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さよならの日に、貴方の声を。  作者: 悠介


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6/9

幸せになる為に

「悠治、お兄さんの事は落ち着いた?」

「うん。悠にぃも吹っ切れたのか、小説書くのに打ち込んでるよ。」

 週明け、大学の食堂で、話をしていた悠治と良太。

 良太は、浩介が亡くなったと言う事を聞いて、葬儀にも参列してくれた。

 その時から、悠介が不安定だ、と言う話は悠治に聞いていて、悠介の事を案じていたのだ。

 悠治は、悠介が明るさを取り戻した、と言うよりはいつもの調子に戻った事に安心していて、そして何より、自分だけが辛かった訳ではない、という事を認識して、肩の荷が降りた気がしていた。

「綾ちゃん達は落ち着いた?」

「うん、春ちゃん先輩が上手くやってくれてるみたいでさ、皆それぞれ、って感じだよ。」

「そっか、良かったね。悠治、死にそうな顔してたから。」

「そんな顔してた?」

「うん。流石の智治君も、あの顔してた悠治には声かけなかったみたいだしね。それ位憔悴してたって言うか、本当に死んじゃいそうな顔してたよ、悠治。」

 悠治は、務めて平静を装っていたつもりだったのだが、と苦笑いする。

 空気を読まない智治が声をかけない程に、しんどそうな顔をしていた、それが良太の見識なのだが、悠治はそれを自覚していなかった様子だ。

 悠治も悠介も、自分の事より他人の事を優先する気がある、それは兄弟だから、なのだろうかと良太は考えていた。

「よく似てるんだね、お兄さんと。」

「え?」

「自分より誰かの為に、って言う所、悠治も受け継いでると思うよ。悠介お兄さんの気持ちって言うか、浩介お兄さんも、きっとそうだったんじゃないかな。悠介お兄さんは、自分を守る術を知らないままだったのかもしれないけど、悠治も、浩介お兄さんも、誰かの為にって言うのは共通だったのかなって。」

「そう、かな……。」

「きっとそうだよ。悠治だって、誰かの為に何かしたいって思う人でしょう?それは、悠介お兄さんよりは小さな意思かもしれない、思ってるだけかもしれない。でも、それは立派な事だと思うよ。僕もそうありたいと思う位、素敵な考えだと思う。」

 嬉しい、悠治はそう思って笑う。

 良太は、利他的過ぎる悠介の話を聞いて、そうなってしまったら危険だ、とは思っていたが、ある程度利他的である事に関しては肯定的で、自分も余裕が出来たらそうありたいと願っていた。

