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さよならの日に、貴方の声を。  作者: 悠介


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8/9

懐かしい場所

「おじちゃ!お荷物こっちー?」

「悠にぃ、冷蔵庫どこー?」

「はいはい。」

 二か月が経ち、悠介達は引越しをしていた。

 浩希と悠介が小学五年と三年に上がったタイミングで転校をし、そして部屋が狭いから、と一軒家を買って、その引越しが今日だった。

 四月の暖かな日差しの中、搬入作業を業者と連携して行い、そして一日かけて引越しをする。

 バタバタと引っ越し作業を終え、それぞれが部屋の片づけをして、そして今日は外食にしよう、と悠介がくたびれた顔をして言った。


「ハンバーグ!」

「僕もぉ!」

「じゃあ、俺はたらこパスタで。」

「ドリアとポテトをお願いします。」

 引っ越し作業を何とか終わらせて、今日は外食だ。

 浩ちゃん達がこっちに来てから二か月、夜泣いてる事はある、眠りながら父ちゃ、母ちゃ、って言ってる事もある、でも、普段は気丈に振舞ってるって言うか、笑顔でいた。

 もうすぐ学校も始まる、ランドセル何かも捨てられてたから、買い直して新調して、準備は万端だ。

 悠治も大学四年、就活が始まって、少し忙しそうだけど、浩ちゃん達の面倒を見てくれる時もある。

 結局、養子縁組は通った、俺達は形式的には親子で、悠治と浩ちゃん達は兄弟になったけど、呼び方は相変わらずだ。

「悠治兄ちゃ、ポテト美味しい?」

「浩ちゃんも食べる?」

「うん!」

 そうそう、変わった事と言えば、悠治の事を兄ちゃ、って言い始めた事か。

 一緒に暮らし始めて一週間位は悠治さん、お兄さん、って呼んでたけど、二人で内緒話するからおじちゃは待ってて!って言われて、ちょっと話をしてたかと思ったら、悠治の事を悠治兄ちゃって呼ぶ!って決めた!って言ってて。

 それだけ受け入れてくれたんだ、って安心したのと同時に、この子達は俺に捨てられたらどうなるか、を理解してしまってるんだな、とも思った。

 俺に捨てられたら、って怯えてる、表面上はそんな事ない、俺達との生活を受け入れている様に見えるけれど、でも深層心理で、きっとそう思ってる。

 だから、それを払しょくさせてあげないと、ちゃんと親子にはなれないと思うんだ。

「悠治、俺もポテト貰っていいか?」

「うん、どうぞ。」

 それはきっと、時間がかかるだろう。

 両親を失った悲しみと向き合って、俺達との生活をして、ちょっとずつ慣れていって、そして親子になる。

 気の遠くなる様な時間がかかるかもしれないけど、いつかそうなれると良いな。


「行ってきまーす!」

「まーす!」

「はい、行ってらっしゃい。」

 新学期が始まって、浩ちゃんと悠ちゃんは学校に通い始めて、悠治は大学四年生だ。

 春ちゃんも良く来てくれてる、ただ、院の二年生、卒業研究とか、論文があるから、これからはあんまり来れないかも、とは言ってた。

 俺の生活は、って言うと、別段変わった事はない、一軒家に引っ越して、もっと稼がなきゃなって思う程度だ。

 浩介の事、まだ吹っ切れた訳じゃない、まだまだ思い出す事はある、ただ、前を向いて歩こうと思ってた。

 子供達だって、両親が亡くなったのに、気丈に振舞ってるんだ、俺がなよなよしてたら、示しが付かない。

 それに、約束したんだ。

 前を向いて歩いていくって、そうしたいって。

 だから、悔やんでたりする時間はない。

「さて、と。」

 一服して、パソコンに向かう。

 今書いてる小説、そろそろエピローグに入るから、ささっと書き上げちゃいたい。

 そう思いながら、キーボードを打ち込む。


「悠治、なんの仕事したいかとか、決めてるの?」

「良太は?」

「僕?僕はね、うーん……。学校の先生になりたいから、そっち方面で頑張るかな。せっかく教員の過程取ってるんだし、頑張りたいかな。」

「じゃあ一緒だ。僕も国語科の先生目指してるから。」

 大学四年になっても、やる事はあまり変わらない。

 学食で昼食を食べながら、良太と話をしていた悠治、智治は何やら問題を起こして退学になったらしく、最近は顔を見ていない、噂程度には聞いていたが、何やらストーカーをしていた、そして通報されて、と言う話らしい。

