第一章⑪
大量にあったつみれ汁の鍋も綺麗に空になると、台所では片付けが始まり、居間はサラミやイカの燻製などのツマミが広がる飲み会の場に変わっていた。
そこへ、全身に雪を貼り付けた加藤が身体を震わせながらやって来る。
「だいぶ降ってた。こりゃ、明日は積もるな」
加藤は冴和木が長風呂から上がった後、再び外の風呂釜に火を入れ直していたのだ。
『おーい。女子達三人、先に入っちまえよ』
続いて、浴槽の温度を確認していた相羽の声が廊下から響く。それから、やれやれと腕まくりを直しながら戻ってきた彼は、囲炉裏を前に、どかりと座ると、ツマミのイカを口に運んだ。
ガタガタと風に揺れる戸の音は、知らぬ間に強さを増していて、外の荒れようを容易に想像させる。
「薪、多めに割っといて良かったですね」
前崎の言葉に、相羽はイカを噛みちぎりながら、全くだと頷く。
「しっかし、なんかこうしてるとよ、遭難したみたいな気分だな」
縁起でもないことを、蕪木は赤く染まった顔で面白そうに言う。その横で、
「そういえば、停めてきたレンタカーのほうは大丈夫か? まさかこの風で横転するなんてことはないよな?」
ふいに現実感のある心配をしだした加藤に対し、相羽は、
「二台ともそこそこ重量のある車だし、大丈夫さ。ま、雪には埋もれるかもしれないがな――」
咀嚼物をビールで流し込んで肩をすくめた。
……やがて女子たち全員が風呂から上がると、酔いの回りかけている蕪木を優先的に入浴させ、その後は前崎、加藤、相羽の順番に、一日の汗を適宜、簡単にではあるが、流していった。