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16.王家の力



この国には、魔法使いはいない。

他国には多くは無いけれど、いるようだ。お伽噺のようにその魔法で、森を焼いたり、岩を砕いたりするような魔法は使えなくて、薪に火をつけたり、小川の石を退けたり、少し土を湿らせたり。


でも、魔法使いのいないこの国で、唯一魔法が使える人たちがいる。王とその血を受け継ぐ二親等までの人達。


今、この国で魔法が使えるのは、王とカリスト殿下のみ。


王が変われば魔法が使える人は変わる。私が王妃になり、王家の血を継がない人が王になったら、どうなるんだろう?


そう、思っていたのに、ジェイクが私を助ける時に使ったのは、風魔法だった。



「ミュリエル、魔法を見た事があったのか?」

「子どもの頃、まだカリスト殿下とよく遊んだ頃、彼が内緒だと言って、見せてくれた事があったの。」

「そうか。」


ジェイクは、言葉を選ぶように、ポツリポツリと、身の上を語ってくれた。


「王家に入るのは面倒くさくて逃げてきた。でも、ミュリエルは、王妃になる決意をしたんだろう?」


そう。私は、私の意思で決めた。


「それなら、俺を選べ。」

「選んで、良いの?後悔しない?」

「ミュリエルよりもいい女はいない。お前の手を取らない方が後悔する。あのジジイのお膳立てに乗ってやるよ。」

「ジジイって、陛下でしょ?」

「ジジイで良いんだよ。食えないタヌキなんだから。」


彼の肩に頬を埋め、ギュッと抱きしめた。この人が好き。この人だけが好き。この人しか欲しくない。


「ジェイク、好き、大好き。」

「俺も。愛してるよ。ミュリエル。」


彼の大きな手が私の頬を抱いて、そして……。



「ああ!ジェイク兄ちゃん、こんな所で、綺麗な姉ちゃんとチュウしてる!」


慌てて離れて、彼に背を向けた。


「バ、バカ!あっち行ってろ!!」


恥ずかしい。恥ずかしい!恥ずかしい!!!


そのままかけ出し、彼の家の横に繋いである馬に飛び乗った。



気づけば、鞍もつけていない。どうしようと思ったら、人影があらわれて、私の後ろに乗った。


「裸馬に乗ってどこへ行く気なんだ。」

「あ、えーっと。」

「王都に戻るか?」

「うん。」


そう。戻ろう。そして、あの騒ぎを終わらせなきゃ。


「馬車を用意させるから、少し待て。一緒に行こう。」




馬車でファインバッハの屋敷に着いたのは、真夜中だった。流石にこの時間になると、屋敷の周りに人はいなくなっていた。


「お父様、お兄様、戻りました。」


少しの間に、二人は少し窶れていて、胸が痛んだ。


「ミュリエル、無事で良かった。」


お兄様に抱きしめられ、申し訳なさで泣きそうになった。


「あなたが、ジェイク殿か?」

「はい。」


お父様がジェイクと向き合っている。ちょっと、お顔が怖いような……。


「此度は、娘を助けて頂き、感謝する。」

「いえ、未来の妻を助けただけですから、当然の事をしただけです。」

「未来の、妻?」

「はい。ご挨拶申し上げます。ジェイクと申します。」


苗字を名乗らないジェイクに、お兄様が引きつったように呟く。


「へ、平民?」


うーん。違うけど、お父様は、陛下から聞いているのかしら?



突然玄関を叩く音が響き渡った。


「夜分、申し訳ない。クロード・ザルフ。ファインバッハ卿にお願いがあって、まかり越した。ご面会をお願いしたい。」


先代のザルフ筆頭公爵。今でもこの国の軍部総帥。


「ジェイク、もしかして……。」

「煩いジジイですまない。今黙らせるから。」


身を翻すと、玄関に向かうジェイク。私も慌てて、お兄様から離れて、その後を追った。

お父様とお兄様は、固まったまま。



「夜中に煩いぞジジイ。明日の朝、出直して来い!」

「その声は、ジェイクか?」

「そうだ。」

「もう、正式な申し込みは終わったのか?」

「今から話す所だったんだ。邪魔するな。」

「そう言わずに、立ち会わせてくれ。な?」

「口は挟むなよ。」

「わかった。」


もしかしたら、私は、とんでもない人を選んでしまったのかもしれない。


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