表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/17

7.王子の行方



私は、あの後、王妃様に誘われて、今は2人でお茶を飲んでいる。

気まずい。凄く、気まずい。


「あ、あの……。」

「謝らないで。カリストの事は、きちんと育てられなかった私のせいだから。いくら王太后様が怖かったと言っても、理由にはならないわ。」


そう、カリストのお祖母様である王太后様が、彼を甘やかしたのは、間違いない。それは陛下も王妃様もずっと気にされていた。

王太后様が亡くなったのは彼が12歳の頃。もう手遅れだった。今回の件で、彼が心を入れ替えてくれることを願っているけれど、棟に幽閉された彼は、どうなるのかしら。


「王妃様。」

「それにね、カリストを婿として迎えたいというお話があるの。」

「え?それは……。」

「会えなくはなるけれど、幽閉するよりも余程いいでしょう?カリストも納得しているので、あなたの公示前にこの国から旅立つ予定なのよ。ねぇ、ミュリエル。良かったら、一度会いに行ってくれないかしら?」

「私が、ですか?」

「顔も見たくないほど怒っているとは思うけれど、あの子もあなたに謝りたいだろうと思うの。」

「いえ、私の方こそ。」


私はこうなると分かって放置したのだから……。


「殿下は、どちらへ?」

「ブルムハンドよ。少し年上だけれど、あの国の姫が是非にと仰って。かの国では、姫の為に公爵家をたてて、カリストを公爵として迎えてくださるそうなの。」


確か、7歳年上の方だったはず。パーティーでお目にかかった時は、柱の影に隠れてしまうほど、人見知りの方だったわ。華はないけれど、私からは可愛らしくて良い姫に見えたけれど、ご自分の容姿にも自信の無いご様子だったわね。


「エリナ姫ですか?」

「さすがね。話をした事は?」

「一度だけです。真面目で、優しいお人柄と感じました。」

「そのようね。ずっと城の中にいらっしゃって、縁談も断られていたのに、カリストが罪を犯して幽閉された事をお聞きになり、結婚したいと申し出てくださったの。」

「そうでしたか。」

「だからね、ミュリエル。あなたはカリストを選ばなくて良いのよ。」

「王妃様。」

「あなたには迷惑をかけるわね。でも、カリストを失い、あなたまで失ったら、私は……。」


私は、そっとハンカチを出して、王妃様の涙を拭った。

この方が一番傷ついたのだわ。私は、考えが足りなかった。


「わかりました。お母様、不束者ですがよろしくお願いします。」

「ミュリエル。」


幼い時に母をなくした私を、可愛がって下さったのは、この方だった。縁が結ばれるのも、運命かもしれないわね。


「ところで、陛下の前で言っていた素手でテーブルの件、本当なの?」

「あれですか?ええ、本当ですわ。証明しましょうか?」

「ええ!!」


キラキラした目で、期待して下さっているので、お見せしなくてはね。


私は立ち上がると、目の前の木をそっと撫でた。


「この木、折ってもよろしいですか?」

「良いけど、それを折れるの?」

「ご覧下さいね。」


私は笑顔でそう言うと、木に右拳を当て、思いっきり腕を引くと、勢いをつけて、右拳を打ち付けた。


バキッといい音を立て、大きく枝を揺らせながら、木がメキメキと倒れていく。

王妃様は、目を丸くしながら、手を叩いて下さった。

これで猫からさようならだわね。


「王妃様、私、1ヶ月、冒険者になって参りますね。」



******



「もう呼び出さないで欲しかったのですが。」


酷く不機嫌な声で王に向かい合うのは、先夜、話をした青年だ。


「頼みがある。」

「王位は継ぎませんよ。」

「そうではない。ミュリエル・ファインバッハ令嬢を知っているか?」

「卒業パーティーの断罪の。」

「そうだ。あの子の事は、幼い頃から、わしも王妃も可愛がってきた。それがあんな事になって、さぞ傷ついたのだろう。」

「まあ、そうでしょうね。」

「暫く冒険者暮らしをすると申すのだ。」

「え?深窓の令嬢がですか?」

「そうなのだ。もう心配でな。あのような美しい娘だ。邪な考えを持つものに襲われるやもしれん。」

「無茶でしょう。」

「だから、頼む。上手く取り入って、仲間となり、あの子を守っては貰えないだろうか?」

「どうして私が。護衛を付ければいいではありませんか。」

「あの子から、護衛を付けないで欲しいと言われてな。」

「自殺願望でもあるのですか?」

「世の中を分かっていないのだ。頼む。この通りだ。」

「やめてください。仕方ない。今度だけですよ。」

「明後日には、冒険者ギルドに行くつもりらしい。そなた冒険者の資格があると言っておったよな?あの子とパーティーを組んでやってくれ。」

「わかりました。」


青年は疲れたようにため息を吐き、ドアの向こうへと消えていった。



「陛下、上手く行ったのですか?」

「勿論だとも王妃。きっとあのふたりは上手く行くはずだ。一月後が楽しみだな。」

「ふふっ、そうですわね。」


2人は顔を見合せて、楽しそうに笑顔を浮かべた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  即座に養子縁組して、王と王妃を殴り殺して「親子喧嘩だから家庭内の問題だ」で通そう。  その後、不祥事を理由に王籍から抜ければいいよ。  真面目に相手してられるかこんな連中。
[気になる点] このまま、最悪の王達に言いように扱われるんでしょうか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