 その時、悠治は良い見本になるだろう、とも。

「悠治ー、次の授業始まっちゃうわよー?」

「あ、綾ちゃん。それじゃ良太、僕行くね。」

「うん、またね。」

 悠治が綾に呼ばれ、一緒に食堂を出ていく。

 良太は、それを眺めながら、微笑ましいな、と感じていた。


「悠介、また来ちゃった。」

「いらっしゃい、大学院の方はどうだい?」

「まだ一年だからね、って言っても、研究の手伝いとか、先輩の論文の手伝いとか、色々あるよ。」

 浩介の死から一か月、春ちゃんはちょいちょい会いに来る様になった。

 綾ちゃんも悠治と会う時に顔を出してくれる、大学の友人だって言う良太君も紹介してくれた。

「もうすぐ学年が上がるから、私も論文の中身とか骨組み位は考えておかないと、だね。」

「そっか、大学院は二年間だっけか。春ちゃんは院を卒業したら何がしたいんだ?確か、大学では語学の授業をメインで受けてて、留学もしてただろう?」

「翻訳、仕事にしたいなって思ってるの。アメリカには留学したから、院を卒業したらフランスに留学しようと思ってるの。」

「春ちゃんは頭が良いからな、きっと出来る様になるよ。」

「そう言う悠介は?」

「ん?俺か?そうだな、丁度昨日、一本書き上げて、子田さんにデータ渡した所だな。ここから編集さんと協議入って、売るかどうか決める、って感じだな。」

 春ちゃんが良く家に来る理由、それはなんとなく察してた。

 鈍感だと思ってても、春ちゃんの態度を見れば一発でわかるし、春ちゃん自身それをあんまり隠すつもりもないみたいだし。

「あのさ、悠介。」

「なんだい?」

「浩介が死んじゃってから、まだ一か月しか経ってないけどさ。私と、付き合ってくれない?貴方の事、支えたいのよ。」

「……。」

「駄目?」

 駄目かと聞かれると、まだ気持ちの整理がついてない、が正しい。

 浩介の事、ずっと好きだって思ってるから、そんな状態で春ちゃんと付き合うのも、不誠実だとも思う。

「……。きっと、悠介は生涯、浩介が一番好きなんでしょうね。それはわかってる。でも、二番目でも良い、一番になれなくても良い、ただ、貴方と一緒になりたい。」

「……。浩介の喪が明けるまで、返答を待ってもらっても良いか?せめて、それ位までは浩介の事に向き合いたいんだ。一年後、になるのかな。それでも、その時に俺と一緒に居たいって思ってくれてたら、その時に答えを出すよ。」

「いつまでだって、待つよ。私は、貴方が浩介を生涯一番好きである様に、貴方の事が一番好きなんだから。」

「照れるな。」

 俺は、どうするべきなんだろうか。

 約一年も待たせて、それでやっぱりやだ、なんて話になったら、春ちゃんを傷つける事にならないだろうか。

 それならいっそ、今断った方が良いんじゃなかったんだろうか。

 でも、それをする気にはなれなかった、春ちゃんの目が、それだけ本気だったから。

「茶化さないでよ、本気だよ?」

「わかってる。お互いに納得出来る答えを見つけられる様に、頑張ってみるよ。」

「ありがとう。それじゃ、私今日はこれで。」

「もう帰っちゃうのかい?」

「これだけ伝えに来ただけだから。また綾ちゃんと悠治と、ご飯行こうね。」

 そう言って、春ちゃんは部屋を出ていく。


「……。」

「悠にぃ、ただいま。」

「ん、悠治か。お帰り。」

「何か悩み事?」

 リビングで考え事をしてると、悠治が帰ってくる。

 悠治は、俺が眉間にしわを寄せてるのに気づいて、聞いてくる。

「春ちゃんにさ、改めて告白されたんだよ。付き合ってほしい、って。でも、今は浩介に向き合いたいから、一年間待ってくれって返したんだ。でも、どうするのが正解なのかなってな。」

「春ちゃん先輩、悠にぃの事好きだって言ってたもんね。うーん……。」

「俺は生涯、浩介の事を愛し続けると思う。そんな人間が、軽い気持ちで付き合ったりしたら、春ちゃんが可愛そうだろう?でも、春ちゃんは二番目でも良い、って言ってくれたんだ。でもさ、二番目だって思いながら付き合うのは、不誠実だとも思うんだ。」

「一年間待ってもらって、やっぱり付き合いない、って言うのもちょっと悲しいよね……。でも悠にぃは、生涯浩にぃが好きだって思うんだ。でも、春ちゃん先輩がいてくれたら、僕もちょっと安心出来るかなとは思うな。」

 安心出来る、それは、多分独りじゃ俺の事を抱えきれない、って言うのと、将来の事を考えてだろうな。

 将来綾ちゃんと結婚するとしたら、俺とは一緒には暮らさなくなるだろう、その時、俺が独りきりにならない様に、って。

「……。まぁ、一年間は猶予をもらったから、ゆっくり考えるよ。どうするのが全員にとって一番いい結果なのか、それはまだわからないからな。」

「そうだね。悠にぃ、悠にぃ自身も幸せになれる結果を選ぶんだよ?また、誰かの為に、自分の事をおざなりにしちゃだめだよ?」

「……。出来るかな。ずっと誰かの為に、自分なんてどうでも良い、って思ってたから。出来る保証はないな。ただ、頑張ってみるよ。じゃないと、いつまでも悠治に心配かけっぱなしになっちゃうからな。」

 悠治の頭を撫でながら、ありがとうっていう想いを伝えようとする。

 悠治はずっと、俺の事を心配してくれてた、いつの間にか大きくなって、大人になって、子供だと思ってたのに、あっという間に成長して。

 そんな悠治に心配をかけない様に、俺もちゃんとしなきゃな。

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