第五章⑧
囲炉裏にくべられた炭火がパチンと弾け、すっかり人気の無くなった空間に寂しく響く。
いったい、どういうつもりなのだろうか……。
それは、今から二十分ほど前のことだった。居間へ入って来た中原が、前崎からの伝言として、そこにいた全員へ、あることを伝えてきたのだ。
その内容は非常に奇妙なもので、一人ずつ十分おきに、指定した順番で二階の3号室へ来て欲しいというものだった。
そこに隠された意図は、全く読めなかった。見当はずれの考えによるものなのか、あるいは、ボロを出させるために、こちらの想像を超えるような何かを仕掛けているのか……。
落ち着かないまま時刻を確認すると、二人目が二階へ上がっていってから、丁度十分が経とうとしていた。
とにかく、何をしてくるかという予測がつかない以上、ここは平常心を保つことが重要になってくる。決して、墓穴を掘らないように、いつもどおり振る舞わなければ。
そんなことを反芻しながら居間を出ると、階段を上り、指定された3号室のドアの前に立った。
そこで軽く息を吐き、目を閉じる。
犯行は、計画と異なった部分も相当にあったが、それでも、全てを上手くこなしたつもりだった。
絶対に大丈夫……。そう言い聞かせて、マスクを被るように偽りの表情を作ると、自然体を装い、ドアの向こうへと声を掛けた。
しかし――、
どうしたことか、これといった反応が微塵も返ってこない。
誰もいない? まさか、そんなはずは……。
部屋の位置を確認するが、間違っていない。
怪訝に思いつつ、再度、ドアをノックして声を掛ける。
すると、ようやく鍵が開錠されると共に、ひょっこりと前崎が室内から姿を見せた。
「すいません、お待たせしました。どうぞ、入ってください」
「…………」
にこやかな仕草だったが、ドアを開けるまでに勿体つけるかのような間があったことを、思わず勘ぐってしまう。
やはり、何か仕掛けているのでは……?
「――どうしたんです?」
前崎の声に、はっとして、崩れかけていた表情を取り繕うと、促される形で部屋へと足を踏み入れた。
室内には、先に二階へ上っていった他のメンバーも揃っており、全員の不安そうな視線がこちらへ向けられる。そうして、それぞれが何を思っているのか推し量れないまま、部屋のドアは、ゆっくりと閉められた。
次の章から一応、解決編、ということになります。




