異世界への転生
前回の投稿から随分日が開いてしまいました。
しかしやめる気は(まだ)無いのでどれだけ日があこうと続けます。
ではどうぞ。
「……ッ!?」
ほんの僅かな間の浮遊感、しかし次の瞬間には俺の後頭部と背中は声に出来ないほどの打撲による痛みを訴えてきた。
「いてて……なんだ…ここ?」
俺は未だに痛みが続く後頭部を少し摩りながら上半身を起こし、辺りを見渡す。
両側に等間隔に書架が置かれており中には(書架だから当然なのだが)本がしまわれている。それでも足りないのか床に無造作に積まれている本もかなりの量がある。
「やあ、そろそろ来るころだと思ったよ」
「ッ!? だ、誰だ!?」
突然背後から声を掛けられ、咄嗟に立ち上がると同時に前方に飛び声をした方を向くと青い髪をした二十代ぐらいの男性が居た。シンプルな白いローブに木製の杖を片手に持ち肩に乗せるようにしている。
「僕かい?そうだね……まあ《司書さん》とでも呼んでくれ。僕自身に名前はないからね」
「はあ……で、その司書さんが俺に何の用? ってかまずここ何処? なんで俺はここに居るわけ?」
俺はニコニコしながら自身の事を言う相手に少し呆れ気味に答えながらも自分に話しかけてきた理由や、見ず知らずの場所にいる訳などを尋ねた。
「ふむ、じゃあまずは何で君がここに居るか、という質問に答えようか。まず君はここに横たわって気絶していた、あってるかい?」
「あ、ああ」
俺は少し戸惑いながらも俺があおむけに横たわっていた場所を指さす相手の質問に答えた。
「じゃあ気絶する前の出来事を君は覚えているかい?」
「えっと、気絶する前は確か……」
俺は顎に手を当てて必死に記憶を振り返った。
確か目覚める直前に感じたのは浮遊感だった。つまりはその前だよな? その前は確か……ホテルの最上階で警察に銃を突きつけられて……あれ?
「……もしかして、俺って死んだ?」
俺の記憶が正しいなら、突入してきた警察に向けて手で作ったピストルを撃った後、倒れたはずだ。そもそも、その前にかなりの銃弾とか受けた傷があったし出血の量も酷かったはずだ。とてもじゃないが普通に考えたら生き残れる状態じゃなかったはずだ。
「うん、思い出したみたいだね。そうここは死後の世界……とはちょっと違うんだがね、まあ君の場合が特殊なだけさ。さてと、じゃあもう1つの質問の答えだがここは、君達で言うところの《神々の世界》。そしてここの名前は《幻想図書館》さ。これでいいかな?」
「幻想……図書館……?」
確かにまわりを見渡せば書架と本しかないのだ。図書館と言っていいだろう。それに薄暗いながらも十分な光量があり、それも相まって名前通り幻想的な雰囲気を醸し出してる。
「……まあここが何処で、なんでいるかはわかった。でも俺に話しかけた理由を聞いてないぜ? あとさっきの《特殊な場合》ってのはなんだ?」
「全く、君は質問ばっかりだな。まあちゃんと説明するがね」
俺の目の前にいる司書さんは空いている片手を少し持ち上げると、一瞬少し光ったときにはそこに一冊のハードカバーでかなりの重量がありそうな分厚い本が握られていた。
「まあ話かけた理由は勿論、用があるから……まあそれじゃ答えになってないのはわかるよ? 要はその用事の中身って事だろう?」
彼は少しおどけたように笑うと少し真剣な表情になり「……この本を読んでみな」と手に持っていた本を手渡してきた。
「……この本はなんだ?」
「それは《記録本》と言ってね、無数の世界の無数の生物、特に人間の生涯を書き記してある本なんだ。もちろんその人物が行動しないとその先は白紙なんだがね。そしてその人物が死んだらその本もそこで終わる……普通は、ね」
真剣な表情のまま司書さんは少し含みのある言い方をして一旦そこで区切った。
俺は手渡された本を開いて、ページを捲ってみた。すると確かに俺がこれまで歩んできた出来事がそこには事細かに書かれていた。
「すげぇ……本当に記してある………………あれ?」
俺は更にページを捲っていき記憶に新しい場面まで来て次のページを捲るが、その先は白紙だった。
「なんで白紙? ってかそもそも俺が死んだ時点でこの本は終わってる筈なのに、何で白紙のページが大量に残ってるんだよ?」
俺は本をパラパラと捲っていくが当然の様に何も書いて無く、そしてその白紙のページは書いてあるページの10倍以上あった。
「そう、普通なら本が終わってるんだがその本はまだ大量に白紙を残している。それが《特殊な場合》に起きる事柄で君に話しかけた原因でもある」
司書さんは静かにそう言うと俺の手から本を奪いこう言った。
「君、転生してみる気、無いかい?」
その後、司書さんは俺に転生に関しての説明をしてくれたのだが――
「……つまり元の体が既に処理されててそのまま生き返らせてもすぐ死んじゃうから別の世界で人生の続きをしろと?」
