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『二千年後の時を経て運命に導かれし聖魔の継承者』  作者: 黒夜
第1章 目覚めし聖魔の継承者
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第23話 新たな依頼と不穏な報告

北の集落で発見された地中の装置。


その調査によって、黒い結晶や刻印が、魔力を集めるだけでなく、別の場所へ送り出す仕組みにも利用されている可能性が浮かび上がった。


しかし、装置を設置した人物も、その目的も依然として分からない。


そんな中、カイゼルたちのもとに新たな依頼が届く。


今度の現場では、魔道具の故障も魔物の異常行動も確認されていなかった。


それにもかかわらず、調査に向かった冒険者たちは、全員が同じ奇妙な現象を目撃したという。


それは、誰もいないはずの森の中から聞こえてきた、謎の鐘の音だった。

「……鐘の音?」


冒険者ギルドの受付で、カイゼルは依頼書に目を落とした。


そこには、街の北西に広がる森で起きた不可解な現象について記されていた。


『北西の森にて、正体不明の鐘の音を確認』


『現地調査を行った冒険者三名が、同一の現象を報告』


『周辺に鐘楼および鐘を備えた施設は存在しない』


「何これ? ちょっと不気味ね……」


リリアがカイゼルの横から依頼書をのぞき込んだ。


「鐘がないのに、鐘の音が聞こえるってこと?」


「そういう報告みたいです」


セレスも依頼書を確認する。


「でも、魔道具の異常も魔物の異常行動も確認されていないんですよね?」


「ああ。少なくとも、報告書にはそう書かれている」


カイゼルは静かに答えた。


これまで調査してきた場所では、必ずと言っていいほど魔力の乱れが発生していた。


街の魔道具。


ミルナ村の泉。


森の魔物。


西の採掘場。


そして、北の集落。


しかし、今回の依頼には、そうした異常が一切記されていない。


それにもかかわらず、ギルドは追加調査が必要だと判断したようだった。


「受付の人に詳しく聞いてみよう」


カイゼルは依頼書を持ち、受付へ向かった。


◇ ◇ ◇


「北西の森の件ですね」


受付の職員は、三人から依頼書を受け取ると、奥から別の記録を持ってきた。


「最初に報告があったのは三日前です。森で薬草採取をしていた冒険者たちが、突然鐘の音を聞いたそうです」


「三人とも聞いたの?」


リリアが尋ねる。


「はい。しかも、三人がそれぞれ別の場所にいたにもかかわらず、同じ方向から聞こえたと証言しています」


「その方向には何があるんですか?」


セレスが尋ねた。


「古い石造りの建物があった場所です。ただ、建物は数十年前に崩れていて、現在はほとんど残っていません」


「古い建物……」


カイゼルは考え込んだ。


「その場所には、以前から何か特別なものがあったのか?」


「詳しい記録はありません。ただ、昔は旅人が休憩するための小さな施設だったという話があります」


受付の職員は記録をめくった。


「それと、少し気になることがあるんです」


「何でしょうか?」


セレスが尋ねる。


「鐘の音を聞いた冒険者たちは、全員が同じことを言っていました」


職員は一度、言葉を区切った。


「音が聞こえた直後、一瞬だけ周囲の景色が揺らいで見えたそうです」


「景色が……揺らいだ?」


リリアが眉をひそめる。


「はい。空気が歪んだように見えた、と。ただし、その現象はほんの一瞬で、すぐに元へ戻ったそうです」


カイゼルは静かに目を細めた。


景色の揺らぎ。


それだけでは、魔法によるものかどうかは分からない。


だが、魔力の流れに何らかの干渉が起きていた可能性はある。


「調査に向かった冒険者たちは、ほかに異常を感じなかったのか?」


「魔力の乱れは確認できなかったそうです。魔物の反応も、普段と変わらなかったと聞いています」


「……そうか」


カイゼルは依頼書を見つめた。


これまでの黒い欠片とは、明らかに違う。


だが、だからといって無関係とは限らない。


