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小説家になろう  作者: 藤咲一
私と小説企画
47/51

27 リライト


 現実に戻ると画面に並ぶチャットのログが、かなりの時間止まっていた。

[ミズホ:あれ? 山咲さん? 寝ちゃいました?]

 この書き込みが三十分前――それ以降は、なし。って事は……。

 ああっ!? 小説の構想を練ってたらミズホさんを置き去りに……。

 慌てて文章を打ち込む。けれど、間に合わなかった。長文を途中まで打ち込んだ所で、ログが更新される。

[ミズホ:夜も更けてきましたからね。他にどなたも来られない事ですし、私はここら辺りで失礼します。それでは、おやすみなさい]

 せめてあと少しだけ待ってください。って、とりあえず、私が起きている事を伝えなくちゃ。

[山咲真:ああ、すいませんミズホさん。少し考え事をしていて]

[ミズホさんがログアウトされました]

 浮かぶ上がったログアウトの文字――ああ……。間に合わなかった――でも、ミズホさんにお礼だけは……。

[山咲真:ごめんなさいミズホさん。今日はとても楽しかったです。相談に乗ってもらって、アドバイスも嬉しかったです。もし、またお話しできる機会があれば、よろしくお願いします。それでは、ありがとうございました。おやすみなさい]

 もしかしたらミズホさんの目に留まらないかもしれない。けど、ミズホさんの言葉のお陰で私は、企画作品として投稿する小説の意味合いが整理できた。だから、リライトを決めた。もし、今日ここでミズホさんに出会っていなければ、私はどうなっていた事だろう。

 考えたくはない。まだ可能性としては残っている事だし。そうならないためにも、ミズホさんへの感謝の意味もこめて、私は、企画小説を、書き上げるって決めた。

 ブラウザウィンドウのバッテンで閉じると、代わりに“なろう”の執筆フォームではなく、デスクトップのショートカットから“一太郎”を選択しダブルクリック。

 たまたまこのパソコンにインストールされていた“一太郎”。以前、何だろうと開いてみたら、文章作成ソフトだった。オフィスのワードとほぼ同じなんだけど、こちらはワードとは違って、日本語に強い。エイトックもあるし、なによりワードみたいに、途中で段落分けをした際、文頭のひと升開けがちゃんとできてないって事がない。これに関しては私がやり方を知らないだけかもしれない。でも、エイトックの変換は秀逸だ。楽ちんだ。

 だから、私の最速最終兵器“一太郎”起動!



 まず私は物語の背骨を書いた。冒頭から最後まで――それを一気に。これが主旋律。ぶれさせてはいけない所。私が書きたい事だ。

 そして次に、登場人物ヴォーカルの輪郭を引き、主旋律に厚みを持たせる設定ベース背景ドラムスを重ね、抑揚ギターに指揮棒を振る。

 こんな感じに例えるなら、短編はオーケストラじゃない。バンドだ。楽器は限られているけど、オーケストラに負けない音楽だって奏でる事ができる。私の知る限り、ギーちゃんの音楽は、オーケストラに負けない。

 要は見せ方。書き方。奏で方だ。

 私は、私の小説で歌う。指揮棒を振りながら歌詞テーマを歌う。

 作詞、作曲。それができて草稿。もちろんタイムランは間違えない。間違わない。

 何度もリピート。ワントラックリピート。

『とても楽しい音。私も歌えるかな……』

 背後から聞こえた声へ肩越しに振り返ると、ディスプレイを覗きこむ“私”。

 この小説を彩るヴォーカルは四人。双子の少年――相沢恭介あいざわきょうすけ相沢亮輔あいざわりょうすけ。渦中の少女――樋口紀美子ひぐちきみこ。そして、もうひとり――西園恵美にしぞのめぐみ

