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小説家になろう  作者: 藤咲一
私と小説
12/51

11 物語を書く意味


「イメージできないな」

 と、沈黙の後零した陣内誠司。驚きと、戸惑いが混ざっている。それが私の後悔を強くしていた。それを見てか、もう一度彼の口が動く。

「全くできない」

「繰り返さないで。今まで名前も知らなかったのに、イメージがどうとか、おかしいでしょ」

 私の指摘に、陣内誠司は言葉を零した。

「確かに、そうなる」

「それもおかしい」

 言い方がおかしいと、もう一度指摘する。

「その通り」

 今度は即答だった。でも、言っている事がおかしい。

「バカにしてるの?」

「それはない」

「やっぱり、バカにしてる」

「違うよ。少し混乱していただけだ。もう大丈夫。さあ、掛って来い」

 彼の考えている事が全く理解できない。ふざけているのか、バカにしているのか。っと、どっちでもいい。私はもう何も指摘しない。呆れを溜め息に乗せひとつ吐き出す。

「はあ? もういいわよ。どうでも。あなたの好きにすればいい。そして、嫌われればいい」

「厳しい事を言うね」

 浮かべた苦笑い。それを真っ直ぐ見詰める。

「当り前よ。それを覚悟して、あなたはそれを後輩に言うんでしょう」

 そうだ。その覚悟を掲げているから、はっきりと言うのだろう。私の突き付けた言葉に、陣内誠司は原稿用紙に視線を落とした。

 少しの沈黙と、静寂。その中で彼は、ずれた眼鏡を押し上げる。

「確かに、言うつもり……だった。でも今は、少し迷ってる」

「迷ってる?」

「ああ、少しね。どうも僕は、極端に考え過ぎているのかもしれない。そう思った。だから……」

 言葉として紡がれる思考。その変化に私は首を傾げた。

「なんで? 心変わりなんか……」

「君が、小説を書いていると聞いてだよ」

「私が?」

「そう、不本意ながらもね。読んでみたいと思った。君の書く物語を。そう思うと、後輩の違った物語も読んでみたいと思ったわけさ。それに、君の言葉も効いた。“書きたい気持ちを摘む事になる”――確かにそうだ。もっと、力を付ければ多彩な事も示せるかもしれない。その可能性は誰にだってある。完成を急ぐからいけないわけで……。せっかく芽吹いた心を、僕なんかが摘み取っちゃいけない。僕が後輩にしてあげれるのは、一緒に成長させる事なんだ。そう言う事だろう?」

 言葉が曲がりくねっていた。でも、話しながら考えが纏まってきてるのだろう。そして、彼の中では結論が出ている。

「決めるのは、あなただと思うけど」

「手厳しいな」

 彼にもう一度苦笑が浮かぶ。

「当り前。自分の行動には責任を持たなきゃね」

 って、千尋の受け売りだけど。使い方は間違っていないと思う。

「大人だね、君は」

 そう言って陣内誠司は視線を廊下へと向ける。つられて私も移動させると、廊下との間にある曇りガラスに一瞬、茶色い何かが見えた気がした。でも、何もない。と言う事は、彼は視線を逸らしたんだ。

 沈黙が流れた。静かな時間。考えるには十分な時間だ。だけど、私は少し苦手。何かを話さなくちゃいけないと、言葉を探した。でも、見つからない。とりあえず何でもいいかと“何を見てるの?”なんて口から出そうと思ったら、先を越された。

「君はどうして、小説書くの?」

 向けられた視線。

「え?」

 また、視線が交錯した。

「どうして?」

 同じ様に向けられる。

「それは……」

 言葉に詰まった。理由がない訳じゃない。でも、少し恥ずかしい。それ以上言えない私に、彼は口元を緩めた。

「やっぱりいいや。その答えはまた違う時に聞かせて欲しい。その代わりに、君の小説を読ませ欲しいな」

「え? 私の?」

「そう。君の。どんな物語を書くのか、実に興味深い」

「嫌よ。恥ずかしい」

『ネットで投稿してるのに?』

 そうだけど……

『読んで欲しいと思っているのに?』

 だけど……

『感想が欲しいと思っているのに?』

 違うと思う。

 頭の中で囁く声を振り払う。ネットと現実は違うんだ。私という存在を知っている人に、読まれるのは、すごく恥ずかしい。とても勇気がいる。だから、私は見せられない。

「残念。それじゃあ仕方ない。気が変わったら見せてよ。放課後、僕はいつもここにいるから。いつでもどうぞ」

 肩をすくめて、笑顔を見せた彼。それに私はそっけなく言う。

「気が変わったらね」

 そして、その言葉を最後に私は席を立つ。今度は、膝をぶつけない。

 振り返らずに、出入り口の扉を開けた。空気が変わる。音が増えた。誰かが廊下を走る靴音。運動部の掛け声。ブラスバンドの練習音。

 それを感じながら小さく伸びをすると、扉を閉める。チラリと見えた室内では、辞書を開く陣内誠司の姿があった。



 その夜、私は“なろう”筆頭コミュニティーサイト“秘密基地”にいた。

 存在は以前から知っていのだ。そこに評価依頼板がある事も。だけど、今まで踏ん切りがつかないでいた。でも、完結したのだから、せっかく書き上げたのだから、評価してもらいたい。

 その気持ちが大きく膨らみ、気が付けば、評価依頼と、依頼を受け付けている人たちに書き込みをしていた。


[初心者ですが、お願いします。山咲真]


 私の物語を読んでもらうために……


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