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小説家になろう  作者: 藤咲一
私と“私”
30/51

10 対面する問題点


「つまり、言葉が選びきれないってことじゃないかな? 宮崎さんは、そういった所、敏感そうだから。相手がどう思うとかの想像が先に来てしまうとか? そんなことない?」

「え?」

 何でわかるの? そうやって見返した彼の表情はなんだか少し、嬉しそうに見えた。

「図星かな?」

「そ、そんなんじゃないと思う」

 慌てて否定したけど、真っ直ぐ向けられた陣内誠司の目に、私は視線を逸らしてしまった。

「ま、いいけど。でも、君にはそれを過大に考える虞があると思う。特に、言葉選びにはね」

「ど、どうしてよ?」

 そうやって向けた疑問に、彼の口から疑問符が飛んだ。

「どうして? って、君が言った事だよ――“相手を見て言葉を選ぶ”。初めて感想について言い争った時、君が言った言葉だ。それには妙に迫力があった。それを大切にしなくちゃいけないって、君が思っている証拠だと思うけどね。だから君は感想で言葉を選ぼうとする。例外のように僕相手だと、選んでないみたいだけど……」

 そこまで言って、陣内誠司は頭を掻いた。

「だから、感想が書けないんじゃないかな? 後輩の作品を読んだ時だって、選ばれた言葉は当たり障りのないものだ。それを優しさだと君は言うけれど、実際どうなんだい?」

 優しさだと言った記憶はないけれど、全体的に見て間違いない。私は、言葉を選ぶ。それが原因で感想が書けない。否定はしない。

 作品の傾向や文章から、その作者の小説に対するレベルはある程度見て取れる。それは、私が素人でもわかる範囲での事だ。でも、あながちそれは間違ってない事が多い。

 つまりそれは、小説に対する想いみたいなものだ。そこを覗いて、私は言葉を選ぼうとした。

 “なろう”はとても大きなサイトで、色んな人が集まって来ている。元が二次創作の場所だったらしく、ファンフィクションを投稿する人もいる。オマージュとか、そういったものも多い。そして、そういった物が含まれた物語って物語がメインじゃない。いくつかそういった物語を読んで、そう私は思った。

 繋がりがメインだったりする。小説を媒介にして同じ趣味の人が集まる。そういったイメージ。ファンクラブと言うか、好きな原作をこう変えてみたんだけれどどうかな? オリジナルだけど、こういった展開好きでしょ? そう求められている気がする。

 それは私の勘違いなのかもしれない。けれど、仲良く会話が続くその感想欄へ、場違いな私は必要ないのだ。たぶん……、いや、きっと拒絶される。それをわかっていて書く感想を、私は心のどこかで否定しているんだ。

 それに――もっと深い所。私の過去がズキズキと痛む。

 例え言葉を選んだとしても、その選び方が間違っていて、拒絶されてしまうかもしれないと思うと、書けない。

 もう嫌なんだ。千尋と友達になる前の疎外感。いやだ。もう二度と味わいたくない。

 ――だから、私は感想を書けない。

 まっさらの感想欄。それに、自分とは違う意見が並んだ場所。そこへ入って行くのが怖い。否定されるのがいや。私の本心を否定されるのがいやなんだ。

 感想が、小説よりも言葉に乗せる思いが純粋だから。私は書けない。何も知らない、どういった人かわからない相手へ、感想が書けない。

 嫌われたりしないだろうか? そうブレーキがかかる。顔色を伺えないから、言葉が選べない。それが原因なんだ。

 わかっていた。昨日、鏡の私に言われた時点で、わかっていたんだ。

 私は矛盾している。

 言葉と、行動が矛盾している。

 心と、言葉が矛盾しているのだ。

「沈黙が、答え? かな」

 どれだけの沈黙だったのか、私にはわからないけれど、陣内誠司は言葉と一緒にひとつ息を吐く。それに私は首を縦にも横にも触れなかった。そこへ続く彼の言葉。

「でも、まあ、実際みんなそうなのかもしれない。相手を傷つけたくなと思えば、その相手の触れて欲しくない所には触れない。よく保育園の頃に言われたもんだよ。相手の気持ちに立って行動しなさい。って」

 さすがに保母さんはそんな言葉は使わないじゃないの? と内心。でも、言いたい事はわかる。

「でもね。実際はその言葉に含まれた意味の解釈は二通りあるんだ。もちろん、君の言う思いやりもひとつの意味だけど、もうひとつ残酷な意味がある。それは、過敏な自己防衛――それによる言い訳だ。人の心は繊細で、触れれば傷つく。触れた側も、触れられた側も同じようにね」

「悲観的……」

 だけど、私と同じ。

「そうかもね。だけど、それが僕の考え方だ」

「え?」

「つまりさ、触れた側が触れられた側の痛みをわかるのが優しさだと思う。そして、自分が傷つく事をわかっているのが、強さなんだと思う訳さ」

「強さ?」

「ああ、でも、半分。そこから踏み出せるかどうかが本当の強さかな」

 そう言った陣内誠司の“強さ”と言う単語が、私の中をぐるぐると駆け巡った。どうして、そんな事を言うのだろう。それは私に強さが足りないと言いたいのだろうか。

 そんなのわかってる。私は、弱くて小さい、ひとりのごく一般的な人間なんだから。

 もう一度視線を逸らした。でも、陣内誠司は言葉で追って来る。

「でも、最初はみんな強くないし、他人との距離を測りかねて億劫になったり、必要以上に踏み込んでしまって、取り返しのつかない事になったり、こういった感覚って結局の所経験しかないからね。だから、君にひとつアドバイスだ」

「アドバイス?」

「“秘密基地”の掲示板で“感想を書きます”って板を立ててみて。もちろん、文言は丁寧に。だけど、自分はどういった感想を書くのかって言う事を明言するんだ。例えば、そうだな……。文章は読みますけど、空気は読みません。みたいなね」

「誰が上手い事言えと?」

「例えばだよ。そうすれば、向こう側に防衛線がはれる。めちゃくちゃ書くかもしれない相手。それを装えば、好きな事が書けるだろう。それも思った事そのままに。ね」

「そんなの誰も依頼してこないよ」

「そうかい? 君は僕に依頼しただろう?」

「うっ……」

「そう言う事さ、誰だって正直な感想が欲しいんだ。それが良い物であれ、悪い物であれね」


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