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愛され、恐れられよ。両方は無理なら、恐れられるのが望ましい。    

                 マキャベリ





ストラベリングスキーは、目の前の月から降ってきた男と形容されている男性の前にいた。彼は独特な風貌をしていて、他の人間とは違うと主張しているが、その主張がわかりやすいものではなく、仄かにだすようで嫌な感じはなかった。

ブラウンの髪色が風になびいている。緩いカーブをまとう眉の下にある青色の目は、澄んではいるがどこか遠くを見ている表情をしている。ひげは剃られていて、ゆるく笑みを浮かべた唇が弧を描いていた。

中肉中背で、少し猫背だが猫背に特有の野暮ったさはあまりなく、根暗でもなく、その性格はさばさばしていて、接していて気楽になるものがあった。


「ご飯は食べましたか?僕はまだ食べていないんだ。

トカジェフのとこで食べようと思って伺ったんだが、ないと言われてしまってね。」


目の前の男、ヴェルホーヴェンスキーはお腹を手で擦って言った。


「またお得意の無銭飲食ですか?」


ストラベリングスキーはニヤニヤしながら突っ込む。


「なんてこというんだ!お得意なもんか。

ただタイミングよく、ご飯を食べる時間になっちまうんだよ。こっちだって差し出すものがあるんだから、貰ってもいいだろうよ」


慌てた様子で反論したヴェルホーヴェンスキーだが、そう思われてもいいらしく、その後は弁解のようなことは一言も言わなかった。

と、そこへストラベリングスキーの恋人であるレイアが合流した。彼女はほかの男性から憧れられるほど美人で所作も美しく、性格もよかった。自慢の彼女が隣にいるだけで心強くなれた。だが、なんだか様子がおかしく、表情が暗かった。


「おはよう」


「おはよう!レイアさん、今日も美しいですね!

 僕はあなたを見るたびに元気をもらえますよ」


ニコニコと彼女を迎えるヴェルホーヴェンスキーも彼女が来た瞬間から一気に気分が上がったのがわかった。


「あなたはいつも優しい言葉をかけてくれるわね。

 おだて上手なんだから」


レイアが微笑む。心地よい声音が耳に優しく響く。


「こういう言葉がスルスル出る人というのはそんなにいませんからね。美人に美人というのは正しいことでしょう?それにしても、レイアさん。なんだか顔色が悪いように見えるのは僕だけだろうか?」


ヴェルホーヴェンスキーは、ストラベリングスキーを一瞥して問いかける様子を見せた。ストラベリングスキーも彼女の肩に手をかけて、心配して顔をつかんだ。嫌がる彼女だったが、「大丈夫か?」とストラベリングスキーが言うと、ぐにゃりと顔がゆがんでいきなり涙を見せはじめた。


「どうしたんだ?」


「何でもないの」


レイアがさっきから目が動揺したように右往左往して、ストラベリングスキーの目と合わせようとしない。涙がだらだらとその頬を濡らしていく。明らかに様子がおかしかった。

ヴェルホーヴェンスキーは慌てた様子をして、自分のポケットから青色ギンガムチェックのハンカチを出すと、彼女に差し出した。


「どうしちゃんだろう?君が何かしたんじゃたいのかい?」


自分たちの仲は良好なはずだ。彼女に嫌な思いをさせた気は自分の中では思い浮かばなかった。それでも、彼女からしたら嫌なことを自分がしていた可能性はある。


「なにかあったのなら、言わないとわからないよ。

 僕のせいで君を傷つけていたら謝る。どうしたんだ  い?」


レイアはそう言われるとじっとストラベリングスキーの目を眺めて、再び表情をぐちゃぐちゃに崩すと彼の胸の中に飛び込んで泣きはじめた。

ヴェルホーヴェンスキーはその様子を、口を開けて驚きながら眺めていた。


「キスされてしまったの」



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