表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アラフィフ異世界に飛ばされて魔物を助ける治癒士となる!  作者: 四ノ宮士騎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/2

後編

ゴブリンたちとオークたちの戦いは熾烈を極めていた。

その理由はいくら進化したとはいえ、所詮ゴブリン。オークとは体格差はおろか膂力の差も影響しているからだ。

オークが二メートル近い体躯を誇っているにもかかわらず、進化したゴブリンたちはせいぜいが、オークの半分ほどの大きさだったからだ。

しかしゴブリンにはコボルト防衛隊が援護についていた。そのため戦闘は拮抗していた。

だがこのまま戦が長引けばゴブリンコボルト連合軍が数で勝るとはいえ、二十体近くいるオークたちには敵わないだろう。なぜなら体の大きさはおろかその体に有するスタミナが違いすぎたからだ。

このまま戦いが長引けばまずいことになると思った矢先、コボルトの里奥から進化したコボルトの援軍が到着したのだった。

「オークどもの足止めをしていたコボルトたちは里の奥へっそこで怪我の治療と、名付けを行うっ先ほどまで前線にいたコボルト族は皆下がるでおじゃる!」

コボルト族長おじゃるの声が飛ぶ。

その声に応じてコボルトたちが前線を離れた瞬間、入れ替わるようにして進化したコボルトの軍が前線に参加し始めた。

こうなってしまったら俺のやることは決まっている。前線から戻ってきたコボルトたちの治療と戦力増強するための名付けだ。

そう思った俺は次々と前線から戻ってきたコボルトたちにヒールをかけまくると共に、名付けをしてコボルトたちをどんどんと進化させていった。

三十分ほどですべてのコボルトの治療と名付けを終えた俺は、コボルト部隊を率いて前線に加わった。

もちろん俺に戦う力はないので、前線でも後方支援に回って、前線から運ばれてくる怪我人の治療にあたっていた。

一時間後。二十体近くいたオークたちは戦闘力を失っていった。

ゴブリンコボルト連合軍の勝利である。

あとの問題は戦後処理をどうするかだ。

縛り上げ無力化したオークたちを見ながらおじゃるが声を上げた。

「このままの勢いでオークの里を潰しに行くでおじゃる!」

「わしは反対ですじゃ。オークの戦力がこれっぽっちとは思えぬのですじゃ」

「いやしかしゴブリンコボルト連合軍は無敵なのでおじゃるっ今後顧の憂いを絶たずしていつ断つでおじゃる⁉」

「おじゃる殿っその考え方は危険ですじゃ。わしらが勝利したのは太一殿の治癒魔法と名付けによる進化が大きいのですじゃっ太一殿の意見も聞いてみないとならぬとわしは思うのですじゃ」

「ということは太一殿が賛成してくれれば攻め上がるということでおじゃるな? ならば太一殿っ今こそ我らと共に立ち上がり自分たちが食物連鎖の頂点に立っていると勘違いしている頭のぼせ上ったオークどもの里に侵攻し、後顧の憂いを断ち切る時なのでおじゃる!」

「太一殿はどう思うですじゃ」

「俺は……オークたちがコボルトたちを襲った理由を調べるべきだと思う」

「理由、ですじゃ?」

「そんなものないに決まっておるでおじゃる! オークどもは食のためなら理由などなく他種族を滅亡へと追い込む。そんな種族でおじゃる! きっと大した理由などないに決まっておるでおじゃる!」

「太一殿はどうお思いに?」

「俺にオークの心境は分からない。だからオークたちに今回なぜコボルトたちの里を攻めてきたのか直接聞いてみるべきだと思う」

「太一殿がそうおっしゃるのならば聞いてみるですじゃっよいなおじゃる殿?」

「そこまで言うのなら聞いてみるがよいのでおじゃる。がしかしどうせ大した理由などないでおじゃる」

「よしこの話はこれで終いだっまずはオークに事情を聞く。すべてはそれからだ」

コクリとゴブじいが頷き、おじゃるも渋々頷いた。

みんなの意見が一致したことで俺たちはオークの尋問をすることにした。

「お前たちは何でコボルトの里を襲った? 嘘はつくなよ? 俺たちは時と場合によってはオークの里に侵攻するからな?」

「最後にはどうせ殺されるブー。だから今更嘘などつきはしないブー」

「じゃあ質問だ。さっきも言ったがなんでお前たちはコボルトの里を襲った? その理由を教えてくれ」

「どうせおではさっきの戦いの傷跡がふさがらないブー。だからもうすぐ死ぬブー。今更何も話さないブー」

「そうか。なら、傷が治ったら話すんだな?」

「? 何言ってるブー。そんな簡単に傷は塞がらないブー」

「ヒール」

「へ?」

「これで傷は治った。だから話せ」

「嘘ブー致命傷だと思ってたブーそれがこうも簡単に治るブー」

「約束だ。いいから話せ」

「わかったブー命も助けてもらったし、話すブー。それはおでたちオークの里が黒い獣に襲われたからだブー」

「黒い獣?」。

「おでたちは黒い獣に里を襲われて抵抗したんだブー。けど黒い魔物は数が多く素早くてとてもおでたちの手には負えなかったんだブー。それで里を追われたおでたちはお前たちの縄張りに逃げ込んできたブー。そこでコボルトと小競り合いが生じて、おでたちは生き残るためにコボルトの里を落とすことにしたんだブー」

ようするにオークたちは黒い獣との熾烈な縄張り争いに敗れて逃げてきたってことか。

「なるほどのう。それがコボルトの里を落とそうとした理由だったんですじゃ」

「そうだったでおじゃるか。オークは戯れに里を落とそうとしたわけではなく生き残るために里を落とそうとしたでおじゃるか」

 ゴブじいとおじゃるが神妙な顔で頷きあう。

「どうする? オークが遊びでコボルトの里を落とそうとしたわけじゃないことが分かった以上、もう争わなくていいんじゃないか?」

「幸い怪我人は出ましたが死者はでておりませんゆえ、遺恨などありませぬし、わしはそれでかまいませんですじゃ」

「おじゃるはどうだ?」

「まろは許せませぬが……ゴブじい殿と太一殿がそう言われるのであれば今回の一軒は麿の胸の内にとどめておくでおじゃる」

「ってことなんだがオークはどうするんだ?」

「本当に許してくれるのかブー」

「事情が事情じゃし、許すも許さぬもないですじゃ」

「そうでおじゃる」

「すまないブー恩に着るブー」

「そうと決まればやるべきことは一つだ」

「やるべきことブー?」

「ああ、まずは傷ついたオークたちの傷を治してやるっていってるんだ」

「本当かブーありがとうブー」

それから俺たちは傷ついたゴブリンにコボルトオークたちの傷の手当てを行った。


「にしても黒い獣か。ゴブじいとおじゃるは黒い獣のことは知らないのか?」

 ふとした疑問を俺がゴブじいとおじゃるに問いかける。

「そうですな。もう長いこと生きておりますが初めて聞きましたな。わしは黒い獣のことな何も知りませぬですじゃ」

「麿も黒い獣の話など初めて聞いたでおじゃる」

「オークはどうだ?」

「おでも里を襲われた時初めて見たんだブー。それまでは黒い獣なんか見たことも聞いたこともないブー」

「そうか」

だとすると黒い獣は、少なくともここ数十年間は姿を見せていなかったことになるってわけだ。ということはだ。黒い獣は最近生まれたってことになる。これは最近何か変わったことがないか聞いたほうがいいかもな。と思った俺はゴブじいたちに問いかけた。

「ここ最近変わったことはなかったか?」

「変わったことですかな。これと言ってないと思うですじゃ」

「麿たちも特に変わったことはなかったでおじゃる」

「おでたちもないブー」

「そうか」

けど黒い獣が最近現れたって言うなら、何か手掛かりになるようなものがあってもいいと思うんだけど。

「あっそういえばブー」

「どうした? どんな些細なことでもいい話してみてくれないか?」

「人間どもには朗報だと思うけどおでたちにはさして関係ないことブー」

「それでもいいから話してみてくれ」

「わかったブー。最近オークの里の近くに新しいダンジョンが発見されたブー」

「ダンジョン?」

「そうだブー人間どもにとってはお宝が湧き出すから朗報かもしれないけど、おでたちにとってはただのモンスターの沸く洞窟だブー」

「それならばゴブリンたちも話してたですじゃ」

「それなら麿も聞いたことがあるでおじゃる」

「一度そのダンジョンというやつ調べてみる価値があるかもしれないな」

「お宝に目がくらむとは太一殿も人間ですのじゃ」

「でおじゃる」

「ブー」

ダンジョンから出てくるお宝じゃなくて、俺が調べてみたほうがいいって言ったのはダンジョンから出てくるモンスターのことなんだがな。まぁいいか。

「で、オークはどうするんだ?」

「どうするとは何をですじゃ?」

「名付けだ」

「名付けってなんだブー」

「名付けはその者に力を与え進化させることですじゃ」

「みんなやってるブー?」

「ですじゃ」

「で、おじゃる」

「だから勝てなかったブー」

「反対する者がいなければ俺的にはやっておきたいんだが」

「なんでブー?」

「黒い獣対策だ」

「確かにオークたちですら手に余る黒い獣。我らだけで相手するのはちと厳しいですじゃ」

「確かにそうでおじゃる」

「パワーアップできるならしておきたいブー」

「ならやるか」

「お前の名前はブーだ」

「ブー了承したブー」

ブーが了承した瞬間俺の中の魔力が持っていかれる、

ブーの身体が一回り大きくなる。

オークソルジャーの誕生だ。

「ブー力が溢れてくるブー」

ブーの名付けが終わった俺は怪我の治療を終えた他のオークたちの名付けも行った。

それによって得た戦力がこれだ。

オークソルジャー十体オークガードナー十体である。

皆身体周りが一回り大きくなり身長はゆうに2メートルを超えていた。

やはりというべきか、思考が単純なオークたちは近接戦闘職だらけだった。

ゴブリンソルジャーやコボルトソルジャーでは近接戦闘職が力不足だったために、近接戦闘職(肉の壁)に体格のいいオークが加わったのはでかい。

それに中距離は小回りの利くゴブリンアーチャーやコボルトアーチャーがいるので必要なかったので丁度良かったと思う。

戦力にオークが加わったことにより、前衛オーク中衛ゴブリンアーチャーコボルトアーチャー連合部隊、後衛にゴブリンソーサラーコボルトソーサラーの戦闘部隊が誕生したのだった。

「でだ。これからすべきことは決まったな」

「決まったのですじゃ?」

「決まったのでおじゃる?」

「決まったのかブー?」

「ああ、黒い獣とダンジョンの調査だ」


町の冒険者ギルド二階ギルドマスターの執務室。

「ギルドマスター最近黒い獣の目撃情報が多発しています」

「黒い獣? そんな名前のモンスター聞いたことがないな」

「はい最近目撃され始めた新種のモンスターです」

「新種か? で、そいつは強いのか?」

「はい。黒い獣と出会った冒険者によれば、見た目はフォレストウルフにそっくりなのですが、毛並みが漆黒で、その瞳もフォレストウルフの緑色の瞳と違い。真っ黒なのだとか。しかも動きが素早く個体の戦闘力はオークよりも上だそうです」

「そんなモンスターがいたとはな」

「冒険者の皆に注意喚起しましょうか?」

「まぁ待て」

「はい」

「でだ。討伐ランクはどの程度なんだ?」

「多分Ⅽランクパーティで単体を撃破可能かと」

「そうか。で、生息区域は?」

「ゴブリンやコボルト、オークたちが住まう帰らずの森の中だと思われます」

「そうか。ならば状況がわかるまで冒険者たちに黒い獣の注意喚起と、Ⅽランクパーティ以下は帰らずの森への立ち入りを禁止する」

「はいかしこまりましたギルドマスター」

「まだ何かあるのか?」

「はい実は黒い獣と遭遇した冒険者によりますと、新しいダンジョンがオークたちの生息する地域で発見されました」

「なんだと⁉ 次から次へと厄介ごとが舞い込んでくるな。と待てよ。ということは」

「はい。ダンジョンが発見された地点と冒険者が黒い獣と遭遇した地点が同じです」

「なんだと⁉ 手つかずの新しいダンジョンが発見されたとなると、いくら黒い獣の注意喚起したとしても冒険者は皆ダンジョンに向かうぞ」

「はいどうしましょう」

「はぁ」

「ギルドマスター?」

「リーリエダンジョンと帰らずの森にⅭランク以上で構成された調査隊を送れっ今すぐにだ」

「はっはい」

返事を返すとギルドマスターの秘書であるリーリエはギルドの受付嬢へ指示を出すために急いで一階へと向かったのだった。

「にしても新しいモンスターに手つかずのダンジョンか。厄介ごとという物は一度に舞い込んでくるな」

ギルドマスターのエギルはため息をつくことしかできなかった。


「いいのかよジェイドッギルドから帰らずの森に入るにはⅭランク以上って注意喚起受けたはずだろ?」

「何言ってやがるクラマッ手つかずのダンジョンが発見されたんだぜ? こんな好機逃すわけにいくかっての」

「でもジェイドこの帰らずの森って、あのおっさんと一緒にゴブリンたちに襲われたとこだよ。大丈夫なの?」

「ああ大丈夫だって、あのおっさんがくたばったのだってただ単にあのおっさんの足が遅かったからだろ?」

まぁ俺が足を引っかけて転ばしてやったんだけどよ。

「そうだけどよ」

「あのおっさんやっぱ死んでるよね、、、そんなとこうちらが入っても大丈夫なのかな」

「何クリス。お前お化けとか信じてんの?」

「それは違うけど、さすがにちょっと後味悪いかなって」

「けっあのおっさんが死んだのはあのおっさんの運が悪かったからだ。俺らのせいじゃねぇ」

「ま、確かにジェイドの言う通りだぜ。冒険者やってりゃ運のない奴はみんな死んじまうもんだ」

「まぁそうだけど」

「でだ。あのおっさんに比べて俺らは運がいい。新ダンジョン最初に攻略すれば富も名声も思いのままだぜ」

「でもダンジョンの周りのオークたちのテリトリーには、新種のモンスター黒い獣が出るって話だぜ」

「何、どうせ発見したダンジョンを荒らされたくなくて発見者が嘘八百並べ立ててるだけだっての。んな噓八百に踊らされる俺ら風の牙じゃないっての。だからお前ら気にせず行くぞ」

