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第四章①

 寝覚めは最悪だった。凍りついたような空気のせいで、顔面が麻痺したように冷たい。

 前崎は目を開けると、周囲に異常がないことを確認してから、腕時計に目をやった。

 六時二十七分……。

 雷のせいもあって、途中、何度か目を覚ましてしまったが、それでも、最後はいつもどおりの起床時間の範囲に落ち着いた。ということは、やはり、一日目の夜は睡眠薬か何かを盛られたと断定していいだろう……。

 部屋は夜明け特有の薄闇に包まれている。風はまだ止んでいなかったが、その勢いをようやく落ち着かせつつあるようだった。

 前崎は冷え切った顔を布団の中にすっぽりと潜したくなる衝動を振り払って、上体を起こした。

「んっ…………」

 すると、横で寝ていた中原が寒そうに身体を丸め、身震いをしてからゆっくりとまぶたを開けた。

「あ、あれ……前崎さん……? 朝になったんですか……?」

 重たそうな表情を見るに、やはり、熟睡は出来ていなかったようだ。

「とりあえず、なんとか無事にな」

「そうですか……」

 中原は僅かに安堵の息をついたところで状況を思い出したのか、慌てて顔を背けると、くまを浮かべた目元を隠すようにこすった。

「み、皆さんは無事でしょうか?」

「さあな……。時間的にはまだ寝てるかもしれないが……とりあえず、一度下へ行ってみよう」

 前崎はウェアを着込むと、一度自室で着替えをしてくるという中原を廊下で待ってから、二人で階段を降りた。

 冷たい床板は、厚手の靴下越しでも容赦なく足裏を刺激する。黒ずんだ板材は踏みしめるたびに軋んだ音を鳴らし、そのたびに心拍数が乱高下するようだった。

 古い家屋での合宿は風情のあるものだったはずなのに、事件が起きて以降、その全てが不気味なものへと様変わりしてしまっていた。人の感性というものは、一つの大きな事件でこんなにも変化してしまうものなのだということを、まざまざと突きつけられた気がしてくる。

 二人は足を踏み外さぬよう、一段一段、慎重に階段を降りていく。そうして、全ての段差を降り終えた直後、すぐ傍のトイレのドアが突然開き、誰かが出てきた。


「「きゃあ!」」


 至近距離で鉢合わせとなった、中原と謎の人物の声が、同時に廊下で響く。咄嗟に、前崎も身構えたが。

「――って、よ、葉子さん!?」

「な、なんだ、沙希ちゃんと前崎くんじゃない……驚かさないでよ、もう……」

 謎の人物の正体――市口は、胸に手を当て、心底ホッとしたように息を吐いた。

「市口さんも起きていたんですね」

 前崎が声を掛けると、彼女は少し恥ずかしそうに頬を掻いた。

「ホントは誰かが起きる気配がするまで、部屋に篭もってようと思ってたんだけど、寒さで、どうしてもトイレが我慢できなくて……」

「……そう、でしたか」

 確かに、男子は最悪、部屋の窓からでも用を済ませられるだろうが、女子はそうはいかない。

「でも良かった~、二人とも無事で」

 マズイことを聞いてしまったかと一瞬危惧したが、市口は気にしていないようだったので、前崎も話を合わせるように頷いた。

「とりあえず、早く火をおこしましょう」

「ええ」

 それから三人は手分けして囲炉裏とかまどに手早く火を入れた。寒さが徐々に和らいでいくと、恐怖心も少しずつではあるが、薄まっていくようだった。

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