 正直うざったい後輩として認識していた悠治からしたら、僥倖とまではいかないが、キャンパスでの悩み事が一つ減った、それは間違いではないだろう。

「じゃあさ、綾ちゃんはどうするって言ってる?」

「綾ちゃんは英語科の先生になりたいって言ってるよ。春ちゃん先輩が、英語とかフランス語を習ってるから、その影響を受けたんだ、って言ってた。」

「春ちゃん先輩って、綾ちゃんのお姉さんだっけ。高校が一緒だったんでしょ?」

「うん。悠にぃの事好きだって、ずっと言ってるんだ。今でもそれは変わらないって、二番目でも良いんだ、って。」

 悠治は、綾と会っている時に時々、春にも会う。

 その時に話を聞いた、二番目だってかまわない、それでも好きだから、と。

 悠治は、自分だったらそこまで他人を想えるか、二番目で良いなどと言えるだろうか?と考え、春の考えの凄さ、と言うべきか、そう言ったものに感心していた。

 それだけ悠介の事が好きなのだろうが、それでも、人間と言うのは一番になりたいものだ、と思っていたから、二番目でも構わない、と言う春の言葉は、衝撃的だった。

 普通、一番になりたいと思うのが自然だ、自分自身、綾にとって一番でありたいし、綾を一番だと考えていたから、春の考えには衝撃を受けた、と感じていた。

「不思議な人でさ、二番でも良いって、普通思わないと思うんだ。一番でいたい、って思うでしょ?でも、春ちゃん先輩は、浩ちゃん達がいたって良い、二番目でも良い、でもあの人が好きだから、って言ってたんだ。僕、凄いなって思ったんだ。そんな風に思える春ちゃん先輩も、そう思わせてる悠にぃも、凄いんだなって。」

「悠介お兄さんは、ずっと浩介お兄さんを好きだろう、って言ってたもんね。それは、今でも変わらないのかな?」

「変わらないと思う。じゃなかったら、僕と養子縁組をして、なんて事は考えないと思うんだ。だから、悠にぃはずっと、浩にぃが好きなんだと思う。でも、春ちゃん先輩の事も好きだ、って思うよ。多分だけど、順番なんて付けたくないって思ってるんじゃないかな。」

 事実、悠介は悩んでいた。

 春との約束まで約八か月、それまでに答えを出すと言っていたが、浩介を好きな身でありながら、春と付き合って良いのか、と。

 それに、今は子供達の父親でもある、付き合いや結婚に至るとしても、子供達の面倒まで見させなければならなくなるのではないだろうか、と悩んでいる。

 悠治はそこまでは聞いていなかったが、悠介の考えはよくわかっているつもりだ、と悠介の悩みを見ていた。

「悠治ー、午後の授業始まるよー!」

「あ、綾ちゃん。今行くー!じゃあ良太、またね。」

「うん、行ってらっしゃい。」

 微笑ましい光景、自分もいつか彼女が出来たら、あんな風になるのだろうか、と良太は考えながら、二人を見送った。


「ふー……。」

 午後の休憩、煙草を一服しながら、ちょっと昔の事を思い出す。

 浩ちゃんと悠ちゃんが来てから二か月、兄貴が亡くなってから三か月が経つ、浩介が死んでから五か月が経つ。

 兄貴の墓は、どこにあるかわからない、じいちゃんと同じ墓に入ってればわかるんだけど、バカ親父がそうするとも思えないし、ってなると義姉さんの方の墓に入ってる可能性はあるけど、向こうは天涯孤独の身で、両親が亡くなってて、一人っ子だったから、って言う話は聞いた事がある、だから、何処に墓があるのかがわからない。

