5.宴が終わって
卒業パーティーも終わって、私はその後の事についてお父様から説明を受けた。
「男爵令嬢は、北の修道院送り、カリスト殿下は、現在、南の塔に幽閉されている。騎士団長の息子は、継承権剥奪の上、領地送りになった。」
当然と言えば、当然の処罰なのだが……。
「お父様、男爵令嬢は、いつまで修道院へ?」
「どうした?気になるか?」
「彼女は、夢見がちなお馬鹿さんだと思うのです。もし、双方が望むのであれば、騎士団長のご子息と結ばせてあげてはいかがでしょうか?あのご子息も、今回の件で、結婚相手はもう見つからないでしょう。」
「ふむ。そうだな。あの家には次男がいるので、家を継ぐことについては問題ないが、母親が長男を可愛がっていたので、かなり嘆き悲しんでいるようだ。」
それならば、嫁姑問題が起きてしまいそうね。
「彼女と関係があったのは、彼だけでしたか?」
「殿下は、キスまでだったそうだ。」
「まぁ、奥手でしたのね。では、実際に愛し合っていたのは、2人だとお伝えしてはどうでしょうか?殿下と婚約した訳では無いですし。」
「納得するかは分からないな。どうして令嬢に肩入れするのだ?」
「結果がわかっていて、止めなかったのは、私の我儘でしたから。少し申し訳ない思いがしています。」
「良いだろう。お前がそれで気が済むならば、私が話を取り持ってやろう。だが、殿下は良いのか?」
「殿下には十分お仕えしましたから、もう良いですわ。」
私はお父様と笑いあって部屋に戻った。
さて、これで私は婚約も解消され、自由になりましたわ。何をしようかしらね。
卒業パーティーの翌日から、学園は長期休暇に入っていて、時間はたっぷりありますもの。旅に出ようかしらね。
そういえば、王家はどなたが継がれることになるのかしら?カリスト殿下は、王妃様のただ1人のお子様。
こちらに迷惑が及ばなければいいのですけど。
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王は、彼の執務室で一人の青年と向かい合っていた。
「状況はそなたも理解しているだろう?」
「同じ学園内ですから、当然ですね。」
「ならば、次の王太子は……。」
「聞きませんよ。今まで隠し続けたのですから、最後まで隠し続けるのが、正しいのでは?」
「国家の一大事なのだ。」
「あのような息子に育てた事が、国家の一大事だったのですよ。」
王は青年の底冷えするような声に打ちのめされるように、俯いた。
「努力は……した。」
「誰が、ですか?」
「それは……。」
「あなたの提案は、私にとって、何の益もない。」
「頼む。何でもするから。」
「嫌です。」
「そなたの母は優しかったのに……。」
「母ならきっと気にもしませんよ。」
王は、ゆっくり身を起こすと、その場に跪いた。
「頼む。そなたしか。」
「血の繋がりが必要ですか?必要なのは、この国を良くしてくれる人材のはず。違いますか?」
「わしは……。」
「さようなら。二度と会いません。」
彼はその言葉通り、振り返りもせず立ち去って行った。閉まるドアの音が無常に響く。
「やはり無理でしたね。」
「公爵。冷たいでは無いか。わしだけに相手をさせるなど。」
「私が関わったとしれたら、不首尾を私まで王妃様に叱られてしまいます。それはお断りですよ。」
「此度のことは、王妃も自分の罪と反省しておる。」
「ほお。我が娘に今まで散々迷惑をかけて、今更ですか?」
「そのように言わんでくれ。」
「それで、どうされるのですか?」
「王妃と相談して、決めた。これは決定事項だ。」
「伺いましょう。」
「反対は、認めぬぞ。」
「嫌な予感しかしませんね。」
「ミュリエル・ファインバッハを王妃とする。この国を継ぐものは、彼女が夫と認めたものだ。」
ファインバッハ公爵は、無言で右拳を振るった。
小気味いい音がして、嬉しそうに告げた王が床に転がった。
「あなた達は……。すぐに取り消してください!!」
「それはできん。先程鈴を鳴らしたであろう?」
確かにあの青年が出ていった直後、王が鈴を鳴らした。公爵は、自分に対する入室の合図だと思ったのだが、違ったらしい。
「小狡いことにばかり頭が回りますな。昔と全く変わらない!」
王と公爵は、子供の頃からの腐れ縁で、いつも王が公爵に迷惑をかけては許しを乞うという間柄だった。
「もう、正式に発令された。覆すことはできん。ミュリエルの為に、正式交付は、来月の10日にする事になっている。」
長期休暇明けと言うことかと、公爵は唇を噛んだ。
いっそ、他国へ逃がすか?
「隣国にもその旨通知するのでな。逃がさぬわ。」
「私はあなたが、大大大嫌いです!」
「そうか?わしは好きだがな。優秀な人間はそばにいるだけで楽しいのでな。」
「グッ。」
「わしのおすすめは、先程の男だ。よく見極めるのだな。」
公爵は、背後から響く笑い声を背に部屋を出ていった。
王は、痛む腰と頬を撫でながら、その後ろ姿を見送った。