第四章③
――や、やっぱり、あの事件が今回の事に関係しているんだ……。そうに違いない……! だからあいつらは殺されて……そして次は……。
蕪木は自分の部屋で一人、布団をかぶってガクガクと震えながらクスリを吸引していた。ドサクサに紛れて、加藤の荷物からかっぱらってきたのだ。
加藤の遺体発見後、一階の居間へ集合して救助を待つべきだと前崎は言った。しかし、いつ自分が狙われてもおかしくない状況で、そんな仲良しごっこなど付き合うつもりはないと蕪木は突っぱねたのである……。
粉末状になった白い粉を鼻腔から体内へ取り込むと、おぼつかなかった手が不思議とおちついてきて、おかしくもないのに、笑いが込み上げてくる。
「ふ、ふふ、ふ」
このクスリを覚えたのはいつ頃だっただろうか。アレは確か……そう、大学へ入学して間もない頃だ。同級生たちとの飲み会終わりで、哲也と夜の繁華街をうろついていたときに、近寄ってきた外国人から遊び半分で買ったと記憶している。
そのときも今も、抵抗感や罪悪感というものは、さほど無かった。辛い食べ物にチャレンジしてみる、そんな感覚に近かっただろうか……。そうして、段々と、日常生活では得られない刺激に嵌っていったのだ。
とはいえ、大学や警察にコレがバレるのは流石にマズイ。年々、取り締まりも厳しくなっている。だから蕪木は日常的な使用を控え、あくまで自分の気分が上がらないときだけ使用する制限をつけたのだ。
けれど、
一度だけ、ほんのイタズラ心で…………それがまさかあんなことに……。
――いや、違う! あれは俺のせいじゃない……哲也と凜華が煽るから……俺は、何も悪くない!
蕪木は浮かびかけた嫌な記憶を振り払うように、残りの粉末を再び吸い込んだ。
雑念が消えて頭の中がクリアになり、高揚感が増してくる。
「へ、ふへへ……ふふ」
突然、部屋のドアがノックされたのは、浮遊するような不思議な感覚に身を任せていたときだった。
「だ、だれだ……?」
現実の世界に引き戻された蕪木は、咄嗟に布団の隙間から顔を出し、慎重に誰何の声を掛けた。
すると、暫くしてから外にいた人物が小さな声を発する。それを聞いた蕪木の表情は、みるみるうちに変わっていって――――。