 っと――でも、メインヴォーカルは私だよ。つまりは純粋な三人称って事。だから――

「歌えるに決まってるじゃない。それに、聞きたいかも、あなたの歌声」

『そ、そう? じゃあ……、もう一回、頭から、いい?』

「うん。OK」

 そう言って、私はスクロールバーを一番上へ戻し、細部の確認と調整、いわゆる推敲へ。

 画面をスクロールし始めると、脳内で私の声がリズムを刻みながら、歌詞を歌いあげる。

 メゾピアノからフォルテ、カンタービレ。少しトーンを落としカンタービレ! って、ほとんどカンタービレじゃない。

『良いんじゃない。別にさ』

「いいかなぁ?」

 そう言って向けた視線に、“私”は快活に笑う。

『歌っていて楽しかったもの。それが一番だと思う』

 それに私は同じ笑顔を返した。

「かな」

『まったく、私にはあなたの力がわからないわ』

「それって褒め言葉だよね」

『ええ、それ以外にないわよ。ホントに……』

「じゃあ、今日はこれでお終いにする。また、明日からギリギリまで推敲しなくちゃだね」

『そうね。無理をしてもいけないわ。それに、推敲は時間をおいて繰り返すべきだものね』

「一晩おいたカレーが美味しくなるように?」

『そう言う事よ。彼もそう言ってたし……、時間は有意義に使わないとね』

 陣内誠司――

「……うん。わかってる」

『どうしたの? 浮かない顔して?』

「でもさ……、どうしてあいつあんな事言ったんだろう……」

『それは、甘っちょろいって言った事? それとも、それより少し前の言葉かしら?』

 そう言って肩をすくめてみせた彼女の言いたい事は、だいたいわかってる。けど――

「でもあいつ、私に感想をくれた人たちをバカにした」

『バカにした。かもね……』

「かも? って、絶対よ」

『言っとくけど、この世に絶対なんてないわ』

「バカにしていないって言うの? あれだけの事言って」

『ううん。あなたがそう感じたのなら、そうなのよ。けど、“私”はそうは思わなかった』

「どうして? あなたは私でしょ?」

『そうよ。だからあえて言うわ。人が言葉から感じる事なんて、人それぞれ。言葉を発する時も同じようにね。そして、同じ人であったとしても、時期や経験によって違うものよ――』

 途中で区切られ、生まれた沈黙。その向こう側には、複雑な色を灯した“私”の瞳があった。それが瞬くと、続く言葉。

『そして私は、あなたの中において、恐ろしい程現実的で、客観的な思考を受け持っている』

「どういう事? 意味わかんない」

『つまり……、あの時のあなたは、冷静だったと言えるのかしら? ざらついた感覚に、焦っていたんじゃない?』

「それは……」

 そうだと思う。陣内誠司が言った言葉に私の心はざらついた。信じていたのにと、裏切られた気持ちになった。

『でも、良く考えてみて、彼が批難していたのは、彼自身じゃない? 甘っちょろい感想を書いてしまった自分がいると、そう言っているんじゃなくて?』

「けど、もしそうだとして、どうして、あんな事を言ったって言うの?」

『どうして彼があんな事を言ったかなんて、本人しかわからない事。だから、憶測でしかないけれど……、彼の中で、自信が揺らいでいたんじゃないかしら? だから自分の意見が、全てが全て正解でないと言った』

「自信……」

『そう。例えば、彼の書いた小説がコテンパンに批判された。もしくは感想が――とか?』

 確かに彼は、小説に対して怖いくらい真っ直ぐに突き進んでいる気がする。私とは少し違う道を、ずんずんと――けれど、言葉は辛辣で、そっけなくて、耳の痛い事をズバット言う彼が、同じ言葉を向けられて、へこんだりするのだろうか? どんな批判だろうが酷評だろうが、糧になったと、今後の参考にする彼が――

「そんな事で、陣内誠司が、弱っていたって言うの?」

『あくまで可能性としてだけどね……』

 だとしたら――私……、最悪な事言った……。


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