「お、おう。きっとジェイドの言う通り、ダンジョン発見者のデマだデマ」

「だね。あたしもそう思うよ」

「なら先を越されないようにさっさと行くぞお前ら」

「おう」

「ええ」

こうしてジェイドたち風の牙は、ギルドの注意喚起を無視して新たに発見されたダンジョンへと向かっていった。


「ブーここがオークたちの縄張りか?」

「そうだブーこの先にオークの里があるブー」

そう俺たちは黒い獣とダンジョンを調査するために、ゴブリンの村やコボルトの里を守れる最低限の人数だけを残して、みんなでオークの里に向かっていた。


しばらくして着いたオークの里の家屋は木で出来ていて、家屋の中には保温のためか枯れ草が敷かれていた。

そして黒い獣に襲われた時の傷が癒えていないのか、家屋の中には何体ものオークたちが横になって寝かされていた。

オークの里の現状を見た俺はさっそく行動に移すことにした。

「とりあえず治療が先だな、ブー治療しながら里を回るから道案内を頼む」

「わかったブー任せるブー」

俺はブーの案内でオークの里に残されていた怪我をしたオークたちの治療へと向かった。

「おいっ大丈夫か?」

「にっ人間だっみんな逃げろ!」

 しかし横たわったオークたちは立つことすらままらなないのか、俺から逃げることができずにいた。

「ええい逃げるな!」

「人間だっ人間が弱ってるおでたちにとどめを刺しに来たぞ! みんな逃げろー!!」

家屋の中で寝かされていたオークたちが大声を出す。

「みんな落ち着くブー! この人間は悪い人間じゃないブー! みんなの傷を治しに来ただけだブー!」

「傷を? そんなことあるわけがない! 人間どもはオークを狩って肉にして食べるに決まってるぞ! 騙されるなみんな!」

オークの里の中を怒号が飛び交う。

こうなったら説得が無駄だと思った俺は有無を言わさず治療することにした。

「いいから大人しくしろっブーこいつらの体を押さえつけてくれっ」

「任せるブー」

「ヒール」

俺はブーに暴れまわるオークを押さえつけてもらいヒールをかけた。

ヒールをかけられたオークは黒い獣にやられたと思われる傷口はみるみる癒されていった。

「傷が傷が治った⁉」

「嘘だっそんなの幻だ! みんな気を許すな! 許したら食われるぞ!」

傷を治されたというのに今だ人間、いや俺のことを信じないオークたちが暴れ出し、拘束を振りほどく。

「くそっ暴れるなっ」

「うるさい人間めっよるな来るな近づくな!」

これではらちが明かないと思った俺は新しい魔法を試してみることにした。

「大地に住まう精霊たちよ。我が呼びかけに答え、彼の者に癒しの奇跡を起こしたまえ、エリアヒール!」

俺が力強い言葉を発すると共に優しい光が室内を満たしていく。

「なっなんだっ殺されるぅ!」

「この世の終わりだ!」

「もうおしまいだ!」

光に包まれたオークたちの怒号が飛び交う。

光が収まった後には傷を癒されたオークたちが暴れまわる光景が広がっていた。

「危ないブー」

俺は暴れまわるオークの一匹によって壁まで突き飛ばされて気を失っていった。


数時間後。目を覚ました俺は枯れ草の上に寝かされていた。そんな俺の顔を覗き込むように三匹が顔を近づけてくる。

「太一殿大丈夫ですじゃ?」

「太一殿大丈夫でおじゃる?」

「太一殿大丈夫ブー?」

三人の顔がのぞいてくる。

「ああ、何とかな」

俺は痛む肩にローヒールをかけながら半身を起き上がらせる。

「ふぅ太一殿が吹き飛ばされたと聞いて生きた心地がしませんでしたですじゃ」

「麿もおなじだったでおじゃる」

「ブーおでも心配した」

「ゴブじいおじゃるブー心配かけて悪かったな。もう大丈夫だ」

「にしてもみんなあんなに暴れるとは思ってなかったブー」

それだけ人間に対して恐怖心や警戒心が強かったってことだろうな。

まぁ日々狩られて食われていればそうなっても仕方ないことだ。

オークは肉だしな。にしてもサークルヒール使えたな。俺の居た世界のゲームの知識だったんだがな。ローヒールヒールサークルヒールハイヒールってな。

この分ならハイヒールが使える日も近そうだな。なんてこと考えてる暇はないか。俺は自分がやるべきことをやるために立ち上がる。

「どうしたんですかな太一殿?」

「いや残りのオークたちの治療に向かおうと思ってな」

「怪我をさせられたオークどもの治療など しないでいいでおじゃる!」

「そうですじゃ太一殿は甘すぎるのですじゃ!」

「そうだブー病み上がりに無理をするのはよくないブー」

「そうですぞ太一殿。太一殿は先ほど怪我をされたばかりそんなに無理をせずともよいのですじゃ」

「もう少し休んでおるでおじゃる」

「そういうわけにもいかないさ。そうだブー怪我人を一か所に集めることはできるか?」

「できるブー」

「ならやってくれ」

その時だ。ブーブーブーとオークの里に警戒音が鳴り響いたのは。

「今のはなんだ?」

「オークたちの警戒音だブー」

「警戒音?」

「多分オーク肉を求める冒険者か何かがオークの里の近くで交戦状態になったブー」

「黒い獣だ! 黒い獣が出たぞ! 人間の冒険者が襲われてるぞ!」

オークの里を守るために兵士の三分の二ほどを残した俺たちが様子を見に行って見ると、そこにいたのはオークたちや黒い獣と交戦を繰り広げていたジェイドたちの姿だった。


「くそがっなんだこいつのこの素早さは⁉」

「どうするジェイドこのままだとまずいぞ!」

「討伐ランクⅮのオークだけならともかく、これが討伐ランクⅭの黒い獣、いくらなんでも素早すぎるわよっ魔法が当たらないわ!」

「人間の冒険者たちだブーどうするブー助けるブー?」

「助けてやる義理などないのですじゃ」

「そうでおじゃるっきやつら人間の冒険者には幾度も煮え湯を飲まされておるでおじゃるっ助けてやる義理などないでおじゃる!」

「それもそうだブーどうせなら黒い獣と共倒れになったところを狙うブーだから仲間たちを下がらせるブー」

それだけ言うとブーはブブーと甲高い鳴き声を上げた。

オークたちは戦線離脱しろという合図だ。

ブーの合図を耳にしたオークたちは黒い獣と冒険者たちを残して、オークの里に向かって撤退を開始した。


「ジェイドックラマッオークたちが逃げていくわ!」

「おっ俺たち風の牙に恐れをなしたか!」

「所詮はⅮランクモンスターってわけだな。これで俺たちの敵は黒い獣一匹となったっ一気に行くぞっクリスックラマックリスはスモールファイヤーボールを鼻先に押し付けてやれっクラマは足止めだっとどめは俺が刺す!」

「わかったわ」

「おうよっ」

「スモールファイヤーボール!!」

拳大の炎の塊が黒い獣の鼻先狙って解き放たれる。

だが、スモールファイヤーボールがぶつかる寸前、黒い獣は身をひるがえし、スモールファイヤーボールを難なくかわす。

「クソがっやっぱ早え! だがジェイド!」

クラマがスモールファイヤーボールをかわした黒い獣の脇腹目掛けて槍の穂先を繰り出す。

しかし黒い獣はまるで流動物のような動きを見せ槍の穂先から柄に向き合って一気にすりあがると、そのままクラマの腕に喰らいつく。

「うあああああっっ!!」

クラマの絶叫が帰らずの森に響き渡る。

「クラマを放せえええ!!!」

ジェリドががむしゃらにロングソードを振り回しながら黒い獣に迫る。

だがそんな攻撃が黒い獣に通じるはずもなく、黒い獣は噛みついていたクラマの腕を放すと今度はジェイドの首筋目掛けて飛び掛かる。

とっさにジェイドはロングソードで首筋を守ろうとするが、今度はロングソードに黒い獣の爪がかかり力の押し合いにかわる。

「くそがぁっ⁉」

「ジェイド! このおっスモールファイヤーボール!!」

ジェイドから黒い獣を引きはがそうとクリスがスモールファイヤーボールを繰り出す。

もちろんそんな鈍重な攻撃が黒い獣に通じるはずもなく、黒い獣は身を翻してかわす。

そうなればどうなるか? クリスの放ったスモールファイヤーボールはものの見事にジェイドの顔面にぶち当たり周囲に火の粉を撒き散らしていた。

顔面が火に包まれて地面を転げまわるジェイド、腕をかまれ槍を取り落とし膝まづくクラマ。恐慌に陥り単調な攻撃しかできないクリス。誰が見てもジェイド率いるパーティの負けである。


問題はこれからどうするかだ。

一つ目はジェイドたちを助けに入る。

二つ目はジェイドたちを見捨てる。

三つめはジェイドたちもろとも黒い獣を葬る。

 まぁ選択肢なんて始めからないんだけどな。

どんなに気にくわない奴だとしても、今生きてる命は命だ。だから俺は見捨てられない。

「ゴブじいっおじゃるっブーッ」

「なんですじゃ」

「なんでおじゃる」

「なんだブー」

「みんなの力を貸してほしい」

「今さら水臭いですじゃ太一殿もはや我らの命は太一殿と共にですじゃ」

「そうでおじゃる。今さら何を言うでおじゃる。もはや麿と太一殿は一心同体の運命共同体でおじゃる」

「そうだブー。水臭いブー遠慮せず何でも命令してほしいブー」

「みんなありがとう。なら頼みがある。俺はジェイドたちを助けたい」

「ジェイドとは人間の冒険者たちのことですじゃ?」

「ああ、人間の冒険者だ。嫌か」

「太一殿の願いならば我ら否とは申しませぬのですじゃ。よいのおじゃるのブー殿ですじゃ?」

「太一殿の頼みとあらば人間の冒険者は嫌いでおじゃるが、見事助けてみせましょうでおじゃる」

「そうだブー任せるブー」

「みんなありがとう。じゃああの黒い獣をジェイドたちから引き離すのは任せる。俺はその間にジェイドたちの怪我を治す」

「わかったのですじゃゴブリンアーチャー狙いは黒い獣なのじゃ」

「コボルトアーチャーも続くのでおじゃる」

「おでたちオークソルジャーは黒い獣が人間たちに近づかないように護衛するブー」

俺たちのジェイドたち救出作戦が始まった。


サクッサクッ

「なんだ⁉」

矢が刺さる。

「なっゴブリンアーチャーにコボルトアーチャーだと⁉」

「まずいよジェイドッオークソルジャーが五体も!」

「もうだめだ。俺たちはここで終わりだ」

クラマが黒い獣に噛まれた腕を逆の腕で抑えながら、力なくその場に膝をつく。

だが、近づいてきたオークソルジャーたちはジェイドたちに危害を加えることなくまるでジェイドたちを守るかのように放射状に展開して、己の身を盾にして黒い獣から彼らを守っていた。

「今ですじゃッ太一殿!」

「おおっ」

木の陰に隠れていた俺はゴブじいの合図を受けてジェイドたちの前に姿を現す。

「なっなんでおっさんが⁉」

「ってゴブリンたちに囲まれてあの時死んだはずじゃあ⁉」

「何いったい何がどうなっていやがる⁉ お前たちおっさんってなんだ⁉」

スモールファイヤーボールで顔面を焼かれたジェイドが一人状況をつかめずに座り込んでいた。

「今治してやるからな」

俺は呪文詠唱を開始する。

「大地に住まう精霊たちよ。我が呼びかけに答え……」

だが、黒い獣が素早さで劣るオークソルジャーたちの間を縫って俺の呪文が完成する寸前、黒い獣がジェイドの首筋狙って飛び掛かってきた。

「ジェイド!」

「いやあああ!」

ジェイドのっ首に噛みつこうとした黒い獣の牙を俺は右腕で受け止めていた。

「うぐっ」

「太一殿!」

「気にするなっこのまま治す!」

残りの呪文の続きを口にする。

「彼の者に癒しの奇跡を起こしたまえ、エリア……ヒール!!」

温かな光が俺とジェイド。クラマ、クリス。黒い獣を包み込んだ。

光が収まった後には、顔の火傷が完全に癒されたジェイドと、これまた腕の傷が癒されたクラマ。そして、まるで神聖魔法で浄化されたかのように黒い獣の毛並みがグリーンに変わっている黒い獣の姿だった。

「フォレストウルフ……」

ことの顛末を見ていたクラマが呟く。

「フォレストウルフってあの森林の守り手とも言われる」

クリスが補足する。

まるで悪夢から覚ましてくれたお礼のように俺の腕をなめるフォレストウルフ。

「いったい何がどうなっていやがる」

いまだ火傷で目が明かないと思っているジェイドがまくし立てる。

「もう目を開けても大丈夫だぞ」

俺が告げる。

「何言ってやがるっ俺はクリスのスモールファイヤーボールで目を焼かれて……」

「もう大丈夫だ。治したからな」

「治したって……」

「ジェイド、ジェイドの怪我はおっさんが治してくれたの」

「俺の怪我もだぜ」

「はっ何言ってやがるお前ら」

「いいから目開いてみろよ」

「大丈夫だからジェイド」

「わかった。お前らがそこまで言うなら」

ようやく目を開けるジェイド。

「見える俺の目が見えるよ」

両手をわななかせながら喜びをかみしめるジェイド。

「さてとじゃいくつかお前たちに質問がある。お前たちはここへ何しに来たんだ?」

「俺たちはおっさんを探しに……」

「嘘はいい」

「う」

 言葉に詰まるジェイド。

「実はダンジョンが発見されてその探索に来た」

「冒険者ギルドに黒い獣の注意喚起はされなかったのか?」

「言われたけど未発見のダンジョンを見つけた奴のデマかと思って」

「そうしたら黒い獣とオークに囲まれたと」

「ああ」

「そうか」

「お前たちは帰れ」

「なっ俺たちはダンジョンアタックをしにいく」

「今のままで本当に行って成功すると思っているのか? ダンジョンの周りには黒い獣がいるぞ」

「黒い獣はおっさんが倒したじゃないか」

クラマが言う。

「黒い獣が一匹とは限らない」

「けど」

「ジェイド」

「帰ろうよ」

「俺もクリスの意見に賛成だ。俺たちはおっさんが来てくれなかったら確実に死んでた」

「でも」

「回復役もなしに未発見のダンジョンアタックなんて無謀すぎる」

「ならおっさんがついてきてくれればいい」

「は?」

「そうすれば回復役はばっちりだし」

「本当に俺がお前たちに付いていくと思っているのか?」

「う」

「ジェイドさすがにそれは」

「虫が良すぎる」

「わかった今回のダンジョンアタックはやめる」

「太一殿話は終わりましたか?」

「なっ討伐難易度Eランクのゴブリンアーチャー⁉」

とっさに立ち上がりロングソードを手に身構えるジェイド。

「助けてもらっておいてその態度、本当に失礼な奴でおじゃる」

「同じく討伐難易度Eランクのコボルトアーチャーまで⁉」

「おでたちのことも忘れてもらっては困るブー」

「な⁉ 討伐難易度Ⅽランクのオークソルジャーまで⁉ 何が一体どうなっていやがる⁉」

「そう身構えなくていいジェイド。みんな俺の仲間だ」

「な⁉ おっさんいったいあんた何してやがんだよ」

「さぁ」

「さぁって」

「気づいたらいつの間にかこうなってた」

右手で後ろ手に頭をかきながら、照れ笑いする俺。

「はぁいきなり死んだと思ったおっさんが俺のことを助けられるような凄腕の治癒士になってるわ。本来敵対するはずのモンスターどもを従えてるわ。色々ありすぎて頭がおいつかねぇ」

「少し訂正するが俺はモンスターを従えてねぇぞ、みんな俺の仲間なだけだ」

「それがおかしいってんだよ。本来討伐対象と仲間になったりしないっての」

「そうなのか? こいつらとは普通にしゃべれるし、意思疎通もできるぞ? むしろ討伐対象としか見てない冒険者たちのほうがおかしいんじゃないか?」

「ああもうおっさんと話すと冒険者の常識が崩れて頭がおかしくなる」

頭を抱え込むジェイド。

「とにかくだジェイド。ここは危険だからお前たちは今すぐ帰れ」

「おっさんはどうすんだよ?」

「俺は仲間たちと黒い獣の調査だな」

ここで俺がダンジョンの調査をするというと付いてきそうだからな。そのことは伏せておくことにした。

 ジェイドはジトッとした目で俺のそばにいるゴブじいたちに視線を向けて、何か言いかけるも言葉を飲み込む。

「わかったせいぜい気をつけろよ」

「ああ」

こうして俺はジェイドたちと別れたのだった。

「にしてもまさか黒い獣の正体がフォレストウルフだとは思いませんでしたな。彼らは好戦的ではありますが無用な狩りはしないはずなんですじゃ」

「そのとおりでおじゃる」

「ブー」

「ということは、フォレストウルフが狂暴化したのは、彼らが黒く変色していたことに関係がありそうだな」

「ですじゃ」

「でおじゃる」

「ブー」

「わからなければ直接聞いてみればいい。というわけでだ。フォレストウルフ。どうしてお前は黒い獣になっていたんだ?」

エリアヒールで黒い状態から治して、それから妙に俺になついているフォレストウルフに聞いてみることにした。

「太一殿一つ問題が」

「なんだゴブじい?」

「フォレストウルフは我らのようにしゃべれませぬ」

「ならどうしたら」

「名付けをして進化させてみたらどうでおじゃる」

「進化でしゃべれるようになるのか?」

「それは分かりませぬが、少なくとも今よりは意思疎通ができるようになると思うでおじゃる」

「わかった。なら試してみるよおじゃる。お前の名前はレストだ」

「クゥン」

フォレストウルフが了承すると俺の身体から魔力が抜かれていく感触があった。

「レスト。俺の言っていることがわかるか?」

俺はさっそくレストと意思疎通できるか試してみた。

「クゥン」(わたしわかるあなたお名前は?)