 親戚付き合いなんかはあったかもしれないけど、それを俺にまで連絡を回す、って言う所までは無かった、だから、わからない。

 子供達は、弔う事を許されない、それは悲しい事だと思って、昔の伝手を辿って、新居の和室には大きな仏壇がある。

 ここに父ちゃ達がいるよ、だからお参りしてあげてね、って話をしてたんだけど、その嘘だって何時まで聞くかわからない、本当の事を知ったら、ショックを受けるんだろうか。

「……。」

 そう言えば、この後その伝手の人が来るんだっけか。

 お茶とお菓子準備しなきゃな、なんて思いながら、パソコンの電源を切る。


「悠ちゃん、久しぶりだねぇ!」

「高橋君、久しぶり。」

「仏壇、立派なのこさえたねぇ。なんでも、甥っ子達の為だって?」

「うん、甥っ子達の両親、俺の兄貴達の墓が何処にあるかわからないから、せめても、って思ってね。」

 俺のじいちゃんが信仰してた新興宗教の青年部長、子供のころお世話になった高橋君が、仏壇を見たいって来た。

 昔、本当に昔、中学生になる頃までは、俺も少年部、って言う所に所属してて、キャンプに行ったり、本部の大聖堂にお参りに行ったり、割と信仰心はある方だと思ってたんだけど、じいちゃんが死んでから、あんまり顔を出さなくなって、そのうち学生作家として忙しくなっちゃって、めっきり顔を出さなくなった。

 その頃はまだ高橋君も学生部で、今は三十二になる、三年前に青年部長になった、とは聞いてたけど、会う事はなかった。

 でも、いい機会だと思って、会おうって話になったんだ。

「悠ちゃんは相変わらずだねぇ。地涌の菩薩、健在って感じだね。」

「あはは……。人の心に仏在り、なれば人の子は仏なり、だったもんね、うちの教え。懐かしいな、暫く行ってないけど、皆元気?俺が二十三になったって事は、結構皆老けた?」

 地涌の菩薩、って言うのは、本来の仏教なら違う意味合いなんだけど、俺達の新興宗教的には、自分の苦悩を持って他人を救う仏、って言う解釈をしてて、俺が小学六年の頃に、当時の青年部長の松本さんって人が、悠介は地涌の菩薩なんだねぇ、って言ってて、高橋君はそれを覚えてたみたいだ。

