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小説家になろう  作者: 藤咲一
私と小説
7/51

6 大晦日の神降ろし 下


 気が付けば、親指が動いていた。

 物語を紡ぐ。なぞる。打ちこんだ。

 設定に足りないところは付け足す。合理的に、だけど、大胆に。

「お、渋滞抜けるぞ」

 お兄ちゃんがそう言った時には、あとがきを打ちこんで投稿していた。

 題名は、私が付け足した設定……。



 渋滞を抜けるとスムーズだった。

 あっという間に駐車場に着く。だけど、伊勢神宮のすぐ傍じゃなかった。パークアンドバスライド――と言うらしい。神宮周辺の渋滞緩和が目的だそうだ。

 バスに揺られて、目的地へ。

 鳥居をくぐって橋を渡る。木々の茂る砂利の参道を進むと、すぐに人の波が見えた。

「げ、ここも渋滞か」

「仕方ないじゃない。いつもそうだよ」

 時間差で零れたお兄ちゃんと私の溜め息が白く広がる。少し上に昇ると、風にあおられ消えていく。それを横目に、私たちは最後尾に並んだ。

 ユニクロのダウンジャケットを着て来たけど、さすがに寒い。じっとしているから、余計にかもしれない。体の芯から冷えて、意識しなくても体が震えた。

「寒いか?」

「そりゃあね」

「だったら……」

 お兄ちゃんがそう言いながら、自分の革ジャケットを脱ぎ出す。それに私は半眼を向けた。

「いらない」

「おい。寒いんだろ」

「寒い。けど、いらない」

「俺が着てたやつだ。肌のぬくもりも……」

「残ってるなら、もっと嫌。それに、そんな恋人みたいな事誰がしてもらうもんですか。そっちのが寒い」

「そうか、わかった」

 お兄ちゃんはそう言いながらジャケットを羽織り直す。でも、目には何か企んでいるようだ。だから、私は先手を打つ。

「それもダメ」

「ぬおっ!? なぜだ瑞穂。なぜ言わせてくれない」

「どうせ、あれでしょ。抱きしめて暖めてやるとでも言うつもりだったんでしょ」

「して欲しいのか?」

「誰が!?」

「わかった。暖めてやる」

 そう言って、腕を広げるお兄ちゃん。バカですか? 変態ですか? こんな人が多い所で、妹に何をしようと!? これは最大の身の危険。後ろにも横にも前にも、人、人、人。必殺技を繰り出すスペースがない。だったら……

 軽く息を吐く。白くなった。そこで息を止め、握り締めた拳を繰り出す。

『瑞穂、百列拳!』



「見事だ、妹よ」

「ほら、お兄ちゃん。バカ言ってないで、前進んだよ」

 私の拳が何度か捉えた頬をさするお兄ちゃんを横目に、温まった体を軽快に動かしながら、私は前に進む。

 私たちが並んでいた列は、年越し参拝用の列だった。その列が動き出したと言う事は、もう、年が変わってしまったんだ。

 その時ふと、私の携帯が鳴った。と、思ったら、人混みの中から色んな音が流れ出した。まるで、秋に草むらで鳴く虫たちだ。と、そんな事より電話、電話。

 メールだった。

 千尋からだ。

“あけましておめでとう”だって。

 私も急いで返信しようとしたけど、“エラー”。通信状況が混雑しているんだって。

 そりゃぁ、そうだよね。ここで鳴る携帯だけでも、いったいいくつあるのか見当もつかない。むしろ、千尋のメールが届いた事が奇跡だと思う。

 このまま“なろう”にアクセスしようと思ったけど、無理だよね。また明日。その時まで、お休み。



 参道を突き当たり、そこを左へ。石段を登り、門をくぐると、そこが本殿だ。

 もみくちゃになりながら、お賽銭。そして、二礼二拍手一礼。お願は……ひ、み、つ。

 その後、帰り道でおみくじを引いた。

「おい瑞穂。どうだ俺は大吉だぞ!」

「私だって大吉!」

 互いに張り合った結果、お兄ちゃんはそのおみくじを枝に結んだけれど、私は財布にこっそりしまった。


『大吉――待ち人、来る。今年は良き出会いに満ちた年。自ら進めばさらに良し』


 その後食べた肉まんは大きくて、温かくて、美味しかった。

 今年はきっと、良い事があるなぁ。ふっふふ~ん。


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