「……まあ、簡単に言うとそうだね」
この司書さんが言うには「命の灯火が……」とか「肉体の蝋燭も砕けてしまい……」とか遠まわしに言ってたがぶっちゃけるとそう言う話だったのである。
もはや怒りを通り越して呆れてしまった。
「はあ……もういいよ。まあ正直言うと前の世界に未練なんてあんまり無いしな」
事実前の世界でやることはやったし生き返ったとしてもやることは変わらない。ただどこぞの組織か勢力に入って、命令された相手を殺して、報酬を貰う……そんな変わり映えのしない殺しの日々。なら心機一転別世界へ転生して新しい人生を送る方が気楽でいいだろう。
「そうかそうか!本当をいうと拒否して消滅を選んだりされたらどうしようかと思っていたよ。いや~、その場合は書類の提出とか面倒だからね」
……なんか役所みたいだな……まあどうでもいいが。
「で? 俺が他にすることって何かあるのか?」
「ん? いや、特には無いが、そうだね……一応転生先での何か要望があればある程度なら叶えてあげるよ?たとえば《人外並の腕力》は無理でも《他人より腕力を強く》は可能、って言ったらわかりやすいかな?」
なるほど、要は程度の問題って訳か。別に無理して要望を出す理由はないのだが一応保険的なものはかけときたいからな。かと言って何をどうしたものか……
「……なあ、一応転生する世界の事とか教えてもらえるのか?」
「ああ、そうだね。それを教えないと要望と言っても具体的なものが出てこないか。まあ別に転生すればわかるんだ、秘匿する必要もないしね」
そう言って司書さんは手を少し振ると空中にウインドウみたいなものが現れた……幻想図書館っていうぐらいだから魔法的なはずなのになぜか科学っぽく見えるのは何故だろう?
「さて、大陸の名前とかそういう細かいとこまでは基本管理せずにその世界の住人の流れに任せてるから大雑把に説明するよ」
そういうと司書はウインドウを開いて色々な場所の写真のような画像を見せていく。
その画像には街並みや人々、風景、そしてなんだかわからない獣のような生物や、人が手から炎を出している画像があった。
「画像を見てもらえればわかると思うけど、転生先の世界は名無し君が居たような文明がまだそんなに発達していない、そうだな……中世ヨーロッパみたいな世界だ。ただ君の居た世界と違うのは魔法があり一般化していることだね。所謂ファンタジー世界っていう事さ」
そう言うと司書はウインドウを全て消して「他に質問はあるかい?」と聞いてきた。
「魔法ってどういった物なんだ? 実際に使ったこともないし見たこともないから今一想像が出来ない」
「なるほど、まあ確かに想像しにくいかもね。でもこれはちゃんと法則があるエネルギー現象なんだ」
そういうと司書は指を一本立てるとその指先から少し浮いたところに小さな火が出現した。
「これが魔法さ」
「……なんか一種のマジックみたいだな」
「まあ初めて見るとそう思うよね。魔法には四つの属性があって《火》、《水》、《風》、《土》と分けられている。発動原理は簡単で体内を循環する《魔力》に性質《熱》、《冷》、《乾》、《湿》の内二つを組み合わせるんだ。《熱》+《乾》=《火》、《冷》+《湿》=《水》、《熱》+《湿》=《風》、《冷》+《乾》=《土》っていう具合にね。相反する性質、例えば《熱》と《冷》だと失敗して何が起こるかわからないからやめておいた方がいいよ。そしてそれぞれの性質を持った《魔力》を維持しながら空気中にある《魔素》で合わせることで初めて魔法が完成する。後は込める魔力量とか色々あるんだが……まあ詳しい事はこの本に纏めておいたから転生後に読んでみるといい」
そういうと司書さんは「ブック、オープン!」と唱え、空中に現れた本をこちらに投げ渡した。
「細々としたことはその本に書いてある、まあ暇な時にでも読んでみてくれたまえ。『ブック、オープン』で出現し『ブック、クローズ』で収納できる。前の世界の言葉で書いてあるから君にしか読めないと思うが、一応他の人にも譲渡することは可能だ。必要ないと判断したら、そうすればいい」
「……まあ理解は出来た、サンキュー」
俺はそう返すと「ブック、クローズ」と唱え、本を収納した。
「……さて、それじゃあ決まったかな?」
「……ああ、まずはこれから行く世界の言葉や語源が理解出来て読めるようにしてくれ」
「一番最初の願いがそれって……君ってもしかして無欲なのかい?」
「いやいやいや、コミュニケーションは大切だろう?転生後に自力で覚えても良かったんだが面倒くさいからな、これ位なら別に大丈夫だろ?」
「確かに可能だが……いや、もういいよ」
司書はさんはまだ何か言いたそうだったが諦めたようで空中投影型のキーボードを出現させて打ち込んでいく……本当にここって幻想図書館なんだよな?
