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小説家になろう  作者: 藤咲一
私と小説企画
44/51

24 立ちはだかったのは自分


 私は、私の部屋で、私の机に頬杖をつきながらぼんやりと、パソコンのディスプレイに映る文字数を見ながら、溜め息を零した。

 企画の文字数制限に向けて、ダイエットさせるはずだった小説。できると思っていた。簡単だと思っていた。

 けど……。

 (空白・改行除く)14997文字。

 溜め息だ。

 ホント、全然削れなかった。できた事って――句読点減らして、長い横文字を代名詞に変えて、ひらがなを漢字にまとめ、接続詞を削ったくらい……。

 それで打ち止め。

 けど、それでもまだ削らなきゃいけない文字は、約五千文字。文字数的に見ると、私の考えたストーリー、それの三分の一を削らなければいけない事になる。

 何をどう削ろうかと、もう一度私の小説を読み返した。

 簡単な構成はこんな感じ――

 起で演出したのは、事件の提起と簡単な登場人物紹介。

 承は、主人公への感情移入。

 転で、主人公を追いこんで一度泣かせて、ラストを強調しようって考えた構成なんだけど……。

 感情を盛り上げて、最後の最後で主人公の少女が、うれし涙を流すのだ。だから、どれかを削ってしまうと歪になるし、主人公の感動が薄くなってしまう気がする。読みやすさからすると、文章でつくった間の取り方も演出として削れないし――

 なんて……、実際そこまで考えた訳じゃない。分析するみたいなそれっぽい事じゃなく、私が構成や文字を削れない理由はもっと単純だった。

 もし、どこかを削ってしまったら、私の書きたいものじゃなくなってしまう気がして……。ううん、違う。私が読みたいと思う、面白いと思える物じゃない気がしてしまうのだ。

 でも、それじゃあダメだって時間をおいては何度も、何度も見なおしたのだけれど、それでも至る結論は、一緒。

 逆に、読めば読むほど、削れる所がないと思えてしまう。

 何をどういじっていいのかが、自分でわからなくなっていた。

 わからなくなって、焦って、書き変えては消して、戻して、また書きなおす。そうやって悩んでいる間に、時間はあっという間に過ぎてしまった。パソコンで文字数のダイエットを決めてから、ほとんど何もできないまま、もう二週間が過ぎようとしていた。

 だから、溜め息。

 もう、締切りまで一週間しかない……。

 ほったらかしだったディスプレイの表示が、スクリーンセーバーに変わる。

 黒い背景に白い明朝体の文字。縦書き横書きが混じる文字列。エヴァのタイトルみたいな画像が、スライドショーで流れ始めた。

[ヘルメットがなければ即死だった]

 まあ、中身はお兄ちゃん自作のガンダム語録なんだけど……。

 それはさておき、私は机の上に置いていた携帯電話を手に取る。もし、彼ならば――陣内誠司ならばどうするのだろう? 何を優先して、何を切り捨てるんだろう?

 思い浮かぶ彼の顔は、今日も、“次に会うのは、結果が出た後だ”と言った、その時の――どこか冷たい表情のまま――

 あれからずっと、陣内誠司とは顔を合わせていないし、企画サイトでも言葉を交わしていない。メールも、メッセージでのやり取りも、全然なかった。有言実行と言うか、偶然も必然に変えてしまっているくらい、陣内誠司は私の前に姿を見せないでいた。

 学校で一度、図書館を覗きに行った事もあるけど、そこにも陣内誠司の姿はなかった。夕焼けの斜光が入る図書室は静かで、がらんとしていて、とても寂しい感じがしたのを覚えている。

 ふと私は携帯を開いて――

 ――やっぱり閉じた。

 ああ、今日もまたダメだ。推敲できそうにない。

 そう思うとズンってのしかかる圧力。潰れてしまいそうな感覚をほぐしてくれるのは、笑いの生まれる、あの賑やかな掲示板。

 そうだ。企画サイトへ行こう。

 マウスに触れる。ディスプレイに浮かんでいた[悲しいけどコレ、戦争なのよね]が、スウと消え、執筆フォームが白く輝いた。

 一応上書き保存し、トップへ戻る。

 そしてインターネットエクスプローラーでお気に入り登録した“涙企画”のサイトをポインタで呼び出し、クリック。

 鈴音さんが作ったサイトが、ポンと表示される。

 [締め切りまであと、8日]から目を逸らし、雑談掲示板へ。

 相変わらず、賑やかだ。一昨日覗いてから、[雑談7]と、またひとつスレッドが増えていた。最後に見た所から私はスクロールで会話を追っていく。

 もうパターンなのかもしれないけれど、大江山さんや鈴音さん、中村さんがムードメーカーで、いつも楽しそうにしている。時折黒ヤギさんが、合の手と言うか、一言を挟む感じ。

 ザンジバルさんとか、いみそーれさんもよく書き込みをされていた。

 もちろん私も、少しずつだけど、書きこんでいる。

 前回の書き込みで、ガンダムの話題を少し書いたら、ザンジバルさんからの反応があった。やっぱりガノタさんで、なんだか嬉しかった。

 他にも色々と何気ない言葉が飛び交い、それぞれの参加者さんに対するイメージ像が固まりつつある中で、まだ、書き込みをされていない人がいた。

 それは、ミズホさんだ。

 安藤一樹(陣内誠司)でさえ、挨拶にと一度だけ顔を出している。

 でも、ミズホさんは――

 と、新しいスレッドに移動しスクロール。最後の最後、最新の書き込みを見た瞬間、私の胸はドキンと跳ねた。

 ミズホさんだ!

[ミズホ:皆さま初めまして。ご挨拶が遅くなって申し訳ありません。この様な素敵な企画へ参加できる事ができ、私自身、身の引き締まる思いです。リアルの関係上なかなか顔を出す事ができないかもしれませんが、仲良くしていただければと思います。チャットルームもあるとの事でしたので、今日、そちらにも顔を出させていただこうと思います]

 え? え? マジで? これっていつ書き込み? 昨日じゃないよね。

 慌てて書き込み日時を見ると、今日の午後八時十二分。

 んで、今は、八時十四分!

 もしかして、もしかして、今、チャットルームにミズホさんがいるの? ホントに?

 居てもたってもいられず、私はトップ画面に戻り、チャットルームへのショートカットをクリックして――飛んだ。


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