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第五章⑤

「それって、納屋の柱にあったイタズラ描きみたいなやつ、ですよね? やっぱり何か関係ありそうなんですか?」

「さてね。だが現状、密室の謎は手詰まりなんだ。気分転換にこっちを解いてみてもいいだろう」

「そ、それは、そうですけどね……」

 前崎はザックの中からペンと紙を取り出すと、その画像を見やすいように描き写していった。


 上段は左から『T』『F』 『S』『E』、下段は、『O』『T』 『F』『S』。その間を、計8本の矢印が上下に飛び合っている格好だ。

 各アルファベットには、それぞれ、別のアルファベットへ伸びる矢印と、別のアルファベットから伸びてきている矢印の、二種類がある。

 それら8本の矢印の流れは、こうだ。


 上段左端『T』→下段『F』、下段『F』→上段『F』、上段『F』→下段『T』、下段『T』→上段『S』、上段『S』→下段左端『O』、下段左端『O』→上段右端『E』、上段右端『E』→下段右端『S』、下段右端『S』→上段左端『T』

 という繋がりの形である。

「こんな感じかな。纏めると、矢印は全部で8本。それぞれ、別の地点のアルファベットへ伸びる矢印と、別の地点のアルファベットから伸びてきている矢印の2本があり、上段のアルファベットは下段のアルファベットに。下段のアルファベットは、上段のアルファベットのどれかに、必ず矢印が伸びている。しかも、それらをどの地点から辿っていっても、最終的にはスタートした地点のアルファベットに帰結している形だ。……さて、これを中原はどう見る?」

 前崎が問うと、紙を覗き込みながら難しそうに唸る。

「う~ん……さっぱり分かりませんけど、これが暗号だと仮定するなら、単純かもしれませんが、この矢印の通りにアルファベットを並べていったら、何かのワードになるんじゃないでしょうか? 例えば、上段左端の『T』からスタートした場合、『T、F、F、T、S、O、E、S、T』と、意味不明な文字列になりますが、どこか他の地点からであれば、あるいは何かの言葉になったり――」

「それは、たぶん無いな」

「ひ、ひょっとして、もう全通り、調べちゃったんですか?」

「いや。全部調べなくても、おおよそ分かる。さっきも言ったが、アルファベットの矢印は、どの地点からスタートしても、最後には戻ってくるんだ。ということは、スタート地点のアルファベットに向いている矢印の箇所が必ず八番目に来る。中原が言った法則で上段の四つを、左から、それぞれ並べてみると――」

『TFFTSOEST』

『FTSOESTFF』

『SOESTFFTS』

『ESTFFTSOE』

「――となって、一見、バラバラなようにも見えるが、二文字ずつ、下にずらして書くと、どうだ?」

『TFFTSOEST』

『■■FTSOESTFF』

『■■■■SOESTFFTS』

『■■■■■■ESTFFTSOE』

「中盤の並び方にはほとんど変化がなく、上下の文字が微妙に変わるだけだということが分かるだろ」

「あっ、ほんとですね……」

「当然、これは下段も同じようなものだ。しかも、八つのアルファベットの内訳は、『T』『F』『S』が2個、『O』と『E』が1個と、かなり偏っている。それでも、仮にこれを組み合わせて何かのワードになるなら、どこからスタートするかというヒントぐらいあってしかるべきだろう」

「……それじゃあ、これはいったい何なんでしょうか……?」

「そうだな……」

 前崎は、中原と隣合う形でベッドに腰掛けると、組んだ足を支えにして図を描いた紙を広げた。

「俺が気になるのは、この、上段『F』『S』と、下段『T』『F』の間の幅が、他よりも少しばかり広いことだな……他はほぼ、等間隔といっていいのに、どうしてここだけ若干広く取ってあるのか」

 距離の近さもあってか、中原の顔が心なしか紅潮する。

「そ、それは単に、矢印の流れが見やすいようにってことでは? 幅が狭いとごちゃごちゃしちゃうだろうし……」

「その可能性も、無いことは無いだろうが……ただ……漠然と、俺はこの形をどこかで見たことあるような気がしてな……」

「どこかで、ですか」

 中原はしばらく、にらめっこをするかのように、その図式を見ながら考え込んでいたが、ふと、何かを思いついたように声を上げた。

「そういえば、これ、線結びに似てませんか?」

「線結び……?」

「あれ? 知りませんか?」

「いや――」

 無論、知っている。

 むしろ、懐かしいくらいだと、前崎は自身の幼い頃を少しだけ思い返した。

 一人っ子である前崎は、共働きの両親が帰ってくるまでの時間を、よく一人遊びで過ごしていたものだ。その中でも特に好きだったのが、パズルや謎なぞなどの言葉遊び、そして、イラストを交えた計算問題だ。

 線結びとは、例えば、片側に『鉛筆』『リンゴ』『本』などのイラストがあり、向かい合う形で『一個』『一本』『一冊』などの数え方が書いてある。それを正しい組み合わせとなるように線で繋ぐ勉強だ。1から始まる数字を順番に繋いでいって、最終的に一つのイラストを完成させるというようなタイプもあるが、中原が言っているのは、前者のほうであろう。

 ただそれは、前崎の引っ掛かっていた感覚とはまた違ったものであったのだが……言われてみれば、形は線結びとも似ているかもしれない。これで共通している点があれば、まさしくといったところだが…………?

 ――あれ、待てよ、もしかしてこれって、本当に……?

 そこまで考えたところで、前崎は弾かれたように立ち上がると、窓の外と、図を描いた紙の両方に目を走らせた。そして、

「――なんてこった…………」

「え、ど、どうしたんですか、前崎さん?」

 中原の問い掛けにも反応せず、大きく息を震わせると、前崎はポケットの中の物を握り締め、血相を変えて部屋を飛び出した。

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