「この依頼を受けたい」


「分かりました。では、正式に受注手続きを行います」


職員は書類に必要事項を記入し、三人へ依頼票を渡した。


「現地では、無理に原因を突き止めようとせず、安全を優先してください」


「ああ。分かっている」


カイゼルはうなずいた。


◇ ◇ ◇


北西の森へ向かう道は、これまで通った街道とは少し違っていた。


木々が密集しており、日中でも薄暗い場所が多い。


足元には落ち葉が積もり、ところどころに苔むした岩が転がっている。


「なんだか、静かな森ね」


リリアが周囲を見回した。


「鳥の声は聞こえますけど……。確かに、あまり人が通っていないようですね」


セレスは足元に気をつけながら歩いていた。


カイゼルは二人の少し前を進み、周囲の魔力を探っていた。


今のところ、不自然な反応はない。


魔力は森の中を穏やかに流れている。


魔物の気配も、特に変わったところはなかった。


「……普通の森だな」


カイゼルがつぶやく。


「じゃあ、やっぱり黒い欠片とは関係ないのかな?」


リリアが尋ねた。


「まだ分からない。何も起きていないときには、反応が出ない仕組みかもしれない」


「そうですね。北の集落の装置も、夜になると反応が強くなりましたし」


セレスの言葉に、カイゼルはうなずいた。


三人は依頼書に記された場所へ向かって進んだ。


しばらくすると、木々の間から古い石造りの建物が見えてきた。


いや、建物と呼ぶには、あまりにも崩れていた。


残っているのは、壁の一部と石の柱。


屋根は完全に失われ、床には草が生えている。


「ここが、鐘の音が聞こえた場所……」


リリアが小さくつぶやいた。


カイゼルは周囲を見回した。


確かに、鐘らしきものは見当たらない。


鐘楼もない。


ただ、建物の中央には、丸い石の台座が残されていた。


「……あれは?」


カイゼルは台座へ近づいた。


表面には、長い年月で削れた模様が刻まれている。


その形を見た瞬間、彼の表情がわずかに変わった。


「また、円形の刻印……」


「えっ?」


リリアが駆け寄る。


「本当だ……。でも、今までのものとはちょっと違うわね」


台座に刻まれていたのは、円をいくつも重ねたような模様だった。


これまで見つかった刻印と共通する部分はある。


しかし、線の配置は大きく異なっていた。


「……魔力の流れを集めるためのもの、とは少し違う気がする」


カイゼルは静かにつぶやいた。


セレスも台座を観察した。


「魔力の反応は、ほとんどありませんね」


「ああ。今は動いていないようだ」


カイゼルは台座に触れず、周囲の魔力を探った。


異常は感じられない。


だが、刻印の中心には、ごくわずかに魔力が残っていた。


何かが使われた後のような、薄い痕跡だった。


◇ ◇ ◇


三人は建物の周囲を調べ始めた。


リリアは崩れた壁の裏側を確認し、セレスは床に残された模様を調べる。


カイゼルは台座を中心に、魔力の流れを観察していた。


しばらくして、リリアが声を上げた。


「カイゼル! こっちに何かある!」


カイゼルとセレスが近づくと、崩れた壁の下に小さな金属片が落ちていた。


表面は錆びていたが、端の部分に細い刻印が残されている。


「これも、同じような模様ですね」


セレスが言った。


「ああ。台座の刻印とつながっていた部品かもしれない」


カイゼルは金属片を慎重に観察した。


魔力の反応はほとんどない。


だが、表面には不自然な傷がいくつも残されていた。


まるで、何度も魔力を流されたことで、内部が摩耗したかのようだった。


「……使われていた形跡はあるな」


カイゼルは金属片を魔法収納へ収めた。


そのときだった。


――ゴォン……。


低く、澄んだ音が森の中に響いた。


三人は同時に顔を上げた。


「……今の!」


リリアが周囲を見回す。


「鐘の音……!」


セレスも驚いた表情を浮かべた。


音は、確かに鐘のように聞こえた。


しかし、近くに鐘はない。


音の方向も、はっきりしなかった。


森全体から響いてきたようにも、建物の中央から聞こえてきたようにも感じられた。


