表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/18

XX

 閉ざされた扉をほんの少しの間だけ見つめて、青年は歩みを進めた。

 夜も深い教会の廊下は、とても静かだ。


 自室に戻ると、同居人の燃えるような髪をもつ青年は、もう夢の世界に旅立っていた。

 不良っぽいなりをしているが、なんだかんだ規則は守る男なのだ。

 青年は小さく笑って、自分のベッドに腰かける。


 窓の外には、明るい月が登っていた。


「……ラーレの、髪みたいだな」


 脳裏によぎるのは、先ほど別れた少女の名前。

 明るい金色の髪に、鮮やかな黄色の瞳をもつ、そのひと。


 彼女を思い浮かべると、青年の顔も自然とほころんだ。


 鞄にこっそりと忍ばせていた袋を取り出し、月明かりに照らす。


 それは、黄色いチューリップを象った髪飾り。

 今日の買い物で、彼女が可愛いとはしゃいでいたそれ。


 愛らしいそれは、笑顔の似合うあの子にぴったりで。


「──愛してる」


 明日、誕生日を迎えた彼女に伝える言葉を、そっと音に乗せる。


「愛してる、ラーレ。ラーレのことが、好きだよ」


 紡がれる言葉は、ひそやかで、どこまでも甘く、空気に溶ける。


「君のことが、誰よりも好きなんだ。俺と、一緒に生きてくれないか」


 ──愛してる。


 ああ、これを聞いたあの子は、どんな顔をするだろう。

 きっと顔を真っ赤にして、けれど、自分の大好きなあの笑顔を浮かべてくれるだろう。


 ──早く、明日になればいい。


 そんなことを願い、髪飾りに小さく口づけを落とす。

 それから、ベッド脇のチェストに、大事に大事にしまい込んだ。


 落とさないように、失くさないように。

 どこにも行ってしまわないように。


 そして、ベッドの中へもぐりこむ。

 充実感のせいか、あっという間に瞼は降りてきて。



 ──意識が落ちる、その瞬間。

 どこかで、鐘の音が聞こえた気がした。




 それは、髪飾りだけが聞いていた、訪れるはずだった幸福の言葉。


 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ひえええなんというバッドエンド…! 本人だけなのかなこれは。 ラウルは覚えているんだろうな~と思うと…なんだかなぁ。 最初に死ぬはずだったから、それ以降に向けられた感情は、なかったことにさ…
[一言] 私は読む前にタグを必ず確認するんですが、ハッピーエンドじゃないだろうなと、なんとなーく嫌な予感がしながら読みました。 バッドエンドだったけど、とても面白かったです、面白かったけどちょっと可哀…
[一言] ランキングから完結済みのタイトルだけでこの作品を読みました。 最後まで読んで「んんんんっ?!」と脳内がフリーズし感想を読み、タグを確認しました。 ラーレがとても良い子で生きて欲しい!めちゃく…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