死んでしまった人は。
「浩介、来たぞ?」
「……。」
日曜日、今日は執筆を休んで、朝から病院に顔を出した。
悠治は綾ちゃんと春ちゃんを連れてきてくれる、って言ってて、それを待ちながら、浩介に話しかける。
「なぁ浩介、悠治に彼女が出来たんだってよ。綾ちゃんって言って、春ちゃんの妹なんだって。奇妙な縁だよな。」
浩介の心電図、心拍は弱まってきてる。
それはわかってる、一昨日よりも、少しゆっくりになってる、それもわかってる。
ただ、俺は最期まで希望を持ち続けたい、最期まで諦めたくない。
「なぁ、浩介……。浩介は、幸せだったか?俺は、幸せだったよ。ずっと、これからも。浩介と出会えて、悠治と出会えて、最高の兄弟と出会えて、幸せだったよ。それはずっと変わらない、いつまでも、それは変わらない。」
そんな事を言ってると、浩介が微笑んだ気がした。
ピー
「……。ありがとう、浩介。ずっとずっと、愛してるよ。」
ナースコールを押す、それは浩介が死んでしまった証左。
心電図が止まり、長い音を立てて現実を押し付けてくる。
「悠にぃ!」
「……。悠治。」
「浩にぃ……、は……。」
「逝った。最期の最期は、幸せそうな顔をしてたよ。……。春ちゃん、久しぶりだね。こんな時だけど、会えて良かったよ。」
「悠介……。浩介は……。」
霊安室の前でボーっとしてると、連絡をしておいた悠治と、久しぶりに見る春ちゃんと、綾ちゃんが来た。
悠治はぽろぽろと泣いてて、春ちゃんと綾ちゃんは何を言えばいいのかわからない、って感じだ。
そう言う俺も、涙を流してる自覚はある、こういう時に一番しっかりしなきゃならないって言う自覚はあるけど、心がそうさせてくれない。
「春ちゃん、綾ちゃん、来てもらって早々なんだけど、ちょっと悠治と二人にしてもらっても良いか?」
「え、えぇ……。綾ちゃん、ちょっと離れようね。」
「うん。」
そう言って、春ちゃんと綾ちゃんは受付に行く。
悠治は、涙を流しながら、浩介の事を考えてるだろう。
「悠治……。一番辛いのは、お前だよな……。ごめん、俺が変に意固地だったせいで、一人で背負わせて。」
「悠にぃ……。僕……、でも……。」
「……。おいで、悠治。」
悠治がこっちに来る、俺は悠治を抱きしめて、背中をさする。
「俺は、泣いたところで仕方がないと思う。でも、悠治は泣いて良いんだ。大切なお兄ちゃんが死んだ、それは変えられない事実だ。だから、泣いていい。悠治には、泣く権利がある。」
「悠にぃ……。」
悠治は、ひっぐひっぐと涙を流して、俺に抱き着いてくる。
大人になったと思ってたけど、まだまだ子供でいたい部分もあっただろう。
でも、俺が現実を見てなかったから、悠治は独りで孤独になってた、それが事実だろう。
俺には泣く権利は無い、俺は、悠治を苦しめてたんだから。
だから、悠治は泣く権利がある、悠治だけが、泣く権利がある。
「悠にぃ……、ごめん……。」
「良いんだよ。」
「でも……。」
「良いんだ。」
暫くして、悠治の嗚咽が収まってきて。
泣きはらした顔をしながら、悠治は俺の方を見つめてる。
「なぁ悠治、これからどうする?」
「これから、って……?」
「俺は、これからも悠治と一緒に暮らしていきたいと思ってる、でも、悠治が嫌だったら、家を借りて大学卒業まで、位なら援助は出来るぞ?」
「……。悠にぃ、意地悪だよ……。わかってるのに、そんな事聞いてきて……。」
事実、俺は悠治の返答はわかってた。
ただ、もしも違ったら、と思って話を振ったんだけど、悠治にとっても、それは変わらないみたいだ。
「春ちゃんと綾ちゃんを呼んできて貰っていいか?」
「うん……。」
悠治は涙をきゅっと止めて、受付の方に行く。
「……。なぁ、浩介。これで良いんだよな……?」
涙が流れない訳じゃない、ただ、俺は泣いちゃいけない。
それは今じゃない、きっと、それは今じゃない。
わかってる、わかってるんだ。
「なぁ、浩介……。」
自分の感情、って言うのは、どうしたって抑えられない。
誰かの為に、なんて独善で生きてきたはずの俺だったのに、今は悠治の為にしっかりしなきゃならないはずなのに、感情がそれを許してくれない。
「俺……、ずっと……。」
一緒にいたかった。
ずっと一緒で、一緒にお爺ちゃんになって、悠治の子供とか、孫とかを抱いて、おじいちゃんって言われる様になって、なんて未来が待ってると思ってた。
でも、現実は惨酷だ。
浩介は逝った、呆気なく、こうもあっさりと。
「浩介ぇ……。」
独りっきりで、涙を流す。
浩介がいてくれたら、他には何もいらない、きっと何もかもが上手くいくと思ってた。
でも、違ったんだ。