「……よし、っと次の願いは何だい?」
「次は成長限界を無くしてほしいんだが……大丈夫か?」
正直言ってこれは凄いあやふやなところだ。なんせ成長限界を無くすっていう事は頑張れば転生後の世界を破壊することも頑張ればできるんだからな……いや、もちろんするつもりはないけど。
「そうだね、確かにできないことはないけど。しかし君も稀有だね、直接力や魔力を高くしてくれと言わないとは……いや、良く考えてると言った方がいいのかな?」
「これでも一応心配性でね。それに力とかは努力してこそ意味があるし、イキナリそんな力貰っても振り回されそうだしな。それに……ある意味、最高の願いだろ?」
「確かに」
司書さんは笑いながらキーボードを打ちこみ俺の要望を入力していく。
「そういえばなんで要望を入力していくんだよ?」
「それはこうやって君の体……正確には肉体の蝋燭に要望した願いを入れて制作しなきゃいけないからね。今はその製作段階。そして完成した肉体の蝋燭に命の灯火を付けて世界の器に置けば転生されるわけだ」
「へ~……」
神様の世界でもやっぱり色々と決まりとか方法はあるようで、俺は理解しながらもその辺りはあまり気にならなかったので、気の抜けたような返事しかできなかった。
「さてと……あとは容姿に関することだけだが、どうする?」
恐らく技術や身体能力的な事は先の成長限界でどうにかするのだろうと思ったのだろう。
しかし自分は首を横に振る。別段今の容姿に不満があるわけではないからだ。
「ふむ、まあ確かに容姿を細かく要望しそうな性格でもないし、元々そこまで悪いわけでもないみたいだしね。それじゃあこれで蝋燭を作るが、いいかい?」
司書さんは入力終了して肉体の蝋燭を作ろうとするが、俺はそれを遮り最後の願いを口に出す。
「最後に……妹を、くれないか?」
流石に司書さんは俺のこの願いにも驚いたようで、目を丸くした後に腹を抱えて笑い出した。
「あっはっは!……い、妹って!君はあれかい?シスターコンプレックスとでもいうのかい?」
俺は爆笑する司書さんに向けて発砲しようとホルスターから銃を抜くが構える前に止めた。ここで発砲してもこちらにメリットが無いからだ。第一ここが神々の世界というのなら地の利はあちらにある。それこそ俺をここから消すことすら可能だろう。これ位の事でキレて消されるのもアホらしいのでそのままホルスターに戻し。
暫くして司書さんはやっと落ち着いたのか、何もなかったかのようにキーボードを操作してウインドウを消していく。最後のウインドウを消したところで白い蝋燭が空中に現れたかと思うと司書さんの手の中に納まった。
「これが君の肉体の蝋燭なんだが、その前にさっきの君の兄妹……妹に関してなんだがね、可能か不可能かと言われれば一応可能だ」
司書さんは少し真剣な表情で蝋燭を見せながらもそう言い、続けていく。
「通常はその世界の人々に任せるのが通例なんだが、君の場合はある意味こっちの都合で転生させるから特別だ。ただしこれには少し条件というか制約があってね……それでもいいなら君の妹が欲しいという願いを叶えるが……どうする?」
司書さんは真剣な目つきでこちらを静かにとらえている。恐らくだがその条件や制約は答えるまでは教えてもらえないのだろう。
暫く自分の中で悩んだ結果、俺は口を開いた。
「……イエス」
「……わかった。まあやり方は簡単なんだ。申請書類を作成してそれを通して次の会議で過半数が賛成すると可決が決定、そこから新たに蝋燭とかを作って晴れて誕生させることができる」
……書類云々は突っ込まない。
「方法はわかったけど条件や制約っていうのは?」
「それはまず一つは君の転生後の人生が変化すること、それもかなり悪い方向に」
「……主にどんなことが起こる?」