 当時はその言葉を聞いて、よくわからなかった、が正解だった俺は、今なら言いたい事はわかる。

 ただ、それには及ばない、たどり着けていない、とも思う。

 俺は、自分が痛かったから、その痛みを誰かに味わってほしくなかっただけ、菩薩様だなんて立派なもんじゃない、って。

「悠馬君覚えてる?彼、結婚して、二歳の息子さんがいるんだよ。悠ちゃん、悠馬君とは仲が良かっただろう?」

「悠馬か、また懐かしい名前が出て来たね……。あいつ、結婚したんだ。」

 悠馬、って言うのは、俺と同学年の野球少年の事で、俺が鼓笛隊、楽器の演奏隊にいたのとは別で、支部の野球部に所属してた子だ。

 当時は、野球隊と鼓笛隊は仲が悪くて、でも俺はそんなの関係なし、って思ってたから、普通に接していた。

 鼓笛隊の先輩からは、なんであいつらと仲良くするの!なんて言われてたりもしたけど、だって所属する場所だけで関係性を決めるのはおかしいから、って言い返してたっけ。

「子供が出来たって事は、いくらか包まないとな……。連絡先交換してなかったから、どうするか……。高橋君は、今でも悠馬と交流はあるの?」

「ん?そうだねぇ、今でも彼は土日になると顔を出してくれるからね。悠ちゃんも、久しぶりに皆に顔を見せてあげたらどうだい?皆、喜ぶと思うよ。」

「そうだね、最近根詰めて書きすぎてるから、ちょっと気晴らしにでも行くかな。」

「甥っ子君達も、是非連れてきておくれよ。それに、弟君もね。」

「分かった。」

 そう言って、高橋君は予定があるから、って家を出ていく。

 教会、何年行ってないかって感じだけど、場所はわかるし、そんなに遠くはないし、行ってみようかな。

 浩ちゃんと悠ちゃんにも話を聞かなきゃな、って思いつつ、俺は今日は執筆はお終い、家の掃除でもするか、って思って、体を伸ばした。


「懐かしいな。」

「おじちゃが通ってた教会ってここなの?父ちゃが、ずっと前だけど行ってた、って言ってたよ?」

「仏様にお祈りをするんだよ、って言ってたよぉ!」

「僕まで来て良かったの?悠にぃからしたら、懐かしい場所だし、浩ちゃん達にとっても、縁がある場所だとは思うけど、僕は何も知らないよ?」

「誘われたからさ、せっかくだし、悠治も紹介したいんだよ。」

 土曜日、今日は悠治も就活は休憩、って言って、皆で午前中から教会に足を運ぶ。

 この外観は変わらない、中はちょっと古くなってきてるって、中学の時に言ってたっけ、なんて思い出しながら、入口から中に入る。

「あら、いらっしゃいませ。……、悠介ちゃん?悠介ちゃんじゃない!?」

「えーっと……。あ、園田さん。お久しぶりです。十年位会ってませんでしたっけ?」

「大きくなったわねぇ……!そっちの子達は?」

「甥っ子達と、弟です。血は繋がってないですけど、養子縁組をしたので、まあ親子って感じになりますかね。」

「甥っ子……、康孝ちゃんのお子さん達!?あらあらー、大きくなったわねぇ!赤ちゃんの頃に康孝ちゃんが連れて来たけれど、それっきりだったものー!」

 受付、って言うか、当番さんって言う、教会の細かい事をする人達がいる場所にいる人に声をかけられてたと思ったら、その人は俺が良く知ってる人、同じ支部だった園田さんだ。

 園田さんは、俺が小さい頃からの付き合いって言うか、小学校入る前頃から少年部長って言う役職についてて、俺もずっと懐いてた、そんな人だ。

 ちょっとぽっちゃりしたご婦人、って感じだった園田さんだけど、十年経っても変わらないんだな、ってちょっと懐かしくなる。

「確か、浩ちゃんと悠ちゃんって康孝ちゃんは言ってたわね。おばちゃんの事覚えてないでしょうねぇ、でも嬉しいわ、悠介ちゃんがまた来てくれるなんて、懐かしいわねぇ。」

「おばちゃは僕達の事知ってるのー?」

「えぇ。貴方達のお父さんが、赤ちゃんの頃に連れてきてくれたのよ。それで、康孝ちゃんは元気してるのかしら?この子達が赤ちゃんの頃に来たっきり、あんまり顔を出さなくなっちゃったから、会ってないのよねぇ。」

「兄貴は、三か月前に亡くなりました。本当はバカ親父達が引き取ったはずだったんですけど、金だけ持って逃げまして。それで、俺の所で一緒に暮らしてるんです。」

 なんて事があったんだ、って顔の園田さんと、もう話しなれたから何とも思ってない俺達、ちょっと面白い構図になってる気がする。

 でも、話さない事には事情は説明も出来ないし、誤解を与えてしまうかもしれない、だから話すしかない。

「まあまあ……。そう言えば、おじいさんとお父さん達は仲が悪かったものねぇ……。康孝ちゃんと悠介ちゃんは、おじいさんに懐いていたから、あまり影響は受けなかったんでしょうけど、あのお父さん達は学生の頃から、ねぇ?それにあのお母さんでしょう?もう、そうなるべくしてなった、としか言い様が無いのよねぇ。それで、弟さんって言うのは、初めましてよね?私は園田、貴方はなんていうお名前なの?」

「僕は悠治って言います。ずっと悠にぃと関わってたんですけど、兄の死を期に養子縁組したので、親子になりますけど、兄として関わってもらってます。」

「悠治君……、あぁ!悠介ちゃんが恋人が出来た、浩介ちゃんって子だった、その子の弟君が悠治君って言ってたわね!思い出したわぁ!……。じゃあ、浩介ちゃんは亡くなってしまったの?」

「はい、去年の十二月に。」

「そう、悠介ちゃん、とても嬉しそうに恋人が出来たと言っていたから、素敵な子だったんでしょうに……。残念ね、悠介ちゃん。」

 園田さんは、記憶力が良い方だ、とは思ってたけど、何気なく言ってたはずの俺の恋人の名前まで覚えてた、って言うのは衝撃だ。

 それに紐づけて、悠治の名前まで覚えててくれたのは、正直説明の手間が省けるから助かる。

「それで、久しぶりに顔を出してくれたのは、またどうしたのかしら?」

「ちょっと前に、高橋君の伝手で仏壇を置いてもらったので、そのお礼と、久しぶりに皆の顔を見たいなって思いまして。当時学生部だった人達とか、青年部だった人達、お世話になってましたから。学生作家として忙しくて、中々顔を出せてなくて、そのままここまで来ちゃって……。だから、いい加減顔を出さないと、怒られちゃうと思ったんですよ。」

