17.そして……
とりあえず、もう夜も遅いので、ザルフ卿にも部屋を用意し、話は明朝として、休んでもらう事になった。
私はと言えば、ジェイクから貴族の息子と聞かされた、その貴族がザルフ卿である事に驚くと共に、彼の血筋の良さに目が回るような気分だ。
彼は、押しも押されもせぬ大貴族じゃないの。
でも、私が好きなのは、冒険者のジェイク。
コンコンコン
窓から音がした気がして、体を起こすと、ガラスの向こうに黒い人影が立っていた。
「ジェイク?」
窓を開けると、彼が花を一輪持って立っていた。
「もしかしたら、起きているかもと思って。」
「寝れなくて。」
「俺も。」
そう言うと、彼は花を差し出した。どこで摘んできたのか、彼の家にあったあの木と同じ花。
「母が好きだった花なんだ。」
「ありがとう。」
花の甘い香りが、ふわりと漂う。
「邪魔者がいない所で、君に言いたかった。」
「……。」
ジェイクは、私の前に跪き、私の手を取って、その甲に口付けた。
「愛しています。ミュリエル、俺と、結婚して下さい。」
「ジェイク。」
「俺は余分な身内はいるけれど、ただの平民だ。王妃の君には、色々苦労をさせてしまうかもしれない。それでも俺を選んで欲しい。」
嬉しい。夢のような気分。
私は、彼の首に抱きつくと、彼に答えた。
「私も愛してる。一生あなただけ。」
彼の手が優しく私の背中を抱きしめ、彼の息が頬にあたる。
「あぁ、一生君だけだ。」
******
翌朝、お父様とお兄様に、ザルフ卿が彼との関係を説明し、ジェイクが正式な婚約の申し込みを行った。
その際、彼が陛下の妹君の子である事も告げ、混乱する二人を宥めと、大変だった。
その後、着飾ったジェイクと腕を組んで、人だかりの門前から、ザルフ卿の家紋のついた豪華な馬車に乗って王宮へ。
もちろん、お父様、お兄様、ザルフ卿も同行して。
「陛下、私の決めた伴侶をご紹介しに参りました。」
ニコニコ笑う、陛下と王妃殿下。
「ジェイクと、申します。」
「おうおう、似合の美男美女だな。」
「当然です。私の自慢の娘ですから。」
「わしの孫だ。当たり前だろうが。」
なんだか、面倒くさい。自慢する2人に陛下まで負けじと声を張り上げる。
「リリアの息子なのだから、当然だな。」
面倒な保護者が増えたけれど、まぁ、いいかな。
豪華な馬車で王宮に向かったのは、あっという間に広がって、我が家に来るものはパタリといなくなった。
さすがは、筆頭公爵家。
大司教立会いの下、結婚の誓いを済ませ、式やパレードは、後日盛大に行う事にし、私たちは、カリストの結婚式に夫婦として参列する事になった。
ブルムハンドは小国ながら、豊かで、落ち着いた国。
その日、花嫁として着飾ったエレナ姫は、年上と思えないほどに愛らしい方だった。
「結婚おめでとう、カリスト。」
「来てくれてありがとう、ミュリエル、ジェイク。」
カリストの表情は明るくて、寄り添うエレナ姫を支える手は優しい。
「エレナは、私の理想そのままだよ。」
「カ、カリスト様。」
「可愛いだろう?」
「お、お、は、恥ずかしいです。」
ああ、彼はこういう人が好きだったんだ。だから、少しアザとかったけど、彼女に惹かれたのね。
「幸せそうで良かった。」
「うん。彼女を幸せにする。彼女の両親もとても良くして下さるんだ。王子でいた頃より、今が幸せだ。もしかしたら、父も母も気づいていたのかもしれない。」
「何を?」
「私が王位を負担に思っていた事を。」
「そうなの?」
「ああ。君達に押し付けてしまって、申し訳ないが、ここが自分の居場所だと感じている。エレナといるだけで、気持ちが安らぐんだ。」
「良かった。これからも、お互いの国が良くなるように協力しましょうね。」
「こちらこそ、よろしく頼む。ジェイク、一学年下だが、君のことは知っていたよ。教師の中で噂になっていた。」
「それは知らなかった。地味に暮らしてきたつもりなんだが……。」
「ミュリエルをよろしく頼む。」
「一生かけて。」
私は手の中の可愛らしい花束を胸に抱いた。
エレナ姫がくれた花嫁のブーケ。受け取った人に幸せな結婚をもたらすおまじない。
「良い式だったな。」
「うん。」
「俺達もあんなふうな心に残る式をしよう。」
王の結婚式だから、難しいかもしれないけれど、それでもあたたかいものにしたい。
揺れる馬車の中、私の肩を抱く、ジェイクの温かい大きな手に、気持ちが安らぐ。
「幸せになろうな。」
頷く私の唇に温かいものが重なった。
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