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小説家になろう  作者: 藤咲一
私と“私”
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1 次のステップ

 第二部連載です。一応週一で更新する予定ですが、草稿自体完結していないので、私の都合により更新が滞る場合があります。

 そうならないように頑張ります。けど……、そうなってしまったらごめんなさい。


 四月――桜の散り始めた校庭の脇。緑が萌える芝生にハンカチを敷いて、私と千尋は座っていた。

 桜の枝を揺らした風が少し湿気を含んでいる。確か天気予報では、午後から雨だ。

 ひらりと舞い下りた一枚の花弁が、相変わらず色とりどりに賑わいを見せる千尋のお弁当に乗っかった。

「ねえ、見て瑞穂。桜ご飯」

 そう言って彼女は嬉しそうに笑う。それに私はカレーパンを咥えたまま、笑みを作った。

 小説を書けるようになるまで投稿しないと決めた私が、物語を“なろう”へ投稿しなくなって早三ヶ月。あれから色々と勉強はしているものの、なかなか上手くいかない。ポチポチといくつか書いてみたけど、後々見返してみれば、なんだかしっくりこないのだ。書いている時は面白いと思って書いていたのに、すごく不思議な感じ。

 そんな思いを陣内誠司へ向けて相談してみたけれど、バッサリ――「実際面白くないからだろう」って言われた。

 「じゃあ、どうすればいいの?」と聞けば、「じゃあ、何を知りたいの?」と返って来る。

 それがわかれば苦労してない。今の私は、わからない事が、わからないのだ。

 そんなこんなで、順調そうに思えていた勉強もそこで頭打ち……。

 だから、とりあえず今は、本能の赴くがまま好き勝手に、楽しみながら書いています。

 でも、最近はネタすら浮かばないのよねぇ~。

 早くもスランプ突入です。はい。

「ちょっと瑞穂。どうしたのよボーっとして」

「ううん。ごめん。ちょっと考え事……」

 そう素直に返した私の言葉に、千尋は桜の枝を見上げる。

「でもさ、少し寂しくなったね」

「そうだね。桜もそうだけど、まさか千尋と違うクラスになるなんて……考えても見なかった」

 そうなのだ。三年生になって、ずっと一緒だった千尋とクラスが離れた。だから、あのランチタイムは教室じゃなくて、毎回違う場所に変わったんだ。最近は桜の木の下が多い。“お花見だぁ”って、騒いでいたんだけど、それももう終わりかな。千尋に倣って見上げた散りゆく花が、少し感慨深い。

「そうだよね。でもまあ、仕方ないよ。こればっかりは私たちが決められる事じゃないし」

 そう言って向けられた顔は、とても大人だった。

「でも、嬉しいな……」

 微笑む千尋。

「え?」

 聞き返す私。

「だって、瑞穂がそう思ってくれているんだもん」

 照れもせず、そう言う千尋に私が照れる。

「だはは、なんだか恥ずかしい。じゃあ、今日はクラス対抗カラオケで歌合戦なんてどう?」

 誤魔化す様に笑う私。それに――「対抗って私たちふたりだけじゃん」って笑った後、千尋の顔が申し訳なさそうに俯いた。

「でも、ごめん。今日は無理……。って言うか、これからはなかなか遊べなくなるかも」

「え? どういう事?」

 聞き返した私に、千尋は少し目を細める。

「瑞穂は進路の事どう考えてる?」

「へ?」

 突然の切り返しに変な声が出た。正直考えた事がない。就職するのか、進学するのか、全く、全然、さっぱり。

「う~んと、何も……」

「私さ、今日から塾へ行く事になったんだ」

「どうして? そんな急に」

「うん。実はね、今まで自由にさせてくれた家の両親が本気を出しちゃったみたいで、家業を継げって言うのよ」

 それに私は「ああ……」と声を漏らした。千尋の両親はお父さんもお母さんも、お医者さんなのだ。町の小さな開業医――下村医院のお嬢様なんだよ、千尋は。たぶんこの事は私しか知らない。普段の千尋はそう言った所を絶対に見せないし、誰かに聞かれても「違うよ」って白を切りとおしてきたから。