「俺の名前は太一だ」

(クゥンでは太一さんですね。わたしの名前はレストです。以後よろしくお願いします)

「どうやらしゃべれるようにはなりませんでしたが、太一殿と念話が使えるようになったみたいですじゃ」

「念話か……」

「クゥン」(太一遊ぼ遊ぼ)

「おーよしよしレストは可愛いなぁ」

この世界に来る前から動物好きな俺は、遊んで遊んでとくるレストにめちゃデレデレである。

 そのため両腕でわしわしと頭を撫でてやる。

「太一殿は動物がお好きなのですじゃ」

「ああ、犬とか猫とか好きだぞ」

「犬? 猫? というのはよくわかりませんがレストのようにモフモフしているのですじゃ?」

「ああ」

「モフモフですかのう麿も好きでおじゃる」

 おじゃるがレストに手を伸ばそうとするがレストはプイっとそっぽを向いてしまう。

「どうやらおじゃる殿はレストに気に入られていない様子ですじゃ」

「実は麿はモフモフに興味ないでおじゃる」

誰がどう見ても強がりだとわかることを言うおじゃる。

おじゃるの言動に、みんなで笑いあっていると。

ふと思い出した。そうだレストなんでお前は黒い獣になっていたんだ?

「クゥン」(巣に居たら黒い靄があふれ出してきて飲まれた。気が付いたら太一に助けられてた)

「どうやらフォレストウルフの黒い獣化には、黒い靄が原因の様ですじゃ」

「みたいだな」

「それはそうとそろそろ里に帰りたいブー怪我してるみんなが心配ブー」

「そうだった。まだオークたちの治療の途中だったな」

「そうだブーさっそく戻って治療してやってほしいブー」

レストの名付けを終えた俺たちはいったんオークの里へ帰ることにした。

理由は簡単だ。ブーの言った通り、里に残っているオークたちの治療がまだ終わっていないことを思い出したからだ。

その時だブーブーブーと森の中に警戒音が鳴ったのは。

「オークたちの警戒音だ」

「オークの里のほうからだブー」

「オークの里にはまだ怪我人がいたはずだっ」

「そうだブー何人か手勢を残してきたけど心配だブー」

「では急ぎ戻らないとなりませぬですじゃ」

「そうでおじゃるオークは仇敵とはいえ、今は共に共同戦線をしくみ。放っておくわけにはいかぬでおじゃる」

「急ぐのですじゃ」

「急ぐでおじゃる」

「急ぐブー」

俺たちはブーを先頭にオークの里へと走った。


オークの里に俺たちがたどり着いたころオークの里は熾烈な戦場と化していた。

「黒い獣の群れだ」

「すごい数なのですじゃ」

「すごい数でおじゃる」

「物凄いブー」

「二十以上いるぞ」

惚けてる場合じゃない。

「みんなっオークたちを援護するぞっゴブじいとおじゃるはゴブリンコボルトアーチャーたちを率いて里の外から弓でオークたちを援護っ黒い獣たちをけん制するんだっブーとオークたちは俺を守りながら黒い獣を一か所に集めてくれっそこを俺がエリアヒールで浄化する!」

「わかったですじゃ!」

「任せるでおじゃる!」

「行ってくるブー!」


「救援だっ救援が来たぞ! ブーの旦那たちだ!」

「ブー」

ブーが腕を振り回しながら黒い獣数頭と交戦中の傷だらけオークソルジャーたちの援護に入る。

「大丈夫かブー」

「ブーの旦那すまねぇこいつら素早くてっ」

「確かにこいつらに速さだと勝てないブー。だからこっちは数で押し切るブー。ブーが正面から切り込むからお前たちは後ろに回り込むブー」

「わかったぜブーの旦那」

 他のオークたちも頷く。

「それじゃ行くブー!」

ブーが正面から腕を振り回し、けん制する。

そこに黒い獣の背後から石を装備したオークたちが殴りにかかる。当然殴られそうになった黒い獣たちは逃げ出そうとするが、そこへゴブリンアーチャーとコボルトアーチャーの弓矢が逃げ道を塞ぐように降り注ぐ。

ブーとオークたちゴブリンコボルトアーチャーたちで黒い獣の足を止めた。

「太一殿っ今だブー!」

「わかったっ大地に住まう精霊たちよ。我が呼びかけに答え、彼の者に癒しの奇跡を起こしたまえ、エリアヒール!!」

傷だらけのオークソルジャーたちと黒い獣たちを一斉に優しい光が包み込む。

するとオークソルジャーたちの傷は癒え、黒い獣はその毛並みをグリーンへと変えた。

そうして俺たちは傷ついたオークたちと黒い獣化が解けて俺たちに協力的になったフォレストウルフたち共に、オークたちの傷を癒しながら黒い獣たちを浄化して回った。

小一時間後には俺は、

「これで最後だエリアヒール」

黒い獣、最後の一頭を浄化したのだった。

「おでたちの勝利だブー!」

 ブーが勝ち名乗りを上げると同調するように、オークたちやゴブリンコボルトたちからもかちどきが上がったのだが、それをかき消すようにして帰らずの森中に響き渡るような咆哮が上がった。

「ヴオオオオオオッッーー!!!」

「なんだ⁉ 今の咆哮は⁉」

「太一殿っ森のほうからですじゃ!」

「なんでおじゃる⁉」

「すごい咆哮だったブー!」

「クゥン」(あの声は⁉ 族長の咆哮だよ)

「族長だって?」

「クゥン」(うん。フォレストウルフ族の里を収めていたフォレストウルフの族長の咆哮だよ)

「レストその族長ってのは強いのか?」

「クゥン」(うん。僕たちフォレストウルフ族の中でもみんなから最強って呼ばれてる)

「そうか。で、攻めてきそうか」

「クゥン」(多分)

「もう一つ聞きたいんだがレスト。その族長ってのも黒い獣化してるのか?」

「クゥン」(それはわからない。ただ族長はみんなを守ろうとするはずだから多分)

「よしわかったっみんなっこれからフォレストウルフの族長が攻めてくるっ気合を入れろ!」

「わかったのですじゃ!」

「麿に任せるでおじゃる!」

「絶対に負けないブー!」

一瞬本当に一瞬だった俺の横でおじゃるの胴体が斬り裂かれたのは。

「おじゃる! ヒール!」

すぐさまヒールをかける。

「たっ助かったでおじゃる太一殿っ麿、死ぬところだったでおじゃる」

「にしても早すぎるな」

俺はおじゃるを切り裂きオークの里の中心付近に姿を現した巨大な黒い獣。フォレストウルフ族長の身体能力に冷や汗をかきながら呟いた。

「オークガードナーのみんなは木の盾を前面にっオークガードナーで守備を固めるっ」

「わかった」

「よしきた」

「任せろ」

端的に答えるオークガードナーたち。

「オークガードナーを盾にゴブリンアーチャーコボルトアーチャーは一斉射撃! ゴブリンソーサラーとコボルトソーサラーは遠距離攻撃っオークソルジャーは待機だ!」

「わかったですじゃ!」

「麿に任せるでおじゃる!」

「ブー待機するブー」

 ゴブリンソーサラーとコボルトソーサラーはこくり無言で頷く。

俺たちの一斉攻撃が始まった。

しかし魔法はかわされ弓矢は漆黒の毛並みに弾かれてしまう。

遠距離攻撃は無意味か。

「ゴブじいおじゃる率いるアーチャー部隊は足を狙え!」

「わかったですじゃ」

「任せるでおじゃる」

 一斉射撃が足に向かう。

しかしことごとくかわされてしまう。

やっぱり早すぎる。このままだとまずい。

そう俺が考えている間にもオークガードナーたちは巨大な黒い獣に吹き飛ばされていた。

「ブー何とか奴の足を止められないか!」

「ブーやってみるブーみんな行くブー!」

だがオークの歩みでは巨大な黒い獣に肉薄することすらできずにすべての攻撃をかわされ、または漆黒の毛並みに阻まれてしまっていた。

「くそっ近づいてもダメなのかよ⁉」

どうする? どうする? どうする? どうすればいい⁉ 俺の頭は蒸気機関車のように発熱し回転する。

だが所詮はおっさんの脳みそいい案が何も浮かばない。今までがうまくいきすぎていたんだ。俺はここで終わりだ。半ばあきらめかけていた時。

ブーが巨大な黒い獣によって噛みつかれたのは。

「ブー今助けてやるからな!」

俺が叫び声を上げるもブーは、

黒い獣の鼻先を両腕で抑える。

「やったブー! もう離さないブー!」

「ブー! 今治してやるからな!」

「そんなことより今のうちにやるブー!」

「ブー」

「太一殿ブー殿は決死の覚悟で道を切り開いてくれたのですじゃ!」

「そうでおじゃるっ太一殿今がチャンスでおじゃる!」

ブーが決死の覚悟で作ってくれた好機。逃すわけにはいかない! 

「みんな黒い獣に組付け!!」

「うおおおおおおっっ!!」

みんなが役に立たない武具を放り捨てて黒い獣に組み付いていく。

あるものは弾かれ、あるものは蹴られ、あるものは組み付くことに成功する。

そうして巨大な黒い獣の動きを封じにかかる。

「長くは持たないブー太一殿急ぐブー!」

「わかったっ大地に住まう精霊たちよ。我が呼びかけに答え、彼の者に癒しの奇跡を起こしたまえ。エリアヒール」

俺はブーたちの頑張りに答えるために、巨大な黒い獣に対してエリアヒールを発動させた。

「これで終わりブー」

しかし巨大な黒い獣の漆黒の毛並みは一割ほどがグリーンに変わるだけで、っ黒い獣そのもののフォルムは全く変わることはなかった。

「なっエリアヒールがきかない⁉」

「太一殿もう一度ですじゃ!」

 黒い獣にしがみつくゴブじいが叫ぶ。

それに続いておじゃるも声を上げる。

「太一殿諦めるでないでおじゃる!」

「よしもう一度だっ大地に住まう精霊たちよ。我が呼びかけに答え、彼の者に癒しの奇跡を起こしたまえ、エリアヒール!」

 しかし俺の放つエリアヒールでは巨大な黒い獣の毛並みをグリーンに変えることができなかった。

「これじゃ駄目なのか? 俺じゃ駄目なのか? くそう」

地面を力いっぱい叩く。

「太一殿諦めてはだめですじゃ!」

「太一殿諦めちゃだめでおじゃる!」

「太一殿頑張るブー」

ええいわかったよ。俺にはゴブじいおじゃるブーそれ以外にもゴブリンやコボルトやオークたちすべての命がかかっている。

 エリアヒールより上のヒール。ローヒールヒールエリアヒールハイヒール。そうだハイヒールだ、それに賭けるしかねぇ!

そう考えた俺は一抹の望みに賭けることにした。

「大地に住まう精霊たちよ。我が呼びかけに答え、彼の者に癒しの奇跡を起こしたまえ、ハイヒール!!」

俺の放ったハイヒールは巨大な黒い獣を光の柱で包み込んだ。グリーンの毛並みと黒い毛並みがせめぎ合う。

「クソッこれでも駄目なのか⁉」

 俺がそう思っていると巨大な黒い獣は、体を震わせて噛みついていたブーを吹き飛ばし、体に張り付いていたゴブじいたちを引きはがす。

「クォーンッ!」

一声鳴くと跳躍して、帰らずの森の中へと消えていった。

こうしてオークたちの里の危機は去ったのであった。


「ヒール。無事かブー」

俺は巨大な黒い獣に噛みつかれその口から吹き飛ばされたブーに駆け寄りながらヒールをかける。

「ブー助かったブー太一殿ありがとうブー」

「何気にするな。ブーは大切な仲間だからな。それと怪我した奴らはみんな集まってくれっエリアヒールで一気に治すからっ」

俺は少し声を張り上げる。

「わかったですじゃ。怪我したゴブリンはみんなここへ集まるですじゃ」

「わかったでおじゃる。怪我したコボルトも集まるでおじゃる」

「ブー怪我したオークも集まるブー」

しばらくすると俺やゴブじいおじゃるやブーの指示に従って、巨大な黒い獣や多数の黒い獣たちと戦い傷ついたゴブリンやコボルトオークたちが集まってくる。

これだけ密集してくれたならエリアヒールを三回ぐらいかければ皆の傷を癒すことはできるだろう。と思った俺はさっそくエリアヒールを発動させる。

「じゃあ行くぞっ大地に住まう精霊たちよ。我が呼びかけに答え、彼の者に癒しの奇跡を起こしたまえ、エリアヒール!」

といった感じにまずはゴブリンたちからエリアヒールをかけて傷を癒し、次にコボルト。最後に一番がたいもでかく体力もあるオークたちにかけてみんなの傷を癒したのだった。

あと傷を治していないのは、黒い獣化の解けたフォレストウルフたちだけである。

俺はレストを呼んで、フォレストウルフたちに一か所に集まるように頼んだ。

「レスト、怪我をしているフォレストウルフたちを一か所に集めてくれ」

「クゥン」(わかったよ太一)

「ワォーンッ」

レストが一声吠えてフォレストウルフたちを一か所に集めようとする。

するとフォレストウルフたちは、先ほどまで好戦的だったのがウソだったかのように、レストの指示に従ってくれる。

「よしっこれでさっきの戦闘で傷ついた奴らは最後だな」

俺はそう言うと、レストの指示で集まったフォレストウルフたちにエリアヒールをかけて傷を癒したのだった。

「あとはもともと怪我をしていたオークたちを治せばいいな。ブーもともと怪我をしていたオークたちの怪我を治しに行きたいんだが道案内頼めるか?」

 オークたちと談笑していたブーが返事をする。

「わかったブー任せるブー」

俺はブーに連れられて元々怪我をしていたオークたちの治療をしに、オークの住処へと向かった。

すると最初であったころのような警戒感が薄れたのかとてもフレンドリーに対応された。

「オーク族は戦士には敬意を払う」だそうだ。

まぁもっとも彼らの態度に大きな影響を与えたのは、人間族である俺が、先ほどの戦闘で傷ついたオークたちを分け隔てなく治癒して回ったことが大きく影響しているようだったが。

ようはっ戦いの中で俺とオークたちに信頼関係が生まれたということだ。

これでオークの里での俺の役目は終わった。

あとは名付けをどうするかだ。

「ブーオークたちの名付けどうすればいいと思う?」

「ブーオーク族は戦士の一族ブー。強くなれるならみんな喜んで名付けを受け入れると思うブー」

「そうか」

ならこれから俺のやるべきことは決まっている。オークたちの名付けとフォレストウルフたちの処遇についてだ。オークたちの名付けは問題なくできるとして問題なのは今回争ったフォレストウルフたちのほうだろう。さすがにこの規模の戦闘をした後だ。みんながフォレストウルフたちを許すとは思えない。まぁそうだとしても俺のやるべきことは変わらないけどな。

