到着とそれから
村に付いた一行は、まず村長の所を尋ねる。
村とはいえ、土壁で周りを囲い、物見櫓を配置しており、人口は少ないものの、町と言っても過言ではない。
魔物に襲われた村の者たちを受け入れ、レイアとラシュクルドが前世の知識を使い作られたこの村は、自警団が騎士団と渡り合え、教育を施した子供たちは学園の卒業生と遜色がない程知識を持っている。
ちなみに、視察に出た王妃を魔物から救ったのはラシュクルドの父親であり、その視察で見た優秀な平民は、幼き頃のラシュクルドである。
教育を始めてまだ5年も経っていないが、この村の子供達は、町で商人に雇ってもらえる程優秀である。
そのせいで過疎化と高齢化が進んでいるが、近い将来経験を積んだ子供達が大人になる頃には、この村は領地最大の町となっているだろう。
そして、大人になった子供達にその町で店を開いて貰う計画だ。
すでに目敏い商人などは、村への出資を始めるなど、後から得られる利益の為に動いている。
「親父殿、みえるか?」
ラシュクルドは、一際大きな家の扉を叩き、自らの父親である村長を呼ぶ。
家の中からドタバタと足音が聞こえ、開けられた扉からは、ラシュクルドに似た年配の男が顔を出す。
「ラッシュか、いきなり帰ってきてどうして。そらにお嬢様も。」
ラシュクルドの父親である村長は、過去に何度もレイアと会っている。
と言うより、出稼ぎの為、かつてライアーノ家で専属の庭師をしていた人物こそ、ラシュクルドの父親、ザックだ。
「殿下から婚約破棄を言い渡されて、次期侯爵様がお嬢様を侯爵家から追放したから、ここで住んでもらう事になった。」
「追放だぁ? 学園での色ボケ話はお前から聞いていたが、そのまで馬鹿になったのか? それより、そいつら締めて来たんだろうな?」
「いや、締めてない。むしろ締めなかったから効果がある。」
「どういう事だ?」
「俺よりもっと怖い人が怒った。」
そう、彼らがライアーノ家で荷造りをしている間に、ある人物の使者が彼らを訪れたのだ。
使者は主であるエリザの手紙を、レイア、ラシュクルド、ザック宛に渡したのだ。
手紙を受け取ったザックは、中身を読んで目を見開き、再度間違いがないか初めから読み直す。
「御館様は?」
「手紙を確認している。」
「つまり、もういいって事だな?」
「書かれている通り。」
「わかった。お嬢様、狭い家だが入ってくれ。明日から忙しくなるから、今日はゆっくり休んでくれ。」
そう言って、近くにかけてあったコートを羽織り、村へ向かって歩んでいく。
明日からの準備をする為に。