会合
馬車に乗り込んだ一行は、ライアーノ家の屋敷へ着くなり、当主であるエリック・フォン・ライアーノと対面していた。
「という訳で、私はラシュクルドがいた村へ行かせていただきます。」
卒業パーティーで起きた婚約破棄と侯爵家追放の件を伝えると、エリックは重い溜息をついた。
「まさか、お前の言っていた通りになるとは。あの馬鹿者め。」
実はエリックに前もって今日起きるであろう事を伝えてあった。
もっとも、エリックはそんな話を信じなかったが、レイアとラシュクルドから伝えられた内容に頭を悩ませる。
何故なら、今日レイアの言う通りの事が起きれば、レイアが言った通り、彼女はラシュクルドの村で生活する約束となっていたのだ。
嫡男であるハボックが平民の娘に夢中で領地の事を任せる事が出来ず、レイアとラシュクルドが代理としてエリックの補佐をしていた。
二人共独自の方法で事務仕事をしており、その効率は今までの倍以上である。
だが、その二人がいなくなれば、間違いなくエリックの負荷は増え、また、代理を探す必要もある。
「代わりと言っては何ですが、私が信用出来る者を数名呼び寄せていますので、あとは彼らに頼ってください。」
そう言うと、扉の側で控えていた執事長が扉を開ける。
入って来たのは二人の青年であった。
そのどちらも有力貴族の子息であり、次期文官・武官の中でも有望株とされている者たちだ。
「お久しぶりです、侯爵。」
「ご無沙汰しております。」
次々と頭を下げる彼らに、エリックは驚いてレイアに顔を向ける。
「お二人共、リリア嬢の取巻きとなっている方々の婚約者の身内ですわ。文官の方には色々な手法を教えてありますし、武官の方はラシュクルドが鍛えましたので、余程の事が無ければ大丈夫ですわ。」
エリックは開いた口が塞がらない状態である。
才有る者を雇用するようになり、有望株は何処からも引っ張りだこだ。
ただでさえ、ラシュクルドという超有望株がいるのに、他の有望株を持つなど、間違いなく他の家からやっかみを受けるだろう。
「ちなみに、陛下より許可は得ておりますので、問題はありません。」
面倒だと思っていた事は、すでに根回しにより回避されていたらしい。
「それに、何かありましたら、早馬を飛ばして下さい。お嬢様は無理でも、私は一日で駆け付けます。」
ラシュクルドの村まで早馬で半日以上かかる距離がある。
だが、ここにいる全員がラシュクルドの非常識さを知っている。
彼が本気になれば、早馬すら置き去りにのだ。
かつて領地にある山岳地帯に竜種が現れたと報告があった時、レイアの支持を受けたラシュクルドは、討伐隊がつく頃には竜種を討伐し、素材の剥ぎ取りすら終えていた。
死を覚悟していた討伐隊は、傷一つ付いていないラシュクルドに恐怖したが、それよりも自分達の領地が守られた事に安堵した。
「わかった。しかし条件がある。月に一度、現状報告をしなさい。あの馬鹿息子がお前を追放したが、お前は私の娘だ。それに変わりはない。」
その言葉に、本来ならば涙するところだが、レイアではなく、麗明はどのように反応すればよいかわからず、何も言わずに頭を下げた。
「旦那様、私とお嬢様は準備が出来次第立たせていただきます。」
「そうか。」
ただ一言そう言うと、文官・武官を連れて部屋から出て行く。
残された二人は、執事長に一礼して、身支度を整える為に部屋を後にした。