相手の真剣な目に俺は少し不安を覚えながらもそう訊ねて。
「残念ながら僕にもそれはわからない。しかしそこまで酷い事にはならないはずだ。転生したのに死んでしまったら意味が無いしね」
「そうか……じゃあまあ楽しみにしながら乗り越えられるように心構えはしておくよ」
「それがいい。まあある程度はここから僕も覗いてあげるから出来る範囲で手助けはしてあげるよ」
司書さんは頷いてそう言うともう一つの条件を話し始めた。
「もう一つは時間がかかることだ。もし仮に次回の会議で可決されなかった場合は数年~数十年後になってしまう。それは困るだろう?」
「確かにな……ま、無理なら無理で諦めるさ。ついでに可決された場合はどれぐらいで生まれる?」
俺は肩をすくめながらも聞いて。
「早くて一年行くか行かないかだ」
「マジで早いな……」
相手のあっけらかんとした返答に少し呆れて。
確かに世の中にはひと月違いの兄妹とかいるが……まあいいか。それはそれで学校とかなら同じ学年になるのだし。
「さてと、それじゃあ転生に移ろうか。そこに立って」
「ん?あ、ああ……」
俺が少し考えていると司書さんがそう切り出してある場所を指さして。そこに近づきよく見ると床に円形の陣が描かれており。
「それじゃあ、準備はいいかい?」
「……ああ、やってくれ」
「わかった」
司書さんが答えると目を閉じ、小さく何かをつぶやき始めると陣が光り始めて。
「……よし、それじゃあまた会う日を楽しみにしてるよ」
「……そりゃつまり俺が死ぬのを楽しみにしてるって事かよ?」
おれは少し皮肉気味に答えるが司書さんは少し含みのある笑みを浮かべるだけで答えはせず。
「……それじゃあ、君の新たな人生に、幸多きあらんことを……」
司書さんのその言葉を最後に俺の目の前は暗くなっていき、やがて真っ暗になると俺は自然に意識を手放した。
「…………ふう、やっと行ったね」
目の前の人物が消えて陣の光が完全に消えた所で僕はそう呟く。
僕は一息ついたところで転生さてた彼の願いを叶える為、書類を書きに行こうとしたらそこからか羽音が聞こえてきて僕は上を見上げ。
「主様~……」
「……アリアか」
そこにいたのは羽が生えた女性……所謂天使が自分に向かって飛んできており。僕自身も地面を軽く蹴ると浮かびあがり彼女に近づいて。
「そんなに急いでどうしたんだい?」
「いえ、新しい人がまた死にまして……」
「やれやれ、またかい……書類を見せてくれ」
そういって彼女から書類を受け取るとそこには先ほどの彼と同じぐらいの女の子が映っており直に彼女の本を手元に出現させるとページを捲っていき。
「……なるほど……そうだ!」
「……主様?」
僕は妙案を思いついて紙とペンを取り出すとある手紙を書いて、丸めると隣の天使に渡して。
「アリア、これを届けてくれ。あとこの蝋燭を持って行って、火を灯して所定の場所に置くようにしてくれ」
「わかりました……ってこんな最高品質な蝋使ったんですか!?」
彼女は蝋燭を受け取ると使われた蝋の品質に驚いたようで、それもそのはずでこの世界で使う肉体の蝋燭でも恐らくこれほどの純正品で高級な素材を使った蝋燭はないであろう仕上がりにおり、そしてそれはそのまま彼の肉体に影響を及ぼす。
「僕は先ほどの彼を気に入ってね……ま、これなら彼も随分過ごしやすいだろう。さ、それよりも早く頼むよ」
「あ、はい、わかりました」
彼女はそう言うと急いで飛んで向かっていき。
「……さて、彼の人生は今後どうなっていくかな?」
僕はそう呟いて次に来る人物の場所へ移動しはじめた。
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……次の投稿はもっと早くできればいいな~……