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真夜中のコインランドリー  作者: 夏目有也


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僕は穢れてしまった

 僕は穢れてしまった。金はないが、時間だけはある。大学の学生寮で自慰にばかり耽っていた。女の子の手を握ることすら叶わず、自分の股間ばかり握っていた。暇さえあればマスをかく悶々とした日々の中で、童貞のままではいられないという焦りが募っていった。取り残され、置いてけぼりを食らっているような感覚だった。

 焦りはあるのに、女子とまともに目を合わせて話すことすらできない。いや、むしろ焦っているからこそ、目を見れないのだろう。寮の友人に童貞ではないと嘘をつくのも疲れた。飲み会で猥談になると黙り込んでしまうのにも、もううんざりだった。


 機会が転がり込んできたのは唐突だった。ある女の子の弱みを握ったのだ。

 鬼のようなバイト連勤と、極貧もやし生活で貯め込んだ万札を握りしめ、僕はデリヘルを呼ぶことにした。散々悩んだ末に、同じ大学に通う水瀬(みなせ)に雰囲気が似ている娘を指名した。


 夏の夜、ど緊張しながらレンタルルームで女の子を待つ。血が出るほど歯を磨いたのに、口が渇いて口臭がする気がする。前髪の乱れが妙に気になる。

 ドアがノックされ、女の子が入ってくる。それは、紛れもなく水瀬本人だった。

 ドアの閉まる音がやけに乾いて響く。水瀬は僕を見て一瞬立ち止まり、おどおどとした様子を見せる。彼女は学内でもいつも困ったような顔をしていた。押しに弱いのだろうと感じさせる空気感があった。実家が貧しいらしい、という噂も耳にしたことがある。だからこんな仕事をしているのだろう。

「……あ、えっと」僕は口を開きかけたが、声が裏返って言葉にならなかった。表情から、水瀬も僕を認識しているらしかった。

 僕は湿ってくしゃくしゃになった万札を突き出すように渡した。


 彼女に性的な魅力を感じていたのはずっと前からだ。白い肌と豊かな胸。その胸は隠そうにも隠しきれず、男子学生の視線を集めていた。一度でいいから触れてみたい。そう願い果てた夜が何度あっただろうか。僕はもう後戻りできないほど勃起していた。

「大学では……秘密にしてくれる? ここで働いてること」彼女は小さな声で言った。

「秘密にしておくよ。その代わり……」


 自らの口から出た言葉は、今も耳の奥にまとわりついている。ねばねばとまとわりつくような、我ながら吐き気がする言い方。たぶん歯と歯の間に、唾液が糸を引いていたにちがいない。予約時には“本番強要はしてくれるな”と釘を刺されていた。ただ、そんなことはどうでもよかった。釘なら抜いてしまえ。ここを逃せば、もう次はないぞ。


 彼女からは甘い匂いがした。その夜、僕は童貞を卒業した。――そして、僕は穢れてしまった。

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