22 企画サイト始動
私の部屋、私の机、私の椅子。そして、私のパソコン!
インターネット回線の設定も終わり、ドンと机の上に鎮座するデスクトップパソコンについついニヤッとしてしまった。
どうして、私の部屋にパソコンがあるかと言うと、どこぞの変態お兄ちゃんから巻き上げたからだ。っと、そう言ってしまうと、聞こえが悪いので言いなおすと、つまり、損害賠償で示談という事。って言うか、まあ、お兄ちゃんが新しいノートパソコンを買ったとかで、今まで使っていたデスクトップを貰い受けたんだけどね。
で、全てのデータの移動が終わり、事件から三日後の今日、土曜日の朝に私の机へ設置された。うえるかむ、パソコン。
「設定は終わったから、後は俺の部屋と一緒の使い方でいい。ソフトはほとんど消してあるから、必要な物があったら、適当にインストールな」
お兄ちゃんが振り返り、ウィンドウズのディスク入りプラスチックケースを私へ渡そうとしながら言った言葉に、私は掌を振った。
「大丈夫、たぶん使わない」
「使わなくても保管しとくもんだ」
「それだったらお兄ちゃんが持っててよ。私使い方分かんないし」
「俺が居なかったらどうすんだよ?」
「帰って来た時にやってもらう」
そう言うとお兄ちゃんは少し困った顔をして、唸り「じゃあ」と切り出す。
「とりあえず机の引き出しに入れとくぞ」
そう言って、引き出しを開けて入れた。まあ、いいか。
「それじゃあ、お兄ちゃん」
「ん?」
「出てってくれる」
「久々に中へ入れてくれたと思ったのに、もうか?」
「出てって」
ギッと睨んだ。今までだったらそれで終わらないんだろうけど、アレの後だ。しぶしぶお兄ちゃんは「わかったよ……」と不満げに出ていく。
それを追って、お兄ちゃんが自分の部屋へ戻るのを見届けた後、部屋の扉を閉めて、鍵もかけた。
よし、これで完璧。
ひらりと返し、パソコンの前へ。座る前に電源をポンと押しこみ、座ってマウスに手を添えた。
さくさくポンっとパソコンが立ちあがり、ディスプレイに画像が浮かぶ。
実を言うと、企画用に執筆した小説を携帯で何度か推敲をしたんだけど、ポチポチ直している内に、気が付けば文字制限である一万文字をあっさりと超えてしまって、一万五千に……。
でもねぇ、元々、書きあげた時点で一万文字を超えていた気もする。まあ、その、どちらにしても、規定文字数まで削らなくちゃいけない。それって携帯だと、とってもやりにくい。編集もそうだけど、とってもやりにくいのだ。
で、今回、パソコンも手に入れた事だし、休みだし、一気にやってしまおうという計画なのだ。誰にも邪魔されず。推敲を遂行します。なんて、ねぇ。
そんなこんなでお気に入りから“なろう”へ接続、そして、マイページへ行くと、画面の隅で赤い文字が浮かんでいた。
「新着メッセージがあります?」
読み上げると、脳裏に陣内誠司の顔が浮かんだ。正直、“なろう”内のメッセージと言えば、彼しかない。まったく、顔を合わせないようにと言いながらも、メッセージを送って来るなんて、一体、なんと書いてあるのだろう。もしかして、[ゴメン]とか……。
マウスポインタを動かして、ポチポチっとダブルクリック。すると私のメッセージ受信箱に。
けれど、新着と表示されていたのは、想像していた物ではなかった……。
[涙の理由を聞かないで企画、参加者の方へ]
そう題されたメッセージは、企画を立ち上げ、サイトを管理する鈴音さんからの物だった。
[鈴音です。この度、私の提案にご参加くださりありがとうございます。今朝、募っておりました募集を締め切りまして、参加者様の名簿が完成いたしました。詳しくは、当サイトまで。また、サイトの方も、工事中でした各種掲示板も運用を開始いたしましたので、ご挨拶や、意見交換などにお使いください。それでは、締め切りまで三週間ちょっと。執筆、よろしくお願いいたします]
メンバーが決まったんだ。と理解しながら、鈴音さん宛てへ簡単に返信文を作り、送信。
とりあえずまだ締め切りまでは三週間もある。推敲は少し後回しにして、サイトがどうなっているのか見に行こう。って、メッセージの最後に記載されたURLでれっつサイトへ。
サクサクっとウィンドウが切り替わり、ディスプレイに広がったサイトトップに私は思わず声を上げてしまった。
「すっごーい。鈴音さん凄いよぉ」
準備サイトの頃とはだいぶ印象が違う。もしかしたら、携帯用とパソコン用でデザインが違うのかもしれないけど、水色の背景にイラストや飾り付け、[締め切りまで、あと25日]なんてカウントダウンもあったり、その他もろもろ本格的だった。
こういった事ができる人ってホント尊敬してしまう。私なんてパソコン触っても文章を打つだけで、それだけだもん。文章も書けて、イラストも描けて、サイトも作れて、企画の運用だなんてカッコよすぎる。きっと鈴音さんは年上の人で、パンツスーツが似合って、ちょっと釣り目なの。で、問題があってもサラリと解決しちゃうデキル人。うんうん。きっとそうに違いない。
って、逸れた逸れた。
そんな鈴音さんが纏めた参加者名簿を覗く。と、五十音順に参加者の名前が並んでいる。私と同じ書き専で参加する人は八人らしい。名簿トップに書いてあった。で、上から見ていくと[安藤一樹]がある。これは、陣内誠司のペンネームだ。負けちゃいけない相手。負けられない相手。それを睨み、プイっとスクロール。
その下に[いみそーれ]さん。[川村美絵子]さん。
あ、川村さんって、この人、私が感想依頼をした時に、優しく指摘してくれた人だ。こんなところで会えるなんて運命かも。どこかでまたご挨拶しなくちゃ。
で、その次に[黒ヤギ]さん。[ザンジバル]さん。
ん? ザンジバルって、もしかしてこの人、ガノタさんじゃ……。って、わかる私もガノタさん。ですね。はい。
そして、[中村ミヤコ]さんと――
嘘っ!? ホント!?
「ミズホさんがいるっ!!」