説明回
広間から出たレイアを迎えたのは、彼女の腹心にして懐刀である平民の少年だった。
「お疲れ様です、お嬢様。」
「まったくよ。こんな茶番に付き合わされる身にもなりなさい。吹き出してしまわないか心配でしたわ。ねぇ、レイア。」
『はい。私も麗明さんが吹き出してしまうのではないかと心配でした。それに驚きました。まさか本当に殿下から婚約破棄を言い渡される事になるなんて。』
レイアが誰もいない空間に問いかけると、この場に存在しない第三者の声が聞こえてくる。
その声はレイアと少年のみにしか聞こえない。
そして、その姿を見ることが出来るのもまた、二人しかいないのである。
誰もいない空間に現れたのは、レイアと同じ姿をした、半透明の少女である。
半透明の少女こそ、本物の侯爵令嬢、レイア・フォン・ライアーノである。
唐突だが、今のレイアは転生者である。
17歳の時に階段から落とされ、気が付けばレイア・フォン・ライアーノの身体を奪っていた。
それが5年前。学園へ入学する直前である。
その時、身体を奪われた本物のレイアは、守護霊のような存在となっている。
「言ったでしょ? そういうストーリーなのだと。」
ストーリー。
そう、この世界は乙女ゲーム『エターナル・ラブ〜君と歩み永遠〜』の世界なのだ。
発売当初、タイトルの不備が話題となり、売れ行きに一役買った作品であり、見た目麗しい少年達との逆ハーが出来る作品として、そういう趣味を持つお姉様方に絶大な人気を誇ったゲームだ。
内容としては、平民でありながら学園へ通う主人公のリリアが、王子や侯爵家嫡男など高貴な少年達と恋に落ちるといった、ありふれた作品なのだが、他の作品と異なり、魔物と戦闘を行う事があるのだ。
戦闘を行い、手に入れたアイテムを攻略キャラに渡す事で好感度をあげる事もでき、そうしなければ見れない各キャラの特殊ルートもあることから、やり込み要素満点の一作となっている。
ちなみに、主人公は貴族の血を引いている訳ではなく、かつて視察に出た王妃を魔物から守った平民がおり、また、その視察で優秀な平民を見つけた事から、平民であろうと才有る者を起用すべきと陛下に進言したところ、ならばと言うことで、才有る者を集める為に、学園へ平民も入れるようにしたのである。
一部の貴族は高貴な者が下賤な輩と共に学ぶ事など無いと言っていたが、平民でありながら座学で貴族を凌ぐ者や、剣の腕前で貴族を凌ぐ者が現れた事で、平民には負けられないと、一種のカンフル剤としての役割を果たし、納得せざるを得ない状態になった。
余談だが、一部のお姉様方の中には、攻略キャラ同士のカップリングを求め、同人を作られる猛者もお見えになられたとか。
閑話休題
ちなみに、レイアの懐刀である少年は学園を卒業していない。
にも関わらず、彼はレイアの信頼を得ている。
何故なら。
「しかし、相変わらず程度の低い所ですね。15才で卒業する学園の授業内容が、小学生レベルとは。」
「しかたないでしょ。この世界ではそう言ったモノは発展していないのだから。」
「俺が居た田舎の小学校でも、もう少し上のレベルだったぞ。」
そう、この少年もまた、レイアと同じ転生者である。
元々ライアーノ家が所有する土地の村に住んでおり、その村だけ魔物の被害が極端に少なく、視察に赴けば村で無双チートをしていたのがこの少年、ラシュクルドである。
もっとも、本人はこの世界が乙女ゲームの世界だと知らず、転生して魔法が使える為、剣と魔法の世界だと思い無双チートをしていたらしい。
おかげで、彼の住んでいた村では、剣や魔法を使える者が多く、村人だけで騎士団と渡り合える程の武力を持っていた程だ。
以降、ラシュクルドはレイアの腹心兼懐刀として生きてきた。
ちなみに、ラシュクルドは過去に王都へ現れた災害級と呼ばれる魔物を討伐した事もあり、国王とも面識がある。
「さて、あの馬鹿に侯爵家から追放されたし、さっさと領地に戻って家を出る準備をするわよ。」
「はいよ。仰せの通りに、お嬢様。」