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小説家になろう  作者: 藤咲一
私と“私”
26/51

6 告白って難しいよね?


 あの記憶が蘇ったのは、夢の中だったと起きて気付いた。懐かしくも恥ずかしい思い出。それを私は、あの音楽で思い出したのだろうか。なんて、考えてみたけど、たぶん違う。久しぶりに聞いたギーちゃんの名前――それで思い出したんだと思う。

 私の初恋が終わって、ギーちゃんの姿があのままで止まってしまった頃。それが戻って来たんだ。

 なんて事を、相変わらず賑やかなお弁当を広げる千尋に言った。

「へ~。瑞穂も切ない初恋経験者だったわけだぁ」

 外は雨。今日は珍しく千尋の机でランチタイムになった。千尋のクラスには知っている子も少しはいたけど、やっぱりアウェー感は否めない。周囲で聞こえるざわめきに、どこか居心地が悪かった。

 だから、と言う訳じゃないけど、今日の私は口数が多い。いつもは聞き役に回る私なのだが、今はそれが逆転していた。

「そうだよぉ~。私は所詮、妹止まりってね」

 そう言いながら、私はピクニックのフルーツ味をチューって吸った。

「でもさ、凄いよね。ギーちゃんって人。デビューしちゃうかもしれないんだ」

「昔っから歌が上手くてね。ギターも上手だったんだ。よくお兄ちゃんたちとカラオケに行ったりしたんだけど、ギーちゃんだけは別格だったよ。今思えば、その才能の片鱗を見せてたのかなぁ」

「あらら、難しい言葉使っちゃって。瑞穂も少し成長したんだ」

 ふふふと笑う千尋に、私は頬を膨らませ、抗議する。

「酷い。私だって片鱗って言葉知ってるもん」

「あはは、瑞穂って可愛い。ねえ、私の受験が終わったら結婚しようか?」

「なにそれ、それって死亡フラグだよぉ。ダメダメ、千尋には彼氏がいるでしょうに」

「いいのよ別に、瑞穂は別格」

 そうやって笑った千尋が自分のお弁当箱から唐揚げをフォークで突き刺し、私の口の前に運ぶ。それを私は一口でほうばった。

「食べ物では、釣られませんよ」

 もぐもぐとジュウシーな唐揚げを食べながら言ってみたものの……まあ、説得力はゼロだと思う。

 それを優しい表情で見返してくれる千尋が、もうひとつのから揚げにフォークを伸ばす。

「でもさ、瑞穂は告白した訳じゃないんだよね」

「第二ボタン下さいって言っただけ。でもそれが私の精一杯だったなぁ」

「だけど、ボタンは貰った。と」

「何が言いたいの?」

「脈ありだったんじゃない? もしかして……」

「ええ!?」

 思わず叫んでしまった。一斉にアウェーの視線が私に刺さる。ああ、痛い。そんなに見ないで。と私は体を小さくしながら小声で否定した。

「それはないって。ギーちゃんにとって私は妹的存在。だからボタンもくれたんだよ」

「でも、それは本人の口から聞いた訳じゃないんでしょ?」

「うん」

「だったら、わかんないじゃない。相手の気持ちなんて、言葉にされて初めてわかるんだから」

「は~、勉強になります」

「今からでも遅くないんじゃない。聞いてみたら? 今でも連絡取り合ってるんでしょ。頻度はどれくらい? 少なめ? 多め? それとも普通くらい?」

 徐々にヒートアップしていく千尋のテンション。それと実際の状況が温度差になって、溜め息が漏れた。

「あっと、えっと、最後の頭に“音信”が付くかな」

 苦笑いと、暫しの沈黙……。千尋の目が少し泳いだ。

「ごめん」と私に向けて唐揚げが差し出されたので、とりあえずぱくっといただいた。うん。これもまた美味しい。

「気にしないで。もう、だいぶ昔の事だし、確認できたとしても過去形だって」

 そうモゴモゴっと口を動かし言った私に、千尋が少し肩を落とす。

「そっか……」

 溜め息にも似た息を吐き出しながら、彼女はお弁当のおかずをフォークでちょんちょんとつっつきだした。目線は少し下。なんだかバツの悪そうな千尋に私は話題を切り替える。

「ねえ、千尋。千尋はどうだったの? 今の彼氏さんと、どうやって彼氏彼女の関係になったわけ?」

 私が最後まで言い切るかどうかのタイミングで千尋の大きな目が満丸に――丁度突き刺そうとしていたミニトマトがお弁当箱の中で跳ねまわる。千尋がここまで動揺するだなんて……、ふふふ、面白い。

「き、聞きたいの……?」

 伏せ目がちに顔を赤らめた千尋。忙しそうな瞼がとってもかわいい。こんな反応を千尋が見せるって事は――はは~ん。そういう事ね。

「千尋は……どうやって告白したの?」

「え? なんで知ってるの? 言った事ないよね? 聞いたの? 見たの? 嘘でしょ?」

 早口に疑問符が飛び出してくる。それだけ予想外だったんだろうか? まあ、こんな千尋を見るのも良いよね。って、思いながらも、千尋は告白の話をした事ないし、私も聞いた事はなかった。私自身、恋バナが苦手。だから、千尋が教えてくれるまで付き合っている事すら知らなかったんだ。――と言う事だから、もちろん見たわけでもないし。嘘でもない。ちょっと、カマをかけただけだったんだけど、ここまで綺麗に引っかかるだなんて。千尋がまるで私みたい。

「やっぱり、告白したんだ」

「ふむぅ。瑞穂……たばかったわね」

 頬を染め、少し潤んだ瞳。きゅっと結んだ唇を抱きしめてしまいたい。でも……

「私そんな難しい言葉知らないやぁ」

 はははと笑う。それに千尋は頬を膨らませた。

「その顔は、知ってる顔でしょ」

「どうでしょうね~」

 そう言いながら私はピクニックに手を伸ばし、チューっと――それを見ながら千尋は深く息を吐き出した。

「もう、瑞穂には勝てないよ」



 そう言って千尋が話してくれた告白の話。一見万能にも見える千尋だって怖かったんだって。別に好きじゃない人に告白するんだったら、怖くもないらしい。だけど、本当に好きになっちゃって、その思いを告げるのは、本当に怖いって言ってた。その先の事を考えたら、拒絶される事を考えたら、悶々として夜も眠れないくらいなんだって。

 千尋も私も、人を好きになった時は一緒らしい。でも、千尋の方が凄いなぁ。だって私は、ギーちゃんの言葉がなかったら、きっとボタンすらもらえていなかったんだろうから。

 あれ? でも、ギーちゃんは私に何と言ってくれたんだっけ。


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