「じゃあブーさっそくオークたちの名付けをしちまいたいんだがいいか?」

「わかったブー。みんなよく聞くブーみんなの傷を治してくれた太一殿がオーク族みんなの名付けをしたいと言っているブー」

 ざわつくオークたち。

「名付け?」

「名付けとはなんだ?」

「太一殿はおでたちに何をしようとしているんだ?」

「みんなよく聞くブー。名付けとは太一殿の力の一部をもらい受け、さらなる力を得ることだブー」

「さらなる力?」

「そんなことができるのか?」

「だがブー殿の言うことだっ本当なのだろう」

「かくいうブーも太一殿に名付けをしてもらってこの力。オークソルジャーの力を得たブー。みんなもおでと一緒に強くなるブー」

ブーが言うと大体の者は皆信用したのかオークたちの中から何名かが俺の前に進み出てくる。

「おでブー殿みたく強くなりたい。太一殿、名付けを頼む」

「おでも」

「おでも」

と言うオークたち。

「わかったお前の名前はブーブーだ」

「わかった。俺の名はブーブーだ了承した」

俺が名付けを行うとブーブーが了承する。

するとオークが名付けを了承したと同時に、俺の中から魔力が抜けていくのを感じた。それと同時にオークの身体に変化が訪れる。

少し脂身のました体は筋肉質へと変わり、背も少し高くなる。

オークソルジャーの誕生だ。

これにより俺の名付けで力を増すことができるとわかったオークたちが、俺のもとへと殺到した。

そのため俺はオーク一人一人に名付けを行っていったのだった。


これでオークたちの名付けは終わった。

あとの問題は怪我を治したフォレストウルフたちの処遇についてだ。

「なぁみんな聞いてくれフォレストウルフたちにも名付けをしようと思うんだがいいだろうか?」

俺はみんなに問いただした。

「さっきまで戦っていたフォレストウルフたちにですじゃ?」

「ゴブじいは反対か?」

「いえわしは反対はしませぬですじゃ」

「麿も反対しませぬぞ」

「おでは構わないと思うブー。けど仲間たちがどういうかわからないブー」

「オークたちはどう思う?」

「おでたちは反対だっ」

「さっきまで敵だった奴らだっおでも反対だ」

「おではどちらでもいいぞ」

先の戦闘に参加していた大半のオークたちが反対に回った。

俺はオークたちを説得することにした。

「大半の者は反対というけどそれはフォレストウルフが敵だったらの話だろ?」

「そうだ!」

「奴らは敵だ!」

「おでたちの仲間を傷つけた!」

「クゥン」(太一)心配そうに俺のズボンをかむレスト。

わかってる。

「けど彼らがおかしくなっていたのは皆知っているだろう?」

「おかしくなっていた?」

「そうだ彼らフォレストウルフたちが好戦的になっていたのは、みんな黒い靄によるものだ。それを誰もせめることはできないと俺は思う」

「うぐっそれはそうだが……」

「だからみんなフォレストウルフたちのことを許してやってほしいと思う! この通りだっ頼む!」

俺はオークたちに頭を下げる。

「太一殿……」

「けど……」

「なぁ……」

「フォレストウルフたちにやられたみんなの傷は癒えたっだからもう遺恨を残す必要はないんだ! なっオークのみんな頼む!」

「太一殿がそこまで言うのでしたら……」

「それに太一殿には怪我を治してもらった恩があるブーブー」

「みんなここは寛大な心でフォレストウルフたちを許そうじゃないか?」

「ブーおでは許してもいいと思う」

「ブーさん……」

「ブーの旦那……」

「ブー殿……」

ブーの後押しもあり、ようやくオークたちはフォレストウルフたちを許すことにした。

「わかった。おでたちフォレストウルフたちを許す!」

「ブーさんの頼みならおでも許す」

「ブーの旦那がそう言うならおでもだ!」

こうしてフォレストウルフたちと交戦して怪我を負っていたオークたちが、みんなフォレストウルフたちを許すことになった。

「よし決まりだっこれからフォレストウルフたちの名付けを行う!」

俺はオークたちに堂々と宣言した。

俺は一頭のフォレストウルフの前に進み出て名付けを行った。

「お前の名前はフォレスだっ」

「クォーン」(我の名はフォレス了承した)

すると俺の体の中から魔力が流れ出てフォレスに流れ込んでいった。

俺の魔力が流れ込んだフォレストウルフは、一回り大きくなりその魔力も増した。

そうして俺はこの場にいるフォレストウルフに次々に名付けを行っていったのだった。

もちろんフォレストウルフたちに名付けを行った俺が、魔力枯渇に陥って数日間の眠りについたのは言うまでもない。


「俺はこれから修行をしようと思う」

寝起き早々に俺は、ゴブじい。おじゃる。ブー。レストたちの前でそう宣言した。

「修行ですじゃ?」

「修行でおじゃるか?」

「修行ブー?」

「クゥン」(修行って何?)

「多分俺の使ったハイヒールは完璧じゃなかったと思う。だから巨大な黒い獣を浄化してやれなかった。だからもっと鍛えてハイヒールを完璧なものにしたい」

「確かにあの巨大な黒い獣とまた相対する日のためにも、わしらにも修業は必要なのかもしれませんですじゃ」

「そうかもしれぬでおじゃる」

「強くなるブー」

「クゥン」(強くなる)

「そのために俺は一度ゴブリンの村に帰ってホブゴブリンの怪我を治そうと思う」

「確かにあの部位欠損を治せば完璧なハイヒールにもなるし、もしあの気難しいホブゴブリンを仲間にできれば戦力アップにつながりますですじゃ」

ゴブじいが納得するように頷いた。

「太一殿が修行をしている間、麿たちはどうするのでおじゃる」

「麿はわしとフォレストウルフたちと来るのですじゃ。フォレストウルフの速度に馴れるために訓練と、的あての訓練をするのですじゃ」

「ブーも里で鍛えるブー。十人組手だブー」

「じゃあみんなそれぞれのやり方で強くなろう」

「ですじゃ」

「でおじゃる」

「ブー」

「クゥン」

俺はゴブリンの村を目指して歩いていった。

するとレストが俺の後をついてくる。

「レスト一緒に来るのか?」

「クゥン」(乗って乗って)

俺はレストにまたがる。レストの乗り心地はモフモフだった。

俺がレストの毛に捕まりレストに声をかける。

「行くぞレストッ」

「クゥンッ」(ゴブリンの村へ向けて出発~)


「ここいらでよいのですじゃ」

ゴブじいが木々がない草原地帯で歩みを止めた。

「このあたりで修行するでおじゃるか?」

「そうですじゃ。この辺で的あての訓練をしようと思うてるのですじゃ」

「どうやって訓練するでおじゃる?」

「それはもちろん矢じりを取った弓矢を使って、フォレストウルフたちを狙うのですじゃ」

「フォレストウルフを?」

「そうじゃ。そうすればわしらは弓矢の命中精度を。フォレストウルフたちは弓矢から逃げる訓練を同時にできるのですじゃ」

「なるほどわかったでおじゃる」

「フォレストウルフたちもわかったのですじゃ?」

「ワォン」(わかったのだ)

「では参りますですじゃ。フォレストウルフたちも準備はよいのですじゃ?」

「ワォン」(オーケーなのだ)

返事を返すと共にフォレストウルフたちはバラバラに走り出す。

「では行きますぞ」

言うが早いかゴブじいは、背中につっていた矢筒から先端の矢じりを取り除いた弓矢で走り回るフォレストウルフたちの中の一頭を狙って射出する。

ゴブじいの放った矢はものの見事にフォレストウルフの眉間にぶち当たろうとしたのだが、フォレストウルフが軽く身をひねっただけでかわされてしまう。

「やはり素早い。わしの弓では当たりませぬですじゃ」

「今度は麿がやるでおじゃる」

そういうとおじゃるは弓の弦に指をかけて矢をつがえると、矢を引き絞り解き放つ。

フォレストウルフにかわされないように胴体を狙って放った矢は、これまた簡単にかわされてしまう。

「うむぅさすがに素早いのでおじゃる」

「今度はわしの番ですじゃ」

ゴブじいとおじゃるが交代で何度目かの射撃をしていたのだが、いかんせん一発の矢すら、フォレストウルフにかすりもしなかった。

「やはり早すぎるのですじゃ」

「そうでおじゃるな。麿たちの放った矢よりも下手をすればフォレストウルフのほうが早いのでおじゃる。これでは当たるものも当たらないのでおじゃる」

「これは根本的にどうにかしなければならないですじゃ」

ゴブじいが悩み始める。

矢の飛来がなくなったのでフォレスが代表して様子を見に来た、

そこへおじゃるがフォレスに声をかける。

「フォレス殿。少し頼みがあるでおじゃる」

「クォーン」(なんだ)

「その麿を背中に乗せてはもらえぬでおじゃるか?」

「クォーン」(なぜだ?)

「麿太一殿がレストに乗っていくのを見たでおじゃる。麿も一度でいいからフォレストウルフ殿に乗ってみたいのでおじゃる」

フォレスは少しだけ眉間にしわを寄せ、少し考えたそぶりを見せたがその場で背をかがめてくれる。

「クォーン」(まぁいいだろう)

「ほんとでおじゃるか?」

「クォーン」(本当だ)

「では失礼するでおじゃる」

麿が本当にうれしそうにフォレスに跨る。

するとフォレスがおじゃるを乗せたまま立ち上がる。

「うほっ高いでおじゃる!」

これでもかというぐらいに、おじゃるのテンションが上がる。

「少し歩いてもらってもよいでおじゃるか?」

「クォーン」(まぁいいだろう)

「あははっ楽しいでおじゃる! もっとスピードを出すでおじゃる」

「クォーン」(ではしっかり捕まっておれよ)

「はいでおじゃる!」

フォレスの背でまるで童のようにはしゃぐおじゃる。

「ちょっちょっと早すぎるでおじゃる⁉」

「クォーン」(この程度走るうちにも入らぬ)

 速度をどんどん上げるフォレス。

「まっまっまつでおじゃる! もうこれ以上は麿が落ちるでおじゃるぅ⁉」

で、ものの見事にフォレスの背から振り落とされたおじゃるだった。

「おじゃる殿。な~にをやっとるんですじゃ」

「ゴブじい殿もやってみるといいでおじゃるっとても早くて楽しいでおじゃるよっ」

「楽しい。ってのう。今はそんなことを言っている場合では……」

おじゃるの言葉で何か思いついたのか、ゴブじいが真剣なまなざしをおじゃるとフォレスに向ける。

「そうじゃその手があったわいっこれならいけるっいけますのですじゃ!」

ゴブじいが何かを思いついたのかポンッと手を打って喜びの声を上げたのだった。

そうしてゴブじいのアイデアを実戦で役立てる特訓を開始したのだった。


「もういっちょこいブー!」

 目の前で両掌をパンッと叩き気合の咆哮を上げる。

だが、先ほどまでブーと組手(相撲)をしていて、今地面に大の字で倒れ込んでいた二体のオークが弱音を吐露する。

「ブーさん強すぎるブ」

「そうだブ。おでたちじゃ勝てないブ」

「みんなだらしないブー」

「そうだブーブー。ブーの旦那、次はおでが相手だブーブー」

「ブーブーか。こいだブー」

「ウオオオオオッだブーブー」

「オアアアアアッだブー」

二頭のオークが力強く組み合った。

「ブー中々やるブー」

「おで力比べではブーさんには負けないブーブー」

二頭のオークの力は拮抗しているのかブーが押せばブーブーが押し返す。

一進一退の攻防が繰り広げられていた。

「ブー本当に強くなったブー」

「おでもブーさんみたいになるために日々努力してるブーブー」

「だがまだまだ負けるわけにはいかないブー!」

ブーが気合を入れてブーブーのズボン(まわし)を力強くひきつけ投げようとするがブーブーも投げられまいと両足に力を籠める。

「今だブー!」

ブーが両足に力を込めているブーブーの足をひっかける。バランスを崩すブーブーそこをブーが投げて勝負はブーの勝利で決まった。

「ブーブー中々やるブー」

「負けたブーブーさすがブーの旦那だブーブーこれならだれにも負けないブーブー」

「組手(相撲)ならそうだブー。けどあの黒い獣には歯が立たなかったブー」

ブーが自分の無力を噛み締める。

「ブーやっぱり素手だと限界があるブー」

「あの黒い獣をやるなら槍を作ったらいいと思うブーブー」

「ブーブー確かに体格差を考えればブーブーの言う通り剣より槍だブーみんな槍を作るブー」

 武器を持つことを決めたブーとオークたちはみんなで木の槍を作り始めたのだった。


修行をすると決めてレストと一緒にゴブリンの村についた俺は、さっそく木のうろの一番奥にいた片腕だけのホブゴブリンのもとへと駆け寄っていった。

「よ、久しぶり」

「なんだお前か」

「腕を治しに来た」

「この前何度やっても治らなかっただろう? もう諦めたらどうなんだ? 」

「あの時の俺とは違う。まぁやらせてみてくれよ」

「ふぅ好きにしろ」

「よしっいくぞっハイヒール」

だが発動しない。

「やっぱり無詠唱だとだめか。なら、詠唱するまでだ。大地に住まう精霊たちよ。我が呼びかけに答え、彼の者に癒しの奇跡を起こしたまえ、ハイヒール!!」

光の柱がホブゴブリンを包み込む。

しかし光の収まった後には先ほどの状態と同じ片腕のホブゴブリンがいるだけだった。

「失敗か、もう一度……」

「もうやめろ。どうせ無理だ」

「ダメだ出来るまでやるっ大地に住まう精霊たちよ。我が呼びかけに答え、彼の者に癒しの奇跡を起こしたまえ、ハイヒール!!」

 光の柱がホブゴブリンを包み込む。しかし結果は同じだった。

「どうしてだっなんで腕が生えてこない!」

俺は地団太を踏んで憤る。

「だから無理だと言った。いい加減あきらめがついたか?」

「俺は諦めない」

それだけ言うと俺はホブゴブリンのもとを後にした。

「なぁレスト。どうして俺はハイヒールがマスターできないんだろうな?」

「クゥン」(太一焦りすぎだと思う)

「そうかなぁ」

「クゥン」(なんでも初めからうまくいかない)

「まぁそうだよなぁ。初めからかぁ」

レストに言われ、俺は今までの治癒魔法の習得するための修行を思い出していた。

ローヒールにヒール。どれも習得するのは大変だった。

そう言えば俺はエリアヒールの無詠唱をまだ習得してないな。もしかして治癒魔法を習得するのにも順序があるのではないだろうか? だとしたらまずはエリアヒールの無詠唱ができないとハイヒールが覚えられないとか。いやまさかな。けど今まではローヒールヒールと順序だてて覚えてきた。それをエリアヒールの無詠唱もできないのに、いきなりその上のハイヒールをやろうとしていたのに無理があったのだ。もしそうだとしたら。

俺は初心に帰り順序通りに治癒魔法を覚えることにした。

「エリアヒール」

やっぱり無詠唱だとまだ無理か。

集中するんだ。初心を思い出せっ俺は何度も治癒魔法を唱え、今までものにしてきた。

今回もそれをやればいい。そう思った俺はエリアヒールを何度も唱える。

そうして三日を超えたころ。無詠唱のエリアヒールをものにしていた。

「やったっやったぞレストっエリアヒールできるようになったぞ!」

喜びのあまり俺はレストの首に抱き着いていた。

「クゥン」(よかったね太一。でも少し苦しいよ)

