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小説家になろう  作者: 藤咲一
私と“私”
29/51

9 一刀流、瑞穂の太刀


「お待たせ」と陣内誠司が、原稿用紙を整えながら私に言った。その姿を携帯液晶の隣で見た私は、秘密基地にある評価依頼掲示板にあった“なろう”へ投稿されている短編小説を、携帯と一緒に閉じた。どれくらい待ったかなんて覚えていないけれど、最後に閉じた短編小説で三つ目。まあ、それなりに待った気がする。と、言うより待たされた。そんな事もあって「たくさんね」と、ぶっきらぼうに言い返す。それに陣内誠司は少し眉を動かし、原稿用紙を丁寧にクリアファイルへ入れた。

「ま、そのおかげで、一作品完結できたよ――で、今日はどうしたの?」

「それは……」

 そう改まって聞かれると、言葉に詰まる。別に、どうしたわけでもない。ただ、なんとなく、ここに来れば誰か――と言うより陣内誠司――に会える気がしたからだ。もちろんそんな事なんて言えるはずもない。でも、やっぱり行動には理由が必要なんだろうか? 何をするにしても、何かの目標があって、動いていなければいけないんだろうか……。

 と、沈黙が生まれた。それに「ふぅん」と鼻を鳴らした陣内誠司が、こめかみ部分をポリポリと掻く。そして、「ああ」と言葉を漏らした。

「もしかして、昨日のメールの事?」

 メール? ああっ! そういえばそうだ。そんな事もあった。結局感想の書き方について、アレ以上の回答がなかったんだった。

「そ、そうよ。メール打ったのに、全然返してくれなかったじゃない」

「ああ、やっぱり。ごめんごめん。今朝気付いたんだ。その時に返信しようかと思ったけれど……、何と言うかね、機を遺っしちゃってさ。まあ、いいかって……、一応、今晩にでも返信するつもりだった。――と言う事は、よっぽど行き詰まってるの? 感想を書くだけなのに?」

 感想を書くだけなのに!? き、聞き捨てなりませんよその言い草。それがどれほど難しい事か!

「感想を書くだけってねえ、それができないから、相談したんでしょう。感想を書くのってとっても難しいんだから」

「ふぅん」

 また彼が鼻を鳴らした。どうして? とは聞いてこない。私もどうしてかは言わない。それに陣内誠司は、先ほどのクリアファイルから、原稿用紙を取り出し、私の前にすっと滑らせる。

「じゃあ、感想依頼とかそんなもの関係なしで、僕のを読んでみてくれる?」

「どうして?」

「確認だよ。誤字脱字を含めてね」

「それってさ、ただ読んでほしいだけなんじゃないの?」

「そうとも言うかもしれない。まあ、いいじゃないか。できたてほやほや、君が最初の読者だよ」

 ズイと勧められる原稿用紙、それに視線を落としながら、少し口をとがらせながらも“最初の読者”に惹かれて、手に取る私。

「いつもの仕返しに、ぶった切ってあげるわ」

「お手柔らかに頼むよ」

 そんなこんなで読み始めた小説――彼の書いた小説を読むのは初めてじゃない。短編だったら言葉遊びが含まれていて、ちょっとした風刺を効かせてくる。妙に凝り過ぎていたりして、全く元ネタがわかんない時もしばしばだけど、その度に調べて、勉強になったねぇ。とひとりで思う。逆に長編だと、知能戦系|(?)だ。ミステリーだったり、サスペンスだったりを主に書いている。最近“なろう”へアップされたのは、少しファンタジーな感じの物で、探偵が妖怪の起こす事件を解決していくと言う物語。で、今回私が読んでいるのは、その探偵の外伝みたいだった。

 ある程度のバックボーンは知っているし、話の流れも知っている。シリアスばかりの本編とは違い、どこかコメディがメインのように見えた。だけど、やっぱり最後の落ちではしっかりとシリアスを持ってきている。

 だけど、そこへ導くガイドラインが少ししつこいように感じた。妖怪が人へ害を与えた目的――それがメインの謎で、その意味とか、必要性とか、そんな言葉が出てくる度に、私の心がうずく。それを内心振り払って、物語に戻った。

 そして読了。

 普通に面白った。本編もこれくらいコメディが含まれていてもいいんじゃない? そうすればもっと下の読者層だって狙えると思えるんだけど。

 そう思いながら、最後のページを机の上に置いた。そして、ひとつ息を吐く。

「面白かったよ」

 素直にそう言った。悔しいけれど誤字脱字も見当たらなかったし、ぶった切れなかった。それに関して不完全燃焼だったけれど、それは私の都合だ。陣内誠司は私の言葉へ満足そうに頷くと、「他にある?」と言いながら机の原稿用紙を集め、整え始める。トントンと音が鳴る中、私は思った事を口にした。

「これって、“安部ノ宮”の外伝でしょ? 相変わらずの理論展開は上手いと思うし、コメディも面白かった。正直、本編よりこっちの方が好き」

「そう? そうか……、やっぱり、コメディ要素は必要なんだね。勉強になったよ」

 噛み締めるように彼は言った。そして、原稿用紙をクリアファイルへ戻す。でもそこへ、「ただ……」と、付け加える私。

「ガイドラインと言うか、メインの引っ張りがしつこかったと思う。意味とか、目的とか、必要性とか、全部同じ事柄に掛ってたんだよね。だったら、少し削ってもいいかと思う。長編で話跨ぎの引っ張りだったら、良いのかもしれないけど、短編だし、そこまで大きな謎かと思わせるんだったら、少し奇抜な内容じゃないと、普通以下に見えるんじゃない?」

「うっ……」

 陣内誠司が止まった。その反応に、結構根本的な事を言ってしまったと後悔するけど、まあ、バッサリいくつもりだったし、結果オーライ?

「ぶった切るねぇ……。油断させといてバッサリ」

「言ったでしょ。いつもぶった切られているから、その仕返しよ」

 へへん、と胸を張る。それに彼はふうと息を吐き出した。それが気持ちを切り替えているようにも見える。そして、少し首を傾げた。

「まあでも、貴重な意見だ。今後の参考にさせてもらうよ」

「どういたしまして」

「でも、おかしいな……。そこまで物語を読み込めるんだったら、昨日のメールにあった感想も書けるんじゃないの?」

「うっ……」

 今度は私が止まった。


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