「って、つまり千尋は医大を目指すって事?」

 持っていたパンが滑り落ちそうになったのを、お手玉の様にポンポン跳ね飛ばしながら私が言うと、千尋はコクンと頷いた。

「たまたま家でね、進路について話す事があったんだ。そこで、“目指すつもりだけど、まだいいかなぁ”って親に話したら、“ダメだ”って押し切られちゃった」

「そっか、でも千尋なりたいって言ってたもんね」

「うん。小さい時からの夢――かな」

 恥ずかしそうに笑う千尋。でも、その眼は希望に輝いていた。放課後に会えなくなるのは寂しいけれど、それは一時の事だ。それに、学校では会えるし。こうやって話もできる。そう、彼女は遠くへ行く訳じゃないんだ。だから、私も笑う。

「頑張って千尋。私、応援してる」

「ありがと瑞穂」

 一陣の温かい風が、強く、私たちの周りに吹き抜けた。ざわめく桜――旋風つむじを巻いて舞い上がり、落ちる無数の花弁がまるで……。



 放課後――教室でひとり溜め息をついた。昼間にはああ言ったものの、寂しいのは事実。廊下から私に手を振る千尋が印象的だった。

 手に取った教科書をトントンと揃え、鞄にしまう。ざわめきが残る教室――それを少し見回して私は立ち上がった。

 どうしようか……。

 そうやって見つめた黒板の上にある時計――その長針が、カタンとひとつ動く。

 物語のネタも浮かばないから文章を書く気にもなれないし……、久しぶりに図書室にでも顔を出そうかな……。

 たぶん、彼がいるはずだから。

 察しの良い人だともうわかるかもしれない。つまり彼――陣内誠司とも違うクラスになった。でもまあ、学校で話す事も少なかったし、小説に関した事もメールだったり、“なろう”のメッセージを利用して意見交換――と言うか、私からの一方的な質問攻めが多かったけど、それなりに……ね。

 ひとつの溜め息を教室に残し、まだ人の多い廊下を抜けて、私は図書室へ向かった。

 ガラリと図書室の扉を開ける。すると、やっぱり陣内誠司が参考書に囲まれていた。

 彼の視線が私に向く。相変わらず鋭い目つきだったけど、私だとわかったのか、表情を緩め、原稿用紙に視線を戻した。

 あれ? 意外と反応薄い? あ、でも、陣内誠司らしいと言えば、そうなのかもしれない……。そんな彼に歩み寄り、私は原稿用紙を覗きこんだ。

はかどってる?」

 私の問い掛けに陣内誠司は苦笑いを作る。

「どうだろうね」

 そうやって肩をすくめた彼の前にある原稿用紙は枡目だけで、文字は綴られていなかった。

 クスリとする私に、陣内誠司は溜め息をつく。

「どうしたの? 君がここに来るなんて、珍しいね」

「うん……。少しね」

 そう言いながら、私は彼の対面に腰掛けた。

「なんだ。君も行き詰まってるの?」

 嬉しそうな陣内誠司――なんだ。やっぱり行き詰ってんじゃん。

「そうよ。“あなた”と一緒。ネタが全然浮かばないんだ」

「ふうん。エネルギー切れってわけだ」

「かもね……」

 溜め息混じりに頬杖をついた。――そんな私を横目に陣内誠司は立ち上がる。その姿を視線だけで追った。

「どうしたの?」

「ん? 僕が君に言った言葉――覚えてる?」

 彼の言葉で図書館での記憶が蘇る。今思い返すと、鼓動が速くなった。ふたり揃ってあんな事言って――青春すぎる。

「覚えてるよ……」

 陣内誠司の真っ直ぐな瞳から私は視線を逸らし、誤魔化すように唇を尖らせ、すねて見せる。そんな私を軽く笑うと、彼の眼鏡がキラリと光った――気がした。

「だったら、君にアドバイスをひとつ」

「え?」

 横目に聞き返すと、彼の顔がすぐ近くに……。そして伸ばされた右手が、私の襟足に添えられた――ちょ、ちょっと。何しようっていうの?

「物語を思い付く時はどんな時だと思う?」

 吐息と共に向けられた問――それが何かの呪文の様で、金縛りみたいに動けなくなる。視線が陣内誠司から外せなくなった。

「それは……?」

 静かさに煽られ激しさを増す鼓動――聞き返す事しかできない私へ、彼は不敵に笑う。そしてその唇が……、ゆっくりと動いた。

「心が、揺れた時さ」


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