「ごめんごめん」

俺はレストの首から手を放す。

「さてあとはハイヒールが使えるようになってるかどうかだな」

俺は無詠唱でハイヒールを唱えてみることにした。

「ハイヒール!」

だがやはり発動しない。

やはり無理なのか? いや待て。無詠唱は無理でも詠唱さえすればきちんと発動はできるはずだっ自分を信じろ。

「大地に住まう精霊たちよ。我が呼びかけに答え、彼の者に癒しの奇跡を起こしたまえ、ハイヒール!」

発動したハイヒールは、前に発動した時よりも濃い白い色をしていた。

あとは実践あるのみだ。そう思った俺は片腕を失っているホブゴブリンのもとへと向かった。

「また来たのか?」

「ああ、今度こそ成功してみせるっ」

「無駄なことを」

「無駄かどうかはやってみなくちゃわからないだろう?」

「はぁ好きにしろ」

「ああ好きにするさ」

それだけ言うと俺は精神を集中させると、ホブゴブリンの失われた腕に意識を集中させる。

「大地に住まう精霊たちよ。我が呼びかけに答え、彼の者に癒しの奇跡を起こしたまえ、ハイヒール!」

俺から放たれた治癒の光は濃密な白い柱となり、ホブゴブリンを包み込んだ。

光が収まった後には、失われていた腕が再生しているホブゴブリンの姿があった。

「信じられない……俺の腕が、グリズリーウルフにやられた俺の腕が治った!!」

「やった成功したっ成功したぞレストッ」

俺は喜びのあまりレストに抱き着いていた。

こうして俺の修行は終わりを迎えたのだった。


「リズここが例の新発見で未盗掘のダンジョンか?」

「そうみたいだねゴージェス」

「にしてもあのダンジョンから湧き出る黒い靄みたいなものは何なんだろうね?」

「う~ん。ダンジョンから黒い靄が出るなんて聞いたことないし、なんだろうね」

木の陰に身を隠しながら女三人男一人の四人のCランクパーティゴッデスは話し合っていた。

「とりあえず私は様子見したほうがいいと思うけど。みんなはどう思う?」

副リーダーのリズが提案する。

「あたしはリズに賛成かな」

「ミキがそう言うなら、あちしもリズ姉に賛成。ゴージェスは?」

「俺はギルドの依頼がダンジョンの調査ならそれに従うべきだと思うが」

「でもあの黒い靄の正体がわからない以上慎重に動くべきだと思う」

リズの意見にミキとクミが賛成する。

「あーわかった。わかった。今回は俺の負けだ。リズの意見を尊重しよう」

 勘のいいリズの意見を真っ向から受けてゴージェスは折れた。まぁ折れようが折れまいがパーティの半数以上がダンジョンから湧き出る黒い靄が何かわからないうちは様子見したほうがいいと言っているのだ。ここで無理をしてダンジョンを調査してもうまくいかないことは明白であった。


同じ男女二人組のⅭランクパーティ炎の牙も、ダンジョンにたどり着いていた。

「おっあれが例の新発見のダンジョンか?」

「そーみたいだねカイ」

「黒い靄みたいなものが出てるけど」

「何、ダンジョンに危険はつきものだ。行くぞ」

 何の疑いも持たず炎の牙はダンジョン内へと足を踏み込んでいった。


「どうやら炎の牙はダンジョンに入って行っちゃったけど良かったのかな?」

「何がだ?」

「いや注意喚起しなくて」

「奴らもCランクパーティなんだ。自分たちの身は自分たちで守れるだろう?」

「それはそうだけど」

「それにだ。ここで俺たちが黒い靄の危険性を説いたとしても、お宝に目がくらんでるやつらがそれを聞き入れるとは思えないぜ。そればかりか下手をしたらパーティ同士の争いになっちまう」

「まぁそれもそうか」

そういうこともあり、ゴッデスの皆は傍観することに決めた。


それから数時間。ゴッデスはダンジョンの様子を監視していた。

「何も変わらないね?」

「ああ、そうだな」

これは失敗したかと誰もが思い始めたころ。ダンジョンである異変が起きる。

「ねぇリズ姉。なんか黒い靄増えてない?」

そうミキの指摘した通り、ダンジョンにたどり着いてから湧き出していた黒い靄がその量を増やしていたのだ。

「これは……まずいかもしれません。みんなっいつでも後退できる準備を」

 リズの指示が飛ぶ。

「おう」

「わかってる」

「うん」

ゴージェスたちが後退の準備を終えると同時にそれは起きる。

黒い靄を湧き出させていたダンジョンから、大量の黒い靄があふれ出すと同時にモンスターたちが一体二体とダンジョンの外へと歩みを進めてきたのだ。

「なっダンジョンからモンスターが這い出すなんて聞いてないぞ!」

ゴージェスが思わず声を上げる。

「いやな予感がするわ。いったんここはひきましょう」

リズが声を上げる。

「だが炎の牙の連中はどうする⁉」

ゴージェスがリズたちに尋ねる。

「彼らも曲がりなりにもⅭランクパーティッ何とか生き残ってるんじゃない?」

ミキが意見を言う。

「炎の牙を探しにダンジョンに入るか。この場でとどまるか。ここはいったん引いてギルドにこのことを報告するか。どうするみんな?」

リズの提案を聞いた三人の意見は一致していた。

「そんなの決まってるだろう。炎の牙の救出だ!」

ゴージェスの意見にミキ、クミ。の二人は頷いた。

だがリズだけはその意見と反対意見を口にした。

「私はギルドに報告したほうがいいと思う」

「ああっリズッお前は炎の牙の連中を見捨てるっていうのかよ!」

「そうだよリズッあんな連中でも一応はギルドの仲間じゃないか!」

「リズ姉あちしもリズ姉の意見には反対だよっ」

リズはみんなの意見を待っ正面から受け止めて言う。

「みんなの言いたいことはわかるわ。けどみんなには現実を見てほしいの」

「現実だと?」

「そう、ダンジョンから出てきた黒い獣。あれにはギルドから注意喚起が出されているわ」

「んな注意喚起ぐらい無視すりゃいいっ」

「それが一体あたりの討伐ランクがⅭだとしても?」

「うっだがⅭランクモンスターの一体や二体何とかなるだろうが!」

「問題はダンジョンから這い出してきたということよ」

「いったい何が言いたいんだリズ!」

「もしダンジョンの中に黒い獣がひしめき合っているほど存在していたら私たちだけの手に余るって言ってるのよ」

リズが早口でまくし立てるように言う。

「だとしたら余計に炎の牙の連中がやべえだろうが」

ゴージェスが声を荒らげる。

「もし、ダンジョンの中が私の言った通りだとしたら、全滅するわ。間違いなく」

リズが皆を諭すように言う。

「だからといって見捨てるわけには……」

「ゴージェスの言いたいこともわかるわかるけどっ私はここにいるゴージェス。ミキ。クミには死んでほしくないのよ! だからお願いみんなっ今回ばかりは私の言うことを聞いて!」

「ゔ……」

「リズ……」

「リズ姉……」

「わかった。今回はリズの意見を尊重しよう」

「ゴージェス」

「ゴージェス兄」

そうしてⅭランクパーティゴッデスはダンジョン探索を諦め、ギルドに帰還することにしたのだが、パキリとパーティメンバーの誰かが小枝を踏んでしまう。

「まずいっ気づかれたか⁉」

ゴージェスが呟く。

とほぼ同時、ダンジョンから出てきた黒い獣がⅭランクパーティゴッデスの居るほうに向かって歩みを進めてきた。

「ゴージェスッミキックミッ見つかったっ逃げるわよ!」

リズが声を上げると、皆ダンジョンに背を向けて走り出していた。


「リズ姉追ってくるよ!」

「やるしかねぇか⁉」

「ダメ! できるだけ足を止めないでっ」

「けどようリズッこのままだと追いつかれるぞ!」

「何か嫌な予感がするのっあいつらとあの黒い獣と戦っちゃいけない気がする」

「けどよう」

「もうだめ追いつかれるよ!」

「リズ姉!」

「わかったわっ追手だけを倒して先に進むよ!」

「おうよっそうこなくっちゃ!」

「クミッあなたの魔法で先制攻撃と足止めをっそこをゴージェスとミキが斬り込んで!」

「リズ姉わかったよっ」

「オッケー」

「任せろ!」

「じゃあいくよ」

「風無き大地に芽吹く疾風よ、我が呼びかけに答え、大いなる災いを退ける力を我にウィンドブレイク!」

ソーサラーのクミが風魔法を黒い獣に向かって解き放つ。

解き放たれた風魔法は直径1メートルほどの風の拳となって一体の黒い獣にぶち当たり、

後方に吹き飛ばす。

そこへ戦士のゴージェスが大剣で黒い獣の首を狙って斬りかかり、盗賊のミキも残った黒い獣の足元を狙ってダガーを走らせた。

ゴージェスの攻撃は黒い獣の腕に阻まれるが、黒い獣の腕を斬り飛ばした。

ミキのダガーは黒い獣の足を止めさせる。

そこへ。

「クミッ風魔法であの黒い靄を吹き飛ばして!」

「わかったっウィンドッ」

黒い獣にまとわりついていた黒い靄が少し晴れると、そこから姿を現したのは、ゴブリンだった。

「ゴブリン⁉」

「どういうことだっただのゴブリンが片腕だけを犠牲にして俺の剣を防いだのか⁉」

「みんな気を付けてっただのゴブリンじゃないっ多分あれはEランクモンスターゴブリンソルジャー」

「ちっゴブリンの進化系かよっ」

「けど大丈夫っゴブリンソルジャー程度なら」

「あちしたちの敵じゃない!」

「お前ら一気に押し切るぞ!」

「オッケー」

「うん」

気合の声を上げるとほぼ同時、サクサクッ足元に数本の木の矢が刺さる。

「な⁉」

「ゴブリンアーチャー!」

「まずいぞ新手だ! リズッどうする⁉」

「やっぱりダンジョンから出てきたのは、あいつらだけじゃなかったっクミッおっきいの一つあいつらの鼻っ柱にあてて逃げるよ!」

「わかったリズ姉っいっくよーファイヤーボール!」

クミの放ったファイヤーボールはゴブリンアーチャーがいると思われる森の茂みに向かって放たれ、ゴブリンアーチャーの鼻先で爆発し、気勢を削ぐ。

はずだったのだが、突如として飛来した水の塊、ウォーターボールによって相殺される。

「な⁉ ウォーターボールで相殺された⁉」

まずいまずいまずいまずいまずいっゴブリンアーチャーに加えてゴブリンソーサラーまで来ているとしたらとてもではないが勝てない。そう思ったリズは撤退を指示するが、Ⅽランクパーティゴッデスの撤退を妨害するかのように、黒い靄を纏った黒い獣たちが行く手を阻む。

「ああもうっどうしろっていうのよっ!」

ミキが声を荒らげる。

「俺が道を切り開く! 行くぜっバーサークッ」

ゴージェスが一声叫ぶとスキル狂化を発動させて戦闘能力を向上させると、味方が撤退できるように、今だ黒い靄に覆われて正体のわからぬ黒い獣たちのほうへ向かって突っ込んでいった。

「ゴージェス兄っ」

「ゴージェス!」

「バカッなにやってるの⁉」

クミ、ミキ、リズが声を上げるが、狂化をしたゴージェスの耳には届かない。

狂化は知性をおとすかわりに自身の戦闘力を大幅にアップさせるスキルだ。

「ああもうこうなったらやるしかないじゃないっミキックミッ全力でゴージェスの後を追うよ!」

「わかったっ」

「うん!」

ゴージェスの決死の突貫によって活路は開かれたかに見えたが、ゴージェスが突っ込んだした場所が悪かった。

なぜならそこにいたのはただのゴブリンでなくⅮランクモンスターホブゴブリンの群れだったからだ。

「クミッ」

「ファイアーボール!」

激突し数体のホブゴブリンを吹き飛ばす。

「ミキッ」

「わかってるわよ」

ダガーで残ったホブゴブリンたちの足元を切り裂く。

「今よゴージェスッ」

「ウオオオオオッ!!」

力づくでゴージェスが道を切り開いていく。

「みんなっ逃げるなら今よ!」

リズの声が飛ぶ。

「ええ」

「うんっ」

三人がゴージェスの切り開いた道へ飛び込んだ。

同時に矢が降り注ぐ。

その中の一本の矢がリズの足首に突き刺さった。その場で倒れ込むリズ。

「くっ」

まずった。でも大丈夫。こんなもの私のヒールで。ヒーラーであるリズ悲鳴が出ないように唇を嚙み締めいっきに矢を引き抜くと、自分の傷を治すための呪を口ずさむ。

「ヒール」

そこへいつまでたってもリズが追い付いていないことを知った二人が戻って来て、リズの置かれた現状を把握し、声を上げた。

「リズ!」

「リズ姉!」

「私に構わず行きなさい!」

「そういうわけにいかないわよ」

「リズ姉今助けるからっファイヤーボー」

クミが口にする前に、いくつものファイヤーボールがクミの元に飛来する。

「あ、あぁぁ……」

逃げることすらできずにクミの右半身が炎に包まれて、炎を消そうとクミが悲鳴を上げながら地面を転げまわる。

「くそがっリズックミッ」

ミキがダガー片手にゴブリンソーサラーに肉薄するが……

「あぶねえ!」

ゴージェスがミキを突き飛ばした。

「何するのよっゴージェス!」

ミキの上に覆いかぶさるように倒れたゴージェスの身体をどけようと鎧の下に手を伸ばすと、ミキの手には水にぬれたような感触が伝わってきた。

よく見るとそれは血でミキの手は血で濡れていた。

「なっ⁉ ゴージェスー!!」

 ミキの絶叫が森に木霊した。

一瞬、ほんの一瞬ののちCランクパーティゴッデスは、ミキ以外が戦闘不能に陥ったのであった。

そこへ降り注ぐ矢の雨。もう終わりだ。誰もがそう思った瞬間それは訪れた。

何体ものオークガードナーが木々の隙間から現れてⅭランクパーティゴッデスに降り注がれた矢の雨を木の盾で防いだのだ。

「ゴブじいとおじゃるゴブリンコボルト連合部隊は黒い靄のかかったゴブリンアーチャーとゴブリンソーサラーを仕留めろ! ただし殺すなよっ」

「了解なのですじゃ!」

「わかったでおじゃる!」

「ゴブリンソルジャーとホブゴブリンたちの相手はブーたち頼んだぞ!」

「任せるブー」

 木の槍を持ったオークソルジャー部隊が黒い靄のかかったゴブリンソルジャーとホブゴブリンに肉薄する。

「残ったゴブリンソルジャーたちは俺たちの護衛を頼む」

「任せるゴブ」

「わかったゴブ」

「オッケーゴブ」

そうして俺は倒れ込むパーティに近づいていった。

「大丈夫か?」

「モモモモンスターがたくさんもうだめっあたし死ぬ死んじゃう!」

パニックに陥るミキ。

「あいつらは敵じゃないっもう大丈夫っ大丈夫だからっ」

俺は彼女を落ち着かせようと、両手でその肩をつかんだ。

「ででででもモンスターがいっぱいで、あんたは人間? いやモンスター⁉」

「落ち着きなさいミキ!」

リズが足を引きずりながらも、ミキに近づきまるで子供をあやすかのように抱きしめる。

「リズ。ででででもモンスターは敵であたしたちを殺そうとして……」

「よく見なさいミキッ彼らは私たちを守ってくれているの! 現実を受け止めなさい!」

「でもリズ……」

「でももへったくれもないのっこれが現実! 私たちはモンスターに命を助けられたの!」

しばらくするとミキは落ち着いたのか、シクシクと涙を流しているようだった。

「とりあえず落ち着いたか?」

「ええ、もう大丈夫です」

「足、怪我してるのか?」

「はい。でも大丈夫です。私はヒーラーですから」

「そうか。じゃ俺はこっちを治すから」

俺は自分についた炎を消そうと地面を転げまわる少女に近づいていった。

「ヒール」

 俺が患部に右手を当て一言そう一言唱えると、焼けただれた火傷はみるみる自己再生していき火傷の跡など最初からなかったかのように塞がってしまっていた。

「あれ熱くないっ熱くないよっ」

「ああ、治したからな」

「無詠唱であの火傷を。しかも一瞬で治してしまうとは。あなた様はさぞ高名なヒーラー様なのですか?」

リズが問いかけてくる。

「いや俺はただのしがないいっかいの治癒士だよ」

「それにしてはあのヒール見事でしたわ。あなたはどこぞの高名な方のお弟子さんかなにかですか?」

「いや俺はただのおっさんだよ」

「でもあのヒール」

「そんなことよりその男の人も治したほうがいいんじゃないか?」

「そうだったゴージェスッゴージェスッ大丈夫?」

「うう、痛い背中が痛い。リズ頼む」

「情けない声上げないの。今治すから」

リズはそれだけ言うと、ゴージェスの背中に刺さっている何本もの矢を引き抜いてから、両掌を背中に当てて詠唱を開始する。

「精霊たちよ大地の恵みを我のもとに集めたまえヒール」

ゴージェスの背中の傷が少しづつほんの少しづつ塞がっていく。

数分後。

「サンキューリズ。おかげでもう大丈夫だ」

「そうよかったわ」

「リズ姉~!!」

「うわっぷちょっクミいきなり抱き着かないの」

「だってだって~~もう絶対だめだと思ったんだもんっリズ姉あちし生きてるよっあちし生きてる!」

リズは抱き着いてきたクミの後ろ頭をなでながらあやす。

「ああ、はいはい。生きてるねよかったよかった」

「なんかリズ姉~あちしの扱い雑過ぎない?」

「そんなことないよ。それよりみんな生きてる? 怪我してない?」

「あちしは大丈夫」

「あたしも」

「俺もだ」

「そうよかった」

「みんな無事だったか?」

「はいおかげさまで」

「誰だこのおっさんは?」

「ゴージェスこの人は私たちを助けてくれた人よ」

「このおっさんが?」

「うん。あちしも治してもらった」

「それはどうもありがとう俺たちはⅭランクパーティゴッデス。ダンジョンの調査に来た」

「ああそうかダンジョンの調査に……」

「太一殿っ」

俺がゴージェスと話していると、ゴブじいが俺に声をかけてくる。

「どうしたゴブじい」

「黒い獣たちを殲滅し、一か所に集めましたですじゃ」

「わかった」

「おい黒い獣を一か所に集めるって? 集めていったいどうするつもりなんだ?」

「浄化する」

「浄化だって⁉ いったいどういうことなんだ?」

「まぁ見てればわかる」

俺はゴブじいに連れられて黒い獣たちが集められた場所へとたどり着くと、両手を前面に出して唱えた。

「エリアヒール」

俺の両手からあふれ出た白い光は、集められた黒い獣たちを包み込むように展開すると、黒い獣たちの纏った靄ごと彼らの黒い姿を本来あるべき姿へと返し、またその傷も癒していった。

