誤って橋から転落してしまったのだろう。


「――そもそもだ。俺が聞いたところによれば、もし仮に活動実績として認められても、分配金が貰えるのはそこから約三ヶ月後らしいぞ」

「さ、三ヶ月後?」

「今からだったら三月頃か――、冬も終わりの季節だな」

「そ、そんな! それじゃ、この苦労はなんだったんですかっ。最新の遠赤外線ヒーターや柔らかい暖かみを放つ高性能ストーブは――?」

 がたがたと椅子を揺らされ、手に持った本の文字がブレる。

「俺に言うなよ。ちゃんと調べないからだろうが」

「なんとかしてくださいよっ」

 無茶を言う。

「俺はどこかの青いロボットじゃないんだっての。ったく」

 読書の邪魔をする中原の手を引き剥がすと、前崎は足元の鞄へと手を伸ばす。そして、

「まあ、これで我慢するんだな」

 そう言って、何個かの小さな使い捨てカイロを中原へ渡した。

「なんです? これ……」

「市口さんがくれたんだ。あんなことがあってサークルの活動も休止だから、必要ないんだと。ま、余り物の参加報酬ってとこだな。丁度良かったじゃないか」

「……」

 鼻で笑う前崎を尻目に、中原は口を『へ』の字に曲げると、なんとも言えない表情で肩を落とした。それでも結局は、僅かな温もりを求めるように、しぶしぶカイロのパッケージを破ったのだった――――。

――――――――――終

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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