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小説家になろう  作者: 藤咲一
私と小説企画
51/51

31 六月にある晴れた日

「待たせた、ね……」

 休日の図書館。それを背景に、待ち合わせ場所と指定した公園へ、陣内誠司がやって来た。朗らかな日和。差し込む木漏れ日。それに見合った、簡素でいて清楚な格好の彼。ギンガムチェックシャツに、ジーパンと淡いグレーのスニーカー。

 久しぶりに見る。ううん。初めて見る彼の姿だ。

「遅いっ! もう二十分も待った!」

 びしっと公園に設置されたポール上の時計を指差し、訴える。

「待ったって、言われてもさ、待ち合わせにはまだ五分弱の余裕があるんだけど?」

 文字盤を見上げ後頭部をぽりぽりと掻く陣内誠司。それに私は、慣れないミュールで石畳を踏む。

「余裕があっても、私は二十分まったのっ」

「はいはい。ごめんごめん。すいませんでした。お姫様……」

 そう言って、深々と頭を下げる彼。マキシ丈のワンピースを着た私がそんなふりふりに見えるの? レースボレロはちょっと私のイメージじゃないかもだけど。ティアラなんて乗っけてないし……、別に、そんなつもりでもないんだけど。

「お姫様って……、結局やるの? 罰ゲーム」

「まあ、一応ね、区切りみたいなものさ。僕のけじめと言ってもいい」

「そう。まあ、あなたがそう言うなら、それでいいけど」

 “涙の理由を聞かないで企画”――その結果は予定より早く集計され、結果も昨日の土曜日、発表された。この流れから言って、優勝したのは私……。と、言いたいところだけれど、そんな上手くいくわけがない。

 優勝は、中村ミヤコさんだった。

 そして、ミズホさん。と、ザンジバルさん。

 ん? って疑問符が飛ぶかもしれないけど――



[鈴音です。さて皆さま、企画お疲れ様でした。予定より幾分早く集計結果が出ましたので、発表させていただきます。

 人気投票の結果、第一回涙の理由を聞かないで企画優勝者は、この方“たち”――って、どうして同率一位を予想できなかった……。ダメダメだな私。しかし、皆さまの作品は、私個人的に甲乙つけがたいすばらしい作品だったと思います。

 特に、優勝された御三方の作品は、それぞれ特徴的でありつつ、それでも読者をぐいぐいと引っ張って行く作品でした。涙の理由を切実に描かれ、ハッピーエンド、バッドエンド、読みようによってのマルチエンドと、読み応えがある。

 結果論ですが、票が割れるのもしかたないかな。っと、自分の浅はかさを平謝りしつつ、お祝いの言葉とさせていただきます。

 優勝者の皆さま、おめでとうございました。

 なお、次点は山咲真さん。まさかコメディーで涙? 異質な作品として注目された方もおられるかもしれませんけど、内容的には“涙の理由を聞かないで”そのものであった気がします。詳細は感想欄へ書かせていただいていますので、そちらを参照していただければと思いますが、何より、読後感がいい。青春万歳でしたね。

 さて、本来ならば総評として、全ての作品について書きたいところですが、さすがに長いと割愛です。ごめんなさい。

 最後に、今回の企画運営に関しまして、いくつもの制約の中で素敵な作品を書いて下さった書き専の皆さま、さらに、電光石火で感想・投票をしてくださった読み専の皆さま――皆さまのお陰で、“涙の理由を聞かないで企画”は大成功でした。

 私ひとりでは、こうはいかなかった事でしょう。重ね重ね、御礼申しあげまして、閉めの挨拶とさせていただきます。

 本当にありがとうございました]



 なんて結果だった。まあ、一応、順位的に私が陣内誠司との勝負に勝った事になり、罰ゲームは陣内誠司って事になった。けれども別に、私としては、勝負とか罰ゲームなんて、もうどうでもよくて――。

 でも、彼の提案で、休日一日付き人をしてくれる事になったわけだし――。

 だから今日、ここで待ち合わせしたのだけれど――

 これってさ……、やっぱり……、デート、だよね?

 まばたいて、彼を見ると、「さて……」と、口が動いた。

「じゃあ、どうしようか? どこへ行く?」

 そう言われても、特にこの先の予定が決まっていた訳じゃない。とりあえず待ち合わせ。そのための準備。それだけで精一杯だった。ってか、私が考えなきゃいけなかったの?

