12.魔物狩り
私とジェイクは、それから2日かけて、目的地であるゲオロマ渓谷に着いた。依頼者である村長が住む町は、ジェイクの村と比べると、貧しかった。
今日まで通り過ぎた他の村と余り変わらない。
あのジェイクの村だけが特別だった、
いや、異質だったと思う。
村の民はどこでも素朴だ。あの村の民も、性格的には、素朴だったが、全く別物で、あの学校の存在が、生活にまで影響を与えている事に興味が尽きない。
「ジェイク、ジェイクの村は、この辺りの村に比べると豊かだよね。何が違うのかなぁ。」
「何だと思う?」
「距離も近いし、気候は考えられない。水?でも、この辺りも水不足では無いよね?少し離れてはいるけれど、川があるし、井戸を掘れば水が出そうだ。地質かな?」
「地質もあるが、あの村の畑を覚えているか?」
「あまり丁寧に見てこなかったんだ。帰りにはきちんと見て帰りたい。」
「じゃあ、この土地をよく見て、帰りにうちの村の畑をよく見るんだな。それから、働く姿も見ておいた方が良い。」
「働く姿?」
そう言われて、畑で働く農民に目を向ける。畑を起こしている所だったようで、鍬で丁寧に土おこしをしていた。手馴れてはいるが、土は重い。重労働だ。見ている間に耕されたのは僅か。
そこにその農夫の妻だろうか?天秤に水を入れて運んできて、柄杓で水をかけていく。
「農民の仕事って、大変なんだな。」
「クルト、楽な仕事なんて無いんだ。貴族だって、真面目に働いている奴は、夜中まで頑張っているだろう?」
「……。」
お父様もお兄様も、毎日忙しそうだ。時々、目の下に濃いクマを作っている。それでも毎日、王宮で働いている。
「それでも、生活の為、好きな事の為、色々な理由で、働いているんだよ。」
「そうだね。」
渓谷に踏みいれば、あちこちに獣の爪痕が残っている。
ロマウルフだ。
でも、これは……。
「一匹じゃないな。」
「そうだね。少なくても三匹はいるんじゃないかな。」
「どうする?」
依頼は一匹。それが三匹ともなると、危険度が大きく増す。ジェイクは、引き返すかと聞いているんだ。
でも、ここで引き返して、メンバーを集めてとすれば、この辺りの被害がさらに増すことになる。
さっきの村で収穫を待っている野菜は、全滅してしまうかもしれない。豚や鳥は喰われてしまうだろう。
どうしようか。
「ジェイクは、師匠の弟子なんだよね?」
「ああ、そうだ。」
彼の目が、本気か?と言っている。私は彼に無茶をお願いしようとしている。それでも……。
「わかった。」
「ジェイク!」
「狩るぞ。見立てでは三匹かもしれないが、油断するな。もしかしたら、それよりも多いかもしれない。」
私が気づかない所が何かあったのか?
「もっと多いと言うことか?」
「何だか、そんな気がするんだ。だが、ここで何とかしたいと言うのは、俺も同じだ。気を引き締めて行くぞ。」
頷き、剣の柄に手を置いた。大きく息をして、一歩前に進む。さぁ、ロマウルフを討伐しよう。
******
ジェイクは、目の前の現実についていけない。
彼が対するのは、一匹のロマウルフ。ミュリエルが対するのは、それよりも大型のロマウルフ二匹。
足取りを追って見つけた洞窟の中には、三匹のロマウルフがいて、それを外に誘き出し、戦っているのだが、ジェイクよりもミュリエルの方が優勢に見える。
動きの素早いロマウルフを倒すには、まず足を狙い動きを止めるか、目を狙うかだ。
だが目を狙うのは難しいので、普通は足を狙う。ジェイクもそうだ。そして、弱らせて、討伐する。
ミュリエルは、まるで羽でも生えているかのようにふわりと浮き上がり、それでいて身のこなしは恐ろしく素早い。だから、ロマウルフの前足が届く前に、目を狙える。
目を狙い、ロマウルフが立ち上がる隙を見て、すかさず心臓を剣で貫いた。
それで一匹。警戒した次の一匹に、無造作に近付き、剣でロマウルフを誘う。だが向こうも警戒している。
いきなり走り出すと、凄いスピードで、横の木に駆け上り、幹を蹴って、方向転換し、頭上から、ロマウルフを襲う。
(なんて、戦い方だ!かっこいいな。)
ジェイクが倒したのと、同時に、ミュリエルの相手も、ドウッと、その巨体を倒した。
ホッと息を吐くのと同時に、ジェイクは、首の後ろにチリッと感じるものがあった。これは殺気?
「上だ!!」
洞窟のある崖の上から、巨大なロマウルフが、ミュリエル目掛けて飛び降りて来る。
二人とも慌てて身をかわし、剣を握り直す。
「へぇー、親玉登場か?ジェイク、そっちの二匹、頼んで良いかな。」
「わかった。気をつけろよ。」
「ああ。」
ミュリエルの目が、強敵相手に楽しげに細められる。ジェイクは背後から近づく二匹に向き直った。
この二匹は、絶対にミュリエルに近づけてはならない。
空間収納から、メイスを取り出し、左手に構える。
いつもは長剣だが、メイスを使う二刀流で戦う事もある。今は相手が魔物2匹。牽制と攻撃。
20分後、二人は六匹のロマウルフの死骸の横で、大の字に倒れていた。
「疲れたー!」
「もう動きたくないな。」
それでも暫く休憩し、ロマウルフの牙を取って、死体を土に埋め、目印を残した。これで村に戻って報告すれば、依頼が完了だ。死体は、必要があれば、村人が掘り出して利用するだろう。