「それで、子供達も一緒に連れてきてくれたのね?会えてよかったわぁ。」

 玄関口で話を続けるのも良いけど、青年部の面々に顔を出しに行かないと、って思って、法座席を抜けて、二階に上がる。

 青年部室、って書かれた部屋、懐かしい、学生部や少年部の頃、良くここで遊んでもらったっけ。

「おじちゃ、嬉しそう!」

「ねぇ!」

「ん?懐かしいからね。浩ちゃんと悠ちゃんは生まれたばっかりの時に来たっきりって園田さんが言ってたけど、俺と兄貴はずっとここに来てたから。」

「お兄さんって、十歳上だったんでしょ?来ても、関わる人達が違ったんじゃない?」

「そうだな……。一緒に鼓笛隊に入ってたんだよ。小学生入る前の子達から、高校卒業までが在籍出来る期間だったから、俺と兄貴もちょっとかぶってるんだ。それに、青年部の人達には良くしてもらってたから。」

 青年部室のドアをノックして、誰か知ってる顔がいてくれたら嬉しいな、なんて思う。

「はいはーい。あ、悠ちゃん来てくれたんだね!そっちの子達はそうか、康ちゃんの子供達だね?それに、弟君も一緒に来てくれたんだ!俺は高橋登、悠ちゃんからは高橋君って呼ばれてるんだよ。」

「初めまして、悠にぃの弟の悠治です。」

「浩希です!」

「悠介だよぉ!」

 悠治達が挨拶をする、高橋君は、嬉しそうにそれを眺めて、中においでよと誘ってくれる。

 他に知ってる人はいるかな?って思いながら俺達は青年部室に入る。

「あ!悠介じゃねぇか!ひっさしぶりだな!」

「悠馬か……?あれ、お前チビじゃなかったっけ?」

「チビってゆーな!高校で身長伸びたんだよ!おめぇ程じゃねぇけど、でかくなったんだぜ?」

「そっかそっか。そうだ、悠馬に渡してくれって伝言しようと思ってたんだけど、本人がいるんなら丁度良いな。ほれ、これ、結婚と出産祝い、どれ位包めば良いかわからなかったから、少し少ないかもしれないけど。」

 部室に入ってすぐ、昔のチビ助だった悠馬が、身長百七十位まで大きくなってる事に驚いて、本来の目的を忘れる所だった。

 挨拶もそこそこに、取り合えずの目的である結婚祝いと出産祝いを渡して、ハトが豆食らったみたいな顔してる悠馬を見て、ちょっと笑う。

「あ、あんがとよ!悠介から祝われる、ってのも不思議な感覚だぜ。んで、そっちのチビ達は康さんの子供達って聞いたぜ?後そっちの坊主は、恋人の弟だって?」

「お兄さん、父ちゃの事知ってるのー?」

「おう、昔世話になったんだ。康さんの葬式、出たかったんだけどよ、そっちの親ってここの所属じゃねぇじゃん?抜けたって言ってたし、こっちまで葬式の話が回ってこなかったんだよ。話聞いて、驚いたんだぜ?康さんに子供がいるのは知ってたけどよ、こんなでかいとは思わなかったぜ。そんで、そっちが恋人の弟か。俺は悠馬、よろしくな。」