「なっ黒い獣が普通のモンスターたちの姿に戻っていくだと……⁉」

「いったいこれはどういうことなの?」

「というかモンスターの怪我もみるみる治ってく」

「どうするっすか⁉ モンスターの傷を治しちまって! このままじゃまたさっきみたいになっちまうっすよ!」

「大丈夫だ。もう彼らとは意思疎通ができる」

俺は力強く頷いた。

「意思疎通ってモンスターと? そんなこと……できるわけないっだってモンスターは人類共通の敵で……人類最大の敵なんだから!」

「本当にそうかリズさん? 俺はそうは思わない。人と同じようにモンスターにも意思はある。だからこそ分かり合える。俺はそう信じてる」

「けど……だってそうじゃないとっ私たちは今まで一体何のためにモンスターと戦ってきたのかわかんなくなる」

「なら、今から分かり合えばいい。今からやり直せばいい。まだ遅くはないのだから」

「うん……」

 

「つまり黒い獣の発生原因っていうのは、黒い靄って事っすか?」

 帰りの道すがら俺は物おじしないクミに尋ねられていた。もちろん俺たちの前や後ろには仲間であるモンスターたちや先ほど浄化したばかりのモンスターたちがついてきていた。

「多分そうだと思う」

「それが本当だったとしたら大金星じゃないっすか⁉ ギルドから報奨金が出るっすよ!」

「そうかよかったな」

「よかったなってなんすかっおっさんっあんたの手柄っすよ」

「別に俺は手柄に興味はないから」

「なんてもったいないっ金一封っすよ金一封!」

「あ~はいはいわかったから」

俺はクミを軽くあしらう。

「でだ。つまりあんたたちの調査によると、黒い靄はダンジョンから溢れ出しているってことか?」

「ええ、私たちが見た限りはね」

「そうなると黒い獣の発生原因はダンジョンってことになるな」

「うん。そうもう一度ダンジョンに行って黒い獣の発生原因をきちんと調べてみる必要があるってことよ」

「あのダンジョンにっすか⁉」

「それはやめといたほうがいい。いや言っちゃ悪いが、あんたたちの腕じゃ死にに行くようなもんだ」

リズは何も言い返せない。

ばつが悪くなった俺は、まだこの人たちの名前を聞いていなかったことを思い出して尋ねてみることにした。

「それはそうとあんたたち名前は?」

「ああ悪い。そういえばまだちゃんと自己紹介をしてなかったな。俺は戦士のゴージェス。Ⅽランクパーティゴッデスのリーダーをしている」

「で、私が副リーダーでヒーラーのリズ」

「あたしは盗賊のミク」

「あちしはソーサラーのクミって言うっす」

「俺は太一。ただの治癒士をしているただのおっさんだ」

「ただのおっさんには見えねえな」

「あの黒い靄を浄化しちゃうほどの凄腕の治癒士さんだもんね」

「だね」

「そうっす」

「そうか? 俺は普通の治癒士だぞ?」

「まぁそれは置いといて、太一とか言ったっけ?」

「ああ」

「少し聞きたいことがある」

「なんだ?」

「おっさんはどうしてモンスターを従えてる? 見たところ凄腕の召還士やテイマーにも見えないし、どうしてモンスターが言うことを聞くんだ?」

「なんだそんなことか。それは俺がこいつらの仲間だからだ」

「人間がモンスターの仲間だって?」

「ああ、嘘はついてないぞ」

「仲間ってことはどんな言うことでも聞くのか?」

「そういうのは仲間とは言わない。俺とこいつらは……」

「竹馬の友ですじゃ」

ゴブじいが俺のそばに寄ってきて話しかけてくる。

「ゴブじい」

「見れば何やら太一殿とわしらの関係に疑問を持っているご様子。その答えは太一殿とわしらの間には切っても切れぬ絆が根付いているからなのですじゃ」

「そうでおじゃるっ麿も太一殿とは竹馬の友でおじゃるっ」

今度はおじゃるが俺のそばによって、ゴージェスに声をかける。

「おじゃる」

「ブーそうだブー」

 最後にブーも声をかけてきてくれた。

「ブー」

「だから誰が何と言おうとも、わしらは太一殿のお仲間ですじゃ」

「そういうことだ」

「まぁよくわからんが結局のところ太一のおっさんは、モンスターたちに慕われているからモンスターたちが言うことを聞いてるってことでいいんだな?」

「まぁそういうことだ」

「なるほどわからんがわかった。この件はこれで終いだ」

「そうしてくれると助かる。で、ゴージェスだったか? あんたたちはこれからどうするんだ?」

「報告することも山ほどあるし、俺たちは一旦ギルドに戻ろうと思う」

「そうか、なら無駄な戦闘もしないで済むし、途中まで俺たちと一緒に行くか?」

「そうしてくれると助かる」

「なら一緒に行動するのはオークの里までだな」

「オークの里……」

「ん、なんだ?」

「いやなんでもない」

「そうか」

俺たちはオークの里に向かって歩き始めた。


「じゃあ俺たちはここで」

「なんだ里には寄っていかないのか?」

「ああ、こう見えて急いでるんでな」

「そうか。それはそうと人間の町までの道はわかるのか?」

ゴージェスが仲間たちの顔を見渡して訪ねる。

「お前ら道、わかるよな?」

「オークの里に来たのなんて初めてだし、ここから町までの道なんて私はわからないわよ」

「あたしもわからないわ」

「あちしもわからないっす」

「なら誰か人間の町までの道がわかる奴はいるか?」

俺が周辺に届くように声を出す。

「わしがわかりますですじゃ」

「ゴブじい」

「わしが人間たちを町まで案内するのですじゃ」

「それは危険すぎるな。誰もゴブリンが道案内したなんて信じないだろうし、ほかの人間に見つかったら討伐されるぞ?」

ゴージェスが言う。

「確かに危険すぎるな。やっぱり俺が行くか?」

「太一殿の手を煩わせるわけにはいきませぬのですじゃ。それに案内にはゴブリンの一部隊を率いてまいりますゆえ大丈夫ですじゃ」

「そうか、ならゴブじいに任せるよ」

「はいですじゃ」

「じゃ人間の町までゴブじいが案内するからそれに従ってほしい」

「わかった。何から何まで感謝する」

「礼ならゴブじいに言ってくれ」

「なにわしは構いませぬですじゃ」

こうしてゴブじいとⅭランクパーティゴッデスはオークの里を後にして、人間の町に向かったのだった。


「さてとあとはダンジョンから出てきた奴らの処遇だな」

「どうするでおじゃる太一殿。やはり名付けを行うでおじゃるか?」

「ああ俺は彼らが望めばそうしようと思ってる」

「わかったでおじゃる。では彼らに聞いてみるでおじゃる」

おじゃるは黒い靄にとらわれていたゴブリンたちのほうへと向かった。

「でどうだったおじゃる?」

「皆名付けを望んでいるでおじゃる」

「そうかわかった」

俺はゴブリンたちのもとに向かい名付けを行った。

その結果ゴブリンはゴブリンソルジャーとゴブリンアーチャーに、ゴブリンソルジャーはホブゴブリンに、魔法を使っていたゴブリンはゴブリンソーサラーに進化した。

「あとの問題はこれからどうするかだが、やはり黒い獣の発生源と思われるダンジョンを調べようと思う」

「でも黒い獣がダンジョンから出てきているのは明白になったでおじゃるから危険でおじゃるそれにでおじゃる」

「それになんだ? 何かあるなら言ってくれおじゃる」

「わかったでおじゃる。麿が危惧しているのは人間の調査隊もダンジョンを調べているようでおじゃるし、もし麿らと人間の調査隊がバッティングしたら戦闘になるのではないかということでおじゃる」

「確かにその可能性は高いな。だったら思い切ってダンジョンのことは人間の調査隊に任せるか?」

「麿らが下手に手を出すより、そのほうがいいと思うでおじゃる」

「ならもうやることがないな」

「ゴブリンたちの名付けを行った太一殿は体を休めるでおじゃる」

「俺はそこまで疲弊してないぞ?」

「疲労とは本人が気づかないうちに溜まっているものでおじゃる。とにかく体を休めるでおじゃる」

「わかったわかった。ならあとは任せるぞ」

「よしなにしておくでおじゃる」


「ここまでくれば道はわかるはずですじゃ」

ゴブじいたちとゴッデスは帰らずの森の端っこにたどり着いていた。

「ああ、ここまでくれば俺たちにもわかるよ」

「ありがとうございました」

「気にしないでいいですじゃ」

「よし行くぞ」

「はい」

「オッケ」

「うっす」

Ⅽランクパーティゴッデスは、人間の町へと帰っていった。


「さてと少し休憩したらわしらもオークの里へ帰りますのですじゃ」

 ゴブじいが切り株に腰を落ち着けようとすると、部下のゴブリンソルジャーが声をかけてくる。

「ゴブじい殿大変なのですゴブッ」

「どうしたのですじゃ?」

「黒い獣の群れを発見いたしましたゴブッ」

「何⁉ それはどこに向かっているのですじゃ?」

「多分人間の町に向かっていると思われますゴブ」

「わかったのですじゃ太一殿に急いで知らせるのですじゃ」

こんなことになるのならフォレストウルフたちを連れてくればよかったと思いながら、ゴブじいたちは急いで太一の居るオークの里へ向かった。


「太一殿大変ですじゃ!」

「どうしたゴブじい?」

「帰りの道すがら部下がモンスターの群れを見ましたのですじゃ」

「モンスターの群れだって⁉」

「はいですじゃ」

「もしかして」

「はいモンスターの群れは黒かったそうですじゃ」

「黒い獣の群れ……そいつらはどこに向かってる⁉」

「言いにくいのですが、どうやら方向からしてⅭランクパーティゴッデスの向かった人間の町だと思われるのですじゃ」

「数は?」

「部下たちに調べさせたところ。総数二百以上の大規模な群れですじゃ」

「そんな群れに襲われて人間の町は大丈夫なのか⁉」

「多分あの町の規模からして数日は耐えられても、全滅は時間の問題と思われますのですじゃ」

「ゴブじい殿も太一殿も何を焦っているのでおじゃる」

おじゃるにもかくかくしかじかと説明する。

「所詮人間の町のこと麿たちには関係ないのでおじゃる」

「確かに言われてみれば、しかし人間の町をおとした後わしらに矛先が向かないとも言い切れないのですじゃ」

「もしそうなら人間の町に行く道すがらのゴブリンの村などをおとしているはずなのでおじゃる。それがないということは麿たちには敵対しない証なのでおじゃる。それに人間など恨みこそあれど助けてやる義理も恩義もないのでおじゃる」

そう所詮人間と敵対しているモンスターなのだ。ゴブじいやおじゃるに人間を助けてやる義理も恩義もないのである。

「そうだブー。人間には仲間たちを肉にされた恨みしかないブー」

ブーがゴブじいとおじゃるの意見に賛同する。

確かにゴブじいたちの言う通り、所詮モンスターである彼らには人間に恨みしかないのかもしれない。けど俺は違う。ほんの少しの間だがバラック街とはいえあの町にいたんだ。        

特に親しい人間がいたわけではないが、それでも俺に優しくしてくれた人はいた。

城門の兵士に冒険者ギルドの出張所の受付嬢に食堂のおばちゃん。そんな人たちが無残に殺されるのを黙ってみていられるほど俺はモンスター寄りの考え方に染まっていなかった。

やっぱり見捨てられない。

「ゴブじい、おじゃる、ブー。俺、人間の町に行ってくる」

「太一殿」

「やはり甘い考えの太一殿ならそういうと思ったでおじゃる」

「ブー」

「では仕方ありませんな」

「ゴブじい」

「我ら各々太一殿に命を救われた身。その太一殿を一人で行かせたら末代までの恥ですじゃ」

「そうでおじゃる」

「ブー」

「クゥン」

「わしらゴブリン族は太一殿と共に行きますぞ」

「麿らコボルト族も同じくでおじゃる」

「ブーオーク族も共に行くブー」

「クゥン」(フォレストウルフたちも太一と一緒に行くよ)

「みんなっいいのか?」

「何太一殿一人に行かせたらゴブリン族の沽券にかかわるということですじゃ」

「コボルト族も同じでおじゃる」

「ブー太一の旦那には返し足りないほどの恩義があるブー」

「クゥン」(わたしたちも黒い靄から解き放ってもらった恩があるからね。もちろんわたしたちも行くよ)

「みんなありがとう」

こうして俺たちは人間の町に向かっている黒い獣の群れを倒すために、軍備を整え戦えるものを引き連れて人間の町へと向かった。


 街にある冒険者ギルドの二階ギルドマスター室にて、Ⅽランクパーティゴッデスとギルドマスターエギルの会合が開かれていた。

「皆ご苦労。で、どうだった? ゴッデスの諸君。ダンジョンの様子は?」

ゴージェスがパーティを代表して答える。

「ダンジョンからは黒い獣が這い出しておりました」

「それで?」

「炎の牙がダンジョンに単独で挑むも、その後の足取りが不明。我々ゴッデスはダンジョン外で様子をうかがっておりました」

「で、炎の牙はどうなった?」

「それがダンジョンから出た黒い獣に見つかり、戦闘となり命からがら逃げかえった次第でありまして、炎の牙の詳細は不明です」

「むぅCランクパーティでも黒い獣にはかなわなかったのか?」

「いえ単独なら撃破可能と思われますが、彼らは群れで襲い掛かってきました」

「群れで?」

「はい。そのため逃げることしかできませんでした」

「なるほどな。ではダンジョンの調査はできていないのだな?」

「はい」

「そうか」

だとするとBランク以上下手をしたらAランクパーティでないと調査はできないか?

