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 おはよう世界。

 こんにちは地獄。


 そんな挨拶がぴったりな現状に、私は今ノートを片手に教会を出ていた。


 現在の日付は、変わらず私の誕生日当日。時刻はお昼前。

 案の定また最初のループに戻ってしまった私は、食事もそこそこにノートと鉛筆片手に教会を飛び出した。


 え? シスターのイビリという名のお仕事? 神父様に「誕生日プレゼントはいらないので今日一日お仕事お休みにさせてください」って許可貰ったから大丈夫。文句は言わせない。


「っと……ついた」


 がさがさと木をかき分けてたどり着いたのは、海に面した崖の上だ。


 場所はちょうど、前回私が死んだ洗濯物を干す、裏庭の奥。

 鬱蒼とした森を通り抜けると、この場所にたどり着く。


「隠し事をするには最適だもんね、ここ……」


 この教会の場所は、町はずれの小高い丘の上に位置する。

 そしてその裏には、森と海に面する崖があるのだ。


 割と高い崖になっているここは、とても見晴らしがいいのと同時に、とても危ない場所でもある。

 なんてったて海の上に位置する崖。貧乏教会に手すりやら柵を設置する余裕があるわけもなく、子供たちがついうっかり足を滑らしたりしたら……想像したくもない。


 一瞬浮かんだ光景に、思わず身震いしながら、崖っぷちから一番遠い森の終わり際の木陰に腰を下ろした。

 だって今の私、死神に取りつかれてるもの。

 どこにでも死亡フラグが転がってるんだもの。

 用心するに越したことはないよね。


 兎にも角にも、そんな危険な場所をあの優しい神父様が立ち入りを許すわけもなく、ここは子供たちは完全NGの領域と化している。

 立ち入るとあの菩薩みたいな基本優しい神父様が般若のごとく怒るので、子供たちは絶っっっっっ対ここには来ない。

 フリージア神父、怒ると死ぬほど怖いから…….


 ちなみに私たち大人組はある程度黙認されているので、たまにイキシアやザンカがいることもあるけど、今日はレリアがやってくる日なので大丈夫。


「よし」


 一応周りを見回して、誰もいないことを確認して、ノートを開いた。


 一つずつ、状況を整理しようじゃないか。

 とりあえず私がしなきゃいけないことは……、と考え、箇条書きに書き出していく。


 その結果が、これ。


 ・ボロ小屋の撤去

 ・各種死亡フラグの回避

 ・レリアとの交友

 ・各ルートのバッドエンド回避←new!


「いや多すぎでしょ!」


 ざっとまとめただけでこれ。

 細かく纏めたらもっと増えるでしょこれ。


 しかもこれに自分の仕事とシスターからの追加雑務、子供たちのお守りもしなきゃいけないの? なにそれブラック。


 前世の連勤地獄が頭の中を走馬灯のように駆け抜けていく。

 転生してまで社畜ってそんな馬鹿な。嘘だと言ってよ神様……。


 唐突な社畜モードに一気に目からハイライトが消えた気がする。

 だが、いくら絶望してもタスクは減らない。時間も止まらないし助けも来ない。わたし、よく、しってる。


 ボロ小屋を撤去しつつ、死亡フラグを回避していくのは慣れた。

 多分今回も問題ないだろう。


「……問題は、下の二つだよね……」


 レリアとの交友と、バッドエンド回避。

 これが目下の課題と言えるだろう。


 なんてったて前回はバッドエンドルートに突っ走った結果の死だ。


 まさか「ヒロイン」が選択肢ミスるなんて考えてなかった。

 こういうのって、ノーマルエンドかメインヒーローのハッピーエンドにたどり着くもんだと思ってたんだけどね。世界は甘くなかったね。


 過労死まっしぐらな仕事量。

 それも一度こなせば終わる類のものじゃなく、永遠と続く系のモノばかり。


 ぶっちゃけ、とても気が重い。


「……けど」


 やらない、なんて選択肢は、ない。


 ぐっと手を握り、目を閉じる。

 思い出されるのは、前回の死に際。


 レリアの言葉を聞いた瞬間の、息が止まるような感覚。

 イキシアめがけて振り下ろされる、白刃。

 脳裏に蘇る、イキシアの亡骸を抱えるレリアのスチル。


 一瞬のことだったのに、全部全部、まるでコマ送りの映像のように鮮明に覚えてる。


 私は、何故か死んでもループする。

 誕生日のこの日へと、さかのぼる。


 ──けど、彼らは……イキシアは?


 彼らが死んで、世界が戻らなくて、そのままだったら?

 ……考えるだけで、氷水を頭の先から浴びたような感覚になる。


 それだけは、避けなければいけない。


 そう、決意を新たに、ノートを閉じて立ち上がった。



 のが、三回前のループの初日。



 ええ、死にましたよ。言うまでもなく。


 ルートを知ってるからといってレリアの行動や心情、イキシアたちの選択を全て把握している訳もない。

 どこぞの王子やヒーローみたく高度な教育を受けたわけでも才能があるわけでもない一介の小娘には出来る範囲なんぞ限られてるって話だ。


 いや、ほんと前世で読んでた小説のヒロインたちすごいと思う。

 よく頭パンクしないよね。私は無理だった。


 そんな泣き言を言いながらも、慣れるより慣れろという言葉は偉大なもんで、冬の直前──カラン王子の登場までは難なく生き延びられるようにはなっていたんだけど。


 これがまあ大変で。

 レリアはよくバッドエンドルートに進みたがるし、カラン王子はストーリー上仕方ないけど、しょっちゅう私を殺しにかかってくるし。


 四苦八苦しつつもなんとか色んなフラグを叩き追っていた今だってさ?


「すいませんねぇ、お嬢さんに恨みはないんですけど」


 運が悪かったと諦めて、さくっと成仏してくださいな。

 なんて言ってのける、茶髪にピンクの瞳が特徴的なイケメン。


 カラン王子の側近、プラムに殺されそうになってるしね!!

 

 

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