マダガスカルの朝
昔見た動物紀行的な番組をみて感じたことです。
録画を取ったわけではないですし、記憶を頼りに書いているので細かいところは無違っているかもしれません。
マダガスカル島に「シファカ」という名前の二足歩行をするサルがいると、テレビで知った。
ニホンザルより少し大きいくらいで、白っぽい毛に手足の長い、リスザルの仲間か何かだったと思う。
動物紀行的な番組が特別好きなわけではないが、その時は”二足歩行するサル”と聞いて驚き、番組を見ようと思った。
何しろ、”二足歩行するサル”だなんて、それは、・・・ほとんど人間じゃないか。
と最初はかなり興奮した。「サルとヒトの違いは二足歩行を始めたところからって、昔、理科の先生が言ってた気がするぞ!そのサルはかなり人間に近い存在なんじゃないか?!」と。
しかしその興奮は番組冒頭で切り捨てられた。
ナレーション曰く、「このサルは原始ザルの仲間で人間やチンパンジーからは遠いサルです」
なーんだ、アイアイとかロリスとかそういう、”ただの珍しいサル”か~。ちょっと可愛いけど、まあ、こういうサルいるよね~。なんとなく惰性でそのまま番組を見ていた。しかし私はそのサル達の生き様が忘れられないものになった。
そのシファカというサルは同じサルでも、住む場所が違うと生活が180度変わる。
最初に登場したシファカ1号は寒さの厳しい、樹木もまばらな、川からは遠い場所に住んでいた。1号は朝早く起きると、ろくに葉も実もつけていない木に登り、朝露で柔らかくなった木の新芽をかじっていた。朝露も貴重な水分らしく、丁寧になめていた。朝日が昇ると、木の上で朝日に向かって両手を広げ、朝日をしっかりと浴びている。カメラの位置のせいで、まるで”ショーシャンクの空に”のワンシーンみたいだった。ナレーション曰く、「こうやって朝日をあび、なんとか体を温めている」のだそうだ。昼間は殆ど動かない。食料も水も乏しいため、あまり無駄に動くことができないらしい。ただただ、寒さに耐え、ゆっくり流れる時間を耐え過ごす。
なんとも痛ましい、慎ましやかな暮らしではないか。
マダガスカルってもっとバナナとか、なんかこう、トロピカルなイメージだったのに。木の芽が(それも朝露で柔らかくなってようやっと食べられる)朝食か・・・。シファカ1号、今にも凍えそうだな・・。なんか切ない。
だが、2号は違う。シファカ2号が住むのは川が近くに流れ、樹木が生い茂りジャングルとなった暖かいエリアだった。シファカが二足歩行するのは、元々こういうエリアで木から木へ降りて移動する際に、素早く次の木に移るためのものだったようで、生い茂った木から次の木へ、素早く横っ飛びする2号はサルらしい軽快なサイドステップだ。果物も豊富にある、水もある、暖かい。1号はなんでここに移り住まないんだろう?そう思って見ていた。
2号がサイドステップした瞬間、別のシファカがカメラの視界に飛び込んできた。サルのキーっと言う威嚇の声がジャングルに響く。2号が手に入れた果物を狙っていたのだ。2号も素早く応戦する。ジャンプして、爪をかざして、威嚇、威嚇、威嚇。
そうなのだ。2号が住む暖かい場所はその資源の豊富さ故に、多くのサルが住んでおり、競争が非常に激しいのだ。見ていると、10分ほどもゆっくり休む時間はなさそうだ。常に、縄張りや食べ物を巡って次々と争いが起きている。2号はとうとう、額に傷を負ってしまった。せっかくの暖かい気候なのにゆっくり寝られる時間もないのだろうか。
同じサルなのに、そして、同じ島に住んでいるのに。こうも違うのか。
いや、違わないな。同じサルもどきで、同じ島に住んでいて、大体こういう暮らしをしている動物を知っている。確かそれは、
”二足歩行するサル”だ。
そうか、やっぱり”二足歩行するサル”は、ほとんど人間じゃないか。