「え? ノープラン? ちょ、ちょっと、普通あんたが考えてくるもんでしょう? 私をエスコートするんだったらさ」

「いや、君が行きたい所についていこうと思ってさ」

「私の行きたい所って、いきなり言われても特にないんだけど」

「え? ないの? どこも?」

「うん」

「困ったなぁ。てっきり君は、色んなところを知っていて、遊び歩いていたと思っていたんだけど」

「あのさ、何よその言い方。聞こえが悪いんだけど。私が遊んでばかりだったと思ってんの?」

「違うの?」

「違わないけどさ、男の子と行くところなんて、知らないし」

「僕だって女の子と行くところなんて知らないよ」

「でも、何かないの? ほら、例えば映画とか……」

 「映画か……」と彼は少し考え「いいね。それにしよう」と、適当に言った映画案へ簡単に決済を降ろした。

「ええ? それでいいの?」

「嫌なの?」

「じゃないけどさ……」

「じゃあ、決まり。とりあえず行こう」

 そうとだけ言って、いきなり踵を返す陣内誠司。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよっ!」

 すたすたと先に行ってしまう彼に、慌てて駆けだす。ミュールってさ、思ってたより走り辛いんだけどっ!

 こうなったら、背中に一撃――、右手を振りかぶり、射程にとらえた!

「待ちなさいって――」

 言ってるでしょ! って、叩こうとした瞬間、躓いた。それに合わせて、陣内誠司が振り返ると、バランスを崩したスローモーションの中で目が会う。そんな私を受け止めようとする彼がすぐそこに見えた。けど、ミュールじゃすぐに止まれないっ!

 嘘っ!? このままじゃ――刹那に過ったべったべたなシュチュエーション――それは……。


「ぐはっ!」

「痛ったー」


 決まってしまった。見事な私のロケット頭突きが……。

 もしこれが、少女漫画だったりしたら、倒れ込んだ拍子にキスとかしちゃうんだろうけど、現実は、そうはいかないのだよ。諸君!

 それでも――倒れながらでも彼は、私を抱きとめてくれた。痛みにうめく陣内誠司の腕の中で、もう少しこのままでいたいと思ったのは、私だけの秘密だけど、ね。



 とか、まあ、なんだかんだこんな感じで、滞りなく今回の企画は終了した。

 でも、余韻はまだ残っている。終了してもなお掲示板に続くそれぞれの声。第二回を希望したり、作品についての裏話をしてみたりの中で、参加者みんなが入り乱れた相変わらずの展開。

 鈴音さん。黒ヤギさん。中村さん。ザンジバルさん。大江山さんに、川村さん。いみそーれさんと――そして、ミズホさんや読み専の人も。

 もちろん、その中に私はいたし、陣内誠司もいた。

 顔を知った相手の前で色々と曝け出すのは恥ずかしいのだけれど、そこんところは場の空気だとと思うし、それはそれで“逆”に面白い。

 それに、同じ趣味や目的を持っている人たちと交流できるのだって、嬉しい事だと思う。

 なかなか小説を書いてる事って、きっかけがなきゃ曝け出せないと思う。

 もしかしたら、小説を書いているけど口に出さないで、じっとひとりで書いている人もいると思うんだ。

 でもさ、ひとりっていうのは限界があると思う。オリジナリティーとか、技術とか、そういったものじゃなくて、小説っていうのは相手が必要なんだと思う。

 私の言葉を聞いて、応えててくれる人。何かをするために、何かをする事に、何かを気付かせてくれる存在。

 それは相談相手とか、ライバルとか、読者だったり……。

 そういった人たちと、小説を書くことで、少しだけでも思いが繋がれるんだと思う。それが“なろう”にはたくさんあるんだ。

 例えて言うなら、私が参加した企画だったりね。


 でもまあ、繋がりを持つって事は、何かのリスクを負うものかもしれない。規定だったり締め切りだったりと、苦しい事もあったけど、それら全部ひっくるめてさ――


 企画って、ホント楽しいよねっ!



 【小説家になろう――第二部[私と“なろう”]――完】


 読了ありがとうございました。藤咲一です。


 途中、予想通りと言うか、危惧していた通り連載が滞ってしまい、申し訳ありません。この場をお借りして、お詫び申し上げます。


 ごめんなさい。でした。


 さて、あとがき。

 この物語は、第一部の続編です。第一部で「小説って何ぞや?」をやりましたので、第二部では、「小説家になろうにおいての、小説を書く努力について」を書いたつもりです。

 そのため第一部と重複している部分もあろうかと思いますが、まあ、それはそれ。少し掘り下げたみたいになりましたから、OKかなって、思ってます。

 そんな第二部ですが、更に内部でふたつに分かれてます。新しく搭載された章管理をやってみたかったってのがあったからなんですけど、ね。


 嘘です。


 小説家になろうの中で、今回ピックアップしたのがふたつあって、それに瑞穂を絡めると、すんごく長くなった。それだけの事です。

 それなのに、ここまで読んでいただいて、本当にありがとうございます。

 無条件で万歳三唱、小躍りです。ちゃんか、ちゃんか、ちゃんか、ちゃんか~♪


 さて、私の小躍りなんて想像したくもないでしょうし、今回はここで幕引きです。

 こんなにも偏った内容の物語を、ここまで読んでいただいただけで幸せ。さらに何かを感じていただけたり、考えていただければ、私はとっても幸せです。

 では、またどこかでお会いできることを夢見ながら、ここいら辺りで筆を止めます。

 ありがとうございました。


一月某日

藤咲一


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