カイゼルはすぐに魔力の流れを探った。


「……来る」


「何が?」


リリアが尋ねた、その瞬間。


周囲の景色が、わずかに揺らいだ。


木々の輪郭がぼやけ、地面の色が一瞬だけ変わる。


まるで、薄い水の膜を通して世界を見ているようだった。


「きゃっ!」


セレスが小さく声を上げる。


カイゼルは聖性を働かせ、周囲の魔力の乱れを探った。


しかし、異常はすぐに消えてしまった。


森は元の静けさを取り戻している。


「……今の、何だったの?」


リリアが息をのむ。


「分からない。でも、確かに魔力が動いた」


カイゼルは台座を見つめた。


刻印の中心に、微かな光が残っていた。


その光は、ゆっくりと消えていく。


「……台座が反応したのかもしれない」


セレスが言った。


「ああ。少なくとも、音が鳴った直後に魔力の流れが変わった」


カイゼルは台座へ近づいた。


そして、刻印の周囲に新たな痕跡が現れていることに気づいた。


細い線が、台座の外側へ向かって伸びている。


それは、先ほどまで見えなかったものだった。


「……これは」


カイゼルは目を細めた。


刻印の線は、建物の外へと続いていた。


まるで、どこか別の場所へつながっているかのようだった。


◇ ◇ ◇


「線が、森の奥へ続いている……?」


リリアが地面を見つめた。


台座から伸びる細い線は、崩れた床の下を通り、森の奥へ向かっていた。


ただし、線のすべてが見えているわけではない。


途中から土や草に覆われ、どこまで続いているのか分からなかった。


「これ、北の集落の装置と似ていませんか?」


セレスが尋ねた。


「地面の下に魔力の通り道がある、という点では似ている」


カイゼルは答えた。


「でも、今回の刻印は、魔力を集めるためのものとは少し違う気がする」


「じゃあ、何のためにあるの?」


「……まだ分からない」


カイゼルは地面に手をかざした。


魔力の流れを探ると、線の奥から微かな反応が返ってきた。


その反応は、一定の間隔で強くなったり弱くなったりしている。


まるで、何かが周期的に動いているようだった。


「……反応が繰り返されている」


「鐘の音も、また鳴るのかな?」


リリアが尋ねた。


「その可能性はある」


カイゼルは周囲を見回した。


「ただ、今は無理に追わないほうがいい。どこまで続いているか分からないし、仕組みも分かっていない」


「そうですね。森の奥へ進むなら、準備を整えてからのほうが安全です」


セレスも同意した。


リリアは少し残念そうにしたが、すぐにうなずいた。


「分かった。じゃあ、今日はここまでね」


三人は台座の模様と、地面に伸びる線の位置を記録した。


カイゼルは魔法収納から紙と筆記具を取り出し、刻印の形をできるだけ正確に描き写した。


「これをエルドさんに見せよう。今までの刻印と比べれば、何か分かるかもしれない」


「うん!」


リリアが答える。


セレスも、記録を確認しながらうなずいた。


そのとき、再び低い音が響いた。


――ゴォン……。


三人は同時に振り返った。


今度は、先ほどよりも音が近く感じられた。


そして、台座の刻印が淡く光り始めた。


「また……!」


リリアが身構える。


カイゼルはすぐに魔力の流れを探った。


しかし、今度は少し違っていた。


台座の中心から魔力が広がるのではなく、森の奥から流れてきた魔力が台座へ集まっている。


「……逆だ」


カイゼルがつぶやく。


「逆?」


セレスが聞き返した。


「さっきは台座から外へ流れていた。でも、今は森の奥から台座へ向かっている」


カイゼルは目を細めた。


「……魔力の流れが、切り替わっている」


その瞬間。


台座の中心に、細い光の線が浮かび上がった。


線は円を描きながら広がり、やがて小さな模様を形作る。


それは、北の集落で見た装置の中心に浮かび上がった模様と、よく似ていた。


「……同じ仕組み?」


カイゼルは思わずつぶやいた。


だが、次の瞬間には光が消え、刻印も元の状態へ戻ってしまった。