ギルドマスターが思案に暮れていると、階下から階段を上り、荒げる声が聞こえてきた。

「ギルドマスター大変です!」

「どうしたリーリエ。今は応接中だぞ?」

「それが敵襲ですギルマスッ黒い獣の群れがこの町に迫っているという情報です!」

「なんだと⁉ 誰からの情報だ!」

「Bランクパーティ焔です!」

「焔からだと⁉ だとしたら信憑性が高いな」

「はい彼らの放った伝書鳩からの手紙によりますと、オークを狩るために帰らずの森に入ったところ黒い獣の群れを見つけたということです」

「帰らずの森か」

「はい。そして見つけた黒い獣の群れを追跡したところ、この町に向かっているらしいことがわかったそうです」

「時間的猶予はあとどのくらいだ?」

「多分あと半日ほどかと」

「なんだと⁉ あと半日……すぐに領主様に連絡だっ」

「はいっ」

「それと兵士たちにも通達して町の住民たちの避難誘導っそれから町の外にいる住民たちも町の内側に避難させろ!」

「バラック街の住民たちもですか?」

「ああ、一刻の猶予もないぞっ急げ!」

「はい!」

リーリエは返事を返すと、すぐさま踵を返し、準備に取り掛かった。

「ということだ。どうやらダンジョンから這い出してきたモンスターたちによって、スタンピードが起こっているようだ。ゴッデスの皆もスタンピードの鎮圧に協力してくれるか?」

「それはもちろんですが、黒い獣の群れですか。内訳は?」

「わからん。だが、このゼルの町のかつてない危機だということだけはわかる」

「ギルマス。勝算は?」

「それもわからん。だがまだ街に帰ってきていないとはいえ、こちらにはBランクパーティの焔を筆頭に数組のBランクパーティが街に滞在しているし、この町の冒険者ギルドにもⅭランクパーティが多数所属している。それに町を守る兵士たちもいる。そして領主様の指揮する騎士団もいるからな。まぁ群れの規模にもよるが何とかなるだろう」

「それを聞いて安心しました」

「だが念には念を入れておかねばならん。このゼルの町が最悪抜かれたらスタンピードは王都にも到達するだろう。念のため伝書鳩で王都にも救援を要請する。とはいっても兵が集まるまでどのくらいの時間がかかるかわからんからな。お前たちにも期待しているぞ」

「はっはい」

「ではスタンピードに備えて、体を休めておけよ」

「はっ」

こうしてスタンピードに備えてギルドと街の戦準備は整っていった。


「敵襲敵襲っ黒い獣の群れがゼルの町に接近中! バラック街の者は急ぎ町の内側へ避難しろ!」

馬に乗った兵士たちが町の外周を回って注意を促す。

それとは別に町の正門の前に総勢二百名ほどの冒険者たちと衛兵たちが集められていた。

「いいか諸君っここが決戦の場となるっ町に襲い掛かるスタンピードは黒い獣の群れだっそれを君らには処分してもらいたい!」

 冒険者ギルドのギルドマスターエギルが声を張り上げる。

「黒い獣だって?」

「確かⅭランクパーティ以上じゃないと対処できないんじゃなかったか?」

「そうだ俺たちⅮランクじゃ対応できないんじゃないか?」

「皆の言いたいことはわかる。だが心配はいらない。ランクの低い冒険者は衛兵たちと協力して多数で一体を撃破してもらいたい。これならばランクの差はあまり関係ない」

「確かにそうか。皆でタコ殴りにすりゃいいってことか」

「よしわかった」

「それならいけそうだ」

「それに今回のスタンピードには冒険者たちだけではなく衛兵たちにも報奨金がたんまりと出るぞっ皆期待してくれ!」

「そうこなくっちゃ」

「うし気合入れるぜ」

「やってやんよ」

金をちらつかせるだけで冒険者たちや衛兵たちの士気が上がる。

ふぅこれだけやっとけばまず正門の守りは万全だろう。あとはBランクパーティ焔の帰還と彼らの持ち帰る情報を待つだけだな。ギルマスであるエギルは思っていたのだが、エギルの思いむなしく焔の帰還待つことなくスタンピードはゼルの町に到達したのだった。


「敵襲黒い獣その約二百っ!」

見張り台に上っている兵士からげきが飛ぶ。

「よしっみな予定通り複数人で一体を囲んで仕留めろ!」

ギルマスであるエギルの声が飛ぶ。

「おうっ」

「任せろっ」

「やってやるぜっ」

冒険者と衛兵たちが気合の声を上げる。

あるものは弓で、またある者は魔法で遠距離攻撃を放ち。近づいてきた黒い獣には槍や剣が火を噴いた。

冒険者や衛兵たちにやられた黒い獣たちは倒れてその姿をさらす。

倒れ込んだのはゴブリンソルジャーやコボルトソルジャーたちだった。

「黒い獣の正体はゴブリンソルジャーにコボルトソルジャーと思われるっ皆油断さえしなければ負けることのない相手だっ皆っ勝てるぞこの戦っ」

ギルマスのエギルが声を張り上げた。

「ゴブリンにコボルトかっそれなら楽勝だぜっ」

「おうよっゴブリンにコボルト程度なら余裕だぜ」

冒険者や衛兵たちから声が上がる。

そうして黒い獣の前衛百を討ったころ、スタンピードの第二陣が現れると共に見張り台からも声が上がる。

「敵黒い獣総数約二百っ大きさからみて先ほどと同じゴブリンソルジャーやコボルトソルジャーと思われる! いや待てっ黒い獣の中に大きさの違う個体複数確認っ皆注意されたし!」

「くそがっやはりこの黒い靄は厄介だっこいつのおかげで敵の全容が見えてこないっまず風魔法が使えるものは大きさの違う黒い獣の黒い靄を吹き払え!」

「はいっ」

「いくわよ」

「ええっ」

冒険者の中から複数の女性の声が上がる。

「ウィンドブレイクッ」

「ウィンドッ」

「ウィングソウルッ」

複数の風魔法が黒い獣たちに襲い掛かり、黒い獣たちの前衛の中に混じっていた大きさの違う個体の黒い靄を吹き飛ばした。

「オークソルジャーだっオークソルジャーが混ざっているぞ! 皆気をつけろ!」

風魔法によって吹き飛ばされて姿を現したオークソルジャーを見た冒険者や衛兵たちから声が上がった。

「皆ひるむなっオークソルジャーなどオークに毛の生えた程度にすぎんっ今まで通り複数で一体に対処しろっ」

ギルマスのエギルからげきが飛ぶ。

「はっ」

「おうよっ」

「やってやるぜ」

前衛にいた冒険者や衛兵たちから声が上がり、オークソルジャーに斬りかかっていった。

しかしゴブリンソルジャーやコボルトソルジャーのようにはいかず、皆オークソルジャーは倒しきれずにいた。

そこへ。

「ビッグファイヤーボールッ」

「大切断!」

「焔斬り!」

「ウィンドアッシュッ」

魔法と剣技が複数飛ぶ。

ビッグファイヤーボールはオークソルジャーやその取り巻きたちを焼き尽くし、大切断はオークソルジャーを縦に真っ二つに切り裂き、焔斬りは真横に数体のモンスターを切り裂き、ウィンドアッシュは複数のモンスターを引き裂いた。

Bランクパーティ焔の参戦である。

「焔だっこの町一番の冒険者っBランクパーティ焔が帰って来たぞっ」

冒険者たちから歓声が上がる。

その勢いを糧にして、冒険者衛兵たちの合同部隊ゼルの町防衛隊は、スタンピードを駆逐していった。

だがスタンピードの勢いは衰えるどころかその勢いを増す。

見張り台にいた兵士から新たな報告が上がって来たのだ。

「新たな黒い獣その数約三百っもうすぐ正門前に到達の模様!」

「なんだと⁉ 今回のスタンピードはいったい何体いるんだ⁉」

「ゴブリンソルジャーコボルトソルジャーと思われる個体が数約二百後半っオークソルジャーと思われる個体その数約二十」

「なっ⁉ ゴブリンコボルトの群れだけでも厳しいのにオークが二十だと⁉」

いくらBランクパーティ焔が帰還し参戦したとはいえ、今までスタンピードを抑え、疲弊しきった今の我々ではこの数は厳しいか、だがどうする? ここで一旦引いたとしても先がない。ならば当然討ってでるしかない。いや籠城し、領主様の率いる騎士団を待つという手もあるか。しかし……。ギルマスが思案に暮れていると、前線からからげきが飛んでくる。

「ギルマスッオークソルジャーは俺たちに任せろっ」

Bランクパーティ焔である。

げきを飛ばした焔は前線中の前線に切り込むと、オークソルジャーに肉薄していく。

「喰らいやがれっ焔斬り!」

焔のリーダークリシュが大上段からオークソルジャーに向けて焔斬りを放ち、オークソルジャーを真っ二つにした。

となるはずのところで鳴ったのは聞きなれた金属音であった。

武器を持っていないはずのオークソルジャーから硬い金属音が鳴り響き、必殺の一撃と思われた焔斬りが弾かれたのだ。

「なんだ?」

クリシュが自分の剣を受け止めたものを見ると、そこには一人の人間がいて己の剣でクリシュの一撃を防いでいる姿だった。

「なっ⁉ 貴様っなにものだ!」

戦場に響くクリシュの怒声。

だがクリシュの剣を受け止めた男は何も言葉を発しない。ただクリシュを殺そうと剣をふるうのみだ。

「くっ強いっ」

「クリシュッ今援護するっウィンドアッシュ!」

 風の牙が、クリシュを襲う人間の様なモンスターに向かって放たれる。

「グランドフォール」

土の壁が地面よりせり出し風の牙の行く手を阻む。

「な⁉」

 見ると、ウィンドアッシュを相殺させた魔法は、人型のモンスターによって解き放たれたものらしかった。

そんな時だ。ゴージェスの声が飛んだのは。

「クリシュさんっそいつって炎の牙のカイじゃないか?」

「なにカイだと⁉ それにしては強すぎる」

「そうだよ口や目が黒く変色してるけどカイとミサだよクリシュさんっ」

ミキも断言する。

「なんだと⁉ だとしたら人間がモンスターたちと共闘しているってことか⁉」

さすがのクリシュも困惑の色を隠せない。

「違うと思う」

「ミキ?」

「多分黒い靄に操られてるんだよ」

「どういうことだ?」

「実は……」

Ⅽランクパーティゴッデスは、太一に会った時のことを話し出した。

「なんだと黒い靄に汚染されたモンスターたちに襲われて、そこを助けられただと?」

「うん。で、その人は黒い靄に汚染されたモンスターたちを浄化した後に、人間を襲わないように言い聞かせてた」

「それがホントだとしたらどうすればいいんだ。いやまてそれが本当だとしたら黒い靄の浄化方法さえわかれば炎の牙の連中も正気に戻せて、スタンピードも収まるかもしれない。おい浄化方法はわかるか?」

「確かエリアヒールを使ってた」

「エリアヒールか」

「誰かっエリアヒールを使える奴はいるか?」

「私ヒールなら使えるけどエリアヒールは無理です」

リズが声を上げる。

「そうか」

「多分Bランクパーティ以上のヒーラーじゃないと使える奴がいないと思います」

とゴージェス。

「クソがだとしたらもうやるしかないのか?」

クリシュが腹を決めて剣を打ち合っていたカイを仕留めようとするが、黒い靄に汚染されたカイはクリシュの剣げきそのことごとくを弾いてしまう。

「くそっやはり……強い」

ひっ迫した状況を見ていたギルマスが声を上げる。

「皆一度街中へ戻れ! 一度町に立てこもり領主様の到着を待つ!」

「くっしかたないかっみんな殿は俺が務めるっ急いで街中へ!」

「わかった」

「了解した」

「オッケー」

周囲から声が聞こえる。

「魔法使いと弓使いは、前線の撤退の援護をしろ!」

ギルマスからもげきが飛ぶ。

「了解」

「オッケー」

「わかった」

みんなから声が上がった。

そうして何とか前線部隊が街に撤退を完了するあと一歩までこぎつけたころ戦場の後方から大音量の咆哮が上がった。

「グルオアアアアアアッ!!!」

「なんだこの咆哮は⁉」

「獣の鳴き声⁉」

「モンスターどもの咆哮か⁉」

そこかしこから声が上がる。

「急げっ急いで門を閉めろ!」

何事かに気が付いたギルマスが前線の部隊を街中に撤収させたのち正門を閉めろと声を張り上げる。

みんなで急ぎ門を閉めてこれで何とかなったと思った瞬間っ門に物凄い衝撃が伝わり、正門の門とが内側に吹き飛ばされた。

そう突如森の中から現れた巨大な黒い影が体当たりをして正門を吹き飛ばしたのだ。

「くそがまずいぞっ皆戦闘態勢!」

壊された正門から街中にモンスターがなだれ込んでくる。

もうだめだっと誰もが思った瞬間。

川の流れのように街中へなだれ込んでくる黒いモンスターの群れを分断するかのように、フォレストウルフに跨ったゴブリンライダーコボルトライダーたちが突撃してきた。

「今ですじゃ!」

「今でおじゃる!」

黒いモンスターの群れを分断することに成功したゴブじいとおじゃるが声を上げる。

そこへ木の盾を持ったオークガードナーたちが街の正門が壊された部分にきっちり収まり盾となって黒いモンスターのこれ以上の町への流入を防ぐ。

「モンスターだっ新手のモンスターが攻めてきたぞっみんな逃げろーっ!!」

モンスターたちが流入してくる様子を目にした者たちから悲壮な声が上がる。

だが今はそんなことに構っている暇はない。と思った俺は声を上げた。

「今だゴブリンソーサラーとコボルトソーサラーで敵をけん制してくれっそこへオークソルジャー部隊は突っ込んでくれ!」

「わかりました」

「わかったのです」

「任せろブー」

ゴブリンソーサラーとコボルトソーサラーの魔法ファイヤーボールが黒い獣の群れの中心部に向かって飛び着弾後破裂する。

そこへブー率いるオークソルジャー部隊が突っ込んで確固敵を撃破していった。

そして俺は残ったゴブリンソルジャーたちに護衛されながら、みんなが倒した黒い獣たちに向かって魔法を放つ。

「エリアヒール」

俺から半径十メートルほどの範囲が白い光に包まれて、怪我をしたモンスターや黒い獣たちを癒し、浄化していった。

すると正気に戻った黒い獣と化していたモンスターたちが次々と前線を離脱していき、あるものは森へと帰り、またある者は俺たちの前戦へと加わっていき、俺たちはその数を増やしていった。

