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11.師匠との再会



ジェイクが不足品の買い足しをするなら、自分の住んでいた村に行くかと聞いてくれたので、私は一も二もなく頷いた。

足りない物があるのは確かだが、彼がどんな所で育ったのかを知りたいと思ったのだ。



ロルケの村について驚いた。辺境の村とは思えない程、村人の言葉遣いが綺麗なのだ。公用語とはいえ、地方に行けば訛りもある。それが、全く訛りがなく、村人の誰もが読み書きができる。


「ジェイク、ロルケの村には、学校があるのか?」

「あぁ、あるな。6歳になったら、村の子はみんな学校に行く。読み書きや計算を覚えるんだ。魔法が使える奴は魔法を勉強し、狩りをする奴は弓を習う。」

「その費用は、誰が負担するんだ?」

「村人全員だな。子どもも働くようになったら、負担する。村全体で子供を育てているんだ。先生も村人がしている。」

「素晴らしいな。この村は豊かなのか?」

「それなりだろうな。でも、子どもは、村の財産だから。」


話を聴きながら、私は、感動した。勉強が必要なのは、貴族だけじゃない。どうしようもないが、自分が王妃になるのなら、誰もが勉強できる場所を作りたい。


初めて、王妃になっても良いかもしれないと思った。

その時、自分の隣に立つ人は、それを理解して、共に協力してくれる人であって欲しい。



「おーい!師匠!!」

「おお、ジェイク!」


ジェイクが少し離れた所で立ち話をしている男に向かって声をかけ、駆け寄って行く。


うん?え?彼は……。


「久しぶりだな。元気にしてたか?」

「ああ。師匠も、元気そうだな。」

「おう。どうした?ギルドの依頼でもあったのか?」

「そうなんだ。ゲオロマ渓谷にロマウルフが出た。」

「それは大変だな。それで、そちらが相方か?」

「ああ、クルトっていうんだ。クルト、彼は俺の師匠……。」


2人を紹介しようとしたジェイクが、2人の様子に驚いて、言葉をとめた。


「し、師匠……。」

「ミュ」

「お久しぶりです!クルトです!!」

「ク、クルト?」

「はい。師匠。」

「あ、ああ、久しぶりだな。クルト。」


言わないで、お願い!

その気持ちが伝わったか、師匠は、私の名前を呼ぶのをやめてくれた。助かった。

男の子の振りをしているのに、バレたら、困ってしまうわ。


「へ、へえ、クルトは、師匠に剣を習った事があるのか?」

「は、はい。少しだけ……。」


師匠に会えたのは嬉しいけれど、なんとも居心地の悪い気分になってしまった。



******



ジェイクは、2人の様子を見て、閃くものがあった。

彼女の腕前はまだ見ていないが、もしかして、師匠の言う、彼すらも勝てない女性とは、彼女の事なのではないか、と言うことだ。


それまで、その女性とは、女性冒険者のように、もう少し筋肉質な体を想像していたが、ミュリエルは違う。


学園で見た彼女は、ほっそりとして、儚げだった。

歩く姿も力強さはなく、まるで風で運ばれているようで、あんなに綺麗な婚約者のどこが不満なのかと、王子に腹が立った。


だが、今、目にした光景は、彼女が見た目とは違うとの確信を与えた。クルトは、見た目と違い、腕が立つとも聞いている。


ジェイクは、表情には出さずに、楽しみだとほくそ笑んだ。



その夜はクルトをジェイクの家に泊め、師匠を呼んで一緒に食事をした。そして、師匠が家に帰り、クルトが風呂に入ると、こっそりと師匠の家に向かった。


「こんばんは。俺が何を話に来たか、わかってますよね。師匠。」

「お、俺は、何も話さないぞ。知らん知らん。」

「その態度でょぉーく分かりましたよ。ミュリエルが、師匠の言う、天才剣士だったんですね。」

「お、お前、あの子が女だとわかっていて、2人旅をしているのか?」

「そうですよ。王に護衛を頼まれていますから。」

「え?そうなのか?じゃあ、あの見た目は?」

「本人は隠しているようですし、元の見た目では、人攫いに狙われかねません。」

「そ、そうだな。うん。その通りだ。」

「俺は、面倒事が嫌いなんですよ。」


ジェイクの言葉を聞いて、師匠は、何故かほっとしたように頷いた。


「師匠が褒める剣技が見たいとは思っています。」

「見て、驚くなよ。惚れるぞ。」

「へぇー。」


(見惚れる程の剣技か。楽しみだな。)


ジェイクは、その後も、師匠がミュリエルを褒め称えるのを聞いてから、家に戻った。

ミュリエルは、まだ風呂に入っていて、ジェイクの外出には気づいていない。


明日からの旅の荷物を再確認し、朝食の下拵えをしていると、ミュリエルが風呂から出てきた。


「お風呂お先にありがとう。荷物確認してくれていたんだ。手伝わなくてごめん。」

「いや、大丈夫。明日も早いから、もう休んでくれ。」

「うん。ありがとう。おやすみなさい。」

「おやすみ。」


湯上りのクルトの顔が、ミュリエルに重なって、なぜか胸が苦しく感じる。ジェイクは、この気持ちが分からなかった。



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