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9.冒険者パーティー



私は冒険者クルトとして、初めて泊まりがけの依頼を受ける事になった。パーティーを組むのもこれが初めてで、野営の準備は、ジェイクがしてくれると言うので、任せることにした。


屋敷からも、王都からも離れて、短いながら、自分の足で旅に出るなんて。まさかこんなに理想通りの事が叶うとは思ってもみなかった。


ギルドに思った通りの依頼があって、ジェイクのような慣れた冒険者が声をかけてくれるなんて、運がいい。

彼の評判は耳にしていた。ソロでもパーティーでもこなす腕のいい冒険者。


まさか、同い年とはね……。


平民だから、学園には通っていないかもしれないけれど、通っていたら、クラスメイトになっているのかもしれないと思うと、じっと彼の顔を見てしまう。


「何だ?俺の顔に何かついているか?」

「い、いや。ジェイクは冒険者以外に仕事を持っているのかなぁと思ってさ。」


慌ててそう聞けば、彼はクスッと笑うだけで、答えをくれない。


「どうなんだよ。」

「さぁ、ご想像に任せるよ。」

「ちぇっ。」


何よ。秘密主義なの?

彼の顔をこんなに近くで見るのは初めてだ。濃紺の髪は、黒にも見えそうなほど、濃い色で、瞳は、紺に金を流したような不思議な色合い。


「俺の顔を見てないで、周りを警戒しろよ。一度休憩するぞ。」

「わかった。」


こういう所が悔しい。同い年なのに、ジェイクは私よりもずっと熟練の冒険者で、私はランクは同じでも、経験の浅い冒険者だ。

ランクだって、運良く大物を倒す機会に恵まれただけで、普通なら、まだもうひとつ下のランクだった筈だ。


小川のそばの草の上に腰を下ろし、ジェイクは、私の分まで食事を空間収納から出してくれた。


「あ、ありがとう。良いの?」

「空間収納持ってないんだろう?そう思って、二人分仕入れて来た。」

「助かる。僕、こんなに周りに何にもないと思ってなくて……。」

「機会があれば、手に入れておくといいぞ。でないと飢え死にする。この道は、あまり使われていないから、途中に村も少ないんだ。」

「良く知ってるね。」

「昔、この辺りに住んでいたからな。」

「そうなの?」

「ああ。」


思わず、こんな寂しい所に、と口に出してしまいそうになる。この土地でどんな暮らしをしていたのだろう。

私は、彼に渡されたパンを食べながら、そんな事を思った。


私は、自分で思っている以上に、彼に関心があるようだ。



******



ジェイクは、隣で黙ってパンを食べるミュリエルを、チラリと目でうかがった。

ここまでの道、彼女は、何も不満を言うでもなく、自分についてきた。なれない道なのに、我慢強い。


この小さな山を越えた所に、昔、彼が住んでいた村がある。彼の母は、現王の亡くなった事になっている妹。好きな男と城を飛び出し、その村で世帯を持った。

陽気で元気な母だった。姫と言う立場だったにもかかわらず、生活に不満を言うでもなく、村の人間に色々教えて貰って、立派な平民をしていた。


父は、貴族の三男で、剣術馬鹿だったから、冒険者の傍ら、村の自警団に入ったり、鍛冶屋に弟子入りしたりして、家族を食べさせていた。


そんな元気な2人が、流行病で死ぬのは、あっという間、彼が8歳の時だった。

両親の葬式の夜、ジェイクは、初めて母の兄である、現王と顔を合わせた。

両親の元の身分を知るのも初めてで、自分に王家の血が流れていると知ったジェイクは酷く狼狽した。その王がとても、そう、とてもとても気のいいオジさんだったから、尚更だ。


王は二人の遺骸を前にジェイクですら驚く程の大泣きをしたのだ。大人がこんなに声を上げてわんわん泣くのを彼は初めて見た。


「あ、あの。」

「お前がジェイクだな。リリアから手紙は貰っていた。この先の心配はしなくて良いぞ。わしと共に暮らそう。」

「えー。お断りします。」

「な、なぜだ!お前はまだ8歳。大人の手が必要だろう?」


その時、突然ドアが開いて、髭の偉そうなオヤジが入ってきた。


「私が面倒を見る。」


誰だこのオヤジと、思ってその顔を見れば、一目で分かった。父方の、自分の祖父だと。


(父さんにそっくりじゃないか。)


「お前は口を出すな!わしが先に話をしているのだ。」

「断られたではありませんか。」


ジェイクはぎゃあぎゃあと言い争う二人の男のせいで、頭が痛くなった。どう見ても二人とも仲が悪そうには見えない。では、どうして両親は家を出たのだろうか?


「なぁ、何で両親は駆け落ちしたの?」

「駆け落ちでは無いぞ。」

「その通りだ。」

「は?」

「んー。なんと言えば良いのかな?」

「そのままで良いだろうが。」

「その、な、平民になりたいと言われたのだ。」


平民?お姫様と貴族様が平民?確かに両親はいつも楽しそうだったが……。


「両親に聞いてなかったのか?わしらはあの子達が可愛くて、死んだ事にして、願いを叶えてやったのだよ。」


馬鹿か?いや、過保護?確かに頭に花が咲いたような両親だったが。こいつらのせいか?

8歳児でも分かることを、こいつらは分かってなかったのか?


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