森には、再び静けさが訪れた。


「……今の、見た?」


リリアが小声で尋ねる。


「ああ。北の集落の装置と、似た模様だった」


カイゼルは答えた。


「それなら、やっぱり関係があるんでしょうか?」


セレスが尋ねる。


「可能性は高い。ただ、同じ仕組みなのか、それとも似た技術が使われているだけなのかは分からない」


カイゼルは台座を見つめた。


鐘の音。


景色の揺らぎ。


魔力の流れの切り替わり。


そして、北の集落と似た模様。


今回の現象は、これまでの黒い欠片とは違う。


だが、まったく無関係とも思えなかった。


◇ ◇ ◇


夕方。


三人は森を出て、街へ戻る道を歩いていた。


「結局、鐘の正体は分からなかったわね」


リリアが少し悔しそうに言った。


「でも、台座が反応したことと、魔力の流れが切り替わっていたことは分かりました」


セレスは記録を見ながら答えた。


「それに、北の集落の装置と似た模様も確認できましたし」


「ああ。十分な手がかりだと思う」


カイゼルは静かにうなずいた。


「次はエルドさんに見てもらおう。あの刻印が何のために使われているのか、少しでも分かればいいんだが」


三人は街へ戻り、ギルドに調査結果を報告した。


受付の職員は、鐘の音と景色の揺らぎが実際に確認されたことに驚いた様子だった。


「やはり、何かが起きているのですね……」


「原因はまだ分からない。ただ、古い建物の台座に刻印があり、魔力の流れが変化していた」


カイゼルは説明した。


「分かりました。現地への立ち入りについては、しばらく注意を呼びかけることにします」


職員は報告書に記録を残した。


三人はその後、エルドの工房へ向かうことにした。


しかし、工房へ向かう途中。


カイゼルは、ふと足を止めた。


「……?」


魔法収納の中で、微かな魔力の反応を感じたのだ。


それは、北西の森で拾った金属片からだった。


魔法収納の内部では時間が停止している。


本来なら、収納した物が自ら変化することはない。


カイゼルはすぐに金属片を取り出した。


すると、金属片の表面に刻まれた線が、淡く光り始めた。


「カイゼル、それ……!」


リリアが驚いた声を上げる。


「さっきの森と同じ反応……?」


セレスも息をのんだ。


カイゼルは金属片を見つめた。


光は弱く、周囲へ影響を与えるほどではない。


だが、確かに何かに反応している。


「……近くに、同じ仕組みのものがあるのかもしれない」


カイゼルは周囲を見回した。


街の通りには、多くの人々が行き交っている。


魔道具の明かり。


商店の看板。


荷車の音。


いつもと変わらない景色。


しかし、金属片の光は消えなかった。


「……まさか、街の中にも?」


カイゼルは小さくつぶやいた。


リリアとセレスも、周囲を警戒し始める。


黒い欠片の謎は、森や採掘場だけの問題ではないのかもしれない。


そして、彼らのすぐ近くにも、まだ見つかっていない仕組みが隠されている可能性があった。


カイゼルは金属片を慎重に包み、再び魔法収納へ収めた。


「まずはエルドさんに相談しよう。今の反応も、重要な手がかりになるはずだ」


「うん!」


「はい、カイゼルさん」


三人は歩き出した。


その背後で、街のどこかに設置された小さな装置が、静かに一度だけ光を放った。


誰も気づかないほど弱い光だった。


だが、その反応は確かに、北西の森で鳴り響いた鐘の音と呼応していた。

第23話を読んでくれてありがとう!


今回は、北西の森で起きた謎の鐘の音を調査しました。


現地では、古い石造りの建物の台座に円形の刻印が残されており、鐘の音とともに景色が揺らぐ現象が発生しました。


さらに、台座から伸びる魔力の流れが途中で切り替わり、北の集落で見つかった装置と似た模様も確認されました。


そして、街へ戻ったカイゼルたちの前で、森から持ち帰った金属片が突然反応を示します。


街の中にも、まだ発見されていない装置が存在するのでしょうか。

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