「はい、悠治って言います、よろしくお願いします。」

「なんだか悠が多いねぇ。悠ちゃんって言ったら、そっちの坊やも反応しちゃいそうだし、難しいねぇ。」

 部室に入って、コーヒーを出されて、ちょっと話をする。

 悠馬は、子供は今日は来てないって話だから、また今度会いたいとは思ってるけど、他にも誰か来ないかな、なんて思ったり。

 でも、知ってる人達がいる、覚えててくれてる、って言うのは、安心出来るし有難い話だ。


「どうもー。ってあれ?悠介?悠介じゃない!?」

「まーちゃん?」

「そうよー!悠介ったら、久しぶりねー!十年位会ってなかったんじゃない!?大きくなったわねー!そっちの子達は息子?」

「兄貴の子供だよ、兄貴が三か月前に亡くなって、義姉さんも一緒に亡くなったらしくてさ、引き取ったんだ。」

「えー!?って事は、あの時の赤ん坊がこの子達なのー!?大きくなったわね!私は政子、今は女子部長をやってるのよ。」

「まーちゃんが女子部長……。でも、なんとなくしっくりくるかも。昔から、面倒見が良かったもんね。」

 少し高橋君と悠馬と話をしてると、恰幅の良い女性が入ってくる。

 セミロングの茶髪にまったりとした顔、すぐに思い出せる、俺がまーちゃんまーちゃんってずっとついて回ってた、政子お姉さんだ。

 まーちゃんは兄貴と同世代で、鼓笛隊に一緒に所属してて、結婚した所までは知ってるけど、その後の事は知らない。

「初めまして、悠治って言います。」

「悠治……、君がそうなんだ!浩介君の弟君でしょ?悠介が、嬉しそうに話してたなぁ。懐かしいね、浩介君は一緒じゃないの?」

「浩介は五か月前に亡くなってさ。今は悠治も浩ちゃん達も養子縁組してるから、親子なんだ。」

「そうだったの……。辛かったでしょ?悠介、浩介君の事すっごい好きだって言ってたもんね。懐かしいなぁ、あの頃、悠介に恋人が出来るなんて!って思ったりさ。ずっと小さい子だと思ってた悠介が、いつの間にか成長してたんだなって、ちょっと寂しかったよ?」

「まーちゃんは結婚したんだよね?って所で記憶が止まってるけど、今はどうしてるんだ?」

「旦那とは上手くいってるわよー?ただ、子宝には恵まれないわね。こればっかりは巡り合わせって言うか、授かりものだから、どうしようもないかなって感じよ。おチビちゃん達、大きくなったねぇ。」

 青年部室はそこまで広くない、もうそろそろ満員って感じだ。

 そんな中、話をしながら、懐かしいって言うか、感傷って言うか、そんな感情を思い出す。

 兄貴も俺も、親と仲が悪くて、じいちゃんに連れられてここに来てて、兄貴が高校生、俺が小学生の頃、皆に良くしてもらってたんだなって。

 じいちゃんの事も懐かしい、じいちゃんは壮年部長って言う、結構偉い人で、それもあってか壮年部のおじいさん達にも良くしてもらってて。

 浩介と付き合い始めて、中学に入ってじいちゃんが死ぬまでは、週一回はここに来てた。

 それがパタッと来なくなって、かれこれ十年は経って、忘れられてるかな、なんて思ってたら、皆覚えててくれてて。

 嬉しい、懐かしい、ほんのちょっとだけ、寂しい。

「チビ君達さ、野球に興味ねぇ?俺達と一緒に、野球やってみねぇか?」

「うーん、僕やってみたい!」

「僕もぉ!」

「じゃあ、悠治君は今は悠ちゃんと一緒に暮らしてて、お父さん達とは没交渉なんだね?」

「はい、セミリタイアして田舎に引っ込んで、それ以来会ってもないですね。」

 それぞれがそれぞれの会話をしてて、俺は独り、浩介もここにいてくれたらな、なんて思う。

 浩介がこの場にいてくれたら、嬉しい顔をしてただろう、きっと、皆ともすぐに馴染んで、仲良くなって、それでお節介焼きが多いから、構ってもらって。

 そんな事をして貰えてたのかな、なんて思うと、少し寂しい。

「悠介、寂しそうな顔して、どうしたの?」

「……。俺って、恵まれてたんだなって、今更になって思ったよ。……。ずっと、浩介と悠治しかいないと思ってた、二人しか、俺を見てくれる人はいないんだって。ただ、それは間違いだったんだなって、今更になって思ったんだ。」

「そうだよ?貴方は色んな人に愛されてた、私もそう、悠介の事を愛してた。ただ、それは気付いてもらえてなかったんだろうな、とは思ってたけどね。でも、今になってでも、気付いたなら良かったじゃんか。」

「……。そうだね。」

 俺は大馬鹿者、改めてそう思った。

 高橋君も、まーちゃんも、雄馬も、俺の事を気にしてくれてた、それなのに、浩介達だけしか見てなくて、浩介達だけだと思い込んで。

 馬鹿だよ、俺は。

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