サイレントナイト〜クリスマスにぴったりな北欧異世界召喚話
クリスマスにまつわる『奇跡』の話を集めた短編集です!
エピソード2は、家出同然に家を飛び出した少女が、5年後のクリスマスに北欧系異世界へ召喚されるお話です。そこには子供の頃手紙を書いて送ったサンタクロースが待っていました・・・
■BGM『Happy Christmas/John & Yoko』
ふう〜っ。(長いため息)
なにがハッピークリスマスよ。
クリスマスなんて大キライ。
街角は、ジングルベルの洪水でうるさいったらないし。
古い町並までクリスマスソング!?
雑貨屋さんのさるぼぼまでサンタさんの服着ちゃって!ふん!
カップルたちは、これみよがしに幸せを見せつける。
ぼっちの私とすれ違うときの、女子の勝ち誇った視線。
はいはい、どうせ私はクリスマスだというのに、ひとりぼっちですよ。
アパートへ帰ってもただ1人。
チャットで話せる友だちも、この時期は彼氏とクリスマス三昧。
私と話す余裕なんて、1ミリもない。
■SE/古い町並・靴音
酒屋さんで売れ残っていたシャンパンを買い、家路を急ぐ。
どこかでもらった、だっさいマイバッグをぶらさげて。
私の名前はエミリ(יִרְמְיָה yirm'yá)。
旧約聖書に出てくる預言者の名前をもじったんだって。
予言なんて今まで25年間の人生で一度もしたことないけど。
学生時代、テストのヤマさえあたったことないんだから。
部屋に帰ったらとりあえずシャワーを浴びて、小さなテーブルの前に体育座り。
丸いテーブルの真ん中には、シャンパンがどーんと鎮座している。
なんか、見たことのないラベルだなあ。どこの国のシャンパンだろう・・・
英語じゃないみたいだけど、joulun ihme(ヨウルン-イヒメ)?
・・・ってわかんないな。
変わったブランド。
ま、どうでもいいや、飲も飲も。
シールを剥がして口金をとって・・・
■SE/コルクが飛ぶ音「ポン!」
わ、びっくりした!
口金とっただけでコルクが飛んじゃった。
やっぱ、売れ残ってただけあって古かったのかなあ。
■SE/シャンパンを注ぐ音「トクトクトク・・・」
あ〜、芳醇な香り。
(一口飲んで)
ああ、美味しい。
誰が言ったんだっけ?クリスマスには奇跡がおこる?
ふん、そんなのあるわけないじゃん。
この町のクリスマスが奇跡にあふれたら私、すぐ北欧に引っ越すわ・・・
ん?あれ?
ちょっとさっきからなんにも音がしなくなってない?
このアパート、通りに面してるから、窓の外、いつも結構うるさいんだけど。
ってか、窓の外、ぼんやり明るい?
車のヘッドライトの反射じゃない。だって光が動いてないもん。
あ・・・なんか聴こえる・・・
■SE〜鈴の音
鈴の音?
■SE〜窓を開ける音
え・・・
窓の外なに・・・空に光の・・・カーテン・・・?
緑の光・・・
これってまさか、オーロラ?
■SE〜扉を閉める音〜階段を駆け降りる音
部屋を飛び出し、急いで外階段を駆け降りる。
はぁはぁはぁ・・・
景色が、一変していた。
ここ、どこ?
・・・高山じゃない。
こんなに雪積もってなかったし。
こんなに寒くなかったし・・・ハクション!
う〜めちゃくちゃ寒い。高山より10度は低いぞ。
空は夜も明けてるし・・・いや、違う違う。
これは・・・白夜?
初めて見るけど。
いったいどういうことなの?シャンパンの飲み過ぎ?
まだ1杯しか飲んでないじゃん。
はっ。
そうだ、鈴の音。
■SE〜鈴の音(小さな音で)
(耳をすまして)
向こうだ。
■SE〜雪の中を歩く音
暖かい山吹色の灯りと三角屋根。
もみの木の森。
白夜とオーロラ。
海外へ行ったことのない私でもわかる。
・・・ここは北欧の街だ。
なんで、北欧までテレポーテーションしちゃったかしらないけど。
引っ越す、なんて悪い冗談言っちゃったからかなあ。
鈴の音がだんだん大きくなる。
というか、私が鈴の音に近づいていく。
とつぜん、鈴の音が止んだ。
よく見ると、目の前は雪に埋もれた小さな家。
家の前に誰かが立っている。
こぶりな私より、一回り大きくて恰幅のいい・・・
赤いコートに白いひげ・・・
え、うそ・・・そんな・・・
『エミリ、よくきたね』
なに、これ?
まぼろし?
『まぼろしじゃないよ』
『わたしはJOULUPUKKI』
『英語名はサンタクロース』
サンタさん・・・え、なに?なに言ってんの、私・・・
『お手紙、ありがとう』
え?手紙?
『ちゃんと、届いたよ』
手紙って・・・
あ・・・もしかして・・・あのときの・・・
私が5歳のとき、サンタさんに宛てた手紙。
・・・思い出した。
”サンタさんへ。
大好きなパパとママがもっともっと幸せになりますように。
ずっと笑っていてくれますように”
『いつもパパやママのお手伝いをして、がんばったね』
うん。
でも私、5年前家出同然に飛び出してきちゃったもん。
それも1,600km以上離れた高山まで。
『大丈夫。パパもママも心はいつだってエミリに寄り添っているよ』
そんな・・・
そんなこと言われても・・・
わからない・・・
『エミリはどうなのかな』
私?
私は・・・
会いたい・・・
パパ、ママ・・・
『それなら大丈夫だ』
やだ・・・なんか涙出てきちゃったじゃない。
『エミリはとってもいい子だったから、ご褒美をあげよう』
『それが、私からのクリスマスプレゼントだよ』
『さ、もうおうちに戻りなさい』
帰る?どうやって・・・?
帰り道だってわかんないのに。
『トナカイはそのためにいる』
■SE〜鈴の音〜ソリの音〜吹雪の音
気がつくと私は、アパートの前に立っていた。
白夜もオーロラもなく、静かに粉雪が舞う。
あったかい・・・
高山ってこんなにあったかかったんだ。
おとぎ話のようなひととき。
たった数分間の出来事だったけど、私は決心した。
5年ぶりだけど、実家に帰ろう。
家出したときのこと怒られたっていい。
パパとママに会いたい。
思いを固めて、私の部屋を見上げると・・・
あ、そっか・・・電気つけたままだった・・・
さっき降りた外階段を今度は上がる。
■SE〜扉を開く音
しまった・・・鍵もかけずに出ちゃってたか・・・あれ?
ドアがゆっくりと開き、右から左へ風景がスライドする。
少しずつ現れる景色のなかで、丸テーブルに座っているのは・・・パパとママ。
2人同時に私を見つけて微笑んだ。
私も、瞳を潤ませながら微笑み返す。
ああ、今夜はもうなにもいらない。
クリスマスの奇跡をもう少しだけ、味わっていたい。
パパ、ママ、メリー・クリスマス。
読んでいただき、ありがとうございます!
よろしければ、ボイスドラマもお楽しみください!
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