15.ジェイクの好きな人
どこか見た事のある部屋で目が覚めた。
えっと、何があったんだったかしら。
学園に行って、授業を受け、廊下で人に取り囲まれて、窓が……。
思い出した。
ジェイクが私を……助けてくれた。
でも、あの力は……。
「気がついたか?」
「ジェイク。ここは、あなたの家?」
「言って良いのか?この家を知っているのは、クルトだけだぞ。」
「私の事、いつから気がついていたの?」
「ギルドで会った時から。君は気づいてなかったけれど、学園で何度かすれ違っている。俺は気配察知が得意なんだ。2人の気配が同じだとわかった。」
「そうだったのね。
あ、お礼が遅れてごめんなさい。窓から落ちた時、助けてくれてありがとう。」
ジェイクは、少し笑って頷いた。やっぱりジェイクは素敵ね。好きな人、いるのかな。いるわよね。こんなに素敵なんだから。そうよね……。
「着替えと食事は、ここに置く。落ち着いたら、師匠に顔を見せてくれ。」
「そうね。会いたいわ。鍛錬の相手をして下さるかしらね。」
「きっと喜ぶ。」
「うん。」
部屋を出ていくジェイクを見送り、窓の外を眺める。窓の向こうには、大きな木に白い花が満開に咲いていた。
「いい匂い。」
ここ最近、周りを見る余裕もなかった。
「師匠に会いに行こう。」
体を動かせば、きっとスッキリする。
頬をパンと音をたてて叩くと、少しシャキッとする。身支度を整えて、師匠の元へ。
「師匠!」
「おう。」
いつもと変わらない。ジェイクも師匠も。変わらないのは、この村だけ。何だか、凄く嬉しい。
練習をして、木の下で並んで腰を下ろす。少し肌寒いのが心地いい。
「大変だったってな。聞いたよ。」
「うん。師匠。本当に大変だった。でも、元は、自分で招いた事だから。仕方がないよね。」
「お前のせいじゃないぞ。」
「でも……。」
「好きな男はいないのか?」
「好きな……。」
「ジェイクは、どうだ?」
何を言うの?顔が赤くなるじゃないの!
「お?赤くなったな。あいつの事が好きか?」
「か、彼は、私を助けてくれたから、感謝してるの。」
聞いてみようかな。聞いてもいいかな?
「彼には好きな人がいるでしょう?」
「そうか?」
「何を話しているんだ?」
心臓が止まるかと思った。
「おう、ジェイク。お前の噂だよ。」
「俺の?」
「お前、好きな子いるか?」
ちょちょっと。なんでストレートに聞いてるの。でも、聞きたい。顔をそっと見上げたら、私を見ているジェイクと目があった。私を見ていたの?
何だかいたたまれない。どうしよう。
「わ、私、疲れたみたいだから、家に戻るわね。」
聞きたいのに聞けなくて、慌てて立ち上がると、駆け出した。情けない。恥ずかしい。今、私……。
少し走った所で息が切れて、立ち止まる。
ジェイクの返事。聞けば良かった。そうすれば、諦めがついたのに。私は、馬鹿だ。
わかった。私、ジェイクが好きなんだ。やっぱり大好き。
「お前、走るの速いな。」
後ろから抱きしめられて、耳元でジェイクの声がする。
「逃げるなよ。俺の返事ぐらい聞けよ。」
「……。」
「俺が好きなのは、お前だ。好きだよ。ミュリエル。」
******
ジェイクが返事をする前に、ミュリエルが逃げ出した。
「追わないのか?」
「追うよ。当たり前だろ。」
「頑張れよ。」
「ああ。」
(あのオヤジの筋書き通りって言うのは、ムカつくけど、あんなにかっこいい女は他にいないから。逃がせないな。)
林の中で立ち止まるミュリエルの後ろ姿。
あんなに強い剣を振るうのに、こんなに華奢だったんだと、気づく。ミュリエルは、ジェイクよりも剣が強いのに、守ってやりたいと思うのは、変だろうか?
そっと近づいて抱きしめた体は、腕の中に囲めてしまう程に小さくて、そして、愛しい。
「お前が好きだよ。ミュリエル。」
抱きしめる、ジェイクの腕に、ミュリエルの手がそっと重なる。
「私も、あなたが、好き。」
******
このまま、時が止まればいい。頬を撫でる風が火照った顔に心地いい。
待って、風?風魔法?
逃げられないように、ジェイクの腕の中で、くるっと向きを変え、彼の体を抱きしめる。
「どうして、あなたに、風魔法が使えるのか、教えてくれるかしら?」
彼の目が慌てたように泳ぐのを見過ごさないわ。
「逃がさないわよ。さあ、答えて!」




