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小説家になろう  作者: 藤咲一
私と小説企画
38/51

18 対立 上


 陣内誠司が言う企画とは――ジャンルやテーマ、縛りなどのルールを設定し、その概要に沿って作品を仕上げ、みんなで評価し合おうというもの――言ってしまえば、実力テストなのだと。

 でもどうして? 私にそんな事を言うのだろう? せっかく時間ができたんだ。プロットどまりの構成を、物語にしようかと思っていたのに。

「ねえ、どうして企画なの? 普通に書いちゃいけないの?」

 そうやって向けた視線に、陣内誠司は自分の携帯をしまいながら、軽く笑った。

「好き勝手に書く事は、いつでもできる。でも、色んな人と、頭を捻り、競い合う事なんて、そうできたもんじゃない。それに、高確率で感想がもらえる」

「感想が貰えるのは嬉しいけど、それだったら感想依頼をすれば……」

「まあね。ただの感想だったら、それでいいかもしれない。けど、企画って言うのは、説明したとおり、ある種の束縛の中、互いの作品を読むわけだ。つまり……、わかる?」

「わかんない」

 と、軽く唇を鳴らした私に、陣内誠司はひとつ瞬き喉を鳴らす。

「感想が、企画概要に沿って来る。って事さ。作品を、作品として、見られるわけだ。専門的に掘り下げたり、他作と見比べるのも容易だし、同じ土俵で見る様々な感性に触れるのは、ひとりでは成し得られない経験を生む」

「つまり、ひとつの事柄を、多角的に見ようって事?」

「要約するとその通りだけど、ちょっと言葉が違うかな」

 今度こそ的確だったと思ったんだけど、ニュアンスでも違った?

「どう違うの? これが正解でしょ」

「違うよ。ひとりで多角的に見るって事には限界がある。つまり僕が言いたいのは、そういった創作仲間と切磋琢磨しようって言っているのさ」

「創作仲間って、陣内君が居るじゃない? ちゃんと私の作品に厳しい感想をくれるし……」

 ちゃんと、私を見てくれている。小説を通じて、私の言葉に耳を傾けてくれている。なんて続けられるほど、私はまだ強い訳じゃなかった。だから、前髪をくるくるといじるだけ。

 でも彼は、深く息を吐きだしたかと思うと、首を横に振った。

「僕だって万能じゃない。僕の言う事が全て正解じゃない。その事に、気付いてほしい」

 なぜだか一瞬、嫌な予感がした。なんだろう。心がざらつく。

「へ? どういう事?」

「それは……、その。何と言えばいいかな――」

 思考が纏まっていない。だったら、やっぱり、そうなのだろうか。私は無意識に息を呑んだ。

「普段の君を知っているから、僕は、ある程度厳しい意見を言っていたとしても、厳しくない事を言っている可能性がある」

 え? あれで厳しくないと? どの口が言った?

「それはない」

 って言うと、陣内誠司は眉根に触れ、私を真っ直ぐに据えた。

「僕は君を知りすぎている。贔屓はしていないつもりだけど、やっぱり、君の作品だと思うと、無意識の内に君の影が浮かぶ。君に自分を重ねて見てしまう。だから、そこまで厳しい事を言えていないかもしれない」

 言い終わり伏せられる目。けど、彼が言う事は私にとって大切な感想だ。

「でもさ、それも嬉しいよ。自分を見てくれているって思えるのは、“なろう”では求めて書かれる事柄じゃないかな?」

「だとしたら、やっぱり、その中でついてくる感想は、単独としての作品ではなく、作者含みの作品となっている可能性が高いって事じゃないかい?」

「感想が、優しくなってるって事?」

「純粋に、作品だけに向けられたものではないって事」

「でも、それだって問題はないんじゃないかな?」

「それだけじゃなければね」

「な、何よ。それだけって」

「君への感想。はっきり言って僕ばかりじゃないか。後は、感想を書いたお礼にと書かれた物ばかり。その中に、どれだけ自由な意見があると思う」

「わかんないじゃない。そんなの。私に感想をくれた人たちはちゃんと読んでくれたんだよ。それを悪く言うのは許さない」

 作品を読んで感想を書く。それがどれだけ大変な事か私は知っている。どれだけ苦しい事かも知っている。悔しいけど、自分の作品にほとんどアクセスがないのも知っている。けど、その中で、ちゃんと感想までくれた人たちを悪く言うのは、例え、陣内誠司だって、私は絶対に許さない。

「悪く言うつもりはない。けど、君に感想をくれた人は間違いなく感想を通じ君を知っている人だ。僕と同じ様に甘くなっている可能性だってある。だから腕試しをして、今の実力を計ってみないかい?」

「それは、もらった感想を疑えって事?」

 もう私には彼が何を言いたいのかわからない。どうして、相手の気持ちを無下にできるって言うのか、私にはわからない。

「疑うんじゃない。たくさんの意見を求めようっていうのさ。今募集されている企画じゃ、誰とは言わず、読み人を募っているものが多い。そこで読み人として来てくれる人は、少なからずとも厳しい目を持っているだろうからね。同じテーマで綴られた作品を見れば、比較もされる。たぶんシビアに。だから、そういった企画上であれば、甘っちょろい――」

 言わせない! 振り上げた右手。

「許さないって、言ったでしょ!」

 乾いた音をたて私の平手が、陣内誠司の眼鏡を弾き飛ばした。あの後どんな言葉が続いたとしても、同じだ。私は手を出していたと思う。

 我慢、できなかった。


えっと、ストックが切れてしまいました。って事で、ここから不定期連載に切り替わるかもしれません。ごめんなさい……。

できる限り、今まで通り週一更新を目指します。はい。

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