第四章④
午前十時四十五分。
加藤の遺体発見から三時間が経っていた。
居間を暖める囲炉裏の前には、前崎と中原の二人しかいない。
冷静に考えれば、一部屋に固まっているのが一番なはずだ。しかし、それぞれを疑い合うこの極限下で全員の行動を統一させることは、もはや不可能に近かった。
各々の思考で各々の行動を取ってしまう、最悪な状況。それほどまでにメンバーの意思は痛めつけられ、完全にバラバラになっていたのだ。
「前崎さん、私たち、帰れるんでしょうか?」
囲炉裏の揺らめく火を見つめながら、中原がか細い声で言った。
「橋が落ちて一時的に孤立しているだけだ……。別に無人島にいるわけじゃない……心配するなっての」
「……はい」
中原の言いたいことは痛いほどに分かっていた。ここが無人島でないとしても、二人もの人間を殺した犯人が、間違いなく近くに居るのだ。その人物の行動原理が分からない限り、いつ自分が標的とされてもおかしくないわけだから、不安になるなというほうがおかしい。
ならば、今自分たちに出来ることは、なんなのか。
やはりそれは、思考をめぐらせることではないだろうか?
犯人の動機や法則とでもいうべきもの……それが見えてくれば、靄に隠れたミノタウロスの全体像が少しは見えてくるはずだ。
正直なところ、普段は冷静な前崎も、冴和木、加藤の連続死で一時は茫然自失としてしまった。けれど、それが逆に犯人の思う壺なのかもしれない。
知恵の輪と一緒で、思考を止めてしまえば、密室は絶対に解けないのだ。メンタル的にはかなり苦しいところだが、それでも、もう一度状況を整理してみることが必要なのだ。
「よし……中原」
「どうしたんですか?」
前崎は無くなりかけていた気力を振り絞って立ち上がると、
「加藤さんの部屋を、調べるぞ」
中原を見おろしながら、毅然と言った。