そこへ巨大な黒い影が俺を狙って飛び掛かってきた。

「太一殿危ないのですじゃ!」

「太一殿危ないでおじゃる!」

いち早く俺の危機を察知したゴブじいとおじゃるが声を上げた。

「レストッ」

俺はその声に呼応するかのように声を上げてレストを呼ぶと、その背に跨り戦線を離脱する。

だが巨大な黒い獣がそれを許してくれるはずもなく俺に喰らいつこうとその大きなアギトを目いっぱい開き、俺に喰らいつこうとする。

 だが、

「この前みたいにはいかないブー!」

声を上げたブーが俺と族長の間に割り込み木の槍で族長の牙を押しとどめた。

「太一の旦那っ今だブー!」

だがブー一人の力では巨大な黒い獣には押し勝てなかったのか、すぐに吹き飛ばされそうになってしまうが、そこへホブゴブリンソルジャーが割って入る。

「グリズリーウルフよ、あの時の借りを今返そう!」

ブーの握っている木の槍に横やいから腕が伸ばされてブーとともに力を込めた。これにより力の押し合いは拮抗する。

よし、今だ。そう思った俺は詠唱を開始する。

「大地に住まう精霊たちよ。我が呼びかけに答え、彼の者に癒しの奇跡を起こしたまえ、ハイヒール!」

俺の唱えた治癒魔法は、グリズリーウルフの鼻先に向けて解き放たれる。

真っ白な白い光が天に伸びグリズリーウルフを包み込んだ。

数舜後には、黒色の綺麗なグリズリーウルフがそこに立っていた。

この一撃で勝敗は決した。

なぜならこのすぐあと三十分後には、スタンピードの大半が浄化されて元の穏やかな気質のモンスターたちへとかわっていったからだ。

「どういうことだ? モンスターが黒い獣の群れを、スタンピードを鎮静化させやがった」

観衆の中にいた何人かの冒険者たちCランクパーティゴッデスや風の牙の面々が俺の姿を目にしたのか声を上げる。

「おっさんだっおっさんが助けに来てくれたんだっ」

風の牙のジェイドの声だ。

「おっさんあんたって男は……」

ゴッデスのゴージェスの声もそれに重なる。

「どういうことだっあのおっさんを誰か知っているのか⁉」

おずおずとリズが答える。実は、かくかくしかじかと今までの経緯を簡単に説明する。

「ということは我々は助かったということか?」

「はい。その様に思われます」

「だが本当に悪意がないのかは確かめねばならん。あのおっさんに使者を向かわせろ」

「顔見知りのほうがよろしいでしょうから、その役目私が引き受けます」

頭を下げながらリズが買って出る。

「うむ。では頼んだ」

「はっ」

俺のもとへリズがやって来た。

「確か……リズさんだったか?」

「はい太一様」

リズが恭しく頭を下げる。

「おいおいそんなにかしこまるなって俺のことは太一かおっさんでいいぞ」

「いえやはり太一様で」

「なんかむずがゆいな」

「それで太一様はなぜ我々を助けてくれたのでしょうか?」

「ん? そんなの困ってるからに決まってるだろ?」

そうだこの人はこういう人だった。困っている人傷ついている人がいたら、人であろうがモンスターであろうが見返りも顧みずに助けてしまう。そういう心根の優しい人なのだった。

そのことを改めて思い知ったリズは、自分たちが何の見返りも求められずに助かったことを知った。そしてここは正直に話してみようと思った。

「実はギルマスに言われて太一様に悪意がないのかを確かめに来たのです」

「俺に悪意? そんなものないぞ」

「ですよね」

「まぁできれば森にいるモンスターやスタンピードに加わっていたモンスターたちを遊びで狩らないでもらえるとありがたいかな。俺からはそれぐらいだ」

「わかりましたギルマスにはそのようにお伝えします」

「ああ頼む」

「あ、それから太一様はこれからどう動くのでしょうか?」

「俺は今回のスタンピードの原因と思われるダンジョンを調べてこようと思う」

「そうですかわかりました。そのこともギルマスにお伝えしても構わないでしょうか?」

「ああ、ダンジョン探索は人間の冒険者とかち合うと問題になりそうだからな。そうしてくれると助かる」

「はい。ではそのようにしておきますね」

「太一殿スタンピードは収まりました。これからどのように動きますのですじゃ」

「人間の町をおとすのもいいと思うでおじゃる」

「おじゃる。冗談でもそういうのは言ってはいけないと俺は思うぞ」

「今のは麿が悪かったのでおじゃる」

頭を下げる。

「で、太一の旦那はこれからどうするのかブー」

「ああ、名付けを望むものに名付けを行ってからダンジョンアタックをしようと思っている」

「ダンジョンアタックですじゃ」

「ああ、もう二度と今回みたいなスタンピードが起こらないように胴元を絶っておこうと思ってな」

「なるほど確かにスタンピードを絶つにはそれしかありませぬのですじゃ」

「まだまだ麿たちは休めないのでおじゃる」

「いやなら来なくてもいいぞおじゃる」

「何を言っているのでおじゃるっ麿は太一殿の行くところには一緒に行くのでおじゃる」

「そうかみんなはどうする?」

「そんなこと聞くまでもないのですじゃ」

「そうだブーおでたちは太一の旦那の行くところならどこまでもついていくブー」

「その通りですじゃ」

「そうでおじゃる」

「なら行こうダンジョンへ」

元巨大な黒い獣であるグリズリーウルフや戦線に加わってくれたゴブリンやコボルトやオークたちの名付けを終えた俺たちは、スタンピードの発生源と思われるダンジョンへと向かったのだった。


「ゴブじいたちやおじゃるたちもレストたちに乗れたんだな」

「努力しましたですじゃ」

「頑張ったでおじゃる」

「太一の旦那。そろそろ例のダンジョンだブー」

「ああわかった」

俺たちはゆっくりとダンジョンの入り口に向かって近づいていった

「黒いな」

「黒い靄ですじゃ」

「黒い靄でおじゃる」

「きっとみんなこの靄を吸い込んでみんなおかしくなったんだブー」

「なら浄化しながら進むか。エリアヒール」

俺たちは一定間隔でエリアヒールを唱えながらダンジョンの深部へと向かっていった。

ダンジョンの中はヒカリゴケが群生していて思っていたよりも明るく、そして思っていたよりもモンスターの数も少なかった。

どうやらダンジョンにいたモンスターたちのほとんどは、先ほどのスタンピードによって排出されてしまっているようだった。

そのため俺たちは苦も無くダンジョンの最深部へとたどり着いていた。

「ここがダンジョンの最深部か」

ダンジョンの深部にたどり着いた俺は、最深部に鎮座している直径一メートルほどの黒い靄に覆われ、黒い靄を排出し続けるクリスタルを見つめながら呟いた。

「あのクリスタルがダンジョンコアですじゃ」

「あれがダンジョンコア。あれを破壊すればいいのか?」

「多分それでこの黒い靄の発生が収まるかと」

「よしっやってみようブー木の槍であのクリスタルを壊してくれ」

「任せるブー」

ブーがクリスタルに近づき木の槍を振りかぶると同時に、風が突風が吹きブーを吹き飛ばした。

吹き飛ばされたブーは壁にしたたかに体を打ち付ける。

「ブー大丈夫か⁉」

俺は突風に吹き飛ばされたブーに近づきヒールを唱える。

「大丈夫だブー」

一体何が起こったのかわからずにクリスタルに視線を移すと、そこには黒い靄を吐き出すクリスタルを中心に風が渦巻いている光景だった。

「なんだっいったい何が起こったんだ?」

「これは……クリスタルが黒い靄と共に風を巻き起こしているのですじゃ」

「風?」

少しすると風が収まり、その中心から姿を現したのは、小さな羽を背中に生やし、人の形をしたまるで妖精の様な生き物だった。

「クゥン」(シルフ)

「シルフ?」

「クゥン」(シルフとは風の精霊の呼び名だよ太一)

「風の精霊……どうしてそんなものがここにいるんだ?」

「クゥン」(それはわからないけど、少なくとも風の精霊はわたしたちのことを歓迎していないみたいよ、それに……)

「それに?」

「クゥン」(風の精霊の目や羽が黒い。多分黒い靄に汚染されてる)

「なら俺のヒールで浄化してやるエリアヒール!」

俺の放ったエリアヒールは、クリスタルの吐き出す黒い靄は浄化できたのだが、黒い精霊や真っ黒に変色したクリスタルには何の影響も及ぼさなかった、

「やっぱりエリアヒールぐらいじゃ浄化できないか」

どうする? ハイヒールを使うには手で触れあうぐらい近づかないとならないし、クリスタルはともかくシルフは俺をクリスタルに近づかせてはくれないだろう。

「太一殿っシルフが何かしそうですじゃっ」

「太一殿はもっとさがるでおじゃる!」

「ブーおでたちが太一の旦那の壁になるブー太一の旦那はおでたちの後ろに隠れるブー!」

丁度俺がブーたちの後ろに隠れた瞬間シルフの口が動いた。

「ウィンドアッシュ」

風が、巨大な風の牙が俺たちを強襲した。

前方にいた体重の軽いゴブじいとおじゃる。ゴブリンソルジャーとコボルトソルジャー連合軍がまるで木の葉のように吹き飛ばされて全身に裂傷を負う。

「ゴブじいっおじゃるっ今治す! エリアヒール!」

俺はて傷を負ったゴブじいたちに向かってエリアヒールを放ち瞬時に傷を治した。

「すまぬですじゃ」

「太一殿助かったでおじゃる」

「ゴブじいとおじゃるは仲間を率いていったんここを離れてくれっ」

「わしはまだ戦えますですじゃ!」

「麿も戦えるでおじゃる!」

「だめだっゴブじいとおじゃるたちは体重が軽すぎるっシルフ相手だと不利だっここは頼むからひいてくれ!」

「太一殿……わかったのですじゃおじゃるここは引くのですじゃ」

「麿は嫌なのでおじゃるっ麿はまだ戦えるのでおじゃるっ」

「おじゃる体格が小さく体の軽いわしらは足手まといにしかならないのですじゃ。ここは太一殿の言う通りにするのですじゃ」

「くぅ麿は麿は……わかったでおじゃる。しかし必ずいつかは役に立てるようになってみせるのでおじゃる!」

「あとはおでたちに任せるブー」

ブーの声を皮切りに、ゴブじいの率いるゴブリンソルジャー部隊とおじゃる率いるコボルトソルジャー部隊がダンジョンの入り口目指して撤退していった。

「で、太一の旦那。これからどうするんだブー」

「多分ダンジョンコアであるクリスタルに近づくためにはまずあのシルフを何とかしないとだめだと思う」

「それは厄介だブーあの羽虫のように小さな精霊に攻撃を当てるのは多分おでたちには無理だブー」

「わかってるだとしたらどうするか?」

「やっぱり近づかないと通用しないかそうだブースクラムを組んでくれ」

「スクラムブー?」

「ああ、こうやって肩と肩を組んでやるんだ」

「わかったブーで、そのあとはどうするブー?」

「何とか俺をあのダンジョンコアのクリスタルのもとまで連れて行ってくれないか?」

「ブーオーク族が風の盾になるブー太一殿はおでたちの後ろからくるといいブー」

「わかった頼む」

ブーの提案に乗った俺は、スクラムを組んだブーたちオークの背中に引っ付きながら黒く変色しているクリスタルへと向かって歩み始めた。

もちろんその歩みを風の精霊たるシルフが許してくれるはずもなく何度もウィンドアッシュを放ってくる。

俺はブーたちの肉の盾に守られて無事だが、ウィンドアッシュをまともに受けているブーたちはそうはいかなかった。一歩、また一歩。進むたびに傷ついていくからだ。

それを俺はエリアヒールで癒していく。

そうしてあと一歩でクリスタルに触れられると思った瞬間巨大な魔力を感じた。

シルフだ。シルフが遊ぶのをやめ本気で俺たちの行く手を阻みに来たのだ。

「大空を舞う風よ、大きな風よ我が前に立ちふさがりし、邪なるものどもを駆逐する力を我に与えよ。トルネード」

上級風魔法のトルネードだ。

風は渦を巻き巨大な竜巻と化し、決して広くはない洞窟内を覆うように展開する。

たまらずブーやオークたちは吹き飛ばされていった。

もちろん俺もその〇人もれず竜巻に飲み込まれそうになるがそこへ。背後から巨大な影が飛び出してきて、俺の身体を間一髪鋭い牙の生えそろった口で噛みついたのだ。


グリズリーウルフのウルフだ。ウルフは竜巻に俺の身体が吹き飛ばされると共に背後から飛び出して、俺の身体を竜巻から守ってくれたのだ。

これならいけるっ

「ウルフッこのままクリスタルに近づいてくれ!」

ウルフが黒く変色したダンジョンコアであるクリスタルに近づく。

「今だっ」

ウルフの口にくわえられている俺は、ありったけの魔力を込めて詠唱を開始する。

「大地に住まう精霊たちよ。我が呼びかけに答え、彼の者に癒しの奇跡を起こしたまえ……」

そして精一杯腕を伸ばしてクリスタルに触れる。

「ハイヒール!」

真っ白な光の柱が黒く変色したダンジョンコアを包み込んだ。

真っ白な光の柱がその輝きを失った後、黒く変色していたダンジョンコアは緑色の輝きを取り戻した。

「ふぅあとはシルフだけか」

俺は今だその羽と瞳が黒く変色したままのシルフのほうを見る。

「あと一歩ッウルフッシルフの奴に近づいてくれ!」

ウルフはシルフに一歩一歩と近づいていった。

近づかれるのが嫌なのか詠唱なしのトルネードを何度も放ってくるが、ウルフはそんなもの意に帰さず。ただ一歩また一歩とシルフに近づいていった。

そしてシルフの鼻先に近づいた時、俺も詠唱を開始した。

「大地に住まう精霊たちよ。我が呼びかけに答え、彼の者に癒しの奇跡を起こしたまえハイヒール!」

シルフの鼻先に俺の腕が振れた瞬間俺は治癒魔法を発動させた。

シルフが白い光の柱に包み込まれる。

数舜後、白い光の柱がシルフを浄化した。となるはずだったのだが、シルフの色は変わらなかった。

「ハイヒールが通じない⁉ どういうことだ?」

「ワォン」(シルフなどの精霊に普通の魔法は通じない)

ウルフが教えてくれる。

「そうだったのかならどうしたらいいんだ」

「ワォン」(問題ない。力の供給が断たれた今、精霊の中に残っている闇の力を使い切れば元に戻る)

「ならあとは」

「ワォン」(ああ力を使わせ続ければいい)

「ウルフッブーッ何でもいいっシルフを攻撃し続けてくれ!」

「ワォン」(任せろ)

「わかったブー」

 竜巻に巻き込まれながらも大した手傷を追わなかったブーたちが俺の頼みを聞いて木の槍やそこら辺に落ちている石を拾い上げるとシルフに向かって投げつけていった。

それをシルフは風の防護魔法で防ぐ。その繰り返していると、徐々にだがシルフの色が白から緑色へと変わっていっているのが見て取れた。

この調子ならあと一発でかいのを放てば、闇の力の放出が終わりシルフは意識を取り戻すだろう。

「ウルフ!」

「ワォンッ」(任せろウルフファングッ)

風の防護魔法で防がれるがいい加減攻撃を受け続けたのが頭に来たのか防護魔法放った直後に詠唱を開始する。

「大空を舞う風よ、大きな風よ我が前に立ちふさがりし、邪なるものどもを駆逐する力を我に与えよ。トルネード」

巨大な竜巻が洞窟内を蹂躙する。

ブーやオークたちは地面や岩にしがみつき空中に投げ出されるのを防いでいた。

もちろん俺はウルフの口にくわえられていた。

そして竜巻が収まった後には、透明な羽と緑色の瞳を持った風の精霊シルフが空中に浮いていた。

「すまない世話をかけたな人間たちよ」

「いや黒い靄に汚染されていたんだ。気にしなくていい」

俺が言ってやればシルフが言葉を返してくる。

「ふむ。人間たちは瘴気のことを黒い靄と呼んでいるようだな」

「瘴気?」

「ふむ。あれは人や魔物たちそして精霊までも狂気に変えてしまう恐ろしいものなのだ」

「そうなのか?」

「ふむ。であるから今回のこと本当に感謝しているぞ人間よ」

 それだけ言うとシルフは風の中に姿を消していった。

こうして俺たちはダンジョンを攻略したのだった。


エピローグ

スタンピードを収め町を守った俺たちにはゼルの町の領主から報奨金が支払われ、モンスターをむやみやたらと殺さないことを確約してもらうことになった。

もちろんダンジョンアタックの成功報酬として俺は帰らずの森の一部をもらい受け、そこを自治領とし、モンスターたちと暮らすことを許された。

まぁスタンピードを収めダンジョンアタックを成功させたモンスターたちの実力を加味した結果俺たちと事を構えるよりも友好的に行こうという打算が働いたのは言うまでもないが。それでも俺たちにはひと時